辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
「いくら辺境伯子息とはいえ、横暴だ! いったい私がなにをやったという!」
実際この男がやったことは、教師として第二王子派の要望を聞いて、こちらに伝えただけ。
それを問答無用で殴った俺は、第三者的に見れば間違いなく悪だ。
騎士たちも、なぜ俺がベクトールを殴ったのかわかっておらず、戸惑いながら俺を見ていた。
「さて……それじゃあ責任を取ってくるか」
「え?」
「さすがにお咎めなしってわけにはいかないからな」
本当は宰相に情報を回して、あとは裏でこっそり証拠を見つけて貰うつもりだった。
だけど俺が手を出してしまったため、話は大きく変わる。
――とはいえヤツを止めてないと、中の実行犯たちに指示を出されて、動揺から立ち直っていたかもしれないからな。
先手必勝。
一瞬の躊躇いが、人質の命を脅かす可能性があった以上、容赦する理由がなかった。
まあ一番の理由は、エクリアを悲しませたからだが……さすがにあの場でそれが通用する状況ではなかった。
「どうしてアクセル様が……」
「理由なく貴族を殴ったんだ。相手が子爵家だろうと、仕方ないさ」
「っ!」
せめて、ヤツがいろんな事件に関わってる証拠さえあれば許されるだろうけど……。
「アクセル様は、私を守ろうとしてくれただけです」
「エクリア?」
「証拠があれば、大丈夫ですよね?」
普段とは異なる、覚悟を決めたような目。
いったいなにを考えて……と思ったら、まっすぐベクトールの方へ歩いて行く
「ちょっ!」
慌てて追いかけ、なにがあっても守れる位置に立つ。
「……これはリンフォード嬢。貴方の婚約者には、酷い目に遭わされました。これは学園を通して宰相にも――」
「先生。正直に答えてください」
「え?」
「今回の事件、手引きしたのは貴方で間違いないですか?」
「なんという侮辱……そんなの違うに決まって……あ」
ベクトールは一瞬苛立ちの表情を見せたあと、すぐに顔を青ざめさせた。
エクリアの天恵《ギフト》は“看破”と言われている。
公爵令嬢ともなれば、学園どころか騎士団でも有名だろう。
「……リンフォード公爵令嬢。今のは、まさか」
ベクトールを取り押さえている騎士もまた、エクリアの天恵《ギフト》について知っていたのだろう。
それが意味するのは一つ。
――ベクトールが手引きをした主犯だということに、騎士たちも気付いた。
「先生は嘘を吐いていました」
「で、出鱈目だ! 私は手引きなんかしていない!」
「では……他に主犯がいるのでしょうか?」
「……!」
今度は黙り込んだ。
なにも言わなければ、“看破”は通用しないとでも思ったのだろう。
――だけど、エクリアの本当の天恵《ギフト》は“読心”。
たとえなにも言わなくても、想像した時点ですべてがバレる。
「そういえば、先ほどヴィクター様を解放するようにも言っていましたね?」
「……」
「もしかして、ヴィクター様の様子がおかしくなったのも、先生の仕業ですか?」
「……」
「私と婚約破棄をさせて、男爵令嬢をそばに置くように誘導した。その狙いはなんだったのでしょうか?」
「……」
「他に誰か、協力者は?」
ベクトールはなにも言わない。
だが今のエクリアにはすべてが筒抜けになっているのだろう。
それは、彼女の辛そうな顔を見れば一目瞭然だった。
「……貴方たちはアクセル様を――」
「エクリア、もういいから」
「あっ……」
元々、優しい子だ。
たとえそれが、敵対行動を取った相手であっても、心を暴くことを良しとするような性格じゃない。
「アクセル様……ですがこの方は」
「後で聞くよ。その前に……」
騎士と目配せをする。
「エクリアの天恵《ギフト》は知ってるな?」
「はい!」
「じゃあ最初の一言で、怪しいのはわかったはずだ。重要参考人として連行してくれ。あと、俺の名前を出していいから宰相にも報告を」
「ふ、ふざける――」
「黙れ」
「ふぐ……」
殺気を籠めて睨むと、ベクトールは顔を青くして口を噤む。
本来は弱い魔物を威嚇して追い返すために使う児戯。
それでも戦闘経験もまともにない男を黙らせる程度、わけはない。
「あとでいくらでも聞いてやる。行け」
騎士に指示を出す。
意気消沈としたまま、ベクトールが連れて行かれた。
「こっち」
「アクセル様?」
それを見送り、周囲のざわめきを無視してエクリアを教室から連れ出す。
――ついて来るやつは、さすがにいないか。
誰もいない部屋に入り、二人きりになったのを確認してから、エクリアに話しかける。
「エクリア、もう天恵《ギフト》は使わないで」
“読心”はあまりにも強力すぎる。
その力がバレれば、あらゆる権力者がエクリアに暗殺者を差し向けてもおかしくはないほどに。
「さっきだって、もしかしたら訝しむやつがいるかも……」
「……ですが、あのままではアクセル様が糾弾される可能性がありました」
「俺のためにやってくれたのは嬉しいけど、それでエクリアが傷つくのは嫌だ」
俺の我が儘なのかもしれない。
政治に関わる身なら、これほど有用な力を使わない手はないはずだ。
それでも、“読心”を使っているときのエクリアの顔は、本当に辛そうだった。
天恵《ギフト》は解明されていない力だ。
過去にはその力に呑まれて、おかしくなった人もいたらしい。
俺の“加速”も、使いすぎれば副作用が出る。
エクリアの“読心”みたいに、心に作用する力。
いったいどんな悪影響を与えるか、本当に心配だった。
「もう辛い思いをしてまで、人の心に触れないでくれ」
「私はアクセル様に救われました。貴方のためなら、いくらでも――!」
「駄目だ」
「うぅ……」
少し強めに言うと、エクリアが困ったような顔をする。
「俺のためって言うなら、使わないこと。いいな?」
「……わかりました」
「よし」
頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
いや、なんというか……まるでキスをねだってるように見えて、駄目な気持ちになってしまった。
誰もいない二人きりの空間というのも、俺の心に拍車をかける。
「……?」
当の本人は、俺が手を止めてしまったせいでやや困惑気味。
――いいのか⁉ これ本当にいいのか⁉
多分エクリアはこんなこと意識してない。
だけど俺が望めば受け入れてくれると思う。
それくらいの信頼関係を築けているはずで……。
「……アクセル様にお伝えしないといけないことがあります」
「伝えないといけないこと?」
「はい。先ほどの“読心”の内容です」
俺が躊躇っていたからか、撫でるのは終わりとでも思ったのか、エクリアが真面目な顔になる。
「……聞かせてくれ」
「まず、事件の首謀者はベクトール先生で間違いありません。他に協力者もいないようです」
「そうか」
それを聞いて、少し安心する。
今回の件は組織的な犯行だった。
もしまだ他に上役がいたら、厄介極まりない。
「あの方の天恵《ギフト》は“扇動”。人の心の不安感や不快感を増幅させて、言葉巧みに操る強力な天恵《ギフト》」
「不安感や不快感の増幅……」
だから第二王子派は突然あんなクーデターに参加したのか。
いくらなんでも、あんな要求内容が通るはずもないし、自ら破滅に向かって行くのに違和感があったが、強力な天恵《ギフト》が理由なら仕方ない。
多少の罰はあっても、これだと情状酌量の余地があるだろう。
「目的は、この国への復讐。そして――」
――ヴィクター様はそのために利用されていました。
彼女が続けた言葉は、俺の予想通りであったが……それでもなお、驚愕を隠しきれなかった。