辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
文官試験を終えて三日。
結果発表が一週間後なので、それまで王都にある子爵邸で待機となる。
そわそわする日が続くが、仕方ない。
気持ちを落ち着かせるため、勉強しよう。
「いい。やはり勉強は心を落ち着かせる……」
実家だと父と兄たちからは変人のように見られていたが、みんな知らないだけだ。
――勉強こそ最高のストレス解消であり、精神安定剤であるってことをなぁ!
「本から入る新たな知識が俺の脳を刺激するぅぅぅ!」
「うわぁ……アクセル様、また奇声上げながら凄い勢いでなんか書いてる……」
シュシュのドン引きの声が聞こえてきて、ペンを止めて顔を上げた。
「シュシュか。なんの用だ?」
「引き篭もりのアクセル様を連れ出しに来ました! せっかく王都にいるんだから、観光しましょーよ」
「あのなぁ。俺たちは遊びに来たんじゃないんだぞ」
「でもやることないじゃないですか。本家よりも屋敷が小さくて、掃除も炊事も家事もあっという間に終わっちゃうんですから!」
ライド家はいわゆる貧乏貴族。
必要だから王都に屋敷を構えているが、他の貴族に比べてこじんまりとしたものだ。
「お前、ふざけた態度なのに優秀だもんなぁ」
「伊達にアクセル様の専属メイドやってないんで! あと、この態度はアイデンティティなんでツッコミ禁止ですよー」
ピースを二つ。
愛嬌のあるポーズ、とは本人の談。
その可愛さが理解できないけど、本家だと意外なことに受けがいい。
「俺としては、結果が気になって落ち着かないから勉強してたいんだけど」
「王都の視察も立派な勉強ですよ!」
「む……」
シュシュにしては、的を射た意見だ。
本人は遊びたいだけだろうけど、たしかに王都を視察できる機会は滅多にない。
「……たしかに、お前の言う通りかもな」
「おお!」
「せっかく王都に来たんだし、図書館でも行ってみるか」
「勉強じゃないですか!」
「文官になるために来たんだから、当然だろ」
不満そうだが、学園までの街並みを見るだけでも十分視察になるだろう。
「不満があるなら一人で行くけど?」
「行きます行きます! 外に出られるならガンガン行きまーす!」
「そうと決まれば、さっそく行くか」
「帰りになんか美味しいものでも食べましょうねぇー」
「シュシュが真面目にしてたらな」
久しぶりに外出できるからか、だいぶ機嫌も良さそうだった。
◇ ◇ ◇
王都には王立図書館が二つある。
一つは王宮内に存在する第一図書館。
そしてもう一つは、貴族学園内にある第二図書館だ。
規模としては第一図書館の方が大きいが、入れるのは宮廷貴族か特別な資格を持つ者だけ。
「当然、俺にはそんな資格がないから、貴族なら誰でも入れる第二図書館に向かってるわけで――」
「あ、学生さん! お洒落にカフェして青春ですねぇ!」
「聞けよ。あと指さすな。全員貴族だから」
俺と同年代の男女が楽しそうに会話をしている。
学園から近いからか、貴族学園の生徒たちが多いようだ。
周りを見れば学生向けの店が並んでいて、彼らがターゲット層になっているんだろう。
「やっぱり、店は対象を選んで固めるのが正解か」
貴族の屋敷が並ぶエリアだと、高級宝石店やドレスの店など超高級店が多かった。
茶菓子一つで、平民の給金が吹き飛ぶ値段。
さすがに地域格差を感じたものだ。
「だけどそれでも買う者はいる。物だけじゃなく、買った場所で選んでいる層が多いということだろうな……」
ライド領で活かせるかは微妙だけど、勉強になる。
「アクセル様はもっと気楽に回れると良いんですけどねぇ」
「これでも楽しんでるぞ」
「楽しみ方が若くないって言ってるんですー! あの学生たちと同年代なんだから、気軽にナンパとかどうですか? ヘイヘイそこのかわいー子ちゃん! 俺と一緒にお茶しなーい? とか!」
「下手したら領土問題に発展するようなことするわけないだろ」
というかこいつ、古臭いな。
俺と同じ年じゃなかったっけ?
「まあ……たしかに周りの学生たちと自分を見比べて、いろいろと差を感じなくはないけど」
なんというか、俺と違って全体的にキラキラしてて、ちゃんと貴族っぽく見えた。
「やっぱ王都は派手ですねー。子爵領とは大違い……」
「ライド領の人間は、食えればなんでも良いって感じだからなぁ」
魔物が多く、その分冒険者も多い。
あと自然も多いが、危険も多い。
デートスポットに選ぶ場所が、格好良い魔物が闊歩する山とか、なんか綺麗な精霊モドキが住む森とかを案内するようなやつらばかり。
蛮族領地って呼ばれても、否定できないんだよなぁ。
◇ ◇ ◇
貴族の印章を見せ、学園に入ると、周囲からチラチラと視線を感じる。
女性からの視線が多いのは、私服で外部の男だから警戒されてるんだろう。
「あの……」
「ん?」
声をかけられ振り向くと、先日助けたエクリア・リンフォード公爵令嬢が立っていた。
隣には、リンフォード様とは対照的な金髪の令嬢。
長い髪をツインテールにして、目つきも若干鋭く、気が強そうだ。
二人はお揃いの服——まあ学園にいるんだから当然学生服なんだけど、それを着ていた。
距離も近く、仲が良さそうに見える。
「リン……」
声をかけようとして、一瞬止まった。
このまま気軽に声をかけていいのか、わからなかったからだ。
普通社交界の場合、高位の貴族が声をかけるまで話しかけるのは禁止。
だけどここは学園だし……。
「エクリア、知り合い?」
「前に話した……」
「もしかしてアクセル・ライド⁉ エクリアと宰相を助けたっていう⁉」
「う、うん。そうだよルーンちゃん」
いろいろ頭の中で考えていたら、彼女たちの方で話がどんどん進んでいく。
どうやらリンフォード様は、俺のことを話していたらしい。
「へぇー。この人が……」
まじまじと俺を見てくるが、初対面にする態度じゃないような……。
「なるほど、たしかにエクリアが言う通りまあまあ格好良い――」
「そういうこと言っちゃ駄目ー!」
「もがもが」
なにかを言おうとした友人を、エクリアが必死に止めている。
貴族令嬢ってもっとお淑やかというか、言葉遣いもお嬢様口調だと思っていたが、なんだか妙に砕けてるな。
リンフォード様の態度も、俺と話したときに比べて幼いが、これが本来の彼女なのだろう。
「き、聞こえましたか?」
「いえ、なにも?」
「もがもがー」
俺が首を横に振ると、あからさまにホッとした様子。
「でもどんな話をしたのかは、気になりますね」
「そ、それは、その……新しいお友達ができたって話をしたんです!」
「え?」
公爵家のリンフォード様と、子爵家の俺が友達?
光栄な話だけど、世間体的に良いのかな?
「……いや、でしたか?」
「いえいえ! 馬車の話はとても楽しかったですし、そう言ってもらえて嬉しいですよ」
「……良かった」
嬉しそうに微笑む姿はとても愛らしく、目が惹きつけられた。
きっとこの方は学園でもとてもモテるだろうなと思いながら、ふと彼女の腕の中でフガフガ言ってる令嬢を見る。
……リンフォード公爵令嬢と一緒にいる友人か。
いくら学園では家柄を考慮しない友人作りを、という建前があっても、公爵家と付き合える相手は限られている。
ルーン、と名前にも聞き覚えがあった。
おそらく、ルーン・シャイン。
様々な鉱脈を持っていて、王国随一の資産を持つと言われてる伯爵家の令嬢だな。
「ところで……シャイン家のご令嬢が苦しそうですが―—」
「あっ! ご、ごめんねルーンちゃん」
「ぷは! ……死ぬかと思ったわ」
解放されたシャイン様が助かった、とお礼を言ってくる。
「ところで私、名乗った覚えはないんだけど?」
「ルーンちゃんと呼ばれていたので」
「……ふーん。なるほど、頭の回転も悪くないわね」
最初は訝しげだったシャイン様だが、答えを聞くと妙にニヤニヤし始めた。
この顔は、誰かをからかおうと思っている顔だ。
「私のことは名前で呼びなさい。学園じゃそう呼ぶのが普通だから」
ちょっと気安すぎる気がするけど……学園では家柄を気にせず付き合うべし、となっていたはず。
たとえそれが建前でも、名前呼びの方が都合が良いのかもしれないな。
「だからほら。こっちもリンフォード公爵令嬢じゃなくて、エクリアね」
「ルーンちゃん⁉」
「そうですね。ではエクリア様と呼ばせて頂きます」
「ひゃぁ⁉」
名前で呼んだら顔を赤くしてしまった。
いくら高位貴族とはいえ、やはり外部の人間が気軽に呼ぶのは不味いんじゃ……。
「顔真っ赤にしちゃって、可愛いわねぇ」
「怒るよ?」
「ごめんて」
そんな俺の心配を余所に、からかうルーン様をエクリア様が怒っていた。
とはいえ頬を膨らまして、小動物が拗ねている感じで可愛らしいだけだが。
―—それにしても、二人は仲良いな。
友人らしい友人がいない身としては、少し羨ましい。
微笑ましく二人のやり取りを見ていると、エクリア様が顔を赤くして慌てだした。
「と、ところでアクセル様はどうして学園に?」
「試験の結果発表まで暇だったので、王立図書館を見学してみようかと」
そう言うと、彼女は花が開いたように笑う。
「いいですね! 学園の図書館はとても大きく綺麗な場所なので、ぜひ!」
馬車での会話でも知っていたが、彼女は結構な本好きだ。
俺もそうだから、会話に困らなかったので、共通の話題も多くて楽しかった。
「じゃあエクリアが案内して……」
先ほどまでご機嫌だったルーン様の目が急に鋭くなる。
なんだろうと思って視線を追うと、金髪の美男子が女子生徒と腕を組んで歩いているのが見えた。