辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
仕事が終わり、他の面々は帰っていった。
残った俺は、宰相に昼間の件を伝えると、政務室が重々しい雰囲気になる。
「そうか……エクリアは伝える決意をしたか」
宰相と二人きり、というのはこれまでなかったことだ。
俺を見据える瞳は鋭く、強力な魔物とはまた違ったプレッシャーを感じる。
「この話を聞いた時点で、お前はもう逃げられなくなる。もしも婚約破棄をしたいと言えば、その首を落とすことになるだろう」
父親としてではなく、一国の宰相としての言葉。
俺の立場はすでに辺境伯子息にもかかわらず、それでも殺すと彼は言う。
「これが最後通告だ。お前にエクリアのすべてを受け止める覚悟はあるか?」
「俺に覚悟を問うなら、王子に逆らう前にするべきでしたね」
宰相がここまで言うのであれば、相当な理由があるのだろう。
だがそんなの、今更だ。
「どんな事実が出てきても、俺は彼女を守ります」
「……ふっ」
正面からそう言うと、宰相が嬉しそうに笑った。
「少しくらい躊躇え。可愛げのないやつだ」
「宰相に鍛えられてますので」
「お前のそれは出会ったときからだろう」
「ちなみに、この話を知ってるのはどれくらいいるのですか?」
「国で十人もおらん。ヴィクターにも伝えていなかったからな」
元婚約者であり、王子ですら教えられない秘密。
知るのが恐ろしいとは思わない。
それよりも早く、そんな秘密を抱えた彼女を支えたいと思った。
◇ ◇ ◇
宰相と一緒に馬車に乗って、公爵家へ。
ライド家の屋敷と比べるのも烏滸がましいほど大きく、まるで宮殿だった。
中に入ると、ずらりと並ぶ使用人の数々。
ちなみにウチは三人だけ。
改めて、俺とエクリアの生まれた環境の差を感じてしまう。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「うむ。エクリアは?」
「すでに執務室でお待ちです」
「わかった」
執事長、と思わしき人物がそう言うと、宰相が歩き出す。
俺はその後ろを付いていきながら、執務室にと思わしき部屋に入った。
「お父様、お帰りなさいませ。それに……」
先に待っていたエクリアが、俺を見て不安そうな顔をする。
だがそれも一瞬の話。
「お待ちしておりました。アクセル様」
「うん。いろいろ聞かせてくれるんだよな?」
俺の言葉に、エクリアは覚悟を決めた顔をして頷いた。
◇ ◇ ◇
テーブルを挟む形で、宰相とエクリアが並び、俺がその前に座る。
――いったい、このソファ一つでどれくらいの値段がするんだろうか?
これまで一度も感じたことのない座り心地。
そんなことを考えて自分の心を誤魔化そうとするくらい、緊張していた。
「エクリアの
「看破……嘘を見破る力と聞いています」
「うむ。だがそれは表向きの話だ」
「……」
宰相の言葉に、なんとなくそうじゃないかと思っていた。
たしかに看破は強力かつ超レアな
ここまで厳重に情報規制をしなければならない理由はないはずだ。
「本当の
「どくしん? 聞いたことがありませんが……」
「いったい、このソファ一つでどれくらいの値段がするんだろうか?」
「……え?」
エクリアが突然、ありえない言葉を紡いだ。
最初、その意味がわからず間抜けな声を出してしまう。
だがすぐに彼女の言葉の意味を理解して、驚愕した。
――まさか、読心というのは……。
「その通りです。私は、相手の心を読み取ることができるのです」
「……なるほどな」
たしかにこれは、情報規制が必要だ。
嘘がわかる程度なら、本人の前で嘘を吐かなければいい。
看破持ちとわかっていれば、誤魔化す手段など、いくらでもあるだろう。
――だけどエクリアのこの力は、問答無用で相手の考えを暴いてしまう。
誰だって、隠しておきたい秘密の一つや二つはある。
という個人的な話ではない。
たとえば貴族が宮廷に反逆を考えていても、すべて先回りして潰されてしまう。
――エクリアは良い子だから、そんなことしないだろうけど。
他国の人間と会談するときにエクリアを連れていけば、欲しい情報をすべて手に入れられる。
――どこかに行くときは、俺がエクリアのそばにいて守らないとな。
読心の
――それにしても、エクリアに力を与えるなんて、神様も相手をちゃんと選んでる証拠か。
そして個人の前に立つと、恐ろしいと思わせてしまう力でもあった。
――エクリアなら絶対に悪いことに使わないし、魔が差すこともないだろう。
「ってことか」
「どこまで読み取れるかお試しになられたのですね?」
「うん、まあ……どんな風に聞こえるのかなとも思ったけど」
合間合間にエクリアを褒める言葉を入れてみると、案の定顔が赤くなっている。
かなり具体的に声が聞こえる感じだろう。
エクリア可愛い。
「も、もうそういうの駄目です! 今は真剣な場なんですから」
「真剣だからこそ、だ」
「うー……アクセル様は、ずるいです……」
「エクリアの力、ルーンは受け入れたんだろ? これから一生隣に立つ身として、負けてられないからな!」
「……ふ、はは! やはりお前はいい! 私の目に狂いはなかった!」
俺たちのやり取りがおかしかったのか、宰相が笑い出す。
この人がこんな風に声を上げるのは初めて見たので、驚いてしまった。
「エクリアの力は、それこそ大陸の情勢すら変えかねないものだ。他国に知られれば、間違いなくその身を狙われる」
「……」
「頼むぞアクセル。これからは、お前がこの子を守るのだ」
「はい。お任せください、義父上」
「うむ……」
宰相が立ち上がると、部屋の外に向かう。
「二人だけでしたい話もあるだろう。私は席を外す」
「え? その……お父様?」
戸惑ったのは、エクリアだ。
だが彼女は今、
宰相の心の声もはっきり聞こえるようで……伸ばした手をゆっくり下ろした。
「エクリア。良かったな」
「……はい」
そうして宰相が外に出ると、二人きり。
最初は戸惑っていた彼女は立ち上がると、俺の隣に腰を下ろした。
「本当は、気持ち悪くないかとか、近づいて欲しくないですよねとか、いろいろ聞こうと思ってたんです……」
エクリアが涙を浮かべ、身体を震わせる。
それを隠すように、俺はその小さな肩を抱き締めた。
「でもアクセル様、最初からずっと、私を守ることばかり考えていて……」
「そりゃそうだ。俺は別に、エクリアに知られて困ることなんて、なにもないんだから」
それに常時発動し続けられる力でもないんだ。
だったら心を読めるからって、なんだって言うんだ。
「いやまあ、まったく知らない人間が持ってたら、ちょっとは怖いと思うかもしれないけどさ……」
「はい……」
「エクリアは誰彼構わず、この力を使ったりはしないだろ?」
コクリと腕の中で頷く。
「だったらいいよ。俺に関しては好きなときに覗いたら良い」
「あくせる……さまぁ……」
「うん」
泣いているエクリアを撫でると、髪が柔らかいなと思った。
ああ、こういうのも伝わってしまうのか。
それはちょっと恥ずかしいな……。
――まあいいか。それで泣き止んでくれるなら。
エクリアが泣き止むまで、ずっとそばに居続けよう。
この力を持つことの不安が、少しでも和らぐように。