辺境貴族の俺と婚約した黒幕公爵家の令嬢が可愛すぎた件 作:平成オワリ
しばらくお互いのことを話していると、次第に緊張も取れてきた。
落ち着いた彼女の話は理路整然としていて、頭に入りやすい。
それに声も耳ざわりが良くて、なんだか落ち着く感じだ。
「五歳のとき、初めての社交界でルーンちゃんと会って、それ以来仲良しなんですよ」
「エクリア様に絡んでいた伯爵家の人間を蹴っ飛ばすとは、さすがですね」
「そ、それはまだ子どものころの話なので」
話の中に出てきたルーン様も武勇伝、なかなか素晴らしい。
ぜひウチの兄二人のどちらかの嫁になって、首輪を付けてほしいもんだ。
一応子爵家の当主なら、家格が落ちるとはいえ伯爵令嬢が嫁いでもおかしくないし……マジでなんとかならないかな。
「あの……私が話したこと、ルーンちゃんには内緒ですよ?」
「もちろん」
本人がいないのを良いことに、昔話を聞いていると、扉が開いた。
「どうやら二人とも、仲良くやっているようだな」
「お父様⁉」
「っ……」
とっさに立ち上がり、入ってきた公爵を見る。
何度か見た険しい表情に比べ、だいぶ柔らかく見える。
国王との話はうまく纏まったのか、機嫌は良さそうだ。
だがそれも最初だけ。
ソファに腰を下ろすと、公爵は鋭い眼光で俺を睨んできた。
「さて、アクセル。確認しておきたいことがある」
「な、なんでしょうか?」
娘を幸せにできるか、とかだろうか?
そりゃ本当に婚約するなら覚悟を決めるのは当然だけど、今ここで聞かれてもちょっと困る……。
「貴様はヴィスペリア領の状況は知ってるか?」
「え? あ、はい。ライド領以上に魔物が多く、王国の魔境と呼ばれている地ですよね?」
予想外の質問に一瞬思考が止まるが、すぐに説明を続ける。
ヴィスペリア辺境伯は、古くから国境を守る由緒ある名門貴族だ。
先ほど公爵に話したとおり、魔物の凶暴さは王国随一。
蛮族領地と呼ばれるライド領以上の危険地帯のため、魔境と呼ばれている。
資源豊かではあるが、危険すぎて隣接する他国も欲しいと思わず、ある意味で王国の平和を担っている地とも言えた。
「辺境伯はご高齢ですが、若い頃は王国最強の騎士として、名を馳せていたお方ですよね」
「古い話だが、よく知っているな」
「英雄ゼクト・ヴィスペリアの話は、ライド領の男児なら寝る前に聞かされるものですから」
まあだからウチの兄弟はみんな脳筋みたいに育つのかもしれないけど……。
「だがそのような英雄でも、年には勝てん」
「たしか、すでに七十近いとか」
この国の領主交代はだいたい四十五前後。
普通ならとっくに楽隠居している年齢だ。
とはいえ、ヴィスペリア辺境伯には男系の世継ぎがいないので、いまだに現役で辺境伯領を治めているとのこと。
危険の多い辺境伯領の内情を考えたら、下手な人物に任せられるはずもない、ということなのかもしれない。
そんな土地を五十年以上、守り続けてきた貴族。
よくよく考えたら、とんでもない爺さんだな……。
「本当に俺が養子になっていいんでしょうか? 子爵家の三男なんて、認めて貰えないのでは……」
決めたのは公爵と国王。
だけど最終決定権は当然辺境伯にある。
彼がノーと言えば、エクリア様との婚約も、養子の話も全部なくなるわけだが……。
「その件で、重要な話が出た」
「重要な話……?」
なんだろう。嫌な予感しかしない。
「実はヴィスペリア辺境伯は、自分を倒した者以外は息子と認めない、などと昔から言っていてな」
「は、はぁ……」
「ちょうど王都に来ていたのでお前のことを話したのだ。そしたら……」
なるほど、実力を見せてみろ、ということか。
武闘派貴族らしいし、俺にとってもわかりやすいから嫌いじゃないけど――。
「我が領地を奪う不届き者は許さん! 絶対にぶっ殺してやる! と息巻いてしまってな。すでに鍛錬場でお前のことを待ちかまえている」
「なんか異様に殺意高くないですかねぇ⁉」
殺る気満々すぎて怖いわ!
というかそんなにブチ切れてる爺さんを放っておいて、なにここで悠長に話をしてんだよ⁉
「というわけでアクセルよ。娘が欲しければ、辺境伯を倒すことだ」
「……本気で言ってますそれ?」
俺、これから王国最強の騎士だった人に命狙われないといけないの?
いや……この場合は俺が倒そうと出向く側か?
「私はお前のことを信じているぞ」
なんか公爵、楽しそうだし。
「ちなみにもしもの話だが……負けて、公爵家に泥を塗るようなことになったら、私も王宮でなにをするかわからん」
「……全力を尽くします」
下手したらクーデターでも起こしかねない。
前には何故か俺を殺す気満々の辺境伯。
後ろには退路を断って脅してくる公爵。
俺の味方は、どこ?
元々は王宮の文官になりに来ただけなのに、どうしてこうなった?
などと考えていたら、エクリア様が俺の手をそっと握る。
「あ、あのアクセル様……その、私はあなたと一緒にいたいと思いました。だから、えと……」
エクリア嬢が必死に言葉を紡ぐのを邪魔しないように、黙って待つ。
彼女は顔を赤くして、俺を見上げながら一言――。
「頑張ってください……」
必死に言葉を紡ぐエクリア様を見たら、なんかやる気が出ていた。
だから彼女を安心させるように、笑みを浮かべる。
「任せてください。俺も同じ気持ちですから」
――正式に婚約して、あなたと一緒に過ごせるようになりたい。
そんな気持ちを込めた言葉は、ちゃんと伝わったのだろう。
また恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、ギュッと手を強く握ってくれた。
今なら英雄だろうがドラゴンだろうが、ぶっ殺せる気がする。
単純? そういう家に生まれた男ですから仕方ない。