辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件   作:平成オワリ

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強襲

「リンフォード嬢! 生徒たちを解放するため、まずは前に出て彼らに謝罪をお願いしたい!」

「っ!」

「そうすれば人質を一人、解放するという話です!」

 

 まるで生徒たちのために、と言わんばかりにベクトールが叫ぶ。

 

「……わかり――」

「エクリア。行かなくて良い」

 

 悲しそうに足を踏み出そうとしたが、俺が止めて、自分のそばに抱き寄せた。

 

「アクセル様。ですが……」

「みんなが言ってるとおり、お前が気にする必要はないから」

 

 誰がどう見ても、悪かったのはヴィクターだ。

 

 ユリウス様が言うには裏で唆したやつがいるという話だが、立場を考えればそうなったことすら悪だと言える。

 

 なのになぜ、被害者である彼女が責められなければならない。

 

 エクリアはただ、自分のできることを精一杯やっていただけなのに。

 

「エクリアを頼む」

「アンタ、顔怖いわよ?」

「……」

 

 ルーンが不安そうに言うが、俺はあえて返事をせずに背中を向けた。

 

 そして、こっちに向けて演説をしているベクトールを見る。

 

 状況として、やつが黒なのは間違いない。

 

「こういうのは好みじゃないんだが……仕方ないか」

 

 エクリアの代わりに俺が近づくと、ベクトールが訝しげな顔をした。

 

「君は、たしか……」

 

 油断。

 これまでの良い教師としての実績から、信頼されていると思っているのだろう。

 

「ヴィスペリア辺境伯の養子になった……」

 

 慢心。

 どうせ自分は安全だと、高をくくっている。

 

「アクセル・ヴィスペ――」

「おせぇ」

「がはぁ⁉」

 

 まずベクトールの腹を殴り、悶絶させる。

 即座に扉で見張りをしている生徒を潰して、蹴り破る。

 

 “加速”!

 

 脳を加速させ、瞬時に周囲を見渡す。

 ゆっくりと流れる世界で、俺が入ってきたことに驚愕し始める生徒たち。

 

 ――人質は、あの五人か。

 

「な、なんだお前!」

「おいふざけんな! こっちには――」

 

 “加速”!

 

 今度は身体の加速をし、敵が行動を開始する人質たちのそばに飛び込み、ほんのわずかだけでも距離ができるように投げた。

 

 一人、二人、三人、四人……。

 

「お前ら、逃げろ!」

「「は、はい!」」

 

 四人を助け、最後の一人。

 

「いやぁぁ!」

 

 叫んだのは、以前カフェを貸してくれたファラ伯爵令嬢。

 学年のリーダー格の一人で、護衛として通っている俺にもよく話しかけてくれた子だ。

 

 一番遠かったせいで、一緒に助けることができなかった。

 

「ふざけんなぁぁぁぁ!」

「お、おたすけ――」

 

 手を伸ばすが、興奮した男子生徒が持っている剣を突きつけようとする。

 

 かなり距離があるが――。

 

「なっ!」

 

 一気に距離を詰めて、その剣を素手で止める。

 

「う、嘘だろ……お前さっきまであそこに――」

「俺のさっきまでの動きくらい、覚えとけ」

 

 剣を無理矢理奪い、腕を掴んで背負い投げる。

 勢いよく地面に叩きつけられた男子生徒は、そのまま気絶した。

 

「怪我はないか?」

「……は、はい。アクセル様、ありがとうございますわ」

「なら良かった」

「ぁ……」 

 

 すぐに背を向けて、残ったやつらを見る。

 

 教室に残ったのは、立て籠もり犯の面々だが、様子がおかしい。

 

「なんだ?」

 

 さっき地面に叩きつけた男子生徒もそうだったが、目が血走っていて興奮状態。

 

 正気に見えなかった。

 

 ――この症状、以前のヴィクターと近いような……。

 

「う、うわぁぁぁぁ!」

「ぶっ倒れろぉぉ!」

 

 救出が終わった以上、もう加速を使う必要もない。

 

 襲いかかってくる生徒たちを、順番に気絶させていく。

 

 実力差が大きく、コイツらだって勝てないのはわかっているだろう。

 なのに、なんで諦めずに……。

 

「これで、終わりだ」

「ぐげっ」

 

 最後の一人を倒して、念のため辺りを見渡す。

 立ち上がれるやつはいないみたいで、一先ず騒動は収まった。

 

 すぐ騎士団が入ってきて、生徒たちを拘束していく。

 

 そのうち、隊長格の騎士が慌ててこちらにやってきた。

 

「ヴィスペリア辺境伯子息ですね! 迅速なご対応、ありがとうございます!」

「素人がいきなり邪魔して、すみませんでした」

「いえ! 貴族子弟を人質に取られた我らでは、ここまで完璧に解決はできなかったと思います!」

 

 下手をすれば、大惨事の行動。

 怒られるかもと思ったが、むしろ感謝されて少し困惑する。

 

「それにしても、どうしてこんな……」

「俺が見た限り、なにかクスリをやっているように見えました」

「クスリ……例の第二王子をおかしくさせたという」

「はい。そして……」

 

 俺は入り口からベクトールが覗き込んでいるのが見えた。

 俺と目が合うと、よっぽど殴った俺が憎いのか、凄まじい形相で睨んでいた。

 

「念のため、あの男も拘束しておいてください」

「良いのですか?」

「ああ。責任は俺が取る」

 

 以前のように、子爵家三男では誰も聞かないだろう。

 

 だが今の俺は辺境伯家の後継者。

 立場上、そこそこの強権も使える。

 

「お、お前たち! なぜ私まで――」

 

 本人は特別鍛えているわけではないらしい。

 

 かなり激しく抵抗していたが、そのまま連行されて行った。

 

「……これは、宰相に相談だな」

「アクセル様」

「ん?」

 

 声を掛けられて振り返ると、助けたファラ伯爵令嬢が立っていた。

 

 彼女は制服でカーテシーをする形を取ったあと、深々と頭を下げる。

 

「改めて、助けて頂きありがとうございました」

「当然のことをしただけなので、気にしないでください」

「……」

「ファラ伯爵令嬢?」

「ミラベルとお呼びください」

 

 なぜか熱っぽい表情で見つめられて、困惑する。

 

「その、私は伯爵令嬢とはいえ、三女ですので……そのように丁寧な口調は必要ありませんわ」

「はぁ……」

 

 そう言われても、だからっていきなり伯爵家の令嬢を呼び捨てにするのは抵抗がある。

 

 ルーンはあの性格だから、勢いでつられてできたけど……。

 

 ――期待の籠もった妙な熱視線を感じるんだよなぁ。

 

「えーと……じゃあミラベル」

「もっと雄々しく! 叩くようにミラベル! と」

「えぇ……それは勘弁して――」

「アクセル様!」

 

 エクリアが走って近づいてきて、そのまま抱きついてきた。

 当然受け止めるが、見上げる彼女は少し涙ぐんでいる。

 

「えっと……」

「どうして、あんなに危ないことをしたんですか?」

「だって、理不尽だろ?」

「え?」

 

 エクリアは被害者で、散々な目に遭ってきて。

 ようやくいろんなしがらみがなくなって、最近楽しそうに笑えるようになったのに。

 

 なんで今更、またあんな馬鹿どもに邪魔をされないといけないんだよ。

 

 ――エクリアは、自分が傷ついて解決するならそれでいいって思ったのかもしれないけど、俺が嫌だった。

 

 だからこれは、俺のわがまま。

 

「心配かけてごめんな」

「謝らないでください……謝られたら、もう怒れなくなっちゃいます……」

「怒られたくないから、もっと謝らせて」

「駄目です……でも、アクセル様が私のために怒ってくれたこと、とても嬉しく思います」

 

 腰に回している腕に力が入り、彼女の顔が俺の胸に埋まる。

 

 俺は俺で、赤ん坊を泣き止ませるようにトントンと背中を叩いた。

 

「……あ」

 

 そして気付く。

 

 周りの騎士や生徒たちが、とんでもなく優しい目でこちらを見ていることを。

 

 そばで見ていたミラベルが手を口で押さえ、瞳をキラキラと輝かせていたことを。

 

 ――引き続きどうぞ、お邪魔はいたしませんので。

 

 ミラベルは目で訴えてくるが、気付いた時点でないわ。

 

 ――みんな見てるから……。

 

 エクリアに耳打ちすると、びっくりしたように顔を上げて、周りを見渡した。

 そして状況に気付いて、顔から耳まで真っ赤に染める。

 

「アンタら、懲りないわね」

「いいじゃないか。彼ららしくてさ。ところでルーン。帰ったらボクも君とイチャイチャしたいんだけど――はぐっ」

 

 調子に乗ったリオウが殴られ黙らさせられた。

 

「アクセル・ヴィスペリア! なぜ私を殴った!」 

「お、おい! 大人しくしろ!」

 

 俺に殴られたベクトールが、睨みながら叫んでいた。

 

 騎士たちが止めていたが、不安そうだった。

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