辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
正式な礼をしたい。
そう言ってやってきた宰相だが、俺としては上司であり未来の義父。
そんな人物に頭を下げられるとか、嫌すぎる。
「わざわざウチに来なくても、王宮か、公爵家まで伺ったのに」
「今日はフォルス王国の宰相としてだけではなく、一人の父として来た。ならば私自身が出向くのが筋というものだろう」
うーん、格好良い。
俺が勘違いしただけで、きちんと手順を踏んだ上で来てくれたんだから、これ以上の問答は不要だろう。
「状況はエクリアとシャイン伯爵令嬢から聞いた。もしお前が間に合わなければ、大惨事に陥っていたこともな」
「俺は自分の婚約者を助けに行っただけですよ」
だから礼は不要。
そう言おうと思ったが、宰相には信賞必罰が求められる。
たとえ個人で来ても立場があり、ここで報酬なし、となれば周りに示しが付かない。
かといって、俺はどれくらいの望みを言えばいいのかわからないから、宰相に任せるしかないんだが……。
――というか、さっきから布がかけられてる台座があるんだが……。
宰相が持ってきた、いかにもな雰囲気のなにか。
多分あれが報償だろう。
「公爵家と伯爵家の令嬢を救ったこと。王家の人間を止めて国の恥部を外部に漏らさなかったこと。これらから、私個人とは別に、王家と国からも報償が出る」
「……」
たしかに今回の件は、外部に漏れたらヤバすぎる件だった。
俺もすぐに箝口令が敷かれたし、内容を知った人たち全員がそうなっているだろう。
人の口に戸は立てられないだろうが、噂話までなら諜報部などで制御もできるはずだ。
「王はお前が望むなら、王女を娶らせるとまで言ったが……」
「えぇ……」
「それは私が却下した。いくらお前が次期辺境伯とはいえ、現宰相の娘と王女を嫁にするのは、一貴族として権力が集中しすぎるからな」
その言葉にホッとする。
政治的に見れば、他国と隣接する辺境伯には力と王族との縁を繋ぐのは悪い選択じゃない。
ただそれが過剰すぎれば、今度は王家や他貴族から危険視される。
真面目にコツコツ働く気だから、そういうトラブルの種は勘弁してほしい。
なにより、俺にはエクリアがいる。
王女と結婚したら彼女が側室になってしまうし、悲しませるようなことはしたくなかった。
「それじゃあ報酬というのは……?」
「一つは、第一図書館の特級利用権だ」
「本当ですか⁉」
「ぬっ! ……ずいぶん嬉しそうだな」
「それはもう! 第一図書館自体、宮廷貴族か特別な資格がないと入れない場所ですし! さらに特級といえば禁書庫まで含めた全範囲が含まれるというではありませんか!」
いくら俺が辺境伯家に入ったとはいえ、地方貴族。
王家の機密まで含めた王宮図書館に入ることは許されない。
だから諦めてたが、まさかここで手に入るなんて……!
「王都にいられるのもそんなに長くないだろうに、そんなに嬉しいのか?」
「特級利用権持ちなら、資料の持ち出しも可能ですよね?」
「……持ち出し可能なのは一回につき一冊のみ。さらに厳重な管理が必要だ」
「はい! ちゃんとルールに従って、司書長に頼みます!」
楽しみすぎる!
どれだけお金を積んでも手に入らない、まさに国王様からの褒美に相応しい内容だ。
「……たしかに王にこれがいいと伝えたのは私だが……ここまで喜ばれると私の報償が――」
しかし宰相、なんか微妙な顔してるけど、なんでだろ?
「……ごほん。王宮から十分な特別報奨金も出る。今回の件、これで納得してくれ」
「むしろ貰いすぎでは……」
「そう思うのはお前くらいだ」
別に贅沢したいとか思ってないし、そもそもエクリアを助けるなんて当然のことをしただけだからなぁ。
「そしてこちらは、私からの礼だ」
公爵が連れてきた執事が、台座を横に持ってくる。
その上にかけられた布を取ると、そこには一振りの剣が置かれていた。
華美な装飾のない、どちらかといえば無骨な剣。
だからこそ、刀身の美しさが目を引く。
「……すごい剣ですね」
「魔剣バルムンク。かつて古龍殺しの英雄が使ったとされる剣だ」
魔剣はダンジョンの中で手に入る、特殊な魔力を帯びた剣の総称だ。
力の大きさは大小様々。
ただ、強力な魔剣は巨大な魔物すら吹き飛ばすらしい。
実際、これから父になるゼクト・ヴィスペリア辺境伯の持つ魔剣グラムが、竜の鱗ごと叩ききる逸話もあった。
――てかバルムンクって、英雄譚にも出てくるやつじゃん。
「これ、国宝では……?」
いちおう、王と宰相の許可があれば、宝物庫にある道具も報償として使えるらしい。
ただ国の宝に指定されるだけあり、その価値は並大抵の活躍では無理。
宰相だからと強権を振るえば可能だろうけど……他の派閥の貴族たちに足下を見られてしまうため、それも難しい……。
「王族の不手際で娘の命を危険に晒されたのだ。この程度で済ましたこと、感謝して貰いたいものだな」
「おお……」
エクリアのこと、本当に大切に想ってるんだなぁ。
「斬った分だけ体力を回復させる剣らしい……お前が使えば、万の軍にも匹敵しよう」
……たしかに、俺の“加速”と相性は抜群の効果だな。
斬るたびに体力が回復するなら、俺の動きが途切れることもなくなる。
もちろん相手の強さにもよるが、雑兵の軍であれば俺一人で殲滅できるかも……。
そこで隣のディン帝国と俺がこれから行くヴィスペリア辺境伯領が隣接していることを思い出した。
「……まさか、隣国と戦争とかにならないですよね?」
「そうならないように働くのが、国境である辺境伯の役目だぞ」
そりゃそうです、はい。
まあ戦争云々はともかく、魔物の多い土地だ。
この武器があれば俺の生存率も……。
――いや待て。そもそも領主が戦うのがおかしいことを思い出せ。
ライド領といい、ヴィスペリア領といい、当たり前のように貴族が最前線で戦うな。
――俺は文官俺は文官俺は文官……。
「まあ使う必要がなければないでいい。金策に困ったら売ったって構わん」
「そんなことできるわけないでしょう……」
世界に二つとない逸品をどう売れと。
どこに売ったってバレるし、領地運営に失敗したなんて広まったら貴族として終わりでもある。
まあこれは公爵なりの発破かけで、それくらい頑張れ、ということだと受け取ろう。
「さて、これで私の私用は済んだ。今後の話をしようか」
「っ!」
先ほどまでは、宰相としてではなく私人として。
そして今から始まるのは、公人としての要件。
「コーネリア。人払いを」
「……」
小さく頷いて、黙って動く。
ウチのメイドたちは親しみやすいが、さすがに公爵の前で普段の様子を見せるわけにはいかない。
なのでこの部屋に入れたのは、メイド長のコーネリアだけ。
彼女は元々伯爵家の人間ということもあって、正しく使用人としての立場を知っている。
素早く動いて辺りを確認し、不審者がいないことを確認すると自分も出ていった。
ほどなく、部屋に残ったのは俺と宰相、そして公爵家側の執事だけとなる。
「よく教育されているな」
「ありがたいことに、彼女は優秀ですので」
公爵から見ても、問題ないらしい。
他のメイド二人では、こうはいかなっただろうから、コーネリアがいてくれて助かった。
「まず今回の下手人、ヴィクターに関してだが……鉱山送りが決まった。王族に行う刑としては異例の重さだが、これまでのことを含めれば情状酌量の余地もない。もはやこちらに戻ってくることもないだろう」
「……」
下手に言葉を挟まない。
ただ黙って、決定を聞く。
「次にバルドル侯爵家嫡男マードッグだが、廃嫡後、奴隷落ちとする」
「……奴隷、ですか?」
意外な決定に、思わず聞き返してしまった。
それはただ処刑されるだけよりも、さらに重い罰だったからだ。