辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
「アクセル様。こちらが入り口になります」
エクリアに案内されて、中に入った瞬間――。
「ふぉ!」
「ふぉ?」
「……いや、なんでもない」
やばいやばい、興奮し過ぎて変な声が出かけた。
天井は高く、並んでいる棚は見たことないほど大きい。
ステンドグラスから光が差し込み、内部全体が神秘的な雰囲気を醸し出している。
「ここが、王立第一図書館かぁ……」
入室を許されているのは、王宮で直接働く一部の文官と貴族のみ
辺境子爵家の三男じゃ、絶対に入ることなどできなかった場所だ。
「すごく、目が輝いてますね」
「うん……ずっと憧れだった場所なんだ」
国の歴史のすべてが納められている、最重要施設の一つ。
俺は今日、ついに憧れの地に足を踏み入れた!
「ごめんなエクリア。せっかく学園が休みだったのに付き合わせちゃって」
「気にしないでください。アクセル様と一緒にいられるの、嬉しいですから」
「そ、そっか……躊躇いもなくはっきり言われると、さすがに照れるな」
今回、エクリアと一緒に第一図書館に来たのは、リオウの提案だ。
――せっかく第一図書館に入る権利を貰ったんだろう? ならエクリアに案内して貰えば良いじゃないか。
――エクリアに? だけどあそこは普通、学生は入れないだろ?
――昔から宰相の仕事を手伝ってるエクリアは、第一図書館の入室許可証を持ってるはずだよ。
確認してみたら、本当に持っていた。
「それでは僭越ながら、私が説明させて頂きますね」
俺と違って特級持ちではないので、禁書庫などに入るのは無理だが、そこ以外は何度も入っているらしい。
それもあって、今日は案内役を買って出てくれた。
――これ、図書館デートってやつだよな……。
さすがに司書や王宮の文官たちが集中して調べ物をしてるので、手を繋いだりはしないけど……。
自分の憧れの場所に好きな子と一緒に歩けるのは、素直に楽しい。
エクリアはどうだろう、と横顔を見ると、目が合った。
「っ……す、すみません」
「いや……」
なんとなくお互い気恥ずかしい気持ちになって、視線を逸らす。
周囲からなんか変な視線と気配を感じる。
なんだろうと見渡すが、誰もこちらを見ていなかった。
「……気のせいか」
そりゃそうだ。
ここにいる人たちは、宮廷の文官たち。
仕事に集中しているはずだし、他の人を気にしてる余裕もないだろう。
「書物の内容は、棚と棚の間にある柱の天使像を見ればわかるようになっています」
「天使像?」
エクリアの説明を受けて、柱を見上げる。
たしかに、野菜と果物を持っている天使が乗っていた。
「この棚は食物関係ってことか」
「はい。隣の棚はラッパを吹いている天使像なので、音楽関連の書物ということですね」
ライド領にも図書館はあるが、資料はわずかだし、目録を見れば捜し物はすぐ見つかるようになってたけど……。
――これほど膨大な資料だと、工夫の仕方も変わってくるのか。
「面白い! ところで、窓から光が入ってるけど大丈夫なのか?」
ステンドグラスとはいえ、普通に光が入ってる。
普通、書物の保存のため、直射日光が入らないようにすべきだ。
特に布地の厚いカーテンで遮ってるわけでもないし、良くないと思うんだが……。
「こちらは
「へぇ……そういえば、さっきから何人かの司書とすれ違ったけど、全員強いもんな」
「そうなのですか?」
あ、それはエクリアも知らなかったんだ。
「マードッグくらいなら全員叩きのめせると思うぞ。というか、俺でも
「えっ⁉」
エクリアがビックリして司書たちを見始めた。
穏やかな雰囲気を醸し出しているが、間違いなく専門の鍛錬を終えた人たちだ。
この図書館って、実際は宝物庫よりも宝の山だから当然か。
――それにしても、司書しながら戦うとか、格好良いな。
俺もエクリアと婚約をしなかったら、ここで働いていたかもしれないと思うと、少し憧れてしまう。
「あれは……」
説明を聞きながら奥へ歩いていると、異様な雰囲気の扉があった。
「そこが禁書庫エリアになります。私は許可がないので案内はできませんが……」
「ならここからは、俺が案内しよう」
「っ⁉」
振り返ると、俺たちより少し年上の美青年が立っていた。
優男というよりは、格好良い雰囲気。
なにより――。
――強い……。
一目見て、相当な実力を持つのを感じた。
「ど、どうして貴方様がここに……」
それより気になるのは、エクリアの態度だ。
まるで、いるはずのない者がいるような……と思ったところで、彼がある人物に似ていることに気がついた。
「俺はユーリ。禁書庫の番人をしている者だ」
「……アクセル・ヴィスペリアです」
「俺は立場上、どの貴族に対しても平等に接することが求められる。だからこの態度を取るが、気にしないでくれ。その代わり、アクセルも俺のことは気軽に接してくれたら良い」
早口で話すユーリに、少し困惑する。
――この人多分……第一王子のユリウス様だよな?
公爵令嬢が貴方様、などと呼ぶ相手など王族くらいだ。
その上で、俺たちより少し年上の王族は、ユリウス様しかいない。
たしか今は強さを求めて、王国中を旅をしていると聞いていたが……。
「なに、深く考えるな。さっきも名乗ったが、俺はただのユーリ。どこにでもいる、禁書庫の番人だ」
「禁書庫の番人はどこにでもいなくないですか?」
「それもそうだな!」
明るく笑う姿、とてもあの第二王子の兄弟には見えない。
「さて、それじゃあ中に入るか。エクリア、君の男を少し借りるぞ」
「あ、はい……ユーリ様」
それだけ言って、ユーリは俺を引っ張るように禁書庫に入る。
光が入る隙間はないが、ユーリが壁を押すと光が灯った。
「ここが禁書庫だ」
石壁に並んだ棚は、頑丈さを重視したように重厚。
先ほどまでの明るく静謐な空気とは異なり、部屋の中は薄暗い。
かといって汚い雰囲気はなく、ただ重厚で独特の空気が辺りを包んでいた。
「思ったより、狭いんですね」
「禁書になるような物が、山ほどあっても困るだろ」
「たしかに……」
真ん中に置かれたテーブルと椅子。
ユーリはそこに座ると、あとはご自由にと手をかざした。
とはいえ、だ。
――第一王子は気まずいって!
元第二王子のヴィクターを叩きのめしたのは俺だ。
王位継承を争っているとはいえ、兄弟仲が悪いとは限らない。
国王様だって、自分で判決を下したとはいえ後悔はあるだろう。
そんな中、身内を破滅させた相手を、この方がどう思うか……。
「ふむ……どうやらアクセルは、第一王子がお前をどう思っているのか気になってるみたいだな」
「……そうですね」
あくまで自分は、ユーリである、というスタンスらしい。
「仕方ない。ならばこのユーリが、第一王子ユリウスの想いを代弁してやろう」
ユーリが立ち上がって、俺の方へと歩いてくる。
そして満面の笑みを浮かべて肩を叩き、一言。
「ユリウスはお前のことを恨んでいる」
はっきりと、そう言った。