恭介たちと解散した音也はしばらく見滝原の道を歩いていた。そんな音也を無機質な目がじっと観察するように見つめていた。それはしばらく見つめたあと独り言のようにつぶやく。
「まったく、余計なことをしてくれたね紅音也。せっかくのエネルギー回収のチャンスを不意にされるとは。とんだイレギュラーもいたもんだ」
白く長い耳のようなものを垂らした一見ぬいぐるみにしか見えないなにかが音也のことをを無機質に分析しようとしていた。この不思議な存在の名はキュゥべえ。宇宙の死を防ぐため人の感情エネルギーを収集している地球外生命体。魔法少女システムは彼らの手によって生み出されたものである。
キュゥべえは今回の一見で紅音也を見滝原におけるエネルギー回収の障壁として認識を改めようとしていた。
「余計なこととはどういうことだ?話を聞かせてもらおうか、白いの」
「おや、僕が見えるのかい?」
キュゥべえは自分の姿が視認されていることに驚愕する。
「あぁ、がっつり見えてたぞ。あいつらが楽しくやってる時にうろうろしていたからな、嫌でも目についたぞ。あれで隠れてるつもりだったのか。だとしたらかくれんぼ相当下手くそだな」
「おかしいね、僕は素質のあるもの特に少女にしか見えないはずなのに」
「そいつは残念だったな。音也様は千年に一人の天才だからな、素質しかないぞ」
本来キュゥべえは魔法少女の素質があるものにしか見えない。しかし音也はそんなことは関係ないと言わんばかりにキュゥべえのことを見ることができていた。ますます予想外の現象を起こす音也に警戒レベルを上げる。
「そんなことより、俺が一体何したのか教えてもらおうじゃないか」
鋭い目つきでキュゥべえに問い詰める。いつものお調子者の態度は崩れてはいない。が、キュゥべえが邪悪なものなのかそうでないのか見定めるように睨む。音也からすればキュゥべえからはどこか異様で邪悪な雰囲気が漂っていることに警戒していた。
しばらく睨み合っていると観念したのかキュゥべえが話始める。
「どうやら話すしかなさそうだね。美樹さやかからはあのタイミングでエネルギーを回収できるはずだった。しかし君たちが美樹さやかを励ましてしまった影響でエネルギーを回収しそびれてしまった。といっても回収できるチャンスはいくらでもあるから焦ることではないけどね」
「さやかからエネルギーを回収?一体どういうことだ」
人からエネルギーを回収するという訳のわからないを言い出し音也は困惑する。それは人の行動によって起きるエネルギーのことを言うのだろうかと音也は推測する。しかしキュゥべえの言うことは誰が聞いてもとても信じられないものだった。
「僕たちは人の感情が持つ莫大なエネルギーを収集しているんだ。この宇宙の熱的死を防ぐためにね。その中でも希望から絶望への相転移によって発生するエントロピーに縛られない莫大なエネルギーを回収しているんだ」
「要するに人をどん底に突き落として生まれるエネルギーってやつを集めているのか。それをさやかからも取ろうとしてたわけか。胸糞悪い話だな」
「まぁ大まかにいえばそうなるね」
人を絶望させて発生するエネルギーを集めているという事実に戦慄する。そして音也は理解した。こいつは人を意図的に絶望させ食い物にする最低な存在なのだと。
「さっきお前、少女にしか見えないようにしてるって言ってたよな。てことはお前の犠牲になっているのは何も知らない少女が何人もいるってことか」
「犠牲とは誤解を生む言い方だね。僕たちはあくまでもエネルギーを回収しているに過ぎない。それに僕たちは願いを叶えるという報酬も与えている。これはかなり好待遇だと思わないかい?これは君たちを家畜としてではなく一生命体として扱っているということなんだ。そう言えば理解できたかな?」
「全く理解できん。いいか、人間とお前らの違いを教えてやる。それは感謝だ。俺たちは常に命に感謝しながらいただいている。しかしお前たちは感謝なぞせずただの物としてしか扱っていない。そんなお前らの何を理解しろというんだ」
「随分な言われようだね。こんなに懇切丁寧に説明しているのにまだわからないというのかい?君が千年に一人の逸材というのは聊か語弊があるようだね」
話は平行線をたどる。それが当然と言わんばかりに無機質にキュゥべえは話すが、音也には言っていることが何一つ理解できなかった。
「聞くぞ、魔法少女ってのはお前が作ったのか?」
「システムを構築したのは僕たちだね」
「なら裏があるな。あの時さやかはどうなるはずだったんだ。答えろ」
語気を強め荒々しく問い詰める。普段の享楽的な態度は息をひそめ、目の前の邪悪な何かから情報をすべて吐き出させようとする。
「あの時さやかは魔女になるはずだった。魔法少女はソウルジェムに穢れをため込むとソウルジェムがグリーフシードに変化する。その時に膨大なエネルギーが発生するんだけど君と上条恭介の尽力でその機会が失われてしまった。今後はこのようなことをしないでもらえると助かるよ」
「それをあいつらは知っているのか」
「知らないと思うよ。まだその事実にたどり着いていない」
無機質にあっけらかんと言い放つ。なぜ言わないのか不思議でしょうがない、確かに言わないことも良いほうがあるとはいえこれは言わないといけない事項だろうと怒りを露わにする音也であったが気を鎮めながら質問を続ける。
「なぜ言わない?俺だって重要なことはちゃんと言うぞ」
「聞かれないからさ。なぜ聞かれないことを話す必要があるんだい?」
「その割にはさっきから俺にべらべらと喋っているがな。二枚舌は結構嫌われるぜ」
「それは話さなければ君が返してくれなさそうだからね。必要な漏洩ということさ。しかし君でも彼女たちの魔女化を止めることはできないよ」
"聞かれなかったから"ふざけた理由で重要なことをぼかし魔女の戦い参加させるという悪辣な行為はこの世の女と音楽を愛する音也にはとても許されるものではなかった。しかし目の前の存在は魔女化は止められない運命だと断言する。
「それはないな」
「なぜだい?」
「お前は人間をなめすぎている。運命なんてどうだって変えられるんだからな。そもそも運命を変えるのはあいつら自身だがな」
音也の言葉を聞き心底不思議そうに首を傾ける。訳が分からない言わんばかりに音也を見つめ何を言っているのかを分析している。そこに音也が口を開く
「お前にこの世で最も悪いことを教えてやる」
「この世で最も悪いこと?それは定義によって変わるものだと思うよ。第一今の会話で判明したけど君の価値観と僕の価値観の相違が激しい─」
「黙れ、今は俺が喋っている」
キュゥべえの言葉を強制的に断ち切り言いたいことをぶつける
「いいか、この世で最も悪いことは何も知らない女を食い物にすることとこの世の音楽を汚すことだ。お前は人の音楽を平気で汚している。そして何も知らない少女たちを平然と利用し食い物にしている。役満ってやつだ」
「訳が分からないよ」
一体何言ってるんだともはや理解という域を超えた謎の人物に興味が湧いてきたキュゥべえ。今までの経験の中で少女たちの中で事実を伝えたら判断ミスをこちらに責任を転嫁してくるという意味不明な事象は多く確認されたが、常時何言ってるか理解できない人物がいるとは思いもしなかった。
音也は続ける。
「しかしまぁ一つ断言できることがある」
「なんだい?こちらは君の言っていることが何一つ理解できないな」
「お前の企みは打ち砕かれるということだ」
「なぜ?」
またしても理解できないことを言う音也に首をかしげる。
「人っていうのはそれぞれに音楽を奏でている。そしてその音楽が奇跡を起こすこともある。お前には音楽そのものがない。音楽がないお前に人の奇跡は理解できんだろうな。特に強いぞ、あいつらの音楽は」
「なぜそこで音楽が出てくるんだい」
音也はキュゥべえに言い放つとキュゥべえの言葉を無視してどこかに消えてしまった。
***
さやかの事件から数日が経った。さやかは精神も無事に完全に回復し学校へと登校できるようになっていた。親からは烈火のごとく怒られたが同時にかなり心配をかけてしまい罪悪感に襲われたこともあった。が、今は先輩の死を乗り越え先輩の分まで頑張ると決意しいつも通りの日常を送っていた。因みに事件の翌日の話し合いで杏子と和解し一緒に魔女を狩る仲にまでなっていた。
恭介は魔法少女や魔女の存在を知り、さやか達魔法少女に日頃の感謝を伝え同時に何もできない無力感を感じ何かサポートできないか日々探っていた。
まどかとほむらはさやかと持ちつ持たれつの関係になりより結束を高め、杏子とも無事友達になることができたとか。
杏子は人のために戦うのも悪くないと昔の自分をちょっとだけ思い出し使い魔も倒すようになっていた。またさやか達とも協力することが多くなっていた。
そんな中さやかと恭介は放課後いつものように一緒に帰宅していると音也の姿を見つけた。
「あれ音也さんだよね?何しているのかな」
「多分というか絶対ナンパだよあれ」
見つけは良いものの音也は片っ端から女性に声をかけていた。そしてさらに驚きなのはその成功率である。10人中8人くらいが音也に着いていくのである。これには流石に音也ナンパの実力を認めるしかない。
「でも、声かけたそばから別の女性に声かけるのは流石にないわー」
「流石音也さんだ」
「恭介?大分変な方向いってない?」
恭介が音也のナンパ力になぜか感動を覚えており大分危機感を刺激されるさやかであった。
そうして音也を眺めていると音也がさやか達に気付く。音也は今ナンパした女性を理由をつけて帰させさやか達に近づく。
「恭介にさやかか。こんなところで会うとは、俺が恋しくなったか」
「いや偶々会っただけです」
音也の言葉を否定しただバッタリあっただけだと主張する。
「思ったんですけど音也さんって絶対結婚できなさそうですよね」
「ちょッ、さやか!」
「あって早々失礼なやつだ」
「だってすーぐ女の人ナンパするし」
再会早々にとんでもないことを言うさやか。恭介はたしなめるが音也は気にせずいつもの調子を保つ。
「んーそうだな、息子ならいるな」
「えー!!息子さんいるんですか!?」
音也の発言に二人は驚愕する。こんな人にも息子はできるものなのかと失礼な考えが二人の頭に浮かんでいたことは音也は知らない。
「どんな人なんですか?」
「僕も気になります」
「そうだなぁ、ネガティブで暗くて自信が無さそうな男だ」
意外な人物像にまたもや驚愕する。
「音也さんとは真逆ですね」
「ほんと」
二人の言葉を聞きながら音也は続ける。
「だが、芯があってやるときはやるとても頼りがいのある強い男だ」
そう続けた音也の顔はどこか儚く優しそうな顔をしていた。今までの音也からは考えられない顔に言葉をかけることができなかった。
「もしかしたらどこかで会うかもな。その時は息子が世話になる。ちゃんと言うことを聞けよ」
優しく語り掛けくる姿に少し不気味に感じたがあの音也さんの息子という存在にどこか心を馳せる。
「ところでお前らはこんなところでなにしてんだ。デート中か」
「デートだなんてそんな...ふへへへ...」
「さ、さやか?」
「どうした?気持ち悪いぞなんか」
デートと言われてつい嬉しくなって気持ち悪い笑いが出るさやかに困惑する恭介とちょっとひいてる音也。想い人と結ばれたという気持ちが今の彼女を満たしているため調子にのっているかもしれない。
「そうだ、音也さん聞いてくださいよー。あたし魂のありか変わっちゃったらしくてソウルジェムが本体になっちゃったんですよー」
「おい恭介、こいつホントに大丈夫か」
「こういうときは大抵無理してるときなので大丈夫じゃないですね」
笑いながら重要な事実をさやかは軽く雑談するノリで明かす。その様子にまたしても不安になる恭介と音也。恭介はこれまでの経験からさやかが無理をしていると推測する。
「さやか、無理しないで。何かあったら相談にのるからさ」
「無理はしてないよ。なんか気分が舞い上がっちゃってさ。もう!音也さんがデート中とか言うからだよ!」
「なるほど。心配して損した。こいつはガチで舞い上がっているだけだ、空元気などではないらしい」
さやかは照れ臭そうに顔を紅潮させ無理してないことを伝える。音也は本気で照れ臭そうにしていることから言っていることが嘘ではないことを確認する。
「それにさ、あたしはもう気にしてない。この体が脱け殻のこととか魂のありかとかさ。確かに最初はショックだったけど恭介が励ましてくれたからもう大丈夫。いやーかっこ良かったなぁー、"自分の意思で生きることが大切なんだ、魂のありかなんて関係ないよ!"って。もう何回惚れ直したかわかんないよまったく!!」
「さやか、くっつきすぎだよ腕が痺れちゃう」
「俺はお前達の惚気を何回見ないといけないんだ。いい加減胃もたれしてきたぞ」
さやかと恭介の惚気にうんざりしてきた音也は呆れるように言う。数日前あんなに絶望した顔をしていたのにものの数日でここまで立ち直るとは愛の力の凄さを再確認する。
「魂とかそういうのに拘ってずっと暗いままじゃさ、あの世にいるマミさんにも申し訳ないし、せっかくマミさんがくれたこの命を無駄にするような事はしたくない。きっとマミさんも望んでないだろうし。顔を上げて前に進まなくちゃ」
自分のせいで先輩をしなせてしまった事実は変わらない。しかしずっと下を向いていては先輩に面目が立たないと進むことを決意するさやか。その決意はちょっとしたことでは揺らぐことはないだろう。
恭介と同様に強くなったさやかに音也は頼もしさを覚えた。
「改めて音也さん、あの時はありがとうございました。恭介と一緒に色々してくれて。恭介にあたしの状態とか伝えてくれてたりしたんですよね。恭介から聞きました」
「乗り越えたのはお前自身だ。礼を言うなら恭介に言え。アイツの方が色々しただろ」
あの日の感謝を伝える。音也の尽力が無ければきっと恭介もさやかもどうなっていたのか分からない。しかし音也は自分の力と恭介の尽力の賜物だと一蹴する。
そんな時、ソウルジェムが点滅する。
「魔女の反応だ、行かないと!ごめん恭介!」
「そっか、頑張ってさやか!」
魔女の反応に気付くとさやかは魔女退治へと向かおうと足を動かす。
「恭介、お前は行かないのか?」
「行かせられる分けないじゃないですか!!!恭介は一般人なんですよ!危ない目に合わせられるわけないじゃん!」
「僕も行きたいのは山々なんですけどこんな調子で...。まぁ足手まといになるよりかはいいです」
さやかは音也の言葉に激昂する。一般人の恭介を巻き込むわけにはいかないとさやかの主張に恭介は少し無力感を覚えた。
「とにかく恭介は家に帰ってて。さぁ!正義の魔法少女さやかちゃん今日もがんばるぞー!マミさんの意思をついで頑張っていきましょー!!!」
やけにハイテンションで宣言する。前に進んだと言うことなのかやる気が満ち溢れている。今のさやかには敵はいないだろう。
その時さやかは声を聞いた。
『頑張って!美樹さんならできるわ!』
「へ?マミさん?!」
もういないはずの先輩の声が聞こえた気がした。しかし恭介と音也には聞こえなかったのか不思議そうにさやかを見つめる。
「どうした?そんな間抜けな顔して。行くんじゃないのか?」
「なにか忘れ物かい?」
「...ううん、なんでもない」
そういうとそそくさと魔女退治へと急行した。
二人きりになった音也は恭介にあるものを渡す。何かのパーツのようであり二つに別れていた。一つは銃のグリップのような形状でもう一つは小刀の鞘のような形状をしており二つとも特徴的な羽を広げたようなマークが入っていた。
「こいつは二つを組み合わせることで剣になったり鞭になったりする物だ。こいつはどんなやつにも対抗できる。自分の身くらい自分で守れるようにしとけ」
「いや受け取れませんよ」
「いいから貰っとけ」
恭介に強引にアイテムを渡す。渡された恭介は困惑していたが音也の圧に渋々受け取ることにする。使い方をある程度聞いたがとても自分に扱えそうにないそう感じる恭介だった。
「運命の女の身も守れない男は空き缶ほどの価値もないぞ。それに魔女とか言うバケモンが跋扈してるんだ持っていて損はない」
「わかりました。受け取っておきます」
音也の駄々に負け大人しくしまう恭介。そして音也はまた歩き出す。恭介は音也との別れを察し最後に声をかけた。
「また会えますよね」
「たぶんな」
「僕の演奏、絶対聞きにきてくださいよ!」
「いつかな」
なぜかもう会えないような気がして、不安な声でかける。
音也はいつもの調子を崩さず答えた。
別れの挨拶を済ませた後、音也はまたどこかへと消えたのだった。
見滝原のはずれ、どこか人気の無い場所。そこで一人の男がバイオリンを弾いていた。美しい音色が木霊する。自信を感じる力強い音色、しかしどこかに儚さを含んだ繊細な音色、どんな人間も弾くことができないであろう天才的な音色であった。
紅音也、その男が気の向くままに自由にバイオリンを弾く。
そして満足したのか演奏をやめる。
「この街の音楽も中々に奥深いものだな...真夜...特にあいつらの奏でる音楽は...」
音也は空を見上げ、誰かに伝えるように穏やかに呟く。いつもの彼からは考えられない優しい笑みをしていた。
『ありがとう......紅音也さん......』
少女の声が聞こえた気がした。きっとあの時さやかが不思議な顔をしていたのはこういうことだろうと音也は理解した。
「最近はやけに感謝されることが多いな。ようやくこの音也様の偉大さが伝わってきたか」
いつもの声が残響する。そして音也はまたバイオリンを弾き始めるのだった。
これで終わりです。一度思い付くとどんどんいろんな展開が思い付いちゃってここまで書いてしまいました。因みにさやかが魔女化したけど取り戻すエンドややっぱさやか死んじゃうエンド等も思い付いたりしてどうしようかちょっと迷いました。もし要望があれば書くかも。最後の下りはどうしても音也とマミさんを関わらせたかっただけです。幽霊マミさんと色々話す展開もありましたが一言で良いだろうと判断したため一言出演になりました。音也とマミさんどんな感じの会話するんやろ。幽霊マミさんとの会話も要望があれば書くかも?
とにかくここまで読んでくださって大変感謝御礼申し上げます。