辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
「実はこう見えてミラベル様、恋愛小説を出版しているんです」
「……こう見えて?」
「恋愛経験もない妄想の書き殴りなのですが、これが貴族令嬢や市井でも評価を受けて……」
「ちょっとレゼさん? さっきから言葉に棘がありませんこと?」
「事実じゃないですか」
「事実ですけども!」
とりあえず、俺に惚れたとかそういう理由じゃなくて良かった。
――ホッとしたのはいいけど、思い上がりで恥ずかしい……。
なにが告白や側室だ。
王都に来てからいろんなことがトントン拍子できたから、調子に乗りすぎだよ俺……。
「小説って、凄いな。エクリアと話も合うんじゃないか?」
「んんっ⁉」
「ん?」
喉を詰まらせたよな反応をするけど、そんなに変なこと言ったか?
「ミラベル様、読者の声を直接聞くのは駄目なタイプで……」
「読者……?」
そういえばエクリアは恋愛小説が好きって言ってたな。
「もしかして、結構売れてるのか?」
「相当売れてますね」
「……なるほど」
俺とエクリアのそばで物語を書きたいって……まさか俺たちをモデルにしてたりしないよな?
ジッと見つめると、目をそらされた。
「……」
「お、お願いします! このまま実家に帰ったら、今度こそ婚約しろと言われてしまうのです!」
「アクセル様、私からもお願いします」
必死な様子のミラベル。
そして冷静ながらも彼女を後押ししようとしているレゼ嬢。
「貴族の一部では、小説のような大衆向けを嫌う傾向にあります。理解ある旦那様がお相手でなければ、ミラベル様は筆を折らねばならないのです」
「小説は、私にとって生き甲斐ですの! それを奪われるくらいなら、単身冒険者にでもなってやりますわ!」
凄い覚悟だ……。
ミラベルの背後から炎が燃えている幻覚が見えた。
「俺はまあ、良いんだけど……」
「本当ですか⁉」
「だけど小説の件を言わないなら、エクリアになんて言えば……」
理由なく学園の同級生をメイドにするなんて、納得してくれるか?
――逆の立場で、同級生をエクリア付きの執事にします、って言われたら嫌すぎるんだが……。
「エクリア様の説得は、私がします」
「レゼ嬢が?」
「お任せ下さい」
自信満々だが、なにを言うつもりだ?
そう思っていたら、ちょうどエクリアたちが戻ってきた。
「アクセル様。なんのお話をされていたのですか?」
「実は……」
「エクリア様。実は私たちを、辺境伯領のメイドにして貰えないかとお願いしていたのです」
「え……?」
一瞬、エクリアが戸惑った顔をする。
多分、男としての俺を求めてると考えたんだろう。
そりゃ邪推するよ。俺だってした。
――というか、いつの間にかレゼ嬢も行くことになってるけど……?
「実は私とミラベル様は愛し合っているのです」
「レゼさん⁉」
ミラベルが驚いているってことは、打ち合わせにない話か?
「お、お二人はそのような関係だったのですか……」
「たしかに貴方たち、学園でもずっと一緒だったわね……」
エクリアとルーンも驚きながら、少し顔が赤い。
「ですが貴族の娘として、これは許されざる恋。ならばせめて、遠い地で……」
そこから始まる、レゼ劇場。
子爵令嬢と伯爵令嬢の恋物語を謡うように語り続け、エクリアたちは真剣に聞いている。
そして――。
「どうか、私たちを雇って頂けませんか?」
「もちろんです!」
恐ろしいほどスムーズに、エクリアから許可が出た。
いつになく興奮しているように見えるのは、気のせいかな?
「……いいのか?」
「まあ、エクリアがいいなら、いいんじゃないかな? あの二人優秀だし、いたら助かると思うよ」
話から追い出された俺と、同じく追い出されたリオウ。
急速に仲良くなった女子たちを見守りながら、ほんの少しだけ疎外感を覚えてしまう。
「そういえば、そろそろ準備しないといけないんじゃない?」
「え? もうそんな時間か」
午前中から始まったパーティーも、正午にかかろうとしている。
それはつまり……。
「楽しみにしてるよ!」
「他人事だと思って……!」
「自分事だったら、緊張で吐いてるかもね!」
楽しげに笑うリオウを睨みつつ、エクリアとともに会場を歩くと、生徒たちの視線を感じた。
◇ ◇ ◇
準備、と言っても俺がやることは基本的にはほとんどない。
黒のスーツから白のスーツに着替え、髪の毛を改めて整えるくらいだ。
控え室でエクリアの準備を待っていると、兄二人が勢いよく入ってきた。
「アクセル! お前すげぇな!」
「まさか王子をぶっ飛ばして公爵令嬢を略奪するとか、さすが俺たちの弟だ!」
「しかもあのゼクト様とも戦ったんだろ⁉」
「羨ましぃなおい! あとで俺にも紹介しろよ!」
うっさ……!
というか筋肉が凄いせいで圧が強い!
「……相変わらず、兄上たちはお元気ですね」
「「死に際まで元気で笑うのが俺たちライドの男だからな!」」
ライド家、というより領地の兵士たちの合い言葉。
こんなんだから蛮族とか言われるんだろうけど、俺自身も実は嫌いじゃない。
「兄上たちは驚かなかったんですか?」
「ん? なにをだ?」
「その、公爵令嬢と婚約したこととか、辺境伯の養子になったこととか」
「まあ……」
「なぁ……」
「なんですか二人して……」
なんか見合わせて、変な顔を売る。
そんな変なことは言ってないと思うんだけど……。
「お前はライド家の神童だ。昔からやるやつだとわかってたし、この程度は当然だろ」
「今更というか、別になにをやっても驚かんって」
「……兄上」
ちょっと感動――。
「「そもそも三兄弟でお前が一番変人だしな!」」
「兄上⁉」
嘘だろ!?
俺この二人にそんな認識になってたのか⁉
てかどう考えても魔物と書いてご飯と呼ぶ二人の方が変人だろ!
「まあそんなことは置いておいて、早く俺たちにゼクト様を紹介するんだ」
「そのために来たんだからな」
「終わったら紹介しますよ」
そして叩きのめされてしまえ。
いや、それだと普通に喜ぶから、母上に手紙でチクるか。
二人して怒られてしまえ。
ウチで一番怖いのは母上なんだからな!
「そういえばお袋から手紙を預かってるぞ」
「母上から?」
「お前がエクリア様を略奪したって聞いたときは卒倒してたけど……」
「略奪じゃないですって」
渡された手紙には、せっかくの祝い事に顔を出せず申し訳ないということと、激励の言葉。
そして――。
――よくやりました。貴方はライド家の希望です。その血を絶やさないよう、励みなさい。そして必ず一度ライド領に寄り、エクリア様を連れて来て下さい。ライド家の男に嫁ぐことの大変さを、先人としてしっかりお伝えさせていただきます。
……母上。ライド家の希望なんて書いてるんだから、俺のこと、もう少し信用してくれても良いのでは?
なんて思ってたら、二枚目があった。
――貴方のことですから信用してくれたらとか思ってるのでしょうが、王子を相手に武力を振るい、英雄と剣を交え、騎士団長を下す文官がどこにいますか。一度客観的に己を見直しなさい。
…………見なかったことにしようかな。
「ちゃんと返事を書けよ! じゃないと俺たちが怒られるからな!」
「そういえばクーデターみたいなのも潰したんだって? いいなぁ、なんで俺たちが学園にいたときに起こさねぇんだよ」
「それ思った! そしたらもっと俺らも暴れられたのに!」
母上はライド領の運営を一手に担ってるから、簡単には外に出られない。
早く兄上たちが嫁を連れてくることを望んでいるが、生半可な女性では耐えられないから時間が掛かってるそうだ。
――いっそ、ルーンに誰か紹介して貰うとかできないかな?
類は友を呼ぶと言うし、ライド領でもやっていける武闘派な令嬢がいたらぜひ紹介してもらいたい。
懐かしいやり取りをしていると、ガイゼル父上やゼクト父上が入ってきて、さらに騒がしさが増していく。
「アクセル様。エクリア様の準備が整いましたので、出迎えに来て下さい」
「わかりました」
公爵家のメイドに案内されて、俺はエクリアの控え室に入る。
「アクセル様」
純白のウェディングドレス。
それを纏ったエクリアが、俺を見て嬉しそうに微笑む。
「こんな言葉しか言えないけど……」
――綺麗だ。
そう伝えると、彼女は幸せそうに微笑んだ。