魔女の結界が消滅し結界に入る前の路地裏に戻ったことで魔女が倒されたことがうかがえる。使い魔も杏子が一匹残らず殲滅したお陰で結界からは杏子と音也以外に出るものはいなかった。
「終わったか」
「まったく苦労したぜ」
二人は変身を解き私服姿に戻る。魔女は手強いものではあった。しかし、戦い慣れている二人の前には魔女の抵抗も虚しくあっという間に倒されるのであった。音也はいつもの調子だったが杏子は大分疲労が溜まっていそうな顔をしていた。
「お前、随分疲れた顔をしているな。魔女退治の専門家なんだろう、あんなことで根をあげていたらこれからどうするんだ」
「誰のせいだと......」
恨めしそうに音也を睨む杏子。今回の戦いの疲労は音也の自由奔放さが原因の9割くらいを占めていることを音也は知るよしもない。
「少し時間がかかったな。さっさとあいつらの所に戻るぞ」
「そうだな...」
どこか浮かない顔で返事をする。魔女は倒した、使い魔も取り逃したのはいない。なのに純粋に喜べずどこか複雑そうな顔をしている杏子の姿があった。
「どうした?ガキならもっと素直に喜べ。せっかく魔女を倒したんだからな。ずっと思っていたんだがお前可愛げないぞ。もう少しそこら辺改善した方が人が寄ってくるぞ」
「なぁ、聞きたいことがある」
神妙な面持ちで音也に問いかける。
「なんで、アンタはそんな自信満々でいられるんだ」
迷うようにきく杏子。
「愚問だな。それは俺が紅音也様だからだ」
「なんだよそれ...」
ナルシストここに極まれりと言った感じで尊大に答える音也。期待していた答えではなかったのか落ち込んだように反応する杏子。なにを迷っているのか自分でもわからずつい音也に聞いてしまったのか、自分の様子が何かおかしい。
「お前、なぜ諦めたような顔をしている?そんな辛気臭い顔をしていたらこっちまで気分が悪くなる」
「そんなこと...ない...」
図星を突かれたのか動揺してしまう。先輩の死が尾を引いているのか前に聞いたさやかの魔法少女としての決意を聞いて何かを感じたのかさやかがソウルジェムを投げ捨てた日から胸の内が霧がかかったかのように曇っている。普段はしない他人の心配をしてしまったのもそれが原因なのだろうか。
「何をウジウジしている。話したいことがあるなら正直に話せ。見てるこっちがイライラする」
「アンタには関係ない」
せっかくの音也の助け舟を突っぱねる。ほぼ八つ当たりに近い形であった。
「そうやって自分の殻に閉じこもるつもりか。何があったのかは知らんがそれでは何も解決しないぞ」
「......」
「今のお前には遊び心がない。心に余裕がない。そんなんじゃあの青髪、さやかみたいに限界がくる」
「アンタに何がわかる。第一、さやかは他人のために戦っていたから限界が来たんだ。アタシはいつも自分のために戦ってるんだ。限界なんて早々来ない」
自分を誤魔化して音也に反論する。自分の心を見透かされたような感覚。目の前の男のペースに流され杏子は自分のペースを見失っていた。
「そいつはどうかな。今のお前は自分の音楽を見失っている。自分の奏でたい音楽を見失って迷子になって立ち止まっているだけだ。立ち止まっていることに理由をつけて前に進むことに恐怖している」
「アタシは...迷ってなんか...ない...」
願いを裏切られた記憶が蘇る。家族のために願った奇跡が家族を壊す瞬間を、真面目で優しくて大好きだった父親が自分に牙をむく瞬間を、もう二度と他人のために魔法を使わないと誓った瞬間を。
しかしそんな心中なんて関係ないと言わんばかりに音也は続ける。
「人は前に進むもんだ。どんなことがあっても悲しみを呑み込んで大きくなる。そして新しい道へと前に進む。自分の殻に閉じこもってばかりでは進むべき道が分からなくなる。そのせいでどんな音楽を奏でていたかも忘れちまう。何があったのかは知らんが、今お前が何をしたいのかさっさと答えを見つけるんだな」
「今のアタシがしたいこと...」
願いに裏切られた日から自分のために戦ってきた。なのにさやかの純粋っぷりを見てから何かが引っ掛かっていた。ただの馬鹿だと思っていたのに人のために戦うという叫びを聞いてからどこかほっとけなくなってしまった。今にして思えばなぜ自分はさやかの体を維持し続けていたのか、ソウルジェムを探したのか、自分のためと言いつつ他人のために行動していた。
その時気づく。過去の自分をさ重ねていたのだと。自分のようにはなってほしくなかったのだと。
そして目の前で先輩が死に、怒りと悲しみを覚えた。目の前で死なれるの胸糞悪い。
杏子はこれまでを整理していく中で本当の自分をほんのちょっとだけ思い出せたような気がした。やっぱり人のために魔法を使いたい気持ちをどうしても捨てたくなかった、そんな気がした。しかしそれでも答えはわからない。
「答えって...どうやって見つければいいんだよ...」
「甘えるな。そのくらい自分で考えるんだ」
突き放した答えに若干の理不尽さを感じ抗議の視線を送る。しかし音也には全く効果がなかったのであった。ふとここで杏子は気づく。話していくうちにどこか胸の霧がちょっとだけ晴れた気がしたのだ。未だに迷いはあるが先ほどよりかは幾分かマシになっていた。
杏子は音也を見定めるように観察し音也のことの評価を人の話を聞かない馬鹿からなんか不思議な人という評価に改めるのであった。
「最後にもう一つ、アンタはさ...裏切られたことはあるかい?」
「ないな。そもそも世界は俺を裏切らない、だから俺も裏切らない。もし裏切られるようなことがあったらそれは世界の終わりだ。といってもれは千年に一人の天才だからな、裏切りなんぞではへこたれん」
いつものように尊大に答える音也。その様子に安心感を覚える杏子であった。
「そういえば、アンタ名前は?」
「紅音也、いつか教科書にも載るであろう偉大な人だ覚えておけよ」
「ハハッ、そうかい。アタシは佐倉杏子だ」
そして手元にあるお菓子を一つ差し出していつものように聞く。
「食うかい?」
「丁度腹が減ってたんだ、気が利くな」
グリーフシードを拾い二人はさやか達のもとへと急ぐのだった。
音也と杏子が戻ってきたときそれはそれはすごい光景だった。さやかと恭介が力強く抱き合っておりさやかがなんかすごく泣いていた。そして「ずっと好きだったんだよ恭介ぇぇ」とひたすら言っていた。その光景をまどかとほむらは嬉しそうではあるがちょっと気まずそうに眺めていた。
「こりゃどういう状況だ。なんでさやかが泣いてんだ」
「恐らく、恭介が上手くやったのだろう」
音也と杏子も若干ドン引きしながら眺めていた。あれでホントに大丈夫なのだろうかと目を点にしながらいぶかしむ杏子であったがなんか和やかな雰囲気が漂ってるし大丈夫だろうと結論付けた。
「あ!杏子ちゃん!魔女倒したんだね!」
「お怪我がなくてなによりです!」
二人に気づいたまどかとほむらが反応する。するとまどか達の反応に我に返ったさやかは顔を赤くしながら恭介から離れた。その時、恭介はちょっと寂しそうだった。
「はぁ、お前ら前も惚気てたような気がするな」
「あはは、すいませんちょっと舞い上がってしまったようで」
「アタシ、ああいうの初めて見た」
それぞれが独自の反応を見せる。杏子も若干顔が赤くなっていた。いくら孤高に魔女を狩ってきた杏子でも男女の営みというものには免疫があまりなかったらしく目を伏せ片手で少し顔を隠していた。
「さやか、立ち直ったんだな」
「いや、あれは浮かれてるだけだな」
「間違ってはいないけどさぁ...」
さやかはすっかりいつもの元気な様子になりボロボロの顔で笑顔をうかべる。
「にしてもひっでー体だぜ。何とかなんないのかよ」
「あたしが知りたいくらいだよ」
未だにゾンビ状態の体のままなためかなりグロテスクな見た目に何とかならないかと頭をひねる。この状態では学校に行くことはおろか家族にも見せられない。良い案はないか必死に考えていると音也が口をはさむ。
「お前魔法少女ってやつなんだろ。魔法でなんとかならんのか」
「あ...」
灯台下暗しとも言うべきか、魔法の存在をすっかり忘れていた。身体のことや恭介の告白などで色々あったため思考が塗り替えられてしまっていた。
「美樹さんって得意な魔法はなんですか?」
「確か回復の魔法だったような」
「なら、何とかなるかもじゃん!」
青天の霹靂とでも言おうか。まさにこういう状況にぴったりな魔法である。問題はちゃんと治るかどうかであるが。
「待てさやか、こいつを使え」
杏子は先程の魔女から手に入れたグリーフシードをさやかに渡す。
「さっきの魔女から取ってきた。まだソウルジェムが結構濁ってんだろ。その体治すのに魔力結構使うと思うし今のうちに浄化しとけ」
「杏子...ありがとう!」
「おぉ...そのかりは、いつか返してくれたら...いい...」
さやかの屈託のない笑顔で感謝され杏子は思わず照れ臭くなる。感謝なんて久しくされたこと無かったためどう反応すれば良いのか分からず、言葉が尻すぼみになる。
ソウルジェムを浄化すると元の綺麗な青色が顕現する。その輝きに恭介は見とれていた。
「それじゃあ、いくよ」
さやかは言葉と共にソウルジェムを握りしめ魔力を込める。
するとさやかの全身が光に包まれていく。青色の光に包まれ彼女の体が変化していく。エントランスの照明よりも眩い光があたりを支配する。光の影響でシルエットしか確認できないが良い方向へと変化していることを一同は確信していた。
しばらくすると光が止み、さやかの姿が顕になる。
「成功したんだな」
「美樹さん、元に戻ったんですね!」
「やったね!さやかちゃん!」
「すげぇな、魔法ってやつは」
今のさやかは腐った部分はまるでその事実が無かったかのように回復し欠損していた指も何事も無かったかのように無事に復元された。面影が分からない程ボロボロの顔も元の可愛い顔になり、肌も血色の良い健康的な色へと戻っていた。しかし制服は前の状態と変わらず大きなシミが支配し変色したままであった。
「服は戻らねぇのか」
「治せるのは体だけっぽい。でもこれでいいよ、制服は予備使えばいいし」
「さやかちゃーーん!!」
それぞれが安堵していたところに今度はまどかがさやかに抱きつく。親友が元の姿に戻り歓喜のあまり体が勝手に動いていた。
「よかったぁ!元に戻ってほんとによかったぁ!」
「ちょッまどか落ち着いて」
「だって!さやかちゃんがボロボロでずっと心配してたんだよ!それが元に戻ってさ!落ち着けるわけないじゃん!」
涙を流しながらさやかに思いを吐露する。ずっと思いつめていたような顔をしていた親友が元気になったとなれば誰だって歓喜に打ち震えるだろう。
まどかはしばらくさやかに抱き着くと一通り気が済んだのか離れた。
「まったく、まどかは心配性だなー。そんなところもかわいい!」
「美樹さん、すっかり元気ですね」
「さっきの錯乱っぷりが嘘みたいだ...」
ある程度問題が片付いたため和気あいあいとした雰囲気が漂う。さっきまでのネガティブはどこへやらさやかは元気を取り戻しいつもの調子になったことを確認するとみなに笑顔が宿る。
「完全に元気ってわけじゃない。まだマミさんのこととかまどかやほむらに酷いことしちゃったこと、みんなに迷惑かけちゃったこと引きずってる。でも今は、気分がちょっと高揚してて落ち着かないの」
「そうですか...。でも美樹さんが元気になったのならそれで大丈夫ですよ。今は体が戻ったことを喜びましょう!そういうのはその後にじっくり考えればいいと思います」
「ほむら...ありがとう。そう言ってくれるとちょっと楽になったかも」
考えるべきものはたくさんある。しかし今はそういう話をする時ではない。さやかが元気になったことを喜ぶべきだろう。
「恭介、ごめんね。制服ダメにしちゃった」
「大丈夫、僕も予備くらいはあるし。親には何とか言っとくよ。さやかも親御さんに色々言われないようにね」
恭介の制服も抱きついたときに腐食液などで汚れてしまい臭いも染み付いて酷い惨状であった。しかも洗濯してもとれそうにないものだったために今着ているものは破棄するしか無い。幸いなことに予備があったため学校には支障は出ないだろう。
「もう事は済んだか?ならさっさと帰れ。親御さんが心配するぞ。特に青髪、お前長らく連絡とれなかったらしいから早く家に帰らないとまずいんじゃないか?」
気付けば時刻はかなり遅い時間になっており子どもは帰って寝るような時間帯であった。さやかはソウルジェムを投げ捨ててから二日は経っていたため親は相当心配していることだろう。
「ちょっと音也さん!あたしは青髪じゃなくて美樹さやかって言うちゃんとした名前が─」
「わかった。とにかく帰れ。俺はもう行かせてもらうぞ。じゃあな」
「あッちょっと!もう、相変わらず自由な人だな」
「そこが音也さんらしいと言うかなんというか...」
音也は一言別れの挨拶を告げさっさと行ってしまった。自由な態度に不満を漏らすさやかであったが不思議と寂しさを感じた。
「確かに今日はもう遅いな。詳しい話は明日話そうぜ。その方がアンタらも都合が良いらしいし」
「私もお母さんが心配してるかも」
「私も明日学校があるのでその方が良いです」
「じゃ、そういうことで。今日は解散!」
「なんでさやかが仕切ってんだ」
穏和な雰囲気を漂わせたまま解散することにした一同。しかしその前に恭介が確認をするように言う。
「その話当然僕も入れてくれるよね?もう魔法少女とか魔女とか知っちゃったし」
「うーん確かに恭介にあたしが魔法少女なの話しちゃったしなぁ...」
「マジかよ...。しょうがない、こいつも退かなそうな性格してそうだし入りたいなら勝手にしろ」
「上条くん、なんか変わったね」
前のような優しいだけの目から確固たる意思をもった強さを感じる目をするようになった恭介に杏子は根負けし話し合いに参加することを許可するのであった。
みんなを影が薄くならないようにするの難しい。特にめがほむの影が薄くなってしまう。あとやっぱみんなのキャラがおかしいぞ。次回で終わりです。文章が延びなければ。