【ゼンゼロ】黒枝の任務で喫茶店バイトすることになったダイアリン 作:でぃーえすちゃん
「で、ここですか」
新エリー都でも有数の繁華街、ルミナスクエア……の、外周のあたり。人々の喧騒から少しだけ遠ざかりたい人にとっては、格好のスポットだ。
「……静かでいいところですねぇ。誰の声も聞こえなくて……」
呟きながら、ダイアリンはその喫茶店――「メゾンドルミナ・カフェ」の木扉を押し開けた。
ちりん、ちりん、と来店を告げるベルが鳴る。数人の利用客が入口の彼女のほうへ目を向け、少しだけ珍しそうな素振りをしたあと、各々のテーブルへ目線を戻した。カウンターの内側に腰掛け、憂鬱そうにしていた紳士服を着た初老の男が、彼女に声をかけた。
「いらっしゃい。お一人でしょうか」
「ああ、いえ……あたしはお客様ではなく。ダイアリンと言います。今日からこちらで働かせていただきたくて。叔母からお話させていただいてたと思うのですが……」
という設定だ。手際のいいボスは、可愛い部下が任務を遂行するのに必要なサポートを欠かさない。というかすごい楽しそうにしていた。ダイアリンが喫茶店でアルバイトなんてねぇ~キャッキャって感じだった。
男は思い出すように中空を見つめ、ああ、と手を打った。
「カーミラさんから聞いたよ。私はアルゴン。ここの店長だ。じゃあ、そうだな……面接というほどではないけど、ちょっとした面談をやらせてもらってもいいかな?」
「ほえ? ええ、大丈夫ですよ」
ダイアリンには、おおよそアルバイトの経験がない。幼少期に色々あった影響で、物心がきっちりついてきた時には、すでに黒枝に拾われていたからだ。
(面接ってなんか色々マナーがあるんでしたっけ? あ~TOPSのビジネスマナー教本の一つや二つ持ってくればよかったですねぇ。読んでると上司のお小言みたいで蕁麻疹が出てくるから一つも覚えていませんが)
「おぉい、レン。少し店番を頼む」
アルゴンは、店の奥の方へと声をかけた。はぁい、と高い声の返事があって、黒髪の大人しげな少女が顔を覗かせる。少女はダイアリンを見て不思議そうな顔をした。
「紹介するよ。娘のレンだ。レン、こちらはダイアリンさん。今日からしばらくウチで働いてもらうことになったんだ」
レンと呼ばれた少女は、ぺこり、と頭を下げ、カウンターに入っていった。
「よろしくお願いしますね、レンちゃん先輩」
「えっ、あっ、よ、よろしくお願いします……」
いきなり先輩付けされて驚いたのか、そもそも人見知りなのか、レンはわたわたしたあと、カウンターで下をむいてモジモジしていた。
そんなレンを見て苦笑しつつ、アルゴンはダイアリンを店の奥の小部屋へと案内した。普段は倉庫として使われているらしく、木製の棚にはコーヒー豆や調味料、小麦粉の袋なんかが並んでいる。その反対の壁には本棚があり、資料らしきものが収められていた。
「すまないね、ここくらいしかなくて」
アルゴンはどこからかパイプ椅子を出してきて、どさりと座り込んだ。座るように促され、ダイアリンもちょこんと腰掛ける。
「さて……もう一度名前を聞いてもいいかな?」
「ダイアリンです。どうぞよろしくお願いします」
「よろしくね。改めて、私はアルゴン=レッグウッドだ。カーミラさんの紹介だから、疑うわけじゃないが、形式的にいくつか聞かせてほしい。接客業をしていたと聞いているけど、そうなのかな?」
接客業と来たか。ボスもあれでいて結構茶目っ気の多い性格なのだ。
「ん~……そうですねぇ。いろんな
「ああ、事務職とかなのかな? 飲食店での経験はどうだろう」
「それは残念ながら。でも、愛想のよさには自信がありますよ!」
彼女のいう「愛想の良さ」というのが、喫茶店での接客に活かせる類のものかどうかは置いておくとして。
「なら良かった。まぁ、ウチはそんなに忙しくないだろうから、ゆっくり覚えてもらえばいいよ。それから、コーヒーは好きかな?」
「徹夜明けに効くので濃いヤツが好きですね、エスプレッソとか」
「エスプレッソは徹夜には効かないと思うが……なるほど。料理はするかな?」
「美味しく食べます! 普段は社食で済ませますが」
「……事務職ってそこまで忙しいものなのかい?」
「24時間年中無休でいつでもご対応! がモットーですからね」
「ず、ずいぶんなところで働いていたんだな……」
「そうなんですよ! だから、静かなところで働いてみたいと思ったんです。……もう喧騒はこりごりですから」
貴方のお店は閑古鳥が鳴きまくってますね~と言っているようにも聞こえる言い方だが、アルゴンは責めるようなことはしなかった。
そうぼやくダイアリンの目が、どこか憂いを湛えているように見えたから、かもしれない。
「まぁ、うん。色々あるだろうけど、働きながら覚えてもらえれば構わないからね。じゃ、制服だけど」
「え、制服?」
「一応あるんだよ。女の子の従業員が来るのは久しぶりだから、あまりサイズは用意してないんだけど、レンの昔のものが着られるんじゃないかな」
「それっていつの頃ですか? 確かにレンちゃん先輩はあたしよりちょっと、いや割と背が高かったですが、年齢だけで言ったら多分あたしのほうが上なんじゃないですか? あれ? というかちょっと待ってくださいね、レンちゃん先輩の着てた服?」
ダイアリンは先ほど会ったアルゴンの娘、レンの格好を思い出していた。
そう言えばメイド服だった。
「お帰りなさいませ! ご主人様!」的なメイドさんが着るようなミニスカフリフリもりもりのヤツ……ではないが。旧都以前からある、クラシカルなメイド服だ。
もともとチャイナドレスだろうに、という野暮なツッコミはなしだ。着慣れたチャイナドレスとお初のメイド服では色々レベルが違う。
そして、仕事というのは無情である。待ってもらえなかった。
あれよあれよという間にお着替えタイムは終了し、着替え終えて部屋から出てきた彼女の第一声は、
「社会って手厳しいですね」
だった。
黒いロングワンピースに白いエプロン。ところどころにあしらわれたレースとフリルが上品な雰囲気を漂わせていた。もともとダイアリンは白と黒のツートンカラーなので、びっくりするほど馴染んでいた。頭につけたホワイトブリムも、お団子ヘアと妙にしっくり来る感じになっちゃっている。
「いいね、似合っているよ」
このおじさんの趣味が心配になってきた。
「これって下心に基づく格好ではないんですよね?」
「心外だな。旧都陥落前から、この世界観を守ってきたんだよ、ウチは。本格給仕を体験できるちょっとリッチな喫茶店ということでやらせてもらっているんだ」
そういう魂胆のお客さんがいないわけではないけど、と早口で付け加えられた。
スマホのメモ帳から貼り付けたら改行全部消えててクッソ読みづらくなってました、すいません。