辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
「……冗談、じゃなさそうですね」
「ああ! 冗談じゃないからな!」
恨んでいる、という割にはあまりにも明るい表情すぎるだろ
いったい、この人はなにを考えてんだ?
「恐れながら、代弁ではなくユリウス様のお言葉をいただきたい」
「ふむ……まあたしかに、このやり方は少しずるかったか」
そう言うと、ユリウス様は先ほどまで座っていた椅子に戻る。
視線で俺も座れと指示を出してくるので、正面に座った。
「父上から内容は聞いた。あれは間違いなく弟が悪い」
「なら俺を恨むのは筋違いでは? それにあれは、宰相と国王が決めた判決ですよ」
「そうだな。まったくもって、その通りだ」
うんうん、とユリウス様は頷き、否定の言葉一つ出てこない。
それが演技でなく、本心なのも伝わってくる。
なのになぜ、あんなことを言ったのかがわからない。
第一王子ユリウスと第二王子ヴィクター。
次期国王を担うのは、二人のどちらかだった。
――王位ってのは利権だ。優秀な王よりも、愚鈍な王を望む貴族は多い。
ユリウス様で確定していたならともかく、ヴィクターを推す貴族勢力も根強いと聞いていた。
だからこそ、今回の件がなければ血みどろの争いとなったはずだ。
「ヴィクターは思い込みが激しく、自尊心も強く、成績は良いが頭は固い。つまるところ、不出来な弟だ。学園卒業後、王位を争ったとしても、まず間違いなく俺に敗北していただろう」
「まるで確定のように話すのですね」
「俺は王となるために生まれてきた男だからな」
凄い自信だが……たしかにユリウス様には、それを為すだけの力があるように思える。
覇気に溢れた堂々たる姿は、たしかに王の器だと思った。
ただ……ユリウス様の言葉を聞けば聞くほど、違和感が増していく。
「政争後はエクリアと二人で公爵家を起こし、そこで静かに余生を過ごせば良かった。仮に諦めずに反旗を翻したら、そのときは俺自らその首を切り落として、恨みをすべて受け止めるつもりだったんだ」
「だから、俺を恨んでいるのですか?」
「ああ。弟の怨嗟一つ受け止められない者が、王になどなれるはずがないだろう? その機会を奪ったお前を恨まずにはいられないんだ!」
やっぱり、言葉と表情が合っていない。
というより、そもそもユリウス様の言葉には俺を恨んでいる理由もなければ、話が繋がってもいなかった。
――というか、これはまさか……。
「それで、敢えて悪役を担おうと?」
「……」
俺が突っ込むと、ユリウス様は呆気にとられた顔をしたあと、そっと視線を逸らした。
さてはこの人、真っ直ぐすぎて嘘が吐けないタイプだな。
「どうやらユリウス様は、謀が苦手らしいですね」
「そんなことはない。こう見えて、得意なのは謀略だ」
「いや、どう考えても無理でしょう。なんで自信満々なんですか」
どちらかと言えば、戦争の先陣を切って敵陣を切り裂くタイプだろ。
そもそも恨んでいる、という言葉からここまでの流れがめちゃくちゃだ。
なんとかつじつまを合わせようとして、結局なにも繋がっていない。
「俺を恨んでいるって強い言葉を先に思いついて、あとはノリと勢いでなんとかしようと思ったとか?」
「なぜわかった⁉」
「弟の行動は兄である自分の責。ならば自ら受け止めるのも王族の務めとか?」
「だからなぜわかる⁉ まさかお前の天恵《ギフト》は相手の心を読めるのか⁉」
それはエクリアの天恵《ギフト》です。
まあそれは置いておいて……。
「そこは違うって言って欲しかったですね……」
「いや、違うんだ」
「もう遅いですって」
俺がユリウス様の心境を語ると、がっくしうなだれた。
そして諦めたように、ぽつりと言葉を零す。
「別に、弟を許してやってくれと言いたいわけじゃない」
「それは理解しております。ただわからないのは、ユリウス様がなぜそこまで庇おうとするのかです」
第一王子と第二王子。
血を分けた兄弟だとしても、最後には必ず敵対する関係だ。
ユリウス様は王宮を飛び出して武者修行に出ていたはずだし、交流もそこまでなかったはずだけど……。
「アクセルは三男だったな?」
「はい」
「ではわからんか」
そう言われて、少し困る。
「生まれたての小さな手。俺の指を掴み、必死に生きようとする赤ん坊を見て、生命の強さを初めて知った」
「……」
「たとえ馬鹿な弟でもな、兄から見れば可愛いものなんだ」
「そうですか……」
なんとなく納得がいった。
ヴィクターはきっと、ユリウス様に劣等感を抱いていたんだろう。
この人にとって、ヴィクターは不出来な弟で、決して王位継承権を争う相手ではなかった。
――それは、しんどいだろうな。
別に同情はしないが、やつが荒れる要因はあったんだとわかった。
もっとも、当の本人はきっと、最後まで気付かないだろうが。
「だからこそ、俺は弟を唆した者を許しておけん」
「……唆した?」
「ああ。今回の件は、間違いなく学園の誰かが裏で糸を引いている」
「それは、なにか確信があるのですか?」
「勘だ」
「なるほど……」
間違いのない勘なんてねぇよ、と言いたいが……。
――困ったことに、こういうタイプは本当に勘で真実に迫るからなぁ。
ライド家の家族にしても、ヴィスペリア家の父にしても、がっつりそのタイプだ。
「ああ、勘違いするなよ! たとえ謀られたとしても、責任は弟にある。王家の人間は、近づく人間を見極めなければならないからな!」
「まあ、男爵令嬢を選んだ時点で、王族としては問題でしたね」
「そうだな」
だがたしかに、今思えば不自然ではある。
王族なら当然、近づいてくる人間を警戒するはずだ。
そんな中、自分の身内の言葉を差し置いて男爵令嬢を選ぶなんて、普通はありえない。
――あり得なさ過ぎて、理解を放棄してたけど……。
「唆した者がいる、というのもあながち外れていないのか……?」
「俺はそう思う。ゆえに、アクセル。俺はお前に内部調査を頼みたい」
「本気で言っていますか?」
「ああ。相手は少なくとも、この三年間の学園生活で弟に近づけた人物。お前ならまず違うだろ?」
そりゃあ俺はライド領にいたから違う。
だからって、弟が落ちぶれる原因になった俺に頼み事をするか普通?
――まあ王族の頼みを断れるわけがないんだが……。
だから誰の目も入らない禁書庫で待ち伏せをしたのか。
となると……。
「リオウもグルですね?」
「あれは俺が最も信頼する男の一人だ」
誤魔化す気がなさ過ぎる。
エルレイン侯爵家が第一王子派なのは知っていたが、相当近しい間柄らしい。
「それで、目処はついているんですか?」
「これがリストだ」
懐から書類を見せられる。
教師が三人と、学生が八人。
全部で十一人、すべてが第二王子派の人間だ。
「ここまで絞れてるなら、王家の強権でも使って調べればいいのでは?」
「学園は不可侵の場だ。権力を振りかざせば、平等を謳うことができなくなる」
とっくに平等なんて崩れてたけど、建前は大事ってことか。
「わかりました。やれるだけやってみます」
「おお!」
「その代わり、失敗しても罰しないでくださいよ」
「もちろんだ!」
せっかくエクリアとのデートだったのに……リオウめ。
あとでライド式の鍛錬に付き合わせて、後悔させてやる。
「それで、どうやって見つける気だ?」
「……見つける必要なんてないですよ」
「む? ということは犯人の目処がたったのか?」
「それはこれからですけど……」
――一人に絞ることはできると思います。