辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
「いいじゃろう!」
俺が返事をするより先に、ゼクト父上が声を上げた。
「我が領地には腕利きが多いにこしたことはないからな! こき使ってやるから、覚悟するがいい!」
「私は、アクセル殿に聞いているのですよ?」
「領主はワシじゃぁ!」
ゼクト父上の傍若無人振りは置いても、予想外の提案に俺は困惑していた。
マードッグがやったことは許されない。
それを父親であり、当主である騎士団長が責任を取るのも、仕方がないことだろう。
だがそこで、息子を奴隷に落とす原因となる俺の騎士となることを選ぶのはどうなんだ?
「信用できなければ、使い捨てにしてもらっても構いません」
「信用というか……」
困惑していると、宰相が助け船を出してくれる。
「アクセル。こいつは一人の騎士として、死に場所を決めたのだ」
「宰相……」
「エクリアにも話を通してある。その愚直な男が裏切ることもないことも、私が保証しよう」
傷ついたのはエクリアだ。
その彼女から許可を取ったなら、俺がこれ以上躊躇う理由もないか……。
「ベイル・バルドル侯爵の覚悟、受け取りました」
「ありがとうございます。これからの私は、ただのベイル。家名を捨て、貴方様に忠誠を誓います」
「わかった。ベイル、期待しているぞ」
「はっ!」
形式的なやり取りをすると、見事なまでの剣礼をする。
正直、自分の父親と変わらぬ年齢の貴族を扱き使うのは抵抗がある。
だがこれも、立派な貴族を目指すのであれば必要なことだろうと割り切り、その礼を受け入れた。
結局のところ、今回の件は国王、宰相、そして騎士団長のそれぞれが事前に打ち合わせた通りになったということだろう。
「国王様。もし俺が負けていたら、どうなっていたのですか?」
「そのときは、ヴィスペリア辺境伯がベイルを斬っていたな」
「……なるほど」
罪状は、平民が辺境伯子息に剣を向けたとか、そんなところか。
ライド領では貴族も平民も一緒に食事をしてたが、立場は天と地ほど違う。
この辺りも、慣れていかないといけないなぁ……。
「ワシはそんな心配しておらんかったがな!」
「信用してくれてありがとうございます」
棒読みになってしまったが、仕方ないだろう。
というかアンタ、裏で話が決まってたならなぜさっき手を挙げた。
別に戦闘狂じゃないので、できれば二度と戦いたくないのですが。
「では次はワシと……」
「辺境伯。この後も予定があると伝えていたはずだ」
「む? そういえばそうじゃったな」
まだなにかあるのか?
正直俺としては、そろそろ帰りたいんだけど……。
「アクセル!」
「……え?」
関係者以外が出ていったはずの玉座の間。
そこの扉が開き、聞き覚えのある声が響き渡る。
「父上⁉」
ライド子爵……つまり俺の生みの親であるガイゼル・ライドが現れた。
「お前なぁぁぁ!」
ドカドカと大股で歩きながら、こちらにやってくると、ガバッと抱きつく。
「文官になると言って出て、なぜこんなことになったぁぁぁ!」
「い、いろいろあって……」
「いろいろあったなら仕方ないなぁぁぁ!」
うるさい。うるさいが、正直懐かしい。
あれだけ家から離れたかったのに、こうして会うと少し嬉しい気持ちになった。
とはいえ、場所が場所だ。
「父上、王の御前ですから……」
「む⁉ そうだった!」
慌てて離れると、その場に跪いた。
いくら蛮族貴族と呼ばれていても、最低限の礼儀は持っていたらしい。
――父上、めちゃくちゃ緊張しているな。
国王様からの言葉に、かなり恐縮している様子。
初めて見る父の姿に、驚きよりもおかしさが勝って、内心で笑ってしまう。
「それでは今後、アクセルはヴィスペリア辺境伯の養子とする。ライド子爵も異論はないな?」
「はは! 御身のお言葉のままに!」
実はこれまで、俺の立場は宙ぶらりんだった。
ゼクト父上は今すぐでもヴィスペリア辺境伯性を名乗れと言うが、ライド家がある以上俺が勝手に名乗るわけにもいかない。
なのでこうしてガイゼル父上を呼び寄せ、正式な契約として終わらせる必要があった。
――しかし、父親が多いな……。
エクリアと正式に結ばれれば宰相も俺の義父上になる。
そう考えたら、たかが子爵家三男だった俺のために、ずいぶんとややこしい場を作らせてしまった。
「アクセルよ」
「はは!」
父との会話を終えた国王様が、こちらを向く。
「これよりお主は、正式にアクセル・ヴィスペリアを名乗るといい。辺境伯家の名、決して軽いものではないことを心に刻むのだぞ」
「かしこまりました。この身は、王国のために」
「うむ。ではこれで解散としよう。今後のことは宰相に一任する」
国王様が退出したことで、今回の謁見内容はすべて終了。
こうして、俺を中心とした貴族の騒動は、ひとまず落ち着きをみせた。
◇ ◇ ◇
この後、各自の交流を深めるためと、リンフォード公爵の屋敷で、その場の面々にエクリアやルーンたちを交えた食事会が開かれた結果……。
実はお酒に弱いエクリアが酔って甘えてきたり、それを見たリオウがルーンに甘えるのをお願いして叩かれたり。
ガイゼル父上とゼクト父上が意気投合し、馬鹿みたいな飲み方をして宰相に怒られたり。
貴族の飲み会とは思えない、騒がしい宴会が続くことになる。
「……ふう」
風に当たるために外に出ると、ガイゼル父上がいた。
「よう。お前も風に当たりに来たのか?」
「二人のペースに巻き込まれて、少し酔ったからさ」
父上は庭に座って空を見上げているので、その隣に座る。
さっきまでは他の貴族の前だから言葉遣いに気をつけていたが、ライド領ではもっと砕けた口調がほとんどだ。
そのせいで、外に出る前に全力で矯正したが。
「父上は相変わらず、酒が強いな」
「まあな。こればっかりは、大英雄殿にも負けないぜ!」
事実、先に潰れたのはゼクト父上だった。
向こうも相当酒に強そうだったけど、それに勝つ辺り、さすがライド領一の酒飲みだ。
「手紙でも見たけどよ。お前には驚かされたもんだ」
「悪い」
「謝んなって。俺は喜んでるんだ。自分のガキが、親父の頭飛び越えてでっかくなったことにな」
片手に持った酒をグイッと飲みながら、俺の頭をゴシゴシと撫でる。
端から見たら、平民の傭兵のような人。
本当に貴族らしくない。俺はこうなりたくないと、子どものころに思っていた。
だがそれでも強かったし、背中も大きかったし、みんなを守る姿には憧れもあった。
――まあ、肉を求めて魔物の群れに突撃する姿はさすがに引いたが……。
それでも自慢の父親……だったと思う。
「お前の婚約者になったエクリアちゃん、すげぇ良い子じゃねぇか」
「公爵令嬢をちゃん付けすんなよ。酌されてたときは、宰相の顔見れなかったわ」
「かかか! 一生の自慢になりそうだ」
笑いごとじゃないんだが……まあこういう人だ。
それに宰相も、酒の席だからかだいぶ気を許してくれていたように思えるし、ある意味でよかった。
これは俺の勘だが、二人の相性は悪くないと思う。
「うっし……また飲みに戻るかぁ」
父上は立ち上がると、身体を伸ばしてから、再び俺の頭を撫でようとして、その手を止めた。
「もうガキじゃなかったな」
「ああ」
言い返すと、父上は嬉しそうに笑った。
「男なら、守ってやれよ」
「当然だ。今の俺はもう、あんたより強いんだからな」
屋敷に戻る父上に、もうしばらく風に当たると言って残った俺は、再び空を見上げ続けた。
◇ ◇ ◇
翌日。
目が覚めると、ガイゼル父上はさっさと王都を後にしていた。
コーネリアやシュシュに聞いても、特に伝言もないらしい。
「父上らしいな」
「そうですねー。あ、でも他の皆様の手紙は置いていってましたよー」
「ん。それはあとで見るわ」
私服に着替えて、エクリアの屋敷に向かう。
学園がある日は、一緒に授業を受け、放課後の護衛は公爵家に任せ、宰相の仕事を手伝うのが一日の流れだが、今日は休校日。
なので以前から話していた通り、エクリアと二人きりでデートをすることになっていた。
学園で二人きりになることはあるが、それはデートとは違うだろう。
以前一緒に歩いたときは、ルーンのところに連れて行かれたため、完全に二人きりというのは初めてだ。
「あ、そうだ……」
「どうされましたー?」
「シュシュ……コーネリアたちもだが、今度はつけてくるなよ? 言っとくけど、前のもバレバレだったからな」
「……」
バレてないとでも思っていたのか、気まずそうな顔をしている。
ウチのメイドたちの隠密は相当なレベルだが、俺相手に気付かれないと思うのはさすがに自信過剰だな。
「返事」
「はいー」
シュシュは諦めたように肩を落として、力のない返事をした。
◇ ◇ ◇
王都中央にある噴水広場。
そこで待っていると、私服姿のエクリアがやってきた。
隣には護衛兼世話係のメリッサさん。
彼女は俺に一礼すると、そっとその場から離れていった。
「アクセル様! お待たせしました!」
「俺も着いたばかりだから、気にしないで」
デートの定番のやりとり、だと教えられたことを実践し、手を繋ぐ。
「それじゃ行こうか」
「はい」