辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
「ルーンちゃんに口止めされてて……」
「俺は二人きりのデートだと思って、楽しみにしてたのに……」
「あ、う。実は私も、二人きりの方が……」
「ちょっと⁉ 二人して私を邪魔者扱いするのはさすがに酷くない⁉」
会ったのはこの間の学園以来だが、やはりツッコミのキレがいい。
本来の立場であれば、こんな風に弄るのは良くない。
だがいちおう俺も辺境伯家の一員になるため、ギリギリ許されるだろう。
――あと、ルーン様は性格が良いからな。
エクリア様が気を許した友人だし、ちょっとくらいの粗相は許してくれると思う。
「というか、なにを聞きたいんですか? 別に隠すようなことはないんですけど」
王宮の出来事のことだろうか?
ルーン様相手に隠すような情報はないはずだが。
そもそも、緘口令が敷かれているわけでもないしな。
「全部」
「……え?」
「一から十まで全部」
言葉は短いのに、圧が凄い。
美人の笑顔というのもまた、プレッシャーをかける要因になっている。
「……淑女たるもの、もう少しお淑やかに。お節介も推奨しませんよ」
「シャイン家の家訓を教えてあげる。情報を制するものがお金を制す、よ。つまりなんでも気になったことは深掘りしなさいってこと!」
それっぽく諭してみたが、こうも自信満々に言われては、言い返せない。
というかシャイン家の家訓、本当にそれでいいんですか?
「まあ、あまり面白い話はできないと思いますけど……」
「いいのいいの。裏取りするだけだから。エクリアに聞いても、アクセル様が格好良かったです! の一点張りでねぇ」
「ルーンちゃん! 私そんなこと言ってないよ!」
「え? 色んな言い方してたけど、結局そういう意味でしか捉えられなかったけど」
「うぅぅぅ……!」
本当に、仲いいなぁ。
とりあえず、辺境伯と戦って認めて貰ったこと。
そして正式にエクリア様の婚約者になったことを、少しだけ話を盛って説明し……。
「まさか本当にゼクト様に認められるなんてね! すごいじゃない!」
「どうもです」
どうやら俺の話は満足してくれたらしい。
俺も良かった良かったと内心でホッと、していると――。
「よし! そんなアンタにご褒美をあげるわ」
「ご褒美?」
なんだろう。大鉱山を持ってるシャイン家のご令嬢だから、宝石の一つでもくれたりとか?
「私の友人にしてあげる!」
「……わーい」
「心がこもってないわね……」
「そんなことありませんよ?」
ただ期待とちょっと違っただけだ。
「この恩恵がどれくらい凄いか、教えてあげるわ」
ふふん、と自信ありげに笑いながら、指を立てる。
「まず一つ、私のことはルーンと呼び捨てにしていいってこと。もちろんパーティーとかでもね」
「む……それは」
パーティーでも、か。
それはたしかに凄い。
彼女の提案は個人間ではなく、家と家で強固な繋がりがある証明にしよう、というもの。
大々的にシャイン家のご令嬢と友人であることを宣伝できるのは、他の貴族と繋がりのない俺からすれば、ありがた過ぎる話だった。
「そして二つ目。こっちはもっと凄いわよ」
「……も、もっと?」
しかもまだ上のメリットがあるらしい。
緊張し、喉が鳴る。
「エクリアのことも呼び捨てで呼ぶ権利をあげる! 女友達と対等に話してるのに、婚約者に敬語ってわけにはいかないでしょ?」
「ルーン! 君は最高の友人だ!」
「掌返しありがとう。それじゃあこれからは、対等の友人ってことでよろしく!」
ガシッとルーンの手を握る
空気読めすぎるぞこのお嬢!
切っ掛けが掴めなくて困ってたんだ。
こういうのは本当に大事だし、マジでありがたい!
ちなみに権利云々はノリの話だ。
「……仲良くなってくれてよかった、でいいのかな?」
当のエクリア本人はよくわかっていないようで、首を傾げている。
「エクリア、他人事だと思ってない?」
「え?」
「もちろん貴方も、様付けなしで呼ぶのよ」
「えぇっ⁉」
そのことに気付いたからか、ビックリしたように背筋が伸びる。
「む、無理……」
「無理じゃないの。だってこのままだと、呼び方に差が出ちゃうじゃない」
「だけど……」
チラチラこちらを見て、様子を窺ってくる。
もちろん俺としては呼び捨てで構わないし、ルーンみたいに気軽に付き合ってくれる方が嬉しい。
だけど、彼女が困るならまた話は別だ。
「エクリア様。無理しなくていいですよ」
「アクセル様……?」
「ちょっと、アンタまで敬語じゃ意味ないじゃない」
「ルーンもちょっと落ち着いてくれって。提案は嬉しいし、さっきは喜んだけど、エクリア様が困るのは本意じゃないんだ」
実際、敬語に関しては追々で良いと思う。
元々の気質というか、性格もあるからな。
「実はテンション高くしてたけど、ルーンに対してもちょっと無理してたりする」
「む……」
「つい最近まで子爵家の三男。しかも学園に通えなかったから他の貴族と交流もなかった男だぞ、俺は」
強気な性格に反して、友人想いで優しいのは、これまでの会話でわかっていた。
苦笑しながら説明すると、ルーンも納得してくれる。
「……たしかに、ちょっと性急すぎた――」
「あの!」
「どうしました?」
ルーンの声を遮って、エクリア様が声を出す。
どこか落ち着きのない様子。
なんだろう? と思って彼女の言葉を待ってみると、ゆっくり口を開いた。
「……もしアクセル様が嫌じゃなかったら、敬語をなくして話して頂けた方が嬉しいです。私はまだ、難しいですけど……」
「えっと……」
思わずルーンを見るが、付き合いの長い彼女も驚いた顔をして、わからないと首を振る。
「だめ、ですか?」
「……!」
上目遣いで、ちょっと潤んだ瞳。
緊張しているのがよくわかり、それが保護欲をそそる。
「駄目じゃないです」
「敬語敬語」
ルーンはニヤニヤしてて、楽しそうだなぁ。
友人の恋路を温かく見守ってる優しい人、とでも思っておこう。
「駄目じゃないよ、エクリア」
「良かった……」
エクリアはホッとしたように、胸に手を当てて笑顔を見せてくれる。
その後すぐ、また照れ照れと擬音が聞こえてきそうな感じで、視線をそわそわさせた。
なんだこの可愛い生き物は……。
この子が本当に俺の婚約者でいいのか?
みんなで囲って、保護するべきなのでは?
普段アホなことを考えてるとシュシュが突っ込んでくれるが、今日はツッコミ不在だ。
ルーンがやってくれたらいいが、そこまでの信頼関係は残念ながらまだない。
このまま脱線してしまいそうになっていると、扉がノックされる。
どうやら料理が到着したらしい。
「料理も来たことだし、食べましょうか。エクリア、アクセル。二人はもっと、お互いのこと知らないと駄目だからね」
「じゃあ学園でのエクリアについて、色々話してくれよ」
「いいわよ。エクリアが恥ずかしがって、話さなそうなことまで全部話してあげる!」
「ルーンちゃん、怒るよ?」
「ごめんて」
友人とご飯を食べる、なんて今までほとんど経験したことがなかった。
今までの俺では考えられないほど、楽しい食事に、つい笑みがこぼれてしまう。
「それじゃあ、二人の婚約を祝して――」
「「「乾杯」」」
カツン、とグラスをぶつけて、食事を始める。
今まで食べたどんな料理よりも、美味しかった。
「そういえば、アクセル様はお父様の王宮政務室に入られると聞きました」
「そうなんです! ずっと憧れてる場所だったので、今から楽しみで!」
宰相が選んだ王国の最強エリート集団。
楽しみで楽しみで仕方がなかった。
「へぇ……あの……」
「あの?」
「なんでもないわ。アンタに相応しいところだし、楽しんできなさい」
意味深な言い方が、少し気になったが……悪い意味ではなさそうだ。
◇ ◇ ◇
そして翌日。
王宮政務室に案内された俺は、めちゃくちゃテンションが上がることになる。