転生したら名家の四男だったんだが、姉貴はもしかしたらドアマットヒロインなのかもしれない 作:千里亭希遊
----------------------------------- case : someone
多分、ふっと意識が浮上した。
でももうほとんど全てが麻痺していて、夢か現実かもわからない。
ガチャンと、鍵が開く音がしたような気がする。ガラリ、キィ、と、鉄格子の扉が開かれる音が続いた。
でもどこか遠くにぼんやりとしていて、本当に聞こえた自信はなかった。
「ここは、相変わらず臭いわね」
嫌悪をこれでもかと顕に、聞き慣れた声がする。でもやはりぼんやりだった。
もしかしたら、誰かに来てほしすぎて幻聴でも聞こえてきたのかな。
でもなんでよりによってこの子なの?
義妹の立花
「ねえ、おねえちゃん……そろそろ楽にしてあげよっか?」
そう言って彼女はクスクスと笑った。
「だってもう、何も取れるものがなくなっちゃったし」
彼女は何でもないことのように、私の地獄をサラリと口にした。
背筋が寒くなった気がしたけど、それが本当に顕れたのかもわからない。
「安心して、おねえちゃん……ゆっくり、丁寧に、優しくしてあげるから……」
妹はいつもの甘ったるくて優しそうな声音で囁いたけど、悍ましいとしか思えなかった。
それから。
もう無くなったと思ってた痛みと涙は、どれくらい溢れ続けたんだろう。
現実であってほしくなかったけど、夢だったとしてもこんなのを見るのはごめんだった。
気が付いたら、物置きの見慣れた天井が視界いっぱいにあった。
しばらく何がなんだか分からなくて、ただただぼんやりしていた。
まさか、地下牢からここに戻してもらえたの?
というか、私妹のあの鬼畜の所業から生還したの? ほんとに?
無意識にのろのろと上体を起こしてはっとする。
私、もう起きれるはずない。
でも、なくなったはずの手足まで目に入ったことで、一つの非現実的な推測が浮かんだ。
──時間が、巻き戻ったの?
そんな漫画や小説みたいなことが、私の身に起こったっていうの?
……でも。
こんな地獄に帰って来たくなんてなかった。
死んだらいっそ、「私」という存在には完全消滅してほしかった。
別人に生まれ変わってたとしても、ほんの少しの苦しみすらもう経験したくない。
だからって、死は一度経験したみたいなのに、今も自分で命を終わらせるのは怖いみたい。
だったら生きていくしかない。
理不尽すぎて苦しいけど、それしかない。
回帰したっぽいんだから、どうにか避けられることは多いはず。
今生は何としても穏やかな生活を手に入れたい。
もうあんなのは嫌だ。絶対、抜け出してやるんだから!
----------------------------------- side : Kyousuke
「……えっ!?」
頭が真っ白ってこういうこと?
なんて頭の片隅が他人事みたいにそう思った。
「マジ!?
次の瞬間には椅子が倒れる勢いで立ち上がった上に、ばかでかい声で叫んでいた。
抑えきれなかった。
オレが生まれる前に行方不明になってしまった姉貴がとうとう見つかった──そんなの、騒がずにいられる訳ない。
撮影現場の皆が一人残らずオレを見ていた。固まってる。
無理ないと思う。ごめん、許してくれ。一大事なんだ。
「……え!?
事情をポロッと話したことがある俳優仲間の石川
「家族グループに父さんが爆弾投下した……」
オレはやっとそれだけ言った。
監督がオレたちのただならぬ様子を見てかこっちに近づいていてきた。
「
オレはハッとした。
「あ、あぁ……! 休憩中で良かった……思わず……すみません」
「構わんよ。それで、何があった?」
「それが、えぇと」
別に隠すようなことじゃない。それより話すと長くなるのが気になって、頭の中で必死に要点をまとめる。
「オレの三つ上の姉が、小さい頃に行方不明になってたんですけど、ついに見つかったらしくて……!」
「……おおごとじゃないか!!」
監督は一瞬言葉に詰まってから、オレに負けず劣らずの大声をあげた。
「お前、いったん家に帰れ!」
監督が真剣な顔でそう言ってくれて、反射的に頷こうとしたけどハッとした。
「駄目です! ただでさえスケジュール押してるんですから、公私混同はしたくありません! 姉は逃げません!」
「いやお前、こんな時に真面目すぎだろ! ……そんな一大事抱えといて、まともに演技できるのか!?」
監督のこの叱責は多分建前だ。
本心じゃきっと「帰っていいんだぞ!」って言ってる。
「失礼ですねオレはプロです! 意地と矜持がありますよ!
それに、オレの事情で皆の時間無駄にしたくないし、だいたい現場終わらせてからじゃないと、心置きなく何日も姉貴にべったりできないじゃないですか! 対面しちゃったらすぐ帰るとか無理っすよ!」
「……」
監督は引いたような表情で一瞬黙った。
頭痛でもしてそうに眉間を揉みながら逡巡してたけど、そのうち、ハァ、とため息をついた。
「仕事人間め」
「上等じゃないですか」
オレはにししと笑った。
「……気が変わったらいつでも言え」
この監督、強面だし気難しいって評判もあるけど、暖かいとこも多いんだよな。
オレはますますにししと笑った。