転生したら名家の四男だったんだが、姉貴はもしかしたらドアマットヒロインなのかもしれない   作:千里亭希遊

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知っていたはずなのかもしれない

 真実意地と矜持で現場に留まってるが、さすがに気にならない訳がない。休憩となれば真っ先にLIMEの家族グループを覗いた。

 ちくしょう、既に対面済だっていう親父はひたすら可愛い可愛いと発狂し、他の連中は姉貴へのプレゼント等について盛り上がってやがる。

 

「よかったな、馨介(きょうすけ)」

 

 いつの間にか悠乃(ゆうだい)がニヤニヤ顔でオレを見ていた。

 

「ほんと、ほんとに……心底良かったよ! でもこう、苦しくもなるとは思ってなかった!」

 

 オレは髪──この現場では黒のウィッグだ──をくしゃりと握りしめながら言った。今すぐ会いに行けないのが苦しくない訳ない。

 悠乃は吹き出した。おいこら?

 

「八つ当たりは自分の仕事の虫にでもしてろ、俺にするな」

 

 悠乃はそう言って肩をすくめた。オレはジト目を送る。

 

「確かにそのクソ虫も居るけどさぁ……これが初めて名前ある役だし、作品自体も、現場の皆も好きなんだ。穴なんかあけたくない」

 

 刑事物で、主役は悠乃、オレはそのバディ役。必然出番も多く、いなくなれば当然全体が滞る。

 加えて、原作小説を思わず一気読みしたくらいハマった。あの時期、仕事の虫は本の虫に食われてたかもしれない。

 

「おっ、俺への告白か? 悪いな、もう愛しい妻がいる」

「……好きっつったのは、現場の皆、な?」

 

 いつもの悪ふざけだと理解しながらジト目を送る。

 

 悠乃は同じ事務所の先輩だ。彼は二十五の既婚者(愛妻家で有名)、オレは十七の青二才(成人済みの役が来たのは、体格と声のおかげらしい)。

 これだけ年の差があっても、対等な接し方を求めてくる人。

 

 はじめ恐縮してたら、「お前のキャリアが本当は俺より長いの知ってるからな」と圧をかけられた。

 でも彼は誰にでも気さくなので、多分受け入れさせるための口実だ。

 

 オレは七つの頃から十五で帰国するまで、海外で役者兼シンガーソングライターをやってた。

 母国に名が轟くほどでもなかったと思うし、特に公表する気はない。別に隠してもないけど、知ってる人間は限られてる。

 悠乃の情報源は彼の趣味にあった。国内外の有名無名問わず、映画やドラマや音楽を鑑賞するのが好きらしい。

 

「よし、休憩終わり! 次は──」

 

 悠乃とじゃれてたら監督の声が響いた。

 シーンと、対応する役者やスタッフ等の氏名や、ざっくりとした指示が飛ぶ。

 手際よく現場は整えられ、役者たちは心地よい緊張の中物語の世界へと沈みこんだ。

 

 そして次の休憩となってスマホに齧り付くと、オレはぽかんとして少しの間固まった。

 姉貴に許可とった親父が彼女の簡単なプロフィールを書き込んでいた。

 

 十二年前の事故で行方不明になった姉貴は、記憶が曖昧になってしまっていたらしく、別の名前で呼ばれていた。

 

 燈花(とうか)。

 

 そして、亡き母にそっくりだと咽び泣くスタンプや文章とともに、親父がアップしたツーショット写真に皆が皆食いついた。

 有名人じゃん!! とか。

 なんで気づかなかった!! とか。

 まさかって思うじゃん!! とか。

 親子鑑定できる場合以外もう信じられなかっただろ!! とか。 

 

 確かに希望を持っては叩き落とされることに疲れ、皆臆病になっていた所はあった。

 トークルームは喧々囂々。

 

 しかし、ほんと。

 

 ……ほんと。

 

 数ヶ月前オレがとあるバラエティ番組で共演したことのある、万能型マルチタレント。

 あの姿には憧れすら抱いた。

 

 あの人が、姉貴、だった!?

 

 どおりで!!

 

 あの、謎の親近感! 妙に息が合う感覚!!

 

 オレは驚愕と興奮に飲み込まれながら、あの波乱だらけのロケを思い浮かべた。

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