辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
※更新時間が遅れたのは、風邪を引いてダウンしてるうちに予約投稿が切れてしまっていただけなので、明日からまた普通に朝から更新します。
第二王子派が起こした今回の事件。
学生生徒が不満を爆発させた、というにはあまりにも闇が深すぎた。
俺とエクリアの手に余ると判断し、宰相に説明するため、王宮政務室にやってきた。
「人払い、ありがとうございます」
「内容が内容だ。警戒するに越したことはない」
本来いるはずの文官たちにも出ていって貰ったことで、安心してすべてを話せる。
「では聞こう。今回の件で、お前たちはなにを知った?」
「帝国の陰謀について」
俺がそう言うと、宰相の目が細まる。
「一から説明をしろ」
「はい。まずこの計画は、二十年以上かけて練られた帝国の仕業でした」
「サーディン帝国か……」
王国西方部。
ヴィスペリア辺境伯領、そしてリンフォード公爵領と隣接している大国。
友好国ではあるが、政治の裏側では凄まじい謀略戦が繰り広げられているという。
「主犯はベクトール・タリス。彼は天恵《ギフト》を使い、第二王子を徐々に洗脳していきました」
「やつの天恵《ギフト》は“遠声”だったはずだが……」
さすが宰相。
すでにベクトールの情報を握っていたか。
ただ、それは表向き……タリス家が出した偽の情報に過ぎない。
「本当の天恵《ギフト》は“扇動”。人の心の不安感や不快感を増幅させて、言葉巧みに操る能力です」
「……偽装か」
エクリアもまた、“読心”を隠して“看破”ということにしているから、話が早い。
本来ならすべての貴族を洗い出したいだろうが、そうすればエクリアの件も漏れる可能性がある。
こればかりは、宰相にとってもネックなところだろう。
「強力な天恵《ギフト》はときに人を恐れさせる。ベクトールの両親も同様で、引き離すために帝国に留学させたようですね」
「記録ではそうなっているな。その後、王国の薬学教師になり、今年で十二年目だ」
教師歴だけで見ても、十年以上。
穏やかで、他の同僚や生徒たちの信頼も厚く、間違っても国家転覆を企てるような男ではないという話だが……。
――その立場を利用された。
ベクトールが王国にどういう感情を抱いているのか、俺はわからない。
ただ帝国に忠誠を誓い、王国に対して裏工作をしていたのは事実。
「元第二王子ヴィクターは元々、ユリウス様に劣等感を抱いていたようですね。その心の隙を突かれたのでしょう」
「……そうか」
「ドロワ男爵家は協力者ですね。王子と繋がれると唆されて、協力したようです」
こうして第二王子を手中に収めたベクトールは、派閥の人間も“扇動”で味方にしていき、貴族間での対立を煽った。
手を汚すのはすべて、ヴィクターと王国貴族。
彼らが成長したとき、大きな内乱が起きるように、ただ耳元でずっと囁き続けてきたのだ。
「“扇動”というのは、本来そこまで強力な力ではないはずだが、そのためのクスリか」
「ベクトールは薬学の教師。おそらく彼の部屋を漁れば、いろいろと証拠が出てくるはずです」
「うむ……」
ヴィクターがいなくなったことで、国内の対立を煽るのは難しくなった。
最後の立て籠もりは、その原因となった俺とエクリアに対する悪あがき、あるいは嫌がらせだろう。
「王国のために使えればどれほど有益だったか……」
「残念そうですね」
「危険な力であっても、使いこなすのが為政者の役目だからな。とはいえ、此度の件を許す気はないが」
実際、ベクトールは一国の王子を謀殺したと言ってもいいからなぁ。
これでフォルス王国は今後、ユリウス様を中心に次世代が纏まっていくだろう。
いちおう第三王子、そして中立派がいるとしても、今から世継ぎで荒れることはないはずだ。
――宰相はそれも警戒しているみたいだけど……。
直接会った限り、ユリウス様は王の資質を持つと思う。
ただ同時に、若さ故の万能感を抱いているようにも感じた。
――もし帝国と戦争にでもなったら、俺と宰相の領地が最前線になる……。
もちろんそんなこと、宰相も国王様もしないだろうが、将来のことを考えると少し不安もあった。
「さて、では行くぞエクリア」
「……はい」
「え?」
宰相も、エクリアも、それが当然のように立ち上がる。
「お待ちください宰相!」
「……なんだアクセル。なにか気になることでも?」
「エクリアに“読心”を使わせる気ですか?」
「当然だ。此度の一件、すべてを曝け出させなければならないからな」
宰相の言っていることは当然だ。
だけど……ベクトールに使ったときのエクリアの疲れ方は、尋常じゃなかった。
「……天恵《ギフト》は決して万能の力じゃない。強力であればあるほど、反動も大きい」
あのときはただ、相手の心に触れた罪悪感からだと思っていたが、どう考えてもそれだけじゃない。
「エクリア、正直に答えてくれ。“読心”を使ったら、かなりの負担になるんだろ?」
「それは……ですが王国のために……」
「もうお前は妃候補じゃない。俺の婚約者だ。だからもう、国のために自分を犠牲にするのはやめてくれ」
もしここで、それでも自分がやるのだと言うなら、俺はその意思を尊重するつもりだった。
エクリアの性格上、それでも国のためならと言うと思っていた。
だけど彼女は今、躊躇っている。
もしかしたら、俺の想像以上に負担が大きいのかもしれない。
――俺の“加速”もそうだ。短い時間でさえ、使えば凄まじい反動が来るが、それ以上だとしたら……。
それこそ、命に関わるかもしれない……。
「すみません宰相。俺はエクリアに、これ以上の負担はさせたくないんです」
エクリアを抱き寄せ、宰相をはっきり睨む。
「……自分がなにを言っているのか、わかっているのか?」
「はい。王侯貴族でありながら、自分の我が儘を優先させてもらっています」
「……お前は将来、辺境伯になる身だ。その地位は、他国に対する絶対の壁であり、国の守護者であるべきで存在。我が儘など通せる立場ではないぞ」
国防の要である辺境伯の言葉は、時に王の意見すら超える。
特に今回仕掛けてきたサーディン帝国は、ヴィスペリア辺境伯領と隣接した国。
決して表に出ない謀略とはいえ、仮想敵国と見なして情報を得るのは必須だろう。
――頭ではわかってるけど……。
「大切な人一人守れなくて、なにが国の守護者でしょうか?」
感情が納得しない。
それに俺は、エクリアを守ると約束した。
「エクリアはまだ学生です。貴族としての立場はあれど、まだ子ども。大人が解決すべきことに、巻き込まないでいただきたい」
「………………」
宰相は黙って俺を睨み続ける。
ゼクト父上とは異なる、凄まじい圧力。
王宮政治の世界で生き延びてきたのは伊達ではなく、強大な魔物を前にしているようにも感じた。
「……国政のトップである私に逆らい、そこまで言うか」
「俺は退きませんよ」
「ならば、条件がある」
「っ!」
宰相の目は鋭い。
だがたとえどんな難題でも、必ず乗り越えてみせる。
「学園の卒業式で歴史に残る結婚式を行うことだ!」
「いいでしょう! その条件、受けて立ちます!」
……………………ん?
宰相が顔を腕で覆って笑いを堪えている。
エクリアを見ると、プルプル震えていて、恥ずかしがってるのはわかった。
ちなみに俺は、まだ宰相の言葉を理解しきれていなかった。
【書籍化情報のお知らせ】
毎日たくさんの方々の応援、励みになっています!
おかげさまで明日、本作の書籍が発売されることとなりました。
ありがとうございます!
●レーベル:SQEXノベル様
●発売日:11月6日(金)
●公式略称【辺境婚約】
書籍版では全面改稿はもちろん、WEB版から4万文字以上の加筆を行っています。
たとえばWEB版のコメントで見たかったという意見の多かった、エクリアがお酒に酔ってアクセルに甘えるシーンや、アクセル視点ではわからない他キャラ視点の物語などもがっつり書きました。
買ってもらう以上は、絶対に損させない!
そんな気持ちで、WEB版では見られなかった各キャラの裏側や、追加エピソードも盛り沢山にしました!
昨今の書籍事情は、初速がとても重要です。
もしお近くの本屋さんや通販、それに電子書籍などをご利用の方は、発売したらぜひお買い上げ頂けたら嬉しいです!
どうかよろしくお願いします!
それはそれとして、このハーメルンでも毎日更新は続けていきますので、(まだあと十五話の書き溜めがある)引き続きお付き合いをよろしくお願いします。
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