辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
翌日。
エクリアの過去や、本当の
これらについて聞いた俺は、ルーンにその報告をするため、いつもの個室カフェに集まった。
「それで、前よりイチャイチャするようになったわけね」
「い、イチャイチャなんてしてないよ!」
「今もやたら近い距離なのに、説得力ないから」
たしかにエクリアと俺の距離は、肩が触れ合うくらい近い。
ルーンから見たら、俺たち二人の間になにかがあったのは、一目瞭然らしい。
「ま、良かったじゃない。私も殴らなくてすんだし」
「あ……」
――もしエクリアを泣かすようなことがあったら、私が殴ってやるから。
「まさかアンタ、泣かした……?」
「い、いやあれは違う! その……!」
待て。エクリアが嬉し泣きをした、って言うのを俺が伝えていいのか?
さすがにそれは本人が話すべきじゃ……。
「あのねルーンちゃん。私、たくさん泣いちゃって」
「……」
「無言で拳を構えるのは止めて貰えませんか⁉ エクリアもちゃんと事情を説明しよう! 主に俺の顔面のために!」
じゃないとあの強烈なパンチが炸裂してしまう!
もちろんこのあとエクリアが説明をしてくれたので、俺の顔面が陥没することは避けられた。
というか、二人ともわかってやってた。
「仲が良いのはいいとして、二人でからかうのは止めよう」
俺が参ったように言うと、エクリアとルーンは互いに見合わせて、楽しそうに笑った。
◇ ◇ ◇
王室政務室には、国内最高峰の文官たちが集まっている。
そのトップに立つのが、宰相であるジェラード・リンフォード公爵。
そして俺がいつも勉強のために案内されている部屋こそ――。
「王室政務室最高の知恵者たちの集まり!」
「問題児部屋だろ。お前この部屋を見続けて結構経つのに、よくまだそう言えるな」
「当然じゃないですか。ウーガーさん含め、俺の憧れの人ばかりなんですから」
だからたとえ、ちょっと私生活が駄目駄目だったり、ときおり奇声をあげたり、怪しい実験をしていても、いいのだ。
それが、王室政務室からさらに隔離された面々の集まりだとしても……。
「アクセルくーん……私もちゃんとした出会い欲しいよぉ」
ユリアさんが酒を片手に泣いている。
政務室に持ち込むのもどうかと思うが、まあいつものことだ。
才能があれば多少の問題行動は不問にする、と宰相が例外的に作ったのがこの部屋なので、各自自由にやっていた。
「いいないいないいなー。アクセル君にはエクリア様がいてー。私もいちゃいちゃしたいー! あまあましたいー!」
抱きつかれたので、頭を撫でる。
凄まじい美人さんではあるが、どちらかというと犬を甘やかすようなイメージが付いてしまい、緊張もしなくなった。
「また駄目男にしちゃったんですか?」
「今度こそ大丈夫って思ったのにぃ……」
ユリアさんは伯爵家次女で、三年前に貴族学園を主席卒業した才女。
おっとりして優しいお姉さんなのだが、付き合った男を駄目にしてしまうのだとか。
――次女とはいえ伯爵家。ある程度の自由恋愛が許されてても、最低限の家格は必要だもんなぁ……。
結果、相手側の貴族からクレームが入り、強制的に別れさせられるのを繰り返しているらしい。
ちなみに俺がここに来てから三度目だが、学園時代から含めると凄まじい数になるそうだ。
そして噂が噂を呼び、毎回警戒されて、実情調査を受けるとのこと。
「懲りないんだからほっとけ。どうせこいつは結婚できねぇよ」
「ウーガー君がいじめるぅ……」
「幼馴染みなんですし、いっそ二人が婚約したらどうですか?」
「「それはない」」
なんとなくこの二人、お互い三十くらいになったら結婚してそうなんだよな。
俺の目にはとても相性がよさそうだけど、恋愛って難しい。
いつも通りウーガーさんに渡して、自分の席に座る。
すると隣の席にいるティノさんが、一枚の設計図を見せてきた。
「アクセル、ちょうど良かった。これについて意見が欲しい」
「もしかして、新作のバリスタですか⁉」
「うん」
ティノさんの実家は、王国の武器を産業にしているハルバード男爵家。
もちろん普通の貴族なら、自ら武器を考えるなんてしないのだが……。
――昔、バリスタが飛竜を撃ち落とした瞬間が目に焼き付いて離れないんだ。
そうしてバリスタに魅入られたらしく、日々研究をしている。
いつか最大の硬さをもつ巨大な亀の魔物――
ちなみに国境や各関所に設置されてるバリスタのほとんどは、ティノさんが考えた代物だ。
「ヴィスペリア領にいる
「うーん……ダメージは多少与えられると思いますけど、倒すのは無理だと思います」
「そっか。どこが厳しい?」
席が隣で、なんだかんだティノさんと喋ることが多い。
多くの魔物を倒してきた俺は、参考になるそうだ。
「まず矢の素材が火龍の牙なので、数を確保できない。また最大限の威力を出すには、本体の硬度だけじゃなく耐熱性も上げないと……」
実は俺、
討伐ではなく、
――動く城みたいなもんだしなぁ……。
長い歴史の中で、一度も討伐されたことのない大怪獣。
滅多に動かないので危険性もないのだが、アレを倒せたらどんな魔物でも倒せるだろう。
それこそ
「やっぱり、机上の空論じゃ駄目……直接見に行かないと……」
「国防武器の研究を一手に担っているティノさんを、危険な目に遭わせられないですよ」
「方法はある」
「方法?」
「うん」
ティノさんは表情があまり変わらないが、自信ありげに頷く。
「私がアクセルの部下になって、ヴィスペリア辺境伯領で働く」
「……却下で」
「なぜ……こう見えて、私は天才だ。身体は小さいが、胸は大きい。アクセルが望むなら、好きにしたって――」
「天才なのは知ってますが、そんなことしたら俺が宰相に怒られます」
ちなみに彼女の胸ネタは無視だ。
本人も本気じゃないだろう。
「王宮政務室の人を引き抜いたら、恩を仇で返すことになるでしょ」
「でもエクリア様は宰相の娘。その地に私のような天才が行けば、宰相も喜ぶ」
「む……」
「さらに言うと、私の研究は別にどこでもできる。ここで書いた設計図をハルバード家に送って作ってるだけだから、場所は関係ない」
「むむむ……」
たしかに、それなら宰相が良いと言えばアリか?
だけど彼女の頭脳は別にバリスタにだけ使われているわけじゃないし……。
「なにより私はアクセルが気に入った。だから宰相、私はここを出ていくね」
「お前がそう望むなら構わん」
「え? さ、宰相⁉」
会話に夢中になって気付かなかった。
というか今、構わんって言わなかったか?
「その代わり、できた設計図は必ずここにも送るのだぞ」
「うん。かしこまりました」
「い、いいんですかそんなあっさり⁉ 王都の文官ですよ⁉」
「問題ない。普通の政務室のメンバーは無理だが、ここの人間はすべて私の直下だ」
そういえば……この隔離部屋にいるのは、すさまじく優秀だが宰相以外に手綱を握れない人間だったな。
ここで過ごすと、意外と宰相がここのメンバーに甘いこともわかっていた。
最初は、優秀ならなにしてもいい、程度にしか考えていなかったけど……。
――意外と宰相も、自分の身内みたいに思ってるのかもな……。
「アクセル。ティノはバリスタの製造以外に興味がないが、他の面でも優秀だ。なんとか働かせてやってくれ」
「それは、宰相がいいのでしたら……」
「え、バリスタだけ作ってたら、駄目?」
「駄目だ。サボってることがわかったら、連れて帰るからな」
「……まあ仕方ない」
ティノさんは妥協しよう、という雰囲気で俺を見る。
「改めて自己紹介。ティノ・ハルバード。アクセル様について、辺境伯領でお世話になる」
「俺に様って……」
「部下になるのに、呼び捨てしてたら殺されちゃうから。アクセル様も、私のことはティノって呼び捨てね」
そっか。そういう立場になるのか。
ティノさんは男爵家だし、仕方ない。
「お前なぁ。なら敬語くらいちゃんと使えよ」
「ウーガーうるさい。さっさとユリアとくっつけ拗らせボーイ」
「俺とユリアはそんな関係じゃねぇっつーの!」
「君とユリアは、このギアのように噛み合っていて――」
「ロンドン。それはさすがにキモいよぉ」
普段宰相がいるときは、意外と真面目に仕事をしている面々だが、急に騒がしくなった。
それに宰相もそれを咎める気もないようだ。
もしかしたら彼らなりに寂しい気持ちを紛らわしているのかもしれない。
「というわけで、よろしくねアクセル様」
「ああ。よろしくティノ」
もっとも、当の本人はいつも通りマイペースだったけど。
辺境伯領に行くにあたって、心強い仲間ができたと、嬉しく思う。
◇ ◇ ◇
そして――。
「ここが、王立第一図書館……!」
俺はついに、憧れの地へ足を踏み入れた。