辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
もし鏡があれば、俺は相当阿呆な顔をしている気がした。
「宰相?」
「……く、ふふふ……いや、なに……すまんっ」
「せめて笑いを止めてから謝ってもらいたいんですが……」
「貴様があまりにも大真面目に受けて立つというから……」
「言わせたのはそちらでしょう!」
というか、なんなんだこの流れ!
ついさっきまで、下手したら罪に問われてもおかしくないような問答をしていたはずなのに⁉
……まあ、いいか。宰相も本気でエクリアを苦しめようとしていたわけじゃないみたいだし――。
「お父様!」
「「っ⁉」」
今まで聞いたことのない、エクリアの大声。
その表情は、とても怒っていた。
「アクセル様は本気で私を想ってくださったのに、それを笑うなど酷すぎます!」
「う、あ……す、すまん……少し冗談が過ぎた……」
「許しません! しばらくは屋敷でも一緒に食事はしません!」
「なぁっ⁉ それは――!」
なんか、宰相がかつてないほど動揺してるんだけど……。
というかエクリア、怒り方かわいいな。
「しばらくは屋敷にも戻りません! アクセル様のところに住みます!」
「そんなこと許すはずがないだろう! まだお前たちは結婚前だろ!」
「い、いいじゃないですか! 卒業式で結婚するのですから!」
エクリアがギュッと腕に抱きついてきて……。
いかん。これは良くない。
「エクリア。さすがにそれは駄目だって」
「そ、そうだアクセル! もっと言ってやれ!」
「で、ですがアクセル様……」
「うっ……」
上目遣いで諦めきれないような雰囲気を出すのは止めてくれ。
つい許したくなっちゃうから……!
「せめてルーンの屋敷にしておこう」
「貴様! 裏切る気か!」
「俺は最初からエクリアの味方です!」
「ぬうぅ……!」
宰相、めちゃくちゃ睨んでくるじゃん……。
さっきまで国の一大事について話していたはずなんだけどなぁ。
◇ ◇ ◇
結論から言うと、俺の心配は杞憂だった。
“読心”こそフォルス王国ではエクリアしか持っていない天恵《ギフト》だったが、“看破”を持つ者は一人いたらしい。
もちろんベクトールが最後まで口を開かなければ意味を持たないが、人間そこまで強くはない。
俺の立場で聞けることはそこまで多くないが、ベクトールは情報を吐ききった後に死んだそうだ。
――正直、エクリアに心を読んで貰えた方がよっぽど楽だっただろうな。
禁書庫で本を選び、静かに本を読みながら思いに耽っていると、扉が開く。
「さすがの活躍だったな! やはりお前に任せて正解だった!」
「ユリウス様、また遊びに来たんですか?」
俺が禁書庫にいると、どこから情報を得てるのか必ずやってくる。
おかげで最初こそ緊張していたが、今では慣れたものだ。
「おいおい。誰と間違えてるんだ? 俺は禁書庫の番人ユーリだぞ?」
「じゃあ敬語もいらないですね」
「ああ!」
いらないのかよ。
自分で言っておいて、王族相手にさすがに駄目だろ。
「……それでユーリ様、今日はなんの用です?」
「もちろん! お前に礼を言いに来た!」
「俺は王国の貴族として、やるべきことをしただけです。それに……」
以前、ユリウス様はヴィクターのことを大切に想っていることは聞いた。
たしかに暗躍していたベクトールは捕らえた。
だがこれでヴィクターが戻ってくることはなく、このまま鉱山で死ぬ未来は変わらない。
「気にするな。前も言ったが、すべて弟が悪い」
「ですが相手は天恵《ギフト》を使われたわけで――」
「王が揺らげば国が揺らぐ。国が揺らげば民が不安を抱く」
俺の言葉を遮り、ユリウス様は俺を見て、堂々と告げる。
「王族にとって心の弱さは罪だ。だから弟は、こうなって仕方がなかった」
その立ち姿はどこまでも王だ。
普段のふざけている姿からは考えられない。
同時に、この人に付いていける人間がどれくらいいるのだろうと思ってしまった。
「だからこそ、俺はお前に感謝する。この手を弟の血で染める前に止めてくれたことを。そしてその無念をすべて引き受けてくれたことを」
「……ユーリ様のお言葉、受け取りました」
「ああ! それでいい!」
ユリウス様は真面目な雰囲気から一変、普段の快活な表情に戻った。
「ところで、学園の卒業式で盛大にパーティーをやるそうだな?」
「宰相が以前から準備してたそうですが……」
普通、卒業式は学生たちが主役だろう。
部外者の俺がそんなに出しゃばって、良い思いをなどしないんじゃないか?
「これは毎年の伝統行事だから気にするな」
「え? そうなんですか?」
「ああ。その年の最優秀生徒……と言ってもそれは建前で、実際は高位貴族が選ばれるが、その結婚披露宴をやるんだよ」
「知らなかった……」
だからエクリアはこの件に関してあまり動揺してなかったのか。
「ちなみに四年前は俺もやった」
「それを言ったら、正体ばれますよ?」
「おっと、今のは聞かなかったことにしてくれ」
口元に指を当て、軽く笑う。
茶目っ気ある仕草だが、どこか気品もあり、令嬢が見たら即恋に落ちそうだ。
秘密にする気があるのかないのか……。
まあないんだろうな。
「宰相は歴史に残るほど盛大にって言ってましたけど……」
「規模は例年以上だろう。なにせ王家の失態をすべて上書きせねばならないからな」
公爵令嬢と辺境伯家次期当主の縁談。
王族が絡まなければ、これ以上はそうそうない。
元々エクリアが選ばれていたのなら、俺もやるべきことはしっかりやろう。
「当日は王も、そしてユリウス王子も祝福するからな。楽しみしてるといい」
「その設定まだ引っ張る気だったんですね」
「設定なんてない」
とりあえずここにいる間はユーリで通す気らしい。
どうせパーティーで会えばバレるのに。
「それにしても、結婚か……ユーリ様もすでにされてるようですが、どんな感じですか?」
「………………」
「ユーリ様?」
「いや、まあ……うん。あまり女は怒らせない方がいい」
まったく参考にならないが、凄い気まずそうな顔してるし、多分怒らせまくってるんだろうな。
もしかしたら尻に敷かれているタイプなのかもしれない。
「ただ、そうだな……共に並び、歩む者がいるというのはいいものだ。お前たちもきっと、良き夫婦になるだろう」
「その言葉を最初に聞きたかったですね」
「ははは! たしかに!」
王子が笑い、つられて俺も笑った。
卒業式……俺にとっては結婚披露宴だが、それもあとわずか。
それが終わったら俺とエクリアは、正式な夫婦として、ヴィスペリア辺境伯領に行く。
「あ、その前にライド領にも寄らないとな」
なんだかんだ、王都に来てから一度も母上に手紙を書いてないし。
「怖いんだよなぁ……」
「王国の英雄すら下したお前がずいぶんと弱気な発言だが、なんの話だ?」
「母上に手紙をずっと書いてなくて……」
「ああ……それは、怖いな」
ユリウス様が遠い目をしている。
どうやら同じような経験があるらしい。
「助言するなら、王都でしか手に入らない装飾品を同封することだ」
「最高の助言ありがとうございます」
この助言だけで、一生この人に付いていってもいいと思ってしまった。
――母上、絶対怒ってるだろうなぁ。
◇ ◇ ◇
それから俺は、いつも通りの生活を続ける。
昼間はエクリアの護衛として学園に通い、ルーンやリオウと一緒に行動をする。
そして終われば、そのまま王宮政務室へ。
いろんな雑用をしながら先輩たちの知識と技術を学ばさせて貰い……。
あっという間に、卒業パーティー。
そして俺とエクリアの披露宴が開かれることになった。