辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
さすがに状況が理解できなさすぎて、困惑する。
ルーンは気まずそうな顔に対して、リオウはあっけらかんとした雰囲気。
強気な彼女だが、どうやら日常的な主導権はリオウの方にありそうだ。
「まず、ボクはルーンを愛してる。彼女以外の女性なんて考えられない」
熱いな。
見た目はお姉様方に愛されそうな風貌をしているが、熱がある。
個人的に、こういう男は嫌いじゃない。
「だから、そんな彼女を助けてくれたアクセル君に、お礼を言いに来たんだ!」
「なるほど。なら気持ちは十分伝わりました」
「そして次に、宣戦布告に来た!」
「…………ん?」
また意味のわからないことが……。
「どうやら最近、君はルーンと友人になったそうだね」
「はあ……そうですね」
「だけどボクは断言しよう! 男女の友情など存在しない! その先にあるのは、性欲――」
スパンッ! と鋭い音が聞こえた。
ルーンがリオウの後頭部を叩いた音だ。
「このアホ! 友達の婚約者をそんな目で見るわけないでしょ!」
「で、でもルーン! 今日だってずっと、アクセルが凄かったって話ばっかだったじゃないか!」
「アンタとはほぼ毎日会ってるんだから、話題が直近のことになるのは当然じゃない!」
「うぅぅ……それでもボクは、ボクのことだけを見ていて欲しいんだよぉ」
要するに嫉妬か。
婚約者じゃないというなら、焦りもするだろう。
ただなんというか、嫉妬と言っても嫌な感じはしない。
こういうのは人間性が出るんだろうか?
「ハァ……お礼をしたいって言うから連れてきたのに」
「正直、彼の気持ちはわかる」
「……は?」
ルーンがなに言ってんの? って目で見てくる。
「俺だって、もしエクリアが他の男を褒めたら……斬りに行きたくなる」
「だよねぇ! そうだよねぇ! ほらルーン! 男はみんなこうなのさ!」
「ああもう! このバカ調子に乗らせないでよぉ!」
なんというか、二人は間違いなく上位貴族の子弟なんだが、気安さがあって話しやすいな。
似た者夫婦……いやそもそも婚約者でもないんだったか。
「アクセル君のことを気に入ったよ。ぜひボクとも友人になって欲しい」
「こちらこそ、よろしくお願いします。リオウ様」
「さっきも言ったけど、堅苦しいのはなしだ。友人なら、それが普通だろう?」
茶目っ気があり愛嬌のある笑顔。
これは貴婦人たちの前にモテそうだ。
「リオウ。よろしくな」
「うん。よろしく」
握手をすると、剣ダコができていた。
学園の授業だけとは思えない、結構本格的なものだ。
「……」
「どうしたの?」
「いや、そういえば、同年代の男友達って初めてだなって思ってさ……」
いちおう子爵家の人間だから、平民と友達ってわけにもいかなかった。
周りの貴族が危険なライド領に遊びに来ることもなかったし、学園に通ってないためこっちから行くこともない。
王都に来てから、一緒に行動してたのもエクリアとルーンだけ。
王宮政務室の人たちは友人というよりは尊敬する先輩って感じだし。
―—あえて言うなら、兄二人が兄弟兼悪友、という感じだったけど。
「……なんかちょっと、嬉しいな」
「「……」」
「二人とも、なんだその目は?」
なんとも言えない生暖かい表情で、俺を見ている。
「エルレイン侯爵家はヴィスペリア辺境伯領と近いからさ。学園を卒業したあとも会おうね」
「シャイン伯爵家もね。エクリアと一緒に、会いましょう」
そういえば、地図では三家はかなり近かったな。
この二人がこれからも交流してくれるなら心強い。
特にリオウは、いずれ侯爵家を継ぐ立場。
同じく辺境伯を継ぐ俺にとって、次期当主の彼から学ぶことも多いだろう。
ルーンにしても、シャイン伯爵家は国内有数の資産を持つ大貴族。
領内には大陸を横断する大商会も多数集まると言うし……。
――いや、そうじゃないって!
友人として、利害関係なく会おうと言ってくれてるんじゃないか!
「なんで急に凹んでんの?」
「自己嫌悪に……」
「アクセル君は表情豊かで、なんか顔がコロコロ変わるねぇ」
リオウが、カラカラと笑ってくれるが、ルーンは呆れたような顔になる。
「なに考えてるのか、なんとなくわかるけど……貴族同士の関係なんだから、利害を考えていいに決まってるじゃない」
「だけど……俺に返せるものはないぞ?」
辺境伯領は、お世辞にも豊かな土地じゃない。
ライド領と一緒で、魔物が大量にいるため、食べ物に困らないというくらいだ。
未開の地が多いということは、可能性も眠っているし、ダンジョンが異様に多い。
一発逆転もありうるが……貴族としてそれを数に入れるのは駄目だろう。
「エクリアを幸せにすればいいの! 私の友達が幸せなら、嬉しいもの!」
「……」
「なによその顔?」
「俺、多分ルーンのこと一生尊敬するわ」
こんなに真っ直ぐな人、いる?
俺も小細工とか苦手な方だけどさ……利害があってもいいって言った答えがこれって、もはや善人通り越して女神では?
「そう、ルーンはボクの女神なのさ!」
「勝手に心の声読むの止めて。怖いから」
そういえばダンジョンでも、自分を置いて逃げろとかまで言ってたし、本当に良い人だ。
「今後、もしルーンを困らせるヤツがいたら、呼んでくれ。斬るから」
「ならとりあえず、隣に私のことを困らせる男がいるから、お願いしていい?」
「っ⁉ アクセル君⁉ ボクたち友達だよね⁉」
「すまないリオウ」
応接間に剣はないので、手刀を作って見せる。
一瞬、リオウがホッとした顔をした。
どうやら冗談だとわかってくれたらしい。
「俺の手刀は、魔物の肉も綺麗に裂くから安心して欲しい」
「安心できる要素がなに一つない!」
良い反応してくれるなぁ。
ウチの領地のやつらだと、かかって来いやぁ! とか叫びながらもの投げてくるから、新鮮だ。
「てい」
「いた⁉ ていって軽い声とは思えないほど痛かったけど⁉」
とりあえず軽いチョップを食らわせてから、ルーンに尋ねる。
「これでいい?」
「まあいいでしょう」
「じゃあ質問があるんだけど、二人は本当に婚約してないのか? どう見てもお似合いだけど」
「……」
ルーンが神妙な顔で俯く。
隣を見れば、リオウも先ほどまでのふざけた様子は一切ない。
これは……ちょっと踏み込みすぎたかもしれない。
領地が隣同士。
仲の良い幼馴染み。
家格だって釣り合っていて、問題になりそうなことがなに一つない。
次期侯爵のリオウがこれだけ婚約を求めて動かないということは、家同士でなにか問題が……。
「個人的な話なんだけどね……」
――私、どうしても忘れられない人がいるの。
そう言って、ルーンは自分の過去を話し始めた。