辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
俺が王都に来たのは、文官の試験を受けるためだ。
道中で公爵家を助けたことも、王都で第二王子の前に立ったのも、偶然でしかない。
それがまさか、辺境伯の養子だとか、公爵令嬢の婚約者なんて話が自分に降ってくるなんて……夢にも思わなかった。
◇ ◇ ◇
国王と公爵が細かいことを詰めるため、謁見の間から全員解散。
事の当事者である俺とエクリア様は、同じ部屋に案内されてしばらく待機となった。
部屋にはメイドや護衛の騎士がいるとはいえ、彼女たちは自分の存在を主張しない。
よく教育された使用人たちだ。さすが王城の使用人……と感心しつつ、隣に座るエクリア様を見る。
顔は小さく、首が細い。白磁みたいに綺麗な横顔。
俺がこれまで出会ったことのある女性の中で、一番の美少女なのは間違いない。
……こんな綺麗な子が、俺の婚約者か。
「マジで……こんなことある?」
「……申し訳ありません。私のせいで――」
「あ、いえ! エクリア様が謝ることじゃないですから!」
「ですが……」
「これ以上ないくらいの厚遇を受けて、感謝の方が大きいくらいですって!」
凹んでいるエクリア様を見て焦る。
数回会っただけだが、間違いなく公爵は親バカだ。
もしここで俺が娘を悲しませたと思われたら、この先どんな睨まれ方するかわからない!
正直、蛮族貴族の三男として独身のまま過ごす可能性も考えていた。
少なくとも、良い縁談を結ぶのは難しかったはずだ。
だから本気でありがたい話だと伝え続けるが、なかなか彼女の顔は晴れない。
「エクリア様みたいな人と婚約して、嫌な男がいるはずがないでしょう!」
「……で、ですが私の話は面白みがないとよく言われ、嫌われていました」
「それはあの王子が己の立場も考えずに勉強をサボった馬鹿だからですって!」
一瞬、さすがに暴言が過ぎたかもしれないと思って使用人たちを見ると、なぜか無言で頷いていた。
王宮の使用人たちのはずだけど、どうやら彼女たちはエクリア様の味方らしい。
というか君たち、さっきまで置物のように立っていたのに、急に主張するじゃん。
まあ一旦それは置いておこう。今はエクリア様だ。
「多くの令嬢が逃げ出すとまで言われた妃教育を完璧にこなし、あれだけ暴言を吐いた王子のことも悪く言わず、国に尽くしたあなたが、嫌われる道理などありません」
本当に尊敬しているので、それを言葉にして伝えるのだが、まだ当の本人には響いていない様子。
他者に責任を押しつけることを許せないのだろう。
「なにより俺は、馬車であなたと話をしたとき、とても楽しく思いました」
「え? ……本当、ですか?」
「本当ですよ! お別れしたときはもっと話したいと思ったし、また会いたいと思いました。だから学園で再会したとき、内心で滅茶苦茶喜んでたんですよ俺!」
「っ⁉ そ、そうなんですか……?」
「はい!」
なんか途中からすっごい恥ずかしい本音を伝えてしまった気がするが、おかげでエクリア様の顔から悲しみが取れた。
その代わりなんか、顔を赤くしてもぞもぞしてるけど……。
「わ、私も本当はもっと! その……アクセル様とお話したいって、思ってました」
「え? 本当に?」
驚きすぎて、エクリア様と同じような反応をしてしまった。
そんな俺に、彼女は恥ずかしそうにしながらコクリと頷く。
「それはなんというか……嬉しいな」
俺の知識はすべて、辺境で得たものばかりだ。
当然、都会などに比べて情報が遅く、古臭いものも多いだろう。
そんな中、国と公爵家から高度な教育を受けていたエクリア様にも関心を持って貰えたのは、これまでの努力を認められたようで素直に嬉しかった。
「未熟なものばかりだったんじゃないですか?」
「そんなことありません。話してくださった政策はどれも民のことを考えられてて、素敵だな、って思ってて……」
「あ、ありがとうございます」
「い、いえ……本当のこと、ですから」
「「…………」」
何となく気恥ずかしくなって、言葉に詰まる。
エクリア様と二人で無言になり、時間だけが過ぎて……。
というか周りの使用人さんたち、なんかガッツポーズとかしてテンション上がってない?
俺、なんとなくだけど、唇の動きとか読めるからな?
だから押せー、とか、もっと甘酸っぱい感じでお願いします、とか。
俺らのやり取りを観客みたいに見ながら調子に乗ってるの全部わかってるからな?
まあそんなメイドたちは無視して、今後のことを考えよう。
あれだけの上位貴族の前で言ったのだから、公爵の中では今回の件はもう確定事項だろう。
それはいい。
驚いたのは本当だけど、俺にとってメリット以外なにもないからだ。
「エクリア様はいいんですか? 知らない男に、いきなり嫁げなんて言われて……」
「もちろんです! ……ぁ」
これまでの彼女らしくない食い気味な言葉に、少し驚いてしまう。
言った本人もこんなに大きな声を出した自分に驚いている様子。
「だってアクセル様は、私を助けてくれた人ですから」
「それは偶然で……」
「一度目はそうかもしれません。ですが二度目は私のために怒って、助けてくださいました。それは本当に、物語の騎士様のようで……」
俺のことを尊敬したような、恋い焦がれるような眼差しを向けてくる。
ヤバい、なんか俺も顔が熱くなってきた。
別にそんな崇高な意志があったわけじゃないのに、なんか俺が素晴らしい人みたいに語られてるし。
「……嫌だなんてことは、絶対にありません」
顔を赤らめて恥ずかしそうな姿、可愛いな……。
出会ってから今日で二回目。
もちろん政略結婚に個人の恋愛関係は必要ないとはいえ、俺たちはお互いのことをほとんど知らない。
だけどなぜか、俺は彼女とうまくやれる確信があった。
「それじゃあ改めて、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……よろしくお願いいたします」
二人揃って頭を下げると、周りの空気が緩む。
どうやら使用人たちに、初々しく思われているらしい。