辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
この世界では、八歳になると神様から
これは貴族も平民も同じだ。
必要なのは教会と神に仕える者だけ。
なので自分の領地でもいいのだが……貴族は慣例として王都で受けることが多い。
ルーンも例に漏れず、八歳のとき、両親に連れられて王都にやってきた。
そこで
「貴族の子どもを狙った誘拐組織に捕まったの。
「たしかに、張っていれば必ず来るわけだしな」
学園時代に通っていたとしても、その後は自分の領地で過ごす。
王都で働いていなければ、慣れていない貴族も多いはず。
――そこを狙われたわけか。
「そのときに、たった一人で誘拐した大人たちを叩きのめして、私を助けてくれた人がいたの」
「じゃあルーンは、その人に憧れて……」
「……」
小さく頷く。
うーん。なるほど。
たしかに子どものときにそんな経験をしたら、思い出補正もかかってしまうのは仕方ない。
「その人も
「へぇ……ん?」
「名前は名乗らなかったけど、貴族の子なのも一目見てわかったわ」
八歳の
なんとなく、覚えがあるような……。
「年齢が一緒なら、学園で再会できる。だからお父様たちには、学園を卒業するまで婚約は待って貰ったの」
「もちろんボクも待つと言ったさ! 大事なのは、ルーンの幸せだからね!」
「まあまさか、入学してこないなんて思わなかったけど」
「……まさか、それって」
ルーンが笑う。
ここまで言えば、わかるでしょ? と言うように。
「ダンジョンで貴方の
そう言った瞬間、ルーンの瞳から涙が流れる。
「助けて貰ったのは二度目ね……また会えて嬉しいわ」
「…………あ、ああ」
要するに、ルーンの憧れの人物は俺で、ずっと想いを抱いてくれてくれていた。
それがあり、リオウからの婚約を受け入れられず、この日を迎えたと
彼女の嬉しそうな顔と涙は、冗談や嘘ではないんだろう。
「えっと……俺は」
「まだなにも言わないで」
「え?」
「これは、私の独り言だけど……」
なにかを言おうと思って口を開こうとしたら、ルーンから止められる。
「まさか、
――あの馬鹿王子のこと、もうなにも言えないわ。
独白、あるいは懺悔のような言葉を、ルーンは続ける。
俺はそれを、黙って聞く。
「だけど、途中で気付いたの。今の私にとって、本当に大切なのはなんなのかって」
「……え?」
突然、黙って聞き続けていたリオウが驚いた顔をした。
なんだ? と思ったが、ルーンは変わらない雰囲気のまま言葉を続けた。
「私が貴方を想い続けてきた間、リオウもまたずっと私のことを好きだと言い続けてくれた。私の我が儘に子どものときから付き合って、辛い思いをさせ続けたにもかかわらず、昨日だって一番に駆け寄ってきて、自分が傷付いたみたいに泣いてくれたの」
「……」
「こんな酷い女さっさと離れて、もっと良い子と婚約すれば良いのに……」
そう言いながら、ルーンはリオウの指に自分の指を絡めた。
「あ、あ、あ……」
リオウは動揺して、身体が震えている。
「るるる、ルーン……? 昨日話したのと、全然ちがう、けど?」
これが彼にとって予想外の話なのがわかった。
それを証明するように、ルーンが小悪魔のように笑う。
「アクセルに想いを伝えて、受け入れてくれたら側室に入るって話だったものね」
「そうだよ! だって十年だ! 君はずっと彼のことを――っ!」
言葉を止めるように、ルーンが指で唇を押さえる。
静かになったのを確認すると、再びを俺を見た。
「ごめんなさいアクセル。私、もうこじらせちゃってて……貴方を理由にしないと、恥ずかしくてこんな風に想いを伝えられないの」
「いいって。だって十年なんだろ? それだけ筋金入りじゃ、仕方ないさ」
まだ出会って間もないが、それでも彼女は友人だ。
その晴れ舞台で道化になるくらい、いくらでも受け入れよう。
「アクセル様。貴方に恋い焦がれた十年は、とても大切な思い出でした。私を受け入れてくれませんか?」
ルーンは今、一人の貴族令嬢として俺に話している。
「申し訳ありません。俺にはもう、守るべき人がいます。ルーン様を受け入れることは、できません」
エクリアを思い浮かべながら、はっきり拒絶をする。
ルーンは……涙を浮かべて、寂しそうに微笑んだ。
「リオウ……私、振られちゃった」
「っ……」
「こんな我が儘で、性格の悪い女だけど、まだ捨てずに拾ってくれる?」
「もちろんだとも! 君ほど心が強くて、いつも真っ直ぐ前を向いている令嬢は他にはいない! ボクは、そんな君に憧れて、惹かれたんだから!」
リオウは立ち上がり、ルーンに対する想いを告げる。
まるで、十年間ずっと我慢し続けててきたすべてをぶつけるように。
「ありがとう……リオウのこと、愛してるわ。多分、ずっと前から」
もしかしたら人によっては、ルーンが悪女のように見えるかもしれない。
ただ俺には、最後の言葉こそ彼女の本心だと、そう思う。
◇ ◇ ◇
二人が帰ると、騒がしかった屋敷がだいぶ静かになった。
ルーンが助けてくれたお礼にと持ってきてくれたコーヒーを飲みつつ、まったりした時間。
「なんか予想外のことがたくさんあったけど、最終的に丸く収まってくれて良かった良かった」
純粋な友人ができたことはもちろん嬉しいが……。
今後、辺境伯を目指す身としては、他貴族との交流も欠かせない。
エルレイン侯爵家、シャイン伯爵家という王国でも上位に入る貴族とつながりができたことは、素直にありがたいと思う。
「アクセル様、男にも女にもモテモテですねぇ」
「……」
シュシュがコーヒーのお代わりを入れながら、ニヤニヤ笑っている。
「それにしても、自分が惚れてる人に惚気られたルーン様……おかわいそう」
「うあああああ!」
考えないようにしていたのに、このメイド言いやがった。
「言うなよ! 俺だって知らなかったんだから仕方ないだろ!」
「俺だって、もしエクリアが他の男を褒めたら……斬りに行きたくなる。キリッ!」
「だから言うなって言ってんだろぉがぁぁ!」
ルーンが俺のことに気付いてなかったときはいい。
だがさっき屋敷に来たときは、もう俺が子どものころから憧れていた男だと知ってた状態だ。
というか、その前。
——やっぱり、あの動きはあのときの……。
あのときのルーンの言葉は、そういう意味だったわけで……。
ダンジョンで惚れた相手と親友がイチャイチャしてる姿を見せられ、惚気を聞かされてたとき、どんな感情持ってたんだよアイツ⁉
「……今度、菓子でも持っていった方がいいかな?」
「まあ最終的に丸く収まりましたし、いいのでは?」
最後はリオウと手を繋いで、幸せそうだった。
うん、たしかに終わり良ければすべて良し……。
それはそれとして、俺は一生、ルーンに頭が上がらないかもしれないなぁ……。
「あとリンフォード公爵家から遣いが来て、明日の午後、屋敷に来たいそうです」
「ん? 了解。それじゃあ待ってるって返事をしてくれ」
「はーい」
別に遣いを出さなくても、エクリアならいつでも来てもいいんだけどな。
昨日の件でバタバタしていたから、しばらく休みを貰っている。
俺のスケジュールなら、宰相が把握してるはずだ。
――休んでも、屋敷で勉強するか図書館に行くかくらいだし……。
さっきまで騒がしかったせいか、一人で休みを取っていることに寂しさを覚えてしまった。
「……エクリアに会いたいな」
早く明日が来れば良いのに。
そう思った翌日……。
「この度は我が娘を助けてくれたこと、誠に感謝する」
やってきたのはエクリアではなく、宰相だった。
そうだな。昨日来たのはリンフォード公爵家からの遣いだったもんな。
「…………はい。当然のことです」
宰相のことは尊敬しているけど、会いたかったのはエクリアなので、俺はなんとも言えない気持ちになった。