辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
王城に呼び出された名目は、王国の重鎮である公爵令嬢と伯爵令嬢を助けた褒美を与える、ということらしい。
前回と違い人数は少ないが、緊張しないかと言われれば、めちゃくちゃ緊張する。
なにせこの場にいる面々は、間違いなく王国の未来を左右する権力の持ち主ばかりだからだ。
「よくぞ来たな。アクセル・ライドよ」
「はっ!」
リカルド・ジル・フォルス王を前に、俺は膝をつく。
王のそばには宰相――ジェラード・リンフォード様が立ち、反対側には王妃様が座っている。
俺の義父になる予定のヴィスペリア辺境伯。
ルーンの父、ビームズ・シャイン伯爵。
マードッグの父、ベイル・バルドル侯爵。
さらに先日揉めたゲラードの父、マルクス侯爵。
ある意味、貴族らしい貴族で、傲慢な性格だそうだ。
とはいえ、それで生き抜けるほど宮廷は甘いところではなく、政治的手腕はあるらしい。
ヴィクターとエクリアの関係を聞いて、リンフォード家との婚約を狙ったのも、実は悪い手ではなかった。
誰を敵に回したらまずいかもわかっているようで、エクリアの父である宰相にきちんと謝罪が行われたらしい。
俺というイレギュラーがいなければ、マルクス侯爵家にとって効果的だっただろう、と宰相も政治手腕を褒めていたくらいだ。
――もっとも、万が一エクリアを侮辱するような対応を取っていたら潰していたがな。
いちおうゲラードも惚れていたわけなので、悪いことにはならなかったと思う。
ただそんなもしも、を想像するのは嫌すぎるので、考えるのはここまでだ。
「以上が褒美となる」
「過大なる評価、ありがとうございます!」
考え事をしてるうちに、王様から褒美について語られた。
事前に宰相や宮廷文官の方々と打ち合わせ済みなので、流れに沿うだけ。
場が場なので緊張はするが、これで終わり――。
「ところでアクセル。お前はこのヴィスペリア辺境伯に勝ったそうだな?」
「……は?」
突然、国王様から予定にない話題を振られて固まってしまう。
「あ、いえ。勝負は途中で終わったうえ、ゼクト父上は
「ほう……ということは引き分けたのは事実か」
「うむ! 次はお互い本気の殺し合いがしたいところだな!」
絶・対・嫌・だ!
誰が好き好んで、竜もたたっ切る怪物と本気の殺し合いをするか。
「その実力、ぜひこの目で見てみたい」
「ならワシが――!」
「私にお願いできないでしょうか?」
ゼクト父上より早く、バルドル侯爵が手を挙げた。
その目は……覚悟を決めたような……?
「騎士団長。主は王国の威信を背負った存在だ。相手が強くとも、学生に負ければどうなるかわかっての発言か?」
「はい」
「わかった! ならばこの場で、その実力を見せてみよ!」
バルドル侯爵と国王の話し合いが、俺を置いて進んでしまう。
普通に嫌だが、これを拒否して父上とまた戦うことになるのも嫌すぎた。
「私の自己満足に、付き合わせてしまってすまない」
「もしかして侯爵は……?」
バルドル侯爵から剣を手渡されたとき、彼は達観した表情でそう言った。
俺の疑問に答える気はなく、背を向けられる。
「では二人とも、構えぇ!」
正直、こんな場所で戦うなんて正気とは思えない。
だが逆に言えば、こうした人目のない場所でしか、できないことなのだと理解した。
「始めぇ!」
「うおおおおおおおお!」
国王様の合図と共に、侯爵が迫る。
息子と違い、その動きは相当速い。
俺が“加速”を使わなければ、ほぼ同等に近いだろう。
――それに斬撃は鋭く、重い!
上段からの剣の速度が一気に上がり、受け流すことに失敗してしまった。
騎士団長。
この国には六つの騎士団があるが、そのうちのトップに座る男。
貴族としての地位も大切だが、剣の腕も必要になる。
少なくとも、俺が学園で出会った生徒たちに比べれば、遙かに手練れだ。
「まだまだぁ!」
連続して放たれる侯爵の攻めを、受け止め続けて隙を探す。
「うおおおおい! なにをやっておるアクセル! 手加減するなど、騎士を馬鹿にした行為じゃぞぉ!」
こちらを見ている父上から、そんなことを言われる。
「いちおう言っておきますが、手加減なんてしてませんよ?」
「わかっているさ」
剣術というのは、歴史の積み重ねだ。
俺や父上、それにライド家の戦い方は対魔物向け。
対して、王都の騎士団の剣術は対人間向け。
その最高峰にいる騎士団長の剣術は、並大抵のものではなかった。
流れに無駄はなく、反撃の隙は少なく、見つけられないほどに。
傍目には騎士団長が優位に見えるかもしれない。
しかしそれは、俺が剣を見ることに集中しているからだ。
それが誰よりもわかっているであろう騎士団長は、打ち込みながら苦笑する。
「まったく、息子と同じ年齢の者に、ここまで差を見せつけられるとな」
「騎士団長の剣は素晴らしいです」
「お世辞ではなく、本心と受け取ろう」
彼の剣は俺には届かない。
彼の剣は、あまりにも綺麗すぎた。
騎士団という、みんなが平等に強さを得られるように編み出された剣では、本能のまま死に物狂いに襲いかかってくる魔物と比べて、どうしても流れが読めてしまうのだ。
そしてもう、この剣は見終えた。
「行きます!」
「っ⁉」
一撃、打ち込んできた剣を弾く。
二撃、守備に徹しようとした剣の柄を撃つ。
三撃、落とした剣を踏みながら、その首に剣先を突きつけた。
「そこまで!」
国王様からの制止が遅れて響く。
「……完敗だ。素晴らしい剣技だった」
「こちらこそ、対人戦の勉強をさせて頂きました」
今回、どちらも
もし先に彼が使っていたら、俺も使っていた。
騎士団長がどんなものを持っているかわからないが、俺の“加速”を超える戦闘用の
ならお互いなしの方が、まだ勝率は高かったと判断したのだろう。
「……ありがとう。私の我が儘に付き合ってくれて」
騎士団長は憑き物が取れたように穏やかな表情となり、国王様を見る。
「国の威信である騎士団長である私は、敗北が許されません」
「うむ」
最初からそうなることが決まっていたように、二人は淡々と話を進める。
――実際、決めてたんだろうな……。
この戦いを始める直前、国王様はこうなることを示唆した発言をしていた。
「侯爵位を弟に譲り、騎士団長を辞職します。そして地方の一騎士として、やり直させていただきます」
「……私は貴殿を信用していた」
「これはケジメです」
そう言うと、騎士団長は俺を見た。
「もしアクセル殿が許してくれるなら、私を騎士として雇って頂けないだろうか?」
「……え?」
その発言は、俺にとって意外すぎるものだった。