辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
宰相の計らいで王宮政務室に出入りするようになって、仕事を手伝わせて貰えるようになった。
重要書類とかには触れさせて貰えないが、それでも十分過ぎるほどの経験だ。
「アクセル様、毎日楽しそうですねぇ」
「実際、楽しいからな!」
さすが、宰相に直接選抜されたエリートたち。
彼らと仕事をすると、毎日新しいことを知る日々だ。
「でもそのせいで最近、エクリア様とお会いしてないんじゃないんですか?」
「……え?」
シュシュの言葉に、一瞬止まる。
「新しくできた婚約者。同じ王都にいるのに、仕事ばかりして会いに来ない。これってどうなんですかねぇ?」
「…………」
俺がエクリアの婚約者になって一ヶ月。
最後に合ったのは、ルーンと三人で食べたとき以来。
「これって、どう思う?」
「ただのメイドに聞かれても困ります」
絶対ヤバい気がする。
「ぜ、全員集合ー!」
慌てて屋敷にいる使用人たちに声をかけると、小さな屋敷だし人数も多くないのですぐ集まった。
「それではみんなの意見を聞きたいと思う。まずケニア」
「アクセル様、今日はお休みなんですよね?」
「ああ……」
「でしたら、屋敷まで会いに行ってみたら良いのではないでしょうか?」
さすが一般人的な感覚を持ち主。
率直ゆえに、効果的な案が出てきた。
だが本当に、今すぐ行って良いのだろうか?
基本的に、この年齢の貴族令嬢は習い事で忙しい。
良い家に嫁ぐことを目標にしているからだ。
婚約が決まっているとはいえ、公爵令嬢なら遊ぶ暇なんてないんじゃないだろうか?
「コーネリアの意見も聞きたい」
「とりあえず、使いを出しましょう。幸いアクセル様の上司は宰相閣下。休みも把握してるでしょうし、もしかしたら予定を空けているかもしれません」
「そ、そうか……」
「というか、いまさら躊躇ってないで動いてください。同じ街に住んでいて、連絡しなかったのは男性側の落ち度です。これでエクリア様が不安に思ってたら、どうするんですか」
俺の心境を手に取るように理解してるようで、厳しい意見が飛んできた。
結局のところ、ビビってただけだ。
「わかった。まずは使いを出してくれ。そのうえで、予定が合わなかったら次の予定を……」
そう言ったところで、来訪者を告げるベルが鳴る。
ケニアが外に出ると、すぐに慌てて戻ってきた。
「き、き、き……」
「き?」
「来ちゃってます! エクリア様が来ましたー!」
「なにぃ⁉」
「出迎えは私がします! ご主人様は応接間で準備を! シュシュ! ケニア! 貴方たちは――」
コーネリアが二人に指示を出し、全員が大慌てで動き出す。
「いきなり来てしまって、すみません」
「俺もエクリアの屋敷に使いを出そうと話してたところなんだ。ちょうど良かったよ」
先ほどまで慌てて会議をしていたのが嘘のように、落ち着いた余裕を見せる。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「あの、お父様から今日はお休みだと伺って……どうしても会いたくなってしまい……」
「……」
「お疲れでご迷惑だと思ったのですが……アクセル様?」
ちょっと目頭が熱くなって、押さえてしまう。
なにこの子、可愛いが過ぎるのでは?
今も心配そうにあわあわしてて、小動物みたいな雰囲気を出している。
「……すぐ元に戻すから、ちょっと待って」
というか俺、こんな婚約者を放っておいて、毎日楽しいとかキラキラした笑顔でみんなと話してたんだと思うと、自己嫌悪にも陥りそうなんだけど!
「……ふう、落ち着いた」
「大丈夫ですか? やはりお疲れなのでは……」
「違う違う。ちょっとした発作みたいなもんだから安心してほしい。それより、せっかく来たんだ。最近あったことを色々話そう」
これ以上エクリアを心配させないように、話をここで一度打ちきり、この一ヶ月の出来事をお互いに話した。
俺は宰相の下で働き、憧れだった人たちと会えたこと。
エクリアは学園生活について話してくれる。
お互い今の環境が楽しく、話題が尽きる気配はなかった。
「最近は話しかけてくれる方も増えてきたんですよ」
「以前はそんなにだったのか?」
「公爵家の人間ですので、みなさんも気を遣われてたようです」
実際は、王子の婚約者だったのが大きい気がするなぁ……。
正直、下手に近づいていつあの王子に絡まれるか、わかったもんじゃないし、みんな避けてたように思える。
事実、俺と婚約したあとに声を掛けられてるんなら、彼女本人に問題があったわけじゃないみたいだしな。
「どんな話をするんだ?」
「初めてお話しする方は、アクセル様との出会いを聞きたがる人が多いですね」
学園のことを話すエクリアは、以前よりも生き生きとしているように見える。
――俺のせいで変にこじれないか心配だったけど、杞憂だったみたいだ。
ただ俺との出会いってことは、馬車が魔物に襲われたあれだよな?
めちゃくちゃ魔物を殺しまくったけど……。
「学園の令嬢たちには刺激が強くないか?」
「皆さん、お話するととても喜んでくれますよ。恋愛小説の一節みたいだって言う子も多いです」
「やっぱり女子は恋バナとかが好きなんだな」
エクリアも小説が好きって言ってたし、流行ってるらしい。
その辺は、地方も都会も変わらない感じだ。
「恋バナ……」
言われてようやく自覚したのか、黙りこんでしまった。
俺との出会いを赤裸々に語ったことが、今になって恥ずかしいと思ったらしい。
これは話題を変えてあげないと、話が途切れてしまうな。
「ルーンは相変わらず、あちこちに喧嘩を売ってるのか?」
「は、はい!」
「本当にそうなのか……」
「あ、違います! ルーンちゃんはそんなことしません!」
エクリアが慌てて返事をしたせいで、ルーンの風評被害が広がった。
まあここだけの話だ。
ちゃんと冗談で済ませられるはず。
「もう……今のわざとですね。ルーンちゃんに言いつけますよ?」
「ごめんごめん。エクリアの反応が可愛くて……」
――しまった。普段は心の中だけに留めてたんだけど、つい。
案の定、エクリアが顔を真っ赤にしてしまった。
目を左右に揺らして、そわそわしてて、恥ずかしがっている姿を全身で表現してて……。
だから、いちいち動きが可愛いって!
せっかく話題を変えようとしたのに、同じようになってしまった。
「あー……っと。そういえば、前に学園で冒険者の授業があるって言ってたよな?」
「そ、そうなんです! 今度卒業前に最後の実習もあって、ダンジョンに潜るんです」
「ダンジョンか……」
俺も領地で潜ったことがあるが、結構危ない場所なんだよな。
とはいえ、貴族が集まる学園だ。
前にベテラン教師が引率するから、危険もないって言ってたから大丈夫だろう。
「正直、少し怖いです。アクセル様も一緒なら、心強いんですが……」
「さすがに部外者だからなぁ」
本音を言えば、ついていきたいと思った。
学園にはまだ、王子が在籍している。
一代限りとはいえ、男爵位を得て領地を持つことが決まっているため、退学にはできないそうだ。
――俺としては、エクリアが恨まれてないか心配なんだよな。
ただ、国王が出した判決はすでに周知の事実。
学園でも腫れ物を扱う状況だと聞いたし、周りの目もあるから大丈夫だとは思うけど……。
「エクリアのことは、俺が絶対に助けに行くから」
「……」
「だからもしなにかあっても、絶対無茶はせず、助けを待っててくれ」
そこまで言って、これじゃあ余計に不安にさせかねないと気付いたが……。
「はい。信じてます」
エクリアが笑顔を見せてくれたので、これで良かったと思う。
◇ ◇ ◇
三日後。
「失礼します!」
いつも通り宰相の仕事を手伝っていると、血相を変えた兵士が飛び込んでくる。
「なにごとだ?」
「エクリア様が――!」
ダンジョンの実習中、行方不明になったと告げられた。