辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
公爵の護衛に連れて行かれる王子と男爵令嬢、そしてマードッグを見送りながら、心の中で呟く。
――さよならヴィクター王子。貴方とはもう、二度と関わりたくないです。
今後どうなるか知らないが、王子にとっていい形で収まることはないだろう。
男爵令嬢は国家転覆罪で処刑されてもおかしくないが、身から出た錆だ。
冷たいと言われるかもしれないが、それくらいのことをしたのだから仕方ない。
まさか王立図書館を見に来ただけでこんな事件に巻き込まれると思わなかったけど、これでようやく落ち着いた。
「それじゃあ俺はこの辺で……」
「なにをしている? アクセル、お前も行くのだぞ」
「え?」
その場に残っていた公爵に言われて、なぜ? と思う。
だって俺、この場に偶然いただけの部外者ですよ?
事情聴取が必要なのはわかるけど、別にここで良くないですか?
というか全部聞いてたんだし、俺いらなくないです?
などと公爵相手に言えるはずもなく、俺はエクリア様と王宮に向かうことになった。
その前に、俺にいろいろ教えてくれたルーン様が、苦笑気味に話しかけてくる。
「私も噂を聞いただけで、適当なこと言えないけど……」
「けど?」
「頑張ってね。応援してるわ!」
バンッと力強く背中を叩かれた。
そこまで言うなら、なにを頑張ればいいのか教えてほしいかな。
でもとりあえず、ルーン様がとても良い子だということはわかったので、良しとしよう。
◇ ◇ ◇
そうして俺は、王宮内にある謁見の間に連れてこられた。
「……」
いつの間に集められたのか、周りにいるのは王宮貴族の上位貴族たち。
周囲から、誰だこいつ? という目で見られるが、俺もなんでこんなところにいるのかわからないので、許してほしい。
玉座にはこの国王であるリカルド・ジル・フォルス様と、王妃様が座っている。
つまり第二王子ヴィクター様のご両親が並んでいるわけだ。
そして今回の事件を起こした本人はというと、怒りの表情で国王たちを睨んでいた。
「父上! これはいったいどういうことですか⁉ ナンナを、どうするのです⁉」
すごいなこの人。
この状況でまだ声を上げられるって、ある意味王の資質が振り切ってるのかもしれん。
とはいえ、さすがこの国の重鎮たちは動じることもなく、黙って見ているだけ。
その間、公爵が国王になにかを話し続けていた。
内容が聞こえなくても、第二王子の沙汰を告げているのはわかる。
どうやら国王夫妻の感覚はまともなのか、二人の息子を見る目がさらに冷たくなり……。
「父上、私の話を聞いて――」
「黙らんかぁぁぁぁ!」
「「「っ――⁉」」」
全員の姿勢が一気に伸びる。
それほどの怒号が謁見の間に響き、修羅のような形相の国王に視線が集中した。
そういえばリカルド様は武人気質が強いって聞いたことがあったな。
若いころは王宮を飛び出して、冒険者として魔物と戦い続けたとか。
父親に影響された第一王子も奔放な性格をして、今は王宮にいないんだっけ。
「ヴィクター! 貴様はなにをしたのかわかっているのか⁉」
「聞いてください父上! 私は政略結婚などでは見つからない、真実の愛を見つけたのです!」
「「「あ……」」」
思わず、俺の口から声がこぼれた。
ただそれを零したのは俺だけじゃないので、何人かは同じ気持ちになったことだろう。
すなわち、今のは国王批判である、ということ。
現国王の王妃に対する溺愛っぷりは、田舎であるライド領にまで伝わってくるほどだ。
本来なら側室を取り、王家の血筋を絶やさないようにするべき立場。
だが頑なに王妃以外は必要ないと宣言し、周囲を困らせているとも聞く。
もちろん、国王たちだって政略結婚だろう。
それでも溺愛している姿を知っている者たちは、真実の愛など子どもの戯れ言にしか思えないはず。
なんて考え事をしているうちにいろいろ話が進み、王子は相当な叱責を受けていた。
気づけばうなだれ、瞳からは力が失われている。
「ヴィクター……我が息子ながらお前はあまりにも愚かすぎた。それでもなんとかやれるよう、公爵に無理を言って優秀なエクリアを婚約者にしてもらったのだ。ようやくこぎつけた縁談だったというのに……」
国王が嘆いている。
そんな状況の中、公爵は瞳に怒りを宿しながらも淡々と告げる。
「陛下。ここまで泥を塗られて、まだ婚約を続けよとは言いませぬな?」
「当然だ。ヴィクターは王位継承権を剥奪し、世継ぎのいない男爵家の養子に出す。仮に子ができても、その子の爵位は一代限りとして、以後は平民として過ごさせる。当然、王位継承権などあり得ない」
ここにいるのは上位貴族たちばかり。
その全員が発言の証人となった今、第二王子が王家に戻ることはないし、反乱の芽にもなりえないだろう。
正直、王族が受ける判決としては厳し過ぎるが、仕方ないとも思った。
公爵家が受けた侮辱は相当なものだ。
ここで甘い判断をしてしまえば、公爵の心は離れ、王国が分裂する危険もある。
リンフォード公爵家の権力は、それだけ強いのだから。
「公爵よ。これで王家のことを許してくれるな?」
王家としても公爵に配慮した判決。
誰もがこれで解決と思ったが、なぜか公爵は首を横に振った。
「……私には別に望みがございます」
「なんだと?」
「そちらを聞いていただけるのでしたら公爵家はこれ以上、王子の沙汰に一切口出ししないと誓いましょう」
「……」
国王様が悩んでいる。
どれだけ愚かであっても、愛する妻とできた可愛い息子。
切り捨てるという判断はしたくなかったはずだ。
それでも公爵との関係、そして国全体のことを考えた結果、切る以外の選択はなかった。
逆を言えば、公爵の提案はそれだけの問題を覆すほど、大きな提案という話。
いったいどんな話を持ちかける気だ? と国王が不安を感じるのは仕方ないだろう。
「……聞こう」
「では、まずヴィクター様とエクリアとの婚約を破棄してもらいます」
「それは当然だな」
俺はこの場に呼ばれたとはいえ、部外者だ。
自分には一切関係のないやりとりというのは、ある意味で安心して見られる。
それに、こういった上層部のやり取りを知れる機会は滅多にない。
せっかくだから勉強させてもらおう。
「そしてそこにいる、アクセル・ライドをヴィスペリア辺境伯の養子にして、エクリアと婚約を結ばせたい」
「なに?」
「…………え?」
公爵も、国王も、王妃様も、エクリア様も、第二王子も、そして周りの貴族たちも。
この場にいる全員の目が一斉に俺に向く。
そしてその反応で、どうやら俺の聞き間違いじゃないということが理解できて――。
「は、はああぁぁぁぁぁ⁉」
声を上げて叫んだ俺は悪くない。
そして不意に、別れ際のルーン様の言葉を思い出した。
――頑張ってね。応援してるわ!
こんなん予想できるかぁぁぁぁ!