辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
第一王子ユリウス様の命令で、ヴィクターを唆した者を探すことになった。
そして学園を散策して四日。
空き教室でリオウと向き合い、俺は確信を持って告げる。
「こいつだな」
「もう見つけたの?」
「ああ」
机に出したのは、一枚の紙。
そこにはヴィクターを唆した可能性の高い三人のうち、唯一の教師であるベクトール・タリスの名前が書いてあった。
「ベクトール先生……授業もわかりやすくて、生徒に人気なんだけど……」
「家柄は子爵家。普通ならヴィクターも警戒するだろうが、教師だから近づけたんだろうな」
「でもどうやって見つけたんだい?」
「そんなに難しいことはしてないぞ」
第二王子は、学園の誰かに唆された。
アクセル・ヴィスペリアがその犯人を捜している。
そんな噂を流しただけだ。
「あとはエクリアに頼んで、学園を案内してもらっただけだ」
「なるほど。それで“看破”を使って回ったわけだね」
「いや、違う。俺はエクリアに、今回の件で天恵《ギフト》は使わなくてもいいと言ったからな」
「え?」
「だって嘘吐きを探し回ってるって噂になったら、エクリアの評価が落ちるだろ?」
「そりゃあ……まあ」
そもそも “看破”は本来の“読心”を隠すための嘘だ。
もちろん使えば簡単に犯人を捕まえることができるが、エクリア本人はこれを使うことに忌避感を持っているのを知っている。
――だけど本当はこれ以上、ヴィクター関連のことで負担をかけたくなかった。
作戦の都合上、伝えないわけにはいかなかったけど、本当は黙って終わらせたかったくらいだ。
「たしかに俺は候補になっているやつらを探した。そこまで広い学園じゃないし、すぐに見つかって軽く会話もしたさ。一人を除いてな」
「一人……ということは」
「最後まで必死に逃げ回ってたぞ」
エクリアの“看破”は、国内貴族なら誰でも知っている。
後ろ暗いやつは当然、会わないように逃げ回るだろう。
ただ俺とエクリアは、学園内を歩いているだけなのに、自分は怪しいですと宣伝して回っているようなもんだ。
「というわけで、こいつが怪しい。もちろん確定じゃないが、あとはお前の“幻術”で自白させればいいだろ」
「だから僕が駆り出されたわけね」
「黙って第一王子と引き合わせた意趣返しでもあるぞ。もし間違ってたら、責任問題だし」
「そこは信頼してるから大丈夫!」
まったく。
こっちは予期せぬ第一王子との出会いにビビらされたんだから、ちょっとは反省して欲しい。
まあリオウからしたら、縁を繋いだってだけの話かもしれないけど。
「さて、それじゃあさっさと終わらせよっか」
「ああ。王都でできた悪縁は断ち切っておきたいからな」
二人で立ち上がったところで、勢いよく教室の扉が開く。
そこには息を切らしたエクリアが青ざめた顔で立っていた。
「エクリア? どうしたそんな顔で……」
「アクセル様! 大変なんです!」
――第二王子派の生徒が、人質を取って立て籠もりました!
「「っ⁉」」
突然の事態に、俺とリオウを思わず目を見合わせた。
◇ ◇ ◇
立て籠もりが発生した教室に辿り着くと、野次馬が集まっていた。
「アクセル。貴方も来たのね」
「ルーン、状況は?」
「変わらず。第二王子を解放しろの一点張りよ」
「それは無理があるだろ……」
国王自ら命じた罰。
これを覆せば、その権威は落ちる。
「あいつら、ずっと傲慢に過ごしてきたツケが来ただけでしょうに」
ルーンが呆れた様子。
王子という強者が背後にいた第二王子派は、他の派閥に対して厳しく接していたのは聞いた。
「俺はその時期、学園にいなかったからわからないが、そんなに酷かったのか?」
「そりゃあね。なにせ王族とその婚約者である公爵令嬢。二人が同時期に学園にいたんだもの」
学園は社会の縮図、なんて言われているが、まさにその通りだったんだろう。
――マードッグとかが典型だったんだろうが、他の生徒たちも選民思想はあったってことか。
「……」
「あ、エクリアが悪いわけじゃないわよ! 貴方が周りに注意していたのも、他の子を守ってたのもみんな知ってるから!」
「ううん。公爵家の人間として、派閥を纏められなかったのは私の責任だから」
「それはヴィクターとマードッグのせいじゃない!」
「だとしても、だよ」
ルーンは慌てて否定するが、エクリアはそれを受け入れる気はないらしい。
――エクリアは元婚約者。第二王子派閥の筆頭とも言える立場だったからな……。
自虐的、とは違う。
多分これは、公爵令嬢として生きてきた彼女の矜持なのだろう。
「ヴィクター廃嫡の一件以来、第二王子派の生徒たちの立場は非常に悪くなったからね。その不満が今に出てるって感じかな?」
「だけどリオウ。なんで今なんだ?」
もうすぐ卒業パーティーが行われ、生徒たちは各領地に戻っていく。
たしかに学園での立場は悪いかもしれないが、あと少し我慢すればいいだけなのに……。
「彼らが言うには、第二王子を救えるのは今しかない、だってさ」
「今だろうがこれからだろうが、王の判決が覆ることはないだろ」
「そうなんだよ。ただ……」
「なにか気になることがあるのか?」
「うん。何人か交流のある生徒なんだけど、こんな馬鹿なことをするとは思えないんだよね……」
学園内には派閥関係なく交流を深める生徒も普通にいるし、リオウは明るい性格で交友関係が広い。
リオウが言うなら、なにか別の理由があるのか?
「通報を受けて、騎士団も来たわね……でも、人質がいるから手出しは難しそうだわ」
「人質か……」
一人や二人なら、俺が突入すれば気絶させて解放できる。
だが解放運動に参加しているのは十人を超え、人質も五人。
誰も怪我をさせない、という条件を加味すると、少し無茶をしないと厳しい。
――特にここにいるのは貴族の子弟たち。騎士団も迂闊に動けないだろうな。
膠着状態が続いていると、一人の人物が手を挙げた。
「騎士団の皆さん。ここは、私に任せて貰えないでしょうか?」
ベクトール・タリス。
タリス子爵家の次男で、貴族学園の教師をしている男。
そして、第二王子ヴィクターを唆したと思われる人物だ。
「私は生徒からの信頼も厚いと自負しています。特に第二王子派の彼らとは、親交も築いてきた。私の言うことなら彼らも聞いてくれると思います」
「ねえアクセル。ベクトール先生って……」
「俺が怪しいって判断したやつだな」
リオウが耳打ちし、俺も周りに聞こえないように返す。
――これは、ずいぶんとあの男にとって都合の良い展開だ。
騎士団はそれを聞いて、うなずき合う。
任せてみようという判断をしたんだろう。
「必ず、説得してみせます!」
そう意気込んでベクトールが教室に近づき、立て籠もっている生徒となにかを話している。
扉が開いたので中に入り、しばらく経つと満足げな表情で出てきた。
意気揚々と、まるで自分が英雄か、舞台の主役であるかのような雰囲気。
――あの顔……嫌な予感がする。
「皆さん! 彼らは言い分を変更するということです!」
「「おお!」」
「そのままお伝えしましょう!」
騎士団が期待の声をあげる中、ベクトールは俺。
正確には隣に立っているエクリアを見て、笑った。
「第二王子の解放は諦める! 代わりに、エクリア・リンフォード公爵令嬢!」
「っ⁉」
名指しされたエクリアの身体が、一瞬跳ねる。
「彼女は派閥の筆頭であり、さらに第二王子の婚約者だったにも関わらず、我らを切り捨てて自分だけが幸せになろうとした!」
「あ……」
「ゆえに正式な謝罪と賠償を求める! その後、リンフォード公爵家が我らの後ろ盾となり、第一王子派から守ると誓って貰いたい!」
「そ、そんなことは……」
「エクリア! こんな言葉聞く必要ないわ!」
「でも……彼らの言うとおり私は見捨てて、自分だけ……」
「あいつらが言ってるのは滅茶苦茶だわ! 第一王子派とも融和を図り、中立派との架け橋になって、この学園全体の秩序を守ってきたのは貴方よ! そんなこと、みんな知ってる!」
悲しげに俯くエクリアに対して、ルーンが声を上げると、その言葉に周りの生徒たちも頷き、声を上げる。
派閥は関係ない。
貴族を纏める公爵令嬢としての信頼が積み重なった結果、誰からも信頼されているのがわかった。
「いちおう言っておきますが、これは私の言葉ではなく、中に立て籠もっている彼らの言い分ですよ」
ベクトールが笑いながらそう言うのを見て、確信した。
――あれは、敵だな。