辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
貴族学園の食堂。
エクリア、ルーン、リオウ。
俺がエクリアの護衛につくようになっていから、だいたいこの面子で行動することが多かった。
「……」
右を見れば、カップル。
「……」
左を見ても、カップル。
食堂内は今、生徒たちが人目も憚らずイチャイチャするための空間となっていた。
「最近、学園内が妙に浮ついてないか? こう、恋人同士が増えたというか……」
「ああ。それ、アンタのせいよ」
「俺?」
さすがに意味がわからない。
だがルーンの隣に座るリオウもうんうんと頷き……いやお前はルーンの言うこと全肯定だもんな。
というわけでエクリアを見ると、彼女も理由がわからず首を傾げていた。
「もうすぐ卒業パーティーだから、じゃないの?」
「それもあるわね。婚約者や恋人同士はパーティーでダンスもするし、卒業したら結婚するまで会うのも難しくなるから」
「どう考えても、それが理由だろ」
俺たち関係ないじゃん。
なのになぜ、そんな呆れたような目をする。
「ところでアンタたち、テーブルの下で今なにしてる?」
「「……」」
そっと指を絡めていた手を離す。
「なにも?」
「なにもしてないよ?」
二人揃って両手を挙げると、ルーンの呆れたような目がさらに深くなった。
「バレてないと思ってるあたり、深刻ねぇ」
「まあ良いじゃないか。仲良きことは良いことだよ。というわけでルーン、これを食べさせてくれないかな?」
「これ?」
リオウが言ったのは目の前のサンドイッチだが、ルーンは拳を上げて見せる。
「愛のある拳も悪くないけど、そういうのはベッドで――」
早い。俺じゃないと見落としてしまいそうな、キレのあるグーパンチがリオウの顎を掠めて気絶した。
前から思ってたんだけど、ルーンって鍛えれば良い戦士になりそうなんだよな。
ただ、今のはさすがに違和感があったけど、もしかして……。
「り、リオウ君どうしたの?」
「さあ? 疲れでも溜まってたんじゃない?」
いきなりテーブルに突っ伏したため、エクリアが困惑ぎみだ。
「それじゃあ話を戻すけど!」
「復活早いわね」
顔を上げたリオウが元気に声を上げる。
「最近、カップルが多く見える理由は、君たち二人に触発されてるからだね」
「エクリアはアクセル見る目がずっと熱いし」
「アクセルは俺が絶対彼女を守るって雰囲気出まくってる」
いやいや、そんなの当たり前だろ。
護衛としてきてるし、なにより婚約者なんだから。
「貴族学園の生徒たちって、政略結婚がほとんどだけど……」
「影響受けて憧れるのも仕方ないよねー」
「な、なるほど……だから俺たちのせいか」
たしかにエクリアの俺を見る目は、好意が凄く伝わってくる。
嬉しいことだし、これが普通だと思ったけど、違ったようだ。
「ぁぅぁぅぁぅ……」
――当の本人は意識してなかったのか、めちゃくちゃ恥ずかしそうにしてる……。
「この可愛さ、ずるくない?」
「わかる」
ルーンと二人でジッと見つめると、さらに小さくなってしまった。
なんでも許してあげたくなってしまう。
「そういえばリオウ。さっきルーンの拳が顎を掠めたように見えたけど、お前の
「あれ? もしかしてバレてた?」
「簡単にできる芸当じゃないのに、上手くやり過ぎだな」
彼女が素人じゃない、ということも可能性はあるが……。
「あっ! アンタまた幻術使ってたわね!」
「ルーンにはどう見えてたんだ?」
「普通に顔面パンチが入ったように見えたわ」
なるほど。
それはそれで問題な気もするけど、それは置いておこう。
「幻術……魔術系の
「手品とからかい程度にしか使えない、役に立たない
「使い方だろ。てか場合によっては結構凶悪なことも……」
「できるからって、やっていい理由にはならない。君は、透明人間になれたら女湯を覗きに行くかい?」
「行かないな」
「そういうこと」
その使い方は人のために使うべし。
これは
幻術なんて、やりようによっては悪事がし放題。
だからこそ使い方を考えなければならないということだな。
「あーあ。ボクもアクセルみたいにわかりやすく強い力だったら良かったのになぁ」
「言っとくけど、幻術を悪さに使ったら婚約破棄だから」
「そこは信頼して欲しい。ボクにとって、ルーン以上に大切なものはないからね」
「――っ! ……まあ、悪さしないのは信じるけど」
からかっておいて、二人だってイチャイチャしているじゃん。
これはエクリアと一緒に仕返しをしないと……と思って見ると、顔を青ざめさせていた。
「エクリア? 大丈夫か?」
「っ……だ、大丈夫です」
怯えたような反応。
それが嘘なのは、丸わかりだった。
「もしかして、
「……」
無言で首を横に振る。
それに気付いたルーンが、申し訳なさそうな顔をした。
「あー……ごめんエクリア。さっきの言葉は、配慮が足りなかったわ」
「ううん。ルーンちゃんが悪いわけじゃないから……悪いのは、私で……」
――エクリアの
あの王子が恐れたように、人によっては忌避することもあるだろう。
リオウの幻術同様、悪用しようとすればできてしまう。
強力だからこそ、その使用には注意が必要な力ではある。
ただ
――幻術を悪さに使ったら婚約破棄だから。
ルーンの言葉に反応していた。
子どものときに使って、嫌われたのがトラウマになってるとかかもしれない。
あの王子の発言を聞く限り、もしかしたら婚約中に酷い言葉をぶつけられたとかもありえそうだ。
「あのさ……アクセルになら話していいと思うわよ」
「……ルーンちゃん」
「もしエクリアを泣かすようなことがあったら、私が殴ってやるから」
笑いながら物騒なことを言うじゃないか。
ただ、茶化す気にはならない。
それくらい、ルーンがエクリアのことを大切に想っているのが伝わってきた。
「エクリアがもし話したくないなら仕方ない」
「アクセル様……」
「だけど……婚約者として、君のことなら全部知りたいとも思う」
「……少しだけ、お時間を頂けますか?」
「もちろんだ」
まだ不安そうな表情は晴れない。
だけど信用しようとしてくれるのはわかった。
だから俺もその信頼に応えて見せると、覚悟を決める。
「では本日の夜……お仕事が終わったらお父様と一緒に、屋敷に来て下さい……」
「ああ……」
宰相と一緒か。
別の意味で覚悟が薄れかけるが、大丈夫。
エクリアのためなら、宰相と一緒に帰ることだって、怖くない。
怖くは、ないんだ……。