辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件   作:平成オワリ

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冗談ではすまない言葉

 殴り飛ばした護衛騎士、マードッグが王子たちのそばに落ちた。

 

 我ながら良い感じに殴り飛ばせたと思う。

 

 あの男も護衛だけあって鍛えているから、死にはしないはず。

 そこそこの力で殴ったから、しばらくは目を覚まさないだろうけど……。

 

「さて王子……」

「ひっ!」

 

 俺を化け物でも見る目で、怯えた顔を見せる。

 

 いや、さすがの俺も自国の王子を殴り飛ばしたりはしませんけどね。

 

「俺は部外者なので、これ以上口出しするつもりもないんですが……」

「だったら、さっさといなくなれよ! 邪魔なんだよお前は!」

「エクリア様は、俺のことを友人と呼んでくれました」

 

 もしかしたら彼女にとっては何気なく言っただけの社交辞令かもしれない。

 

 だけど友人の少ない俺には、そんな一言が嬉しいことだった。

 

「俺も末端とはいえ貴族の一員。王族を傷つけることはできません。ですが、友を守るためなら、立ち塞がることくらいはしますよ」

「くっ……」

 

 俺が引かないとわかったからか、王子が悔しそうな顔をする。

 

 そもそも事の発端は、王子がエクリア様に嫌がらせをしようと近づいてきたこと。

 

 俺としては、この場を離れてくれたらそれでいいんだけど。

 

 ……どうもそれを忘れている節があるんだよなぁ。

 

 外の貴族はプライドが高いって兄上たちも言っていたが、まさしくそんな感じだ。

 

「どうして婚約者であるエクリア様をそこまで蔑ろにするのです? 男爵令嬢に惚れたとしても側室で満足して、結婚はエクリア様とで――」

「何度も言わせるな! 私はエクリアと結婚する気はない! 人の心を覗き見するような女、近づけたくもないわ!」

「人の心を覗き見?」

「そうだ! その女はの天恵(ギフト)は“看破”だぞ!」

「っ!」

「ああ、なるほど……」

 

 “看破”は相手の嘘を見破る魔術系天恵(ギフト)。

 

 商人や貴族なら、喉から手が出るほど手に入れたい力だろう。

 

 ただ“加速”もそうだが、使えば消耗するし、常時展開できるものじゃない。

 

 精度もそこまで高くないと聞くし、嘘かどうかを判別できるだけ。

 相手が本気で思い込んでいたら、判別も出来ない程度だと聞く。

 

 当然、相手の思考まで把握できるものでもない。

 

 つまり、強力ではあるが、忌避するほどの力ではないということだ。

 

「そんな女に四六時中そばにいられて、気の休まる瞬間もない! だから遠ざけた! なにが悪い!」

「いや、嘘つかなきゃいいんじゃないです?」

「人間誰だって嘘はつくだろう!」

 

 そりゃそうかもしれないけど、致命的な嘘を避ければいいだけでは?

 

 犯罪もせずまともに生きてれば、ちょっと自分を良く見せたいとかくらいだろ。

 

「王子のお考えはよくわかりました。ただ、避けるならともかく、相手を傷つけるのは違うと思います」

 

 ―—どれだけ言っても、国王と宰相である公爵が必要と判断した政略結婚だぞ。

 

 天地がひっくり返るくらいのことが起きなきゃ、男爵令嬢が正室として結婚なんてできるわけないって。

 

 というか、よくあの男爵令嬢は生きてこれたな。

 

 下手したら毒殺くらいされててもおかしくないけど……王子やさっきのマードッグとかが守ってたのか。

 

 俺が少し興味深そうに男爵令嬢を見ていると、彼女はなぜか勝ち誇ったような表情で笑った。

 

「ヴィクター様。もういっそ、ここではっきり宣言してしまえば良いのではありませんか?」

「だがそれは卒業パーティーで大々的に、と……」

「でも私は、ヴィクター様が悲しむ姿を見るたびに、胸が痛くなって……」

「……そうだな。すまないナンナ。私の中途半端な態度が、お前を苦しめてしまっていたんだな」

 

 なんの話だ?

 なにやら不穏な空気で二人が話し始めて、嫌な予感しかしないが……。

 

「エクリア・リンフォード!」

 

 まるで覚悟を決めたような王子が、エクリア様を見る。

 そして勢いよく指をさし――。

 

「今この場で宣言しよう! 私はお前との婚約を破棄する!」

「……………………え?」

 

 あっけに取られたのは、俺だけでなくこの場の全員だろう。

 

 なんかまた真実の愛がとか、政治の話ばかりだとか、見ているのは王子としての自分で、本当の自分を見ていないとか、さっき言ったことをまくし立てている。

 

 だがそれが頭に入らないくらい、婚約破棄という発言のヤバさに全員がドン引きしていた。

 

 だってここにいるのは、将来王国の中枢を担う貴族子弟たちだぞ。

 

 彼らの前で宣言してしまえば、自然と王国中の貴族に広がり、訂正などできるはずがなくて……。

 

 そんな俺の動揺をよそに、王子はようやく自分の気持ちを宣言できたからか、声高らかに言葉を続ける。

 

 まるで自分にこそ正義があるのだと、言わんばかりに。

 

「それに貴様とルーンは、ナンナに酷い虐めをしていたそうだな!」

「っ!」

「はぁ⁉ ふざけんじゃないわよ!」

 

 ついに無言で殴りかかろうとしているルーン様を押さえて、「どうどう」と落ち着かせる。

 

 私は馬じゃない? まあ似たようなもんでしょう。

 

 さすがに王子を殴るのはヤバいから。

 

 とはいえ、さすがに王子の言い分は聞くに耐えん。

 

 正直、王子じゃなかったら俺がルーン様の代わりに殴り飛ばしていた。

 

「パーティーではナンナの挨拶を無視し、私と話しているだけで離れろと言う! まったく、見苦しい嫉妬を見せおって!」

 

 学園のパーティーは社交界の練習でもあるから、目上の人間に挨拶する際のマナーはあるだろう。

 

 そこを疎かにしてしまえば、将来が危ぶまれる。

 

 それに婚約者のいる王子に、他の女子が色目を使っていたら当然指摘するはずだ。

 

 なんというか、聞いているだけで虐めではなく、当然の指摘ばかりだとわかった。

 

 だからこそ、他の生徒たちからエクリア様が同情されているのだろうけど……。

 

 問題は、王子がこれだけの貴族子弟の前で婚約破棄を宣言してしまったことだ。

 

「あ……」

 

 最初に気づいたのは、多分俺だ。

 

 そして気づいた瞬間、この場から逃げ出したくなった。

 

 ――えっと……あの方、いつからあそこにいたんでしょうか……?

 

 王子と男爵令嬢の後ろに立っている、とても冷たい目をしたリンフォード公爵。

 

 凄まじい怒気をまといながら近づいてくる姿を見て、腰が引けてしまった。

 

「言い逃れはできないぞ! ちゃんと私はナンナから聞いて――」

「なるほど、たしかにこれ以上はもう、言い逃れなどありえませんな」

「え?」

 

 王子が振り向く。

 俺からは見えないが、引きつった顔をしていることだろう。

 

「な、なんで学園に公爵が……」

「命の恩人がこちらにいると聞いて足を運んだだけですが……なにやら取り込み中だった様子だったので待っておりました」

 

 公爵は俺を見ると軽く微笑み、そして再び王子に向く。

 

 その瞳は同一人物とは思えないほど険しい。

 

「ところで殿下。我が娘と婚約破棄をすると聞こえましたが……」

 

 ――もはや冗談では済まされませんぞ?

 

 笑みは相手を威嚇する。

 

 そんな話を聞いたことがあったが、それが事実だと、俺は今日初めて知った。

 

 公爵、超怖いんですけど……。

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