辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
学園の卒業パーティー当日。
会場ホールの入り口で、男女が待ち合わせをしている。
その例に漏れず、俺もリオウと談笑をしながらエクリアを待っていると、ルーンと一緒にやってきて……。
「……」
現れたエクリアを見て、俺は見惚れた。
ただただ見惚れた。
「ふふん! どうよこのエクリアは!」
「る、ルーンちゃん押さないで!」
前に出てくるエクリアを改めて見る。
普段見慣れた服はそこまで肌を出さないことが多い。
だが今日のドレスは露出もやや多め。
それでいて下品にならず、まるで女神のような美しさを感じる。
化粧もしていて、いつもより大人っぽい雰囲気もよく似合っていた。
「ど、どうでしょうか……?」
「普段の可愛い感じもいいけど、綺麗なエクリアも最高! 控えめに言っても完璧!」
「でしょう! 私がサポートについて、全力で化粧もドレスも選んだんだから当然よ!」
元々学園でもオシャレについて詳しかったルーンが、自信満々で送り出すだけのことはある。
「まあエクリアは素材が良すぎるから、どれを用意しても似合うんだけどね……」
「いや、これはエクリアを一番知ってるルーンが一緒に選んだからこそだろ!」
「そうだよ! こんなに素敵なドレス、私一人じゃ絶対に選べなかったもん!」
「あ、う……えと……ありがと」
俺たちが声を上げると、ルーンが顔を赤くした。
「おいおい。ルーンの可愛い姿を見て良いのは、ボクだけだよ」
「リ、リオウ! そういうことは外で言わないでよ!」
「嫌だね! たとえ友人だろうと、他の男にルーンの愛らしい姿は見られたくない!」
「ちょっ!」
リオウが俺から引き離すようにルーンを抱きかかえる。
ちょっと羨ましいから、俺もエクリアを抱き寄せた。
「気持ちはわかる」
「だよね!」
「この馬鹿二人! 周りの目を気にしなさいよ!」
周りには学生たちがドレスやスーツを身に纏い、こちらを見ていた。
囃し立てる者もいれば、羨望の眼差しをしている者もいる。
「あれ?」
これはまたエクリアが恥ずかしがって顔を俯かせてしまうかも、と思ってみたら、背筋を伸ばして顔も前を向いていた。
「どうされましたか?」
「エクリアが格好良い」
「それは、反応に困ります……」
困らせてしまった。
ただその困り方も、普段のわたわたする感じじゃないだと!
俺が動揺していると、ルーンが呆れたように溜息を吐く。
「あのねぇ。エクリアは公爵令嬢なの忘れてない? 貴族令嬢の見本にならないと駄目なんだから、公の場じゃしっかりしてるに決まってるでしょ」
なるほど……。
場合によっては他国の重鎮も相手にしなきゃいけないもんな。
俺の前だといつも柔らかい笑顔だけど、これが貴族令嬢としてのエクリアか。
「でもなんだか、今のルーンの言い方だと、普段はしっかりしてないみたいに聞こえるな」
「ルーンちゃん……」
「ち、違うから! 普段はもっとポヤポヤしてるというか、イジり甲斐があって可愛いらしいって思ってるだけだから!」
「墓穴を掘ったか」
「そんなルーンもボクは可愛いと思ってるよ!」
「あ、あんたらねぇ……」
ルーンに追及していると、パーティーホールの扉が開いた。
それに合わせて、待ち合わせをしていた貴族子弟たちが順番に入っていく。
「じゃあ、俺たちも行くか」
「はい……」
手を出すと、エクリアがそっと握ってくれる。
卒業パーティー。
そして俺たちの結婚披露宴の始まりだ。
◇ ◇ ◇
学園を卒業すれば、ここにいる生徒たちはみんな一人前の貴族。
これから各々が自分の領地、あるいは国のために王都で働く。
女子生徒などは、お互いに思い出話に花を咲かせて、涙ぐんでいる者もいた。
「それじゃあ俺は少し離れるな」
「はい。また後ほど……」
少し寂しそうな顔をするエクリアに背を向けて、会場を歩く。
各代には学園の中心人物がいる。
エクリアとルーン、そしてリオウはまさしくそんな生徒だった。
周りの生徒たちも話しかけたい雰囲気が出ていたが、部外者で婚約者の俺がいたら話しかけづらいんだろうという配慮だ。
「アクセル様!」
「ん? ああ、ミラベルか」
ファラ伯爵令嬢。
先日の立て籠もり事件で人質にされたうちの一人だ。
貴族学園でもリーダー格で、よく周囲の生徒を取り纏めている姿を見る。
特に下級貴族の子女からは信頼も厚いらしく、ルーンとはまた違ったカリスマがあるのだろう。
――ただなんというか、俺を見る目が普通と違う気がして、少し苦手なんだよなぁ……。
ちょうど人質になっていた生徒たちが固まって会話をしていたらしく、俺のことは歓迎ムードだ。
「お一人ですか?」
「ああ。生徒たちの中に部外者がいても気を遣うだろ?」
「アクセル様は護衛として授業にも参加して交流もありますし、気にしなくてもよろしいのに」
そうですよー、と周りの生徒たちも同調してくれる。
ここにいる人たちは、学園でも話をしていた面々だから比較的気軽に話せるな。
「そう言ってもらえると嬉しいけど、主役は生徒たちだろ?」
「ふふふ、この後に披露宴が控えている主役の台詞とは思えませんわね」
「うっ……」
実は考えないようにしていたのに……。
いや、披露宴が嫌なわけじゃない。
ただめちゃくちゃ緊張するから、脳から外していただけだ。
「そういえば、来賓の人たちも増えてきましたねー」
入り口を見れば、大人たちが入ってきている。
――というかあれ、ユリウス様だし……
王族とか宰相は、専用の入り口があるだろうに、しれっと生徒たちと話してる。
まあ下級貴族の生徒だと、王子と接する機会も少なくて気付けないんだろうけど……さすがに高貴な雰囲気は隠せてないから緊張しているように見えた。
――ってことは、隣で腕を組んでいる美女は……。
「ゆ、ユリウス様……なぜあんなところで……」
ミラベルや、周りで気付いた生徒たちがそわそわしている。
「まあ、趣味じゃないか?」
「たしかに、昔からお忍びで市井に紛れる癖がありましたが……」
ミラベルが頭を押さえて、溜息を吐く。
「ユリウス様に詳しいんだな」
「いちおう私、元婚約者候補ですので」
「へぇ……」
伯爵家とはいえ、三女なのに。
まあ現国王はともかく、王族は普通側室も求められるから、数を揃えたって感じかな?
「当時のユリウス様はとにかく自由奔放で、王妃様があの方を押さえられる強い婚約者を求めたのです。そうして選ばれたのが、当時の王子を何度も殴り倒した……」
「おおう……」
――いや、まあ……うん。あまり女は怒らせない方がいい。
だからユリウス様はあんな顔を引きつらせながら言ったのか。
きっとユリウス様の婚約者を決めるときにも、相当な騒動があったんだろうな。
「そういえば、アクセル様はこのあと辺境伯領へ行かれるのですよね?」
「ああ。世話になった人たちに挨拶周りをしてから、、ライド領、リンフォード領を回る予定だ」
「でしたら……一つお願いがあるのです」
「お願い?」
どうやら生徒たちはミラベルが言いたいことを知っているらしく、頑張れと応援してる。
普段自信満々のミラベルにしては珍しく、緊張してる様子。
顔も赤いし、これはまさか……告――。
「どうか……私を貴方様のメイドにしてくださいませ!」
「俺にはエクリアが……メイド?」
「はい! 教養は十分あると自負しておりますし、エクリア様のお手伝いもできますわ!」
「…………」
ファラ伯爵家といえば歴史ある名家で、格で見ても最上位に位置する貴族だ。
三女とはいえ縁を繋ぎたい家は多く、婚約者としても引く手あまただろう。
――別にメイドになったからって、結婚できないわけじゃないけど……。
王都付近ならともかく、辺境伯領などに来たら社交界に出られる回数も減るので、当然出会いも減る。
貴族令嬢にとって、あまり良い条件だとは思えないけど……。
「だめ、でしょうか?」
「いや、駄目とかじゃないんだけど……理由を聞いてもいいか?」
もしも俺の側室を狙ってとかだったら……。
「それはもちろんアクセル様とエクリア様、お二人近くで見ながら話を書きたいからですわ!」
「……え?」
「ミラベル様、それでは伝わりませんよ……あのですね……」
俺が困惑していると、いつもミラベルと一緒にいる令嬢が少し呆れながら答えてくれる。