辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
デートを始める前、俺は周りの大人たちに相談をしていた。
相手は王宮政務室の先輩たち!
この国の頭脳とも言える彼女たちから事前調査をした俺に、死角はない!
『いい、アクセル君。女の子はね、ちょっとしたおしゃれに気付いてもらいたいものなんだよ』
『はい! ユリアさん!』
『引っ張ってくれる人が頼りになるって、統計で出てるね』
『さすがビードルさん!』
『アクセルが好きなところに行けばいい。それが一番嬉しいはずだ』
『ティノさん……深いですね』
『だからお前なぁ! なんでもかんでも相手にするなって! どうせこいつら全員、恋愛経験なんてない引き籠もりばっかの勉強馬鹿で、妄想語ってるだけだぞ!』
『『『あ”?』』』
その後、ウーガーさんの姿が数日間行方不明になったのが気になるけど、素晴らしい助言はたくさん貰えた。
◇ ◇ ◇
王都を歩きながら、まずはユリアさんの言葉に従って、エクリアのいつもと違う部分を探す。
――髪、可愛いな……。
ポニーテール、というらしい。
以前学園内の男子たちが、どんな髪型が一番可愛いかなんて議論をしていたときに、人気の高かった髪型だ。
――ポニーテールはただ髪を纏めるだけではありません! うなじを見せ、前垂れを下ろす! これにより黄金比を体現することで、人類史に残り続けた……。
そう熱弁する男子生徒の記憶が濃すぎる。
次いで人気だったのが、ルーンが普段しているツインテール。
男子だけで話すと、ルーンもかなり男子人気が高いことがわかる。
まあ良い奴だし当然だろう。
ただ罵倒してほしいとか、踏んで貰いたいとか、妙に怪しい男子も多かったのが気になるが……。
ちなみに俺は、エクリアが普段してる、長い後ろ髪を軽く纏めているのも可愛らしくて好きだ。
髪型に詳しいやつが言うには、ハーフアップのアレンジだとか。
まあそれはそれとして……。
「今日は髪をくくってきたんだな」
「あ……へ、変でしょうか?」
「凄く似合ってて可愛い!」
はっきり言うと、恥ずかしそうにもぞもぞし始めた。
付き合いも長くなってきたのでわかる。
これはエクリアが嬉しいときにする仕草だ。
――さすがユリアさん……ありがとうございます。
アドバイスに従った結果だが、エクリアを喜ばせられて良かった。
実際、普段と異なる姿をしているエクリアは、新鮮でめちゃくちゃ可愛い。
他の女子がしてるのを見ても普通だなと思ったが、彼女がやると、一番人気だというのも頷けた。
熱弁していた黄金比とやらはよくわからないけど……。
と思ったところで、他にもいつもと違うところに気付いた。
「それに爪も……」
繋いだ手を少し上に上げて見ると、爪がキラキラと煌めいている。
多分なにか塗っているんだと思うけど……。
「実は……ルーンちゃんにお願いしてマニキュアを塗ってもらったんです」
「だからか。うん、綺麗だな」
学園に通っていれば、なんとく人間関係が見えてくる。
清楚で紛れもなくお嬢様であるエクリアは、高嶺の花。
最も爵位が高いにもかかわらず、誰に対しても丁寧に返すので、敬意を集めている。
活発なルーンは、女子生徒の中心。
特におしゃれ好きが集まり、話題の中心は服や化粧、それに美味しいお店の話など。
化粧など、貴族は自分でやらないと思っていたが、意外と学生の間では流行らしい。
大抵のことを使用人に任せるからこそ、自分でやる楽しさを見いだすのだとか。
「ルーンちゃんには、今度また教えて貰うんです」
「二人って本当に仲良いよな」
「子どものころから、ずっと一緒ですから」
十歳のころ、第二王子の婚約者候補となって以来、妃教育を受けるためにずっと王都に住んでいたらしい。
そこで同じく婚約者候補のルーンと出会い、それ以来の仲だそうだ。
「ルーンが……王子の婚約者候補……?」
「あ、そんな顔したら怒られちゃいますよ?」
「内緒な?」
「もう……」
少し呆れられてしまった。
そんな会話をしていると、予定していたカフェに辿り着く。
もちろん貸し切り、と言いたいところだが、エクリアがあまり好まないのは事前にリサーチ済み。
なので前回のルーンにあやかって、個室を予約しておいた。
――貸し切りはやめたはずなんだけどなぁ……。
客はいた。
ただ雰囲気がまず一般人じゃないし、わかりづらいようにしているが、視線も感じる。
つまり彼らみんな、公爵家の使用人の変装だろう。
俺はともかく、エクリアになにかあったら困るからだろうから仕方ないが、少し気になる。
――まあ個室に入ったら一緒だからいいか。
「どうされました?」
「良い店だなって思って見回しただけだよ」
部屋に案内されて、すぐ飲み物がきた。
料理は予約時に頼んでいたので、じきに来るだろう。
「婚約者候補の話ですが……最初はルーンちゃんが最有力だったんです」
「信じられん……」
そんな、もしもを想像してみる。
まず最初にヴィクターを殴り、そのあと蹴り飛ばしてそうだ。
――案外、その方がやつにとって幸せだったかも……。
鉱山奴隷となった今よりも、美少女に尻に敷かれていた方が良かっただろうな。
「でもルーンちゃん、好きな人がいるから絶対に嫌だ! って王宮に直談判したんです」
「ん、んんん!」
天恵《ギフト》を得るのが八歳。
そして王子の婚約者候補になったのが、十歳。
つまり俺があの日助けた結果、ルーンは婚約者レースを降りて、今に至ると。
なんというか……ヴィクターに対して俺の知らないところを含めて影響が大きすぎないか?
いくら大馬鹿野郎でも、ちょっとだけ申し訳なさが湧いてきた……。
「それで私が――」
「よし! この話はもう忘れよう!」
「……え?」
「エクリアだって良い思い出じゃないだろ? ちなみに俺は、好きな子の過去の男とか聞きたくない!」
――器の小さい男と思われるかもしれないけど!
「……ふふ」
少しおちゃらけて言うと、最初呆気に取られた顔をしていたエクリアが、笑い出す。
「そうですね、もう止めましょう。ちょうど料理も来ましたし」
「だな」
「その代わり、アクセル様の子どものころのお話を聞かせてください」
「恥ずかしいんだけど……」
わくわくしながら、こちらを見ているエクリアに抵抗できる気もしない。
仕方ない、と俺は自分の両親や兄弟。
そしてライド領でどう育ったのかを彼女に伝えるのであった。