辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
|「俺の方が先に目をつけていたんだぞ! ヴィクター王子は彼女を苦しめていたし、いずれこうなることはわかっていた。だから俺は、そのタイミングで彼女を救って婚約者に名乗りを上げるはずだったんだ! なのにいきなり出てきて、なんなんだよお前ぇ!」
男の言い分が、最初理解できなかった。
周りを見ると、この男に向けられた軽蔑の視線。
どうやら俺がおかしい、というわけではないらしい。
「……ああ。そういうことか」
「俺は由緒正しきマルクス侯爵家の嫡男だ! お前みたいな田舎貴族と違って、家格も釣り合っている! だから本当に相応し――」
「もういい。黙れ」
「っ⁉」
一瞬で間合いを詰めて、殺気をぶつける。
「俺が田舎貴族なのは事実だ。お前が由緒正しい貴族なのもわかった」
「あ、あ……」
男子生徒が怯えたように後ずさる。
「ところでお前、今なんて言った?」
「俺の方が先に目をつけていた? 苦しめられてたのは、わかっていた?」
――そのタイミングで彼女を救って婚約者に名乗りを上げるはずだったんだ!
「そのタイミングって、なんだ? 苦しんでるエクリアを放置しておいて、自分が白馬の王子様だとでも名乗るつもりだったのか?」
「あの、その……」
「本当に彼女に惚れて、守りたいと思ったんだったら、最初から戦えよ。傷つけられる前に、助けられる位置にいたんだろ?」
普通の生徒なら仕方ない。
相手は王位継承権を持つ王子で、権力差があって、言葉にできないのが普通だ。
だがこいつは侯爵家嫡男。
学園でも上位に入る貴族で、王子に諫言もできた立場だろ。
――なにより、惚れてる女が傷ついたことを無視して、利用しようとした。
「う、うわあああああ!」
俺の殺気に限界が来たのか、殴りかかってくる。
こんな遅い攻撃が俺に当たるはずがなく、軽くいなすと地面に転がった。
「お、お前! 俺にこんなことして良いと思ってるのか⁉」
「俺は今、国王と宰相の命令で、エクリアを守るために学園に通っている」
懐から書面を見せる。
――エクリア・リンフォードおよび、ルーン・シャインに危害を加える可能性がある人間がいた場合、相手の立場に関係なく捕らえ、報告すること。
実際に国王と宰相によって押印されており、公的な事実として認められていた。
ただでさえ、第二王子派が受けた影響は大きい。
理不尽な復讐を企む者が現れるかもしれないため、独自の権利を貰った形だ。
「マードッグと違って、理不尽に攻撃するつもりはない」
だが、ここで一つ宣言はしておくべきだろう。
「お前が恨むのが俺だけなら、いつでもかかって来い。返り討ちにしてやる。だがもし、二人に手を出そうとするなら……」
「え?」
魔剣バルムンクを抜き、一瞬で男の目の前に剣先を止める。
男には、俺の動きなど見えなかっただろう。
「地獄を見せてやる」
「あ……」
今度は手加減なし。本気の殺気をぶつけると、本当に殺されると思ったのだろう。
その場で気絶した。
正直少しやり過ぎたが……どうしようもなく苛立ちを押さえられなかった。
「俺もまだ、ガキだ――」
「「うおおおおお!」」
「「きゃー! 格好良いー!」」
「おわ⁉」
な、なんだ⁉ 急に生徒たちが歓声を上げ始めたんだが⁉
野太い声と黄色い声が混ざっていて、驚いてしまう。
「今の動き凄いですね!」
「あの英雄ゼクト・ヴィスペリアに勝って養子になったって話、本当ですか⁉」
「ファンになりました!」
一斉に生徒たちが集まってきて、俺にいろいろ言ってくる。
ちょっと待ってくれ!
俺は遠くの声とか口の動きとか読めるけど、こんなにたくさんの声を一気に拾えるわけじゃないんだ!
「今の動きは
まさか好意的に迫ってきた相手を威圧するわけにもいかず、俺はなんとか一つ一つの質問に答えていく。
生徒たちに囲まれてしまって、助けを求めようとエクリアを見ると……。
――なんか、頬を膨らましてるんだが……。
もしかして、嫉妬?
そんな彼女を隣のルーンが苦笑しながら宥めている。
残念ながら、二人とも助けてはくれる気配はない。
ならばリオウは……ニヤニヤと見ていて楽しんでいる様子。
――あいつはあとで仕返しする。ルーンに頼んでお仕置きだ。
「あの! 私もダンジョンで助けてもらったんです! 良ければ一度、お礼にお食事だけでも!」
「も、申し訳ありませんが……婚約者がいる手前、二人きりでは……」
「じゃあ俺たちと一緒に行こうぜ! 人数がいれば、浮気にもならないだろ!」
「そ、それなら……?」
俺がそう言った瞬間、その場の面々がまた歓声をあげた。
……大丈夫、だよな?
こういう風に同年代に遊びに誘われたこととかないから、わからないんだが⁉
「はいはい、ちょっとどいてね」
ルーンが声をかけると、生徒たちが道を空ける。
そんな彼女に背を押されて、頬を膨らましていたエクリアが近づいてきた。
「ほら行きなさい!」
「え?」
突然、ルーンに押されたエクリアが腕に抱き着いてきた。
そして――。
「あの……今度二人だけでお出かけしたいです!」
恥ずかしいのを我慢して、一生懸命声を出したのがわかる。
「もちろんだ。ぜひ行こう」
そう承諾すると、その場の生徒たちの歓声が再び舞い上がった。
――学園って、なんか楽しいところだったんだなぁ……。
兄二人から聞いた話や、最初に見た光景が酷かったから、ちょっと不信感もあったが、気の良い人たちも多い。
実は少しだけ不安だった学園生活だが、これなら卒業まで上手くやれそうだ。
ちなみに、あとでルーンに教えられたが、派閥があるとはいえ学生同士で仲良くなることは全然ある。
だから遊びに行くくらいは、気にしなくていいと言われて、ホッとした。
「じゃあさっそく今から行こう! どっかいいとこないか⁉」
「私の家がやってるカフェがありますから、今日は貸し切りにしますわ!」
「友達も呼んでいい⁉ こんな機会、滅多にないもの!」
「おう呼べ呼べ! どうせもうすぐ卒業なんだ! 今日は家とか無視して楽しもうぜ!」
「……え?」
男子の一人がそう言ったことで周りも盛り上がり、あれやこれやでそのまま放課後にカフェに集まることに。
そして出会いのことや、どう思っているのかなどを根掘り葉掘り質問され……。
同年代との会話に慣れていない俺と、恥ずかしがってしまったエクリアは終始圧倒されていた。
助けてを求めてルーンを見ると、こっそりリオウとイチャイチャしてるし……。
――絶対あとで、弄ってやるからな。
そう思っているうちに、新しい質問が飛んできて、必死に答えるのであった。
◇ ◇ ◇
しばらくして……俺は再び王城に呼び出された。
待っていたのは、国王様、宰相、そして……。
マードッグの父にして、この国の騎士団長の一人。
ベイル・バルドル侯爵だった。