恭介と音也   作:ラーキキ

6 / 12
個人的にさやかちゃんは曇ってる時が一番輝いていると思うの。


腐食の鎖 • これじゃあ化け物じゃない

 

 

 

「恭...介...なん、で...ここに...」

 

 困惑した声で問いかける。悩みの種の中には恭介が関係していることもあり会いたかったような、会いたくないような複雑な心情が声に漏れでる。公園で休んでいたときは会いたい気持ちが強かったが来るまでに心変わりがあったのかはさやか本人も分からなかった。

 

「さやかに用があって探していたんだけど音也さんから家に向かってるって聞いて」

「そう...なんだ...」

「大丈夫?声が掠れてるよ」

「だい...じょ、ぶ...つかれてる...だけだから」

 

 明らかに疲れだけが原因ではなさそうな声の調子から心配を強める恭介。息は浅く声は弱々しい、照明が届いていないためにシルエットしか確認できないが姿がフラフラと揺れている。

 誰がどう見ても弱っていると感じるほどに今のさやかは衰弱しているようだった。

 

「やっぱりお前、病院行った方がいいぞ。明らかに様子がおかしい。十人中十人がおかしいって答えるくらいにはおかしいぞ」

「そうだよ!見るからになんか弱々しいよ!」

「ほん...とうに...疲れて...いる...だけだから......」

「なんでそう意固地になるんだ。人の言うことは素直に聞くもんだぞ青髪」

「あなたは...黙ってて...ください...」

「とにかくさやか、今からでも病院に行こう。音也さんもやばい状態って言ってたし」

 

 声が徐々に強まっていく恭介といつものトーンではあるが真剣に忠告している音也、そしてただ疲れているだけだと主張し自分の状態が上手く把握できておらず若干意固地になっているさやか。話は平行線を極め事態は停滞を強いられていた。

 そんな言い合いにうんざりしたのかさやかが強引に前へと進んだ。

 

「さ、さやか...その姿...うわあああああああぁぁぁぁぁ」

「相変わらずひどいな、その姿」

「な、なに?!恭...介...どう...したの?!」

 

 強引に前に進んだことでさやかが照明に照らされその姿が顕わになる。

 その姿に恭介が悲鳴を上げた。さやかは突然の恭介の悲鳴に状況が呑み込めずにいた。

 

「恭介、悲鳴...なんて...あげて...どうし──」

 

 エントランスのガラスに、さやかの姿が反射する。視認できたのは一瞬であったがさやかが自分の姿を認識するには十分すぎた。

 

「いやああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!」

 

 耳をつんざくような金切り声が上がる。何も知らない人が聞いたら即警察に通報するくらいのではないかというほどの痛々しい悲鳴があたりに木霊する。その声に音也は思わず耳に手をあてる。

 

「い、いや...なによ...これ...。私、どう、なっちゃたの...。なんで、こんな...こと、に...なってるの...!!う、うそ...よ...。こんなの、うそ...だよ、ね...?」

 

 さやかはなぜ音也があれ程病院に行けと言っていたのか、なぜ体があんなに重かったのか、なぜあの時涙が出なかったのか、なぜ通行人が恐怖の目で見ていたのか、その全てを、今の自分の状態を理解してしまった。同時に受け入れがたい現実が今自分の前にあること認識し、そして拒絶した。

 今のさやかは体のいたるところが赤黒く変色しどろどろに溶けており、特に衣服から露出している顔や手の崩れ具合からその酷い腐敗具合が確認できる。右手に至っては変色しているだけではなく骨が一部突出しており、人差し指や中指が欠損していた。

 また、この時さやかは学校の制服を着用していたが腐敗液を吸収し茶褐色のシミが大半を占拠し、本来の淡い色が確認できないほどに変色してしまっていた。

 まるでヘドロが人の形をしているような、溶けた粘土細工のようなまさしく悲惨というものでは表しきれない惨状であった。生きているのが不思議なんてレベルじゃない。まさしくゾンビとでも表現しようか。まだ顔の一部分は腐ってはおらず特徴的な青い髪や優しい目元は無事なため、かろうじてそれがさやかだと認識できなくはない。しかし無事とはいっても肌は異様に青白くなっていた。

 

「な、なんで、こんな姿になってるの...。これじゃあ化け物じゃない...」

「う、うぅ、おぇ」

 

 あまりの惨状に恭介は胃酸が逆流してくる感覚を覚えた。しかし気合と根性で流れてくるものを必死に抑え込む。

 

「う、これは...想像以上ですね...」

「よく抑え込んだ。ゲロの処理なんて絶対にごめんだからな」

「そんなことよりほんとにさやか...なんですよね」

「この感じはそうだろうな。仮に偽物だったとしてももっときれいにまねるだろ」

「確かに」

 

 小声でひそひそと話す。今認識していの物体がさやかとは認めたくないと目の前の現実に首を振りたい衝動が現れる。しかしいくら首を振ったところで事実が変わるわけではない。

 

「ご、ごめんね、怖い思い...させちゃったね...。私もう行くから!」

 

 さやかは震えた声で必死に言葉を紡ぐ。一歩、二歩と後ずさりすると途端に振り返り先ほど歩いた道を走ろうとする。それは今の現実から背を向け認めたくないという心情の表れといったように。

 

「待って!さやか!」

 

 それを逃がすものかといった具合に腕を掴む恭介。掴んだ瞬間「グチャ」という音が響く。人の腕を掴んだ感覚ではまるでない、半固形の何かを掴んだようなそんな未知の感覚。そして、近くに来た時、あまりの腐臭に思わず顔をしかめてしまう。

 

「いや!来ないでッ!!」

 

 また、金切り声が響く。

 その時、恭介の脳内に音也の言葉が再生される。

 

"相手がどんな姿になったとしても、受け止めろ、受け入れろ、そして...愛せ"

 

(こういうことだったのか...!)

 

 あのタイミングでの女性の扱い方講座。あの言葉はこうなることを見越して言ってくれていたのか、と真意に気付き妙に頭に焼き付いた意味を理解した。今思えば、音也は先にさやかに遭遇していたためこの惨状を知っているはずである。それなのに恭介に詳しくは伝えなかったばかりか同行を拒否していたのは彼の温情であったと改めて音也に感謝する恭介であった。

 

「おい!落ち着け青髪!そんなに暴れて腕がお別れしたらどうするつもりなんだ」

「いやぁ!放してッ!いやぁ!!」

「おい恭介!こいつ完全に錯乱してるぞ!これ以上暴れられたらマジで色々とお別れするぞ物理的に!」

「僕も何とかしたいんですけどまるで聞く耳を持ってくれないんです!」

 

 音也は珍しく声を荒げ恭介に投げかける。恭介は腕を掴んで必死に大丈夫と呼び掛けてはいる。が、腕を上下に激しく振って金切り声をあげて暴れるさやかにだんだん回復した体力が持っていかれる恭介であったが空元気でなんとか持ちこたえる。

 

「くっそ、早く落ち着かせないと俺ら二人で仲良く警察のお世話になるぞ」

「なにか良い案ありませんか音也さん!」

 

 恭介と音也の二人係で錯乱しているさやかを押さえつけていたが片方がもうじき限界が向かってくる。普段はナンパするために様々な言葉が息をするように出てくる音也ではあるが、一端のそれもかなり錯乱している少女を宥めるのはまさに至難のわざであった。

 

「こうなったら俺のバイオリンを聞かせて落ち着かせるしか」

「この状況じゃ多分弾いても聞いてくれないですよッうわッ」

 

 少し気を抜いてしまい手が離れかける。さやかは依然としてつんざくような金切り声を継続して発している。耳が多少慣れてきたおかげで何とか頭に割けるリソースが増える。

 そうこうしている内に徐々に悲鳴が止みはじめ、掴まれている腕の力が無くなっていく。さやかの体力が無くなってきていることを察知した二人はさらに掴む力を強め声をかける。

 

「やっと落ち着いてきたようだな」

「大丈夫だよさやか。怖い思いなんて全くしてないから!だからねッ!一回落ち着こう!」

 

 ここぞとばかりに声をかける。ここで落ち着かせなければさやかがもう戻ってこない、そんな予感を感じ取り今浮かぶ言葉を全力でぶつける。

 

「まずは一回冷静になるんだ。そうすればこの音也様の美しい顔を拝めるぞ」

「さやか、一回深呼吸しよう。まずは一回落ち着かないと僕たちもどうすればいいかわからないから。ねッ!」

「...ほんとに...はなして...」

 

 そういわれ今度は慎重に腕を放す。また錯乱して走り出してもいいように最大限注意を払いながらゆっくりとさやかを解放する。しかしさやかは走り出すことも錯乱することもなくその場にへたり込んでしまった。

 

「たく、手こずらせやがって」

「落ち着いた?」

「......」

 

 茫然自失。さやかは今にも消えてしまいそうな危うい雰囲気を醸し出していた。痛々しく触れたら何もかもが壊れて無くなってしまいそうな様子でさやかは自分の腐っている方の手を確認する。そして力無く立ち上がるとエントランスのガラスへと歩き、反射した自分の姿を改めて確認する。

 

「...は、はは...なんで、こんな...ことになっちゃったのかな...」

 

 精一杯出せる心の叫び。

 

「さやか、確かにその姿にビックリはしたけど拒絶した訳じゃない。何があったのか聞かせてほしい」

「そうだぞ、説明されなくちゃ対応のしようがないからな」

 

 刺激しないよう丁寧に言葉をつなぐ。ゆっくりと時間が経っていくのを感じる。一秒が十分にも引き延ばされているような緊張した感覚。魂が抜けたようにガラスの前で突っ立ている彼女には依然として動きはない。どう動けば良いのか、何が最適解なのかはまだ分からない。

 しかし痺れをきらした恭介が動く。

 

「さ、さやか?」

 

 あまりの様子になにか反応が欲しくて声をかける。

 

「たす...けて...」

 

 いつもの元気な声でもなく先程の錯乱していた声でもなく弱々しいか細い助けを求める声。二人の方へと振り返り呆然と見つめる。

 

「わ、わたし─」

 

 彼女がまた口を開いた時、新たな声が聞こえる。

 

「さやか!!」

「さやかちゃん!!」

「美樹さん!!」

 

 最初にさやかが来た方向から三つの声。

 

「なんだあいつら。知り合いか?」

「二つは聞き覚えがあるんですけどもう一つは分からないです」

 

暗闇のためシルエットしか見えないがさやかの名前を知っていることから知り合いなのかと推測する。

 徐々にシルエットが近づいてくる。知り合いならどうやって誤魔化そうかと頭を抱える男二人と知っている声に救いを求めるさやかであった。




次回はあの3人が本格的に絡んでくるよ。描写したいシーンを書くと長くなるな~

追記ちょっと描写変えたシーンがあります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。