辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
思い上がりじゃなければ、俺とエクリア様の相性は多分悪くない。
初めて会った馬車の中でも話は途切れることはなかったし、学園や王城で話したときも、楽しく会話ができた。
きっとこの先も、婚約者として良い関係が築けるだろう。
―—そう思ってたんだけどなぁ……。
「「……」」
手を絡めて繋ぎ、歩いているだけで、緊張してしまう。
そのせいで黙り込んでしまい、せっかく街を歩いているのに無言の時間が過ぎる。
まだ出会ったばかりだ。
話題なんて、いくらでもある。
だけど言葉が出なかった。
エクリア様から伝わってくる体温ばかりが気になってしまう。
というかさっきからエクリア様、俺の手ニギニギしてない⁉
力が弱いから痛くないけど、妙にくすぐったいんですけど⁉
◇ ◇ ◇
―—アクセル様の手、硬くて大きい……。
家族を除いて初めて握った男性の手。
エクリアはそれを驚き、ついギュッと握ってしまった。
——バ、バレてない、ですよね?
自分の手では、ビクともしない。
当然だろう。彼の手は、あの巨大な魔物すら一刀両断してしまうくらい鍛え上げられているのだから。
―—この手で、小説に出てくる男性のように強引にこられたら、どうなってしまうのでしょうか……?
想像するだけで緊張してしまう。
というより、今まさに心臓の音が外まで聞こえそうになっていて、恥ずかしさで死にそうになっていた。
◇ ◇ ◇
ぞろぞろと、ライド家のメイドたちがそんな彼らの後ろをつけていた。
「あっまぁぁぁぁい!」
「シュシュ静かにっ! バレたらアクセル様に怒られますよ!」
「でもシュシュの気持ちもわかりますよメイド長! 青春です! ああ青春! あの甘酸っぱい雰囲気。お互いお話したいことがたくさんあるのに、手の温もりを感じてしまって次の言葉が出ず、ちらちらと相手の様子をうかがう姿! 一生見てられます!」
「貴方も落ち着きなさいケニア。気持ちはわかりますけど!」
暴走気味なメイド二人に注意しているが、コーネリア自身もまた、胸の奥に芽生える青春の心を感じていた。
——ああ、二十年前。私にもあんなときがあった……婚約者の隣を歩くだけで、いつもドキドキしながら……。
残念ながら、それは過去のもの。
二度と戻ってこないこともわかっている。
なぜならコーネリアの婚約者が浮気をしたうえ逃げたから。
——だからこそ、こんなにも目が離せないのかしら? 私にとってあれが青春だとしたら……。
「この光景は、なんて残酷なのかしら……」
「甘すぎて口から砂糖吐きそうですぅ……」
「青春いいわぁ。アクセル様とエクリア様のお二人、全力で推せますぅ」
三者三様。
それぞれの感想を抱きながら、少年少女を追いかけていた。
◇ ◇ ◇
二人で黙り込んだまま、結構な時間が経ってしまった。
多分エクリア様も緊張してるんだ。
だったらここは! 男の俺が――!
「「あの!」」
被ったぁ⁉
「えっと、アクセル様からどうぞ」
「いや、俺のは大したことないのでエクリア様の方から」
「あ、う……」
あ、もしかして俺と同じで、内容は特に決まってないけど話さなきゃっていうのが優先された感じか?
言葉に詰まって目をぐるぐる回しているエクリア様を見たら、そうとしか思えなくなっていた。
「ははは。すみません。じゃあ俺から……」
と言いつつ、俺も話す内容が決まってないんだよな。
なにかいい話題はないかと周りを見渡すと、ちょうど冒険者ギルドが見えた。
「そういえば、学園では冒険者の授業もあるんでしたよね?」
「はい。今の国王様が王位を継ぐ前、冒険者をしていたので。それが切っ掛けになっています」
「よく考えたら、あの王様めちゃくちゃですね」
「ふふ、たしかに。本人曰く、冒険者時代の経験が今に生きているから、貴族は全員経験すべきだ、なんて理由で授業を作ったそうですよ」
なんで貴族が魔物とかと戦う経験をしないといけないのか。
ウチ? あれは特殊事例だから数える必要なし。
ヴィスペリア辺境伯? あれも例外だから数える必要なし。
そう考えると、王様って絶対辺境伯のこと気に入ってるよなぁ。
「魔物と戦うって、危なくはないんですか?」
「引率の先生はベテランですから、危険はほとんどないですね。私たちが行くのも弱い魔物がいる森の探索とか、もう探索されきった初心者用ダンジョンとかだけでした」
そりゃそうだ。
相手は大切な貴族子弟。
怪我させましたなんてなったら、教師の首が飛ぶ。物理的に。
――気が気じゃないだろうなぁ。そうじゃなくても、学園内は派閥争いとかもあって面倒だろうに……。
まあとはいえ、である。
「俺は別に、戦いが好きなわけじゃない前提ですが……」
「……?」
「エクリア様と一緒に森とかダンジョンに行くのは、少し楽しそうだなと思いました」
「……そうですね。アクセル様が一緒なら、なにも怖くありません」
エクリア様が微笑みながら、肩を少し寄せてくる。
もしもの話でしかないが、意外とこういう雑談も楽しいもんだ。
気づいたら緊張もなくなっていた。
自然と会話できてるし、なにより――。
——政治関係の話以外でも話せてよかった。
以前から少し気になっていたのだ。
彼女と会話するとき、ほとんどがそっち系の会話ばかり。
それも勉強になるし楽しいけど、これから一生付き合っていくんだ。
話題は多いにこしたことはないな。
ただでさえ学園に行かなかった俺は、同年代とのコミュニケーションに難ありなんだから、意識的に頑張ろう。
「あ、見えてきました。あそこがルーンちゃんの教えてくれたお店です」
「……なるほど」
白を基調とした全体像に、窓ガラスがふんだんに使われた開放感のある外観。
建物自体はそこまで大きいわけではないが、中に入ると奥に庭園があった。
俺はこういうのに詳しくないが、専門家による手のものだろう。
スタッフ一人一人の身だしなみも整っており、礼儀正しい。
伯爵家のご令嬢が使っていて、公爵令嬢にオススメするような店。
予想しておくべきだったが、間違いなく高級店だった。
「エクリア様。実は俺、こういうところのマナーに疎いんですけど……」
「安心してください。個室を取ってるらしいので」
「なら安心ですね」
ホッとしながら、今の言葉に妙な違和感を覚えた。
――らしいって、なんだろう?
その答えは、すぐに判明する。
「さあ! お城であったことを全部話してもらうわよ!」
店の個室に入ると、ルーン様が待ち構えていたのだ。
その表情は、肉食獣が獲物を捕まえて喜ぶような、楽しそうな笑みだった。
しっかり個室な辺り、用意周到すぎるんだよなぁ。
ルーン様は八重歯が見えるくらい口を大きく開いて、とても楽しそうな表情をしている。
ご丁寧に、三人分の食器がすでに用意された状態。
どうやら俺がお呼ばれするのは確定だったらしい。
「エクリア様。謀りましたね」
「ち、違うんです!」