ようこそクソボケ至上主義の教室へ 作:ダマラスカイ31世
ニコニコ動画や、初音ミクを想起させる独特の入店音。そんな音が耳に叩き付けられると同時に、心地の良い冷気が吹き抜ける。
やはり夏場のコンビニは最高だ、なんて考えながらカゴを手に取る米倉。
「先にアイスコーナー行っててくれ。一味も買いたい」
「え? 米倉くんって辛党だっけ?」
「嫌いじゃないハズだけれど……カレーは辛口派らしいから」
小腹のすいた米倉は、おにぎりを手に取り、ツナマヨと漬けマグロ、どちらを取るか悩む。櫛田と堀北の疑義なぞ、この二択の前ではどうでもいいのだ。本当はイクラも捨て難いが、いささか値段が高い。
そんなことを考えている米倉の腹がつつかれる。
「無視しないでよ。い・ち・み……なんで?」
「報復のために決まってんだろ。明日カス共の給食に仕込むんだよ」
「まだ懲りていないのね。愚かしい」
「幸いスピリタスが家にあるんだ。カプサイシン抽出してぶっかけてやる」
「米倉くん、給食の異物混入はシャレにならないからやめようね」
米倉は、苦虫を噛み潰したような面をした。確かに櫛田の言う通りだ。給食の異物混入。ましてカプサイシンを抽出した
「悪かったな。櫛田……給食に細工するのは辞める。そこでなんだが、カスども宛にクッキーを作ってくれないか?」
「今、共犯者にされかけてる?」
「なに、問題は無い。早世することになってしまうが、最後の晩餐がお前の手作りクッキーなら悔いはなかろうよ……」
「貴方、報復の内容が
堀北は、米倉のおにぎりを左手で奪い、右手で米倉の腕を引っ掴む。早足でアイスコーナーへ向かえば、いつものヤツをケースから取り出し櫛田へ手渡した。
「くだらない事言ってないで、会計するわよ」
堀北鈴音は焦っている。余裕なぞ1ミリもない。
理由は単純明快。坂柳有栖の存在だ。
本来、堀北鈴音という人間は、ライバルの出現でメンタルを崩す程、やわな人間ではない。しかし、坂柳有栖だけはダメなのだ。対抗する余地が限りなく少ない。坂柳有栖は堀北鈴音の対極に存在する、それが堀北の推察だった。
堀北鈴音は美少女だ。濡れ羽色のショートカットに、鋭い知性を思わせる切れ長の目。スタイルだっていい。157cm。スラリと伸びた脚に、くっきりとしたクビレ。胸だってDの大台に乗ったのだ。
米倉争奪戦において、外見においても引けをとらないと堀北鈴音は確信している。それでも坂柳有栖はダメなのだ。
坂柳有栖は美幼女だ。白銀に近い薄紫のセミロング。白磁を思わせる透き通る肌。庇護欲を誘う145cm、しかし2次性徴をしっかりと感じさせる丸み。しかし胸は絶壁である。
故に堀北鈴音は恐怖した。自身と対極にいるからこそ、敵たりうる。そう『ロリータ』だ。ロリータの恐怖。その体現者こそが坂柳有栖なのだ。
堀北鈴音は未だに米倉の好みの女性像を知らない。本人が教えてくれないのだ。『そもそも初恋がまだな為、好みもクソもない』と。また、米倉と男子達の下ネタ談義に猥談は無く、検索履歴も一年以上遡ったが、そういうものは無かった。『どんなモノに性的興奮を覚えるか』すら特定できていない。
つまるところ、『米倉和哉ロリコン説』が成り立ってしまうのだ。あまりに恐ろしい新事実。
堀北が少しでも艶のある女になりたいと。毎日飲んでいた牛乳。身長にいいとされるストレッチ。胸のマッサージ。その他etc...。全てが水泡に帰した……否。仇となった可能性すら出てきたのだ。
確認しなければならない。坂柳有栖とは何者か。米倉はロリコンなのか……貧乳派か巨乳派か。聞かねばならない。
一行は、会計も終わり店外に出た。爆発的な熱風に心を焼かれながら、アイスの入ったビニール袋に視線を向ける。
堀北は、アスファルトの照り返しに耐えながら、アイスの包装を剥いては友人に手渡し、ゴミを懐に入れる。2人に渡し終えれば。奢って貰ったアイスにハムッと齧りつくと、茹だりそうなアタマが冷え、勇気が湧く。ついに、一昨昨日、金曜日より抱えていた疑問の解決に動いた。土日のモヤモヤを発散しなければならないのだ。
「私、最近アニメや漫画に初めて触れたの」
「堀北が!? 明日は写輪眼が降るぞ……」
「ダンゾウも驚くでしょうね」
「鈴音ちゃん、NARUTO読み終わったの?! 70巻近くあったよね??」
「米倉くんの裁縫セットがNARUTOだったから……」
堀北は、自嘲する。絆されたものだと。あまりに心地がいいのだ。中身もなければ、有用性もない、無為な時間。しかし、蔑ろにはしたくないと思えるそんな時間。
だが、切り捨てる。堀北鈴音は、斬り捨てる。
「話を戻すけれど、''妹萌え''というものを知ったわ……」
「「………………」」
半径3メートル。奔る戦慄。逸るコルチゾール。犇るノルアドレナリン。趨るアドレナリン。迸る危機感知。
真顔の堀北の言葉に、米倉と櫛田の歩みが止まった。
歩みが止まる、猿でもわかるであろうその訳。堀北鈴音は妹である。兄『学』がいるのだ。そして、兄妹揃いも揃って、シスコンブラコンを発症させている地雷。特に妹は、家族愛しか知らぬ故か、敬愛を恋情と勘違いしかけたクソ間抜けである。
もちろん、中学生に上がって解決はしているが、それでも『クソ間抜け』から『妹萌え』が出てくるのはまずい。
米倉、櫛田の両2名の思考はリンクした。
「そんなジャンルがあるとは知らなんだ……」
「イモとモエ? なんかのキャラ? グリとグラみたいな……」
「妹キャラには大きく分けて2種類あるの。年の離れた者と年子よ。そこでなんだけど、米倉くん。貴方はどちらが好みかしら?」
「えぇ……」
2人の抵抗は無意味だった。まるでロードローラーに轢き潰される砂利の如く、認知さえされない僅かな抵抗。
堀北は、止まらない。捨てたのだから。諦めを、惰弱を、無知を、蒙昧を棄てたのだ。あの日、己を克服し、兄を超克し、彼と共に歩む。そう決めたのだ。
未知を恐れろ。しかし歩みを止めるな。その一歩を危ぶむな。未知を既知へと変えろ。草を踏み、木を掻き分け、屍を越える。それが既知への道となるのだ。
道を闢く者を、英雄と言うならば、ああそうとも。
堀北鈴音の胸中は、眩い黄金に溢れている。
「答えてくれるかしら。
「わけがわからないよ、と米倉は米倉は絶句したり」
「答えなさい!」
「いや……えぇ……まぁ妹キャラなら歳が離れてるのがいいな。言われてみれば、好きな弟キャラも歳離れてるし」
ヒラメキ。万人に与えられた、直感的な論理思考。時に天才を凌ぐ程の知恵を与える輝き。しかしそれは、相手も時も場合も選ばない。
堀北は、最悪が頭に浮かぶ。しかし止まりはしなかった。否止まれなかった。歩みを進めてしまったのだから。『ああ、なるほど、パンドラの匣の神話もあながち嘘では無いのであろう』そんなことを思いながら言葉を紡ぐ。
「………………貴方、ニャル子さんのハス太なんてどう思う?」
「ん? ああ。好きだぞ。ハス太。基本いい子だし」
堀北が貫いてきた無表情、ついに歪む。噛み締めた歯から、キリキリとした嫌な音が響いた。眉間から鼻根にかけて深いシワが走り、左脳を酷使しているのか右目が引き攣り薄められる。
「ロリコンどころか……ペドフィリアなんて。度し難いわ…………」
「おい待て、何が起きた」
「安心してちょうだい。私はそんな貴方でも見捨てないわ。嗜好を無くすことは出来なくても、より好きなものを作ればきっと…………」
「ホントに何?! 不名誉が過ぎる!」
櫛田桔梗は、溶け始めた液が棒をつたい始めたアイスを食べながら、内心せせら笑っていた。最初こそ混乱したものの、話を聞けば『坂柳』なる人物のせいで堀北が暴走したのは自明だった。人伝に聞いた兄との件といい、今回の件といい、肝心なところでやらかす堀北はいつ見ても面白い。何より、未だに『米倉和哉の心が自分に向く』と思っているマヌケっぷり。あまりにも愚かで愛らしい。
十分に混沌を堪能した櫛田は、鎮静化に動く。
「私なんとなくだけど、状況が見えたよ。坂柳さんのことだよね?」
「はぇ? なんで坂柳?」
「……貴方のスマホを没収した時に、メッセージアプリの通知が来たのよ。坂柳有栖という人物から」
「それでね……そのメッセージの内容がスクール水着の自撮りだったらしくて……その、なんというか……ね?」
米倉は、腕を組み唸っていた。己の行動を振り返りながら必死に情報を精査していたのだ。そして
米倉は中三という遅めの第二次成長期を迎えており、途中ながらも175cmの体躯を持っている。水族館に行けば、中学生ではなく高校生と扱われ600円多く取られた過去のある男。そんな奴が、身長140だか150くらいの、中学生どころか小学生に見えかねない女子の写真を持っている。それもスクール水着。挙句、露呈の発端が「エロ動画を見ていた為スマホ没収」だ。
米倉の額には酷暑とはいえ信じられないほど汗が浮かぶ。確かに、米倉という人間は、風聞を気にする質ではないが、これはまずい。というか嫌だった。土下座か、袖の下か、いっそ同性愛者と宣うか……。
「俺はロリもショタも趣味ではない。ペドフィリアなんかじゃ断じてない! 俺のタイプは……! まる子の母、さくらスミレだ!!」
「ナッ?!」
「バカ野郎が……」
櫛田は頭を抱える。何故『ただの友人だ。自撮りは送り付けられてるだけだ』と言えば終わる話題を、こう拗らせるのか。
櫛田は、衝撃のあまり機能停止した友人の頭を叩き、収束に励むのであった。
「とりあえず、スマホを返すわ。風紀に反する動画は二度と校内で見ないで」
「すまなんだ。ありゃ俺が悪かった」
「そういえば……なんでエッチな動画見てたの? プライベートですら見てなさそうなのに」
櫛田は引っかかりを口にした。米倉から男特有の下劣な視線を感じたことはなかったし、櫛田ですら知っている女優の名前すら知らず、猥談に振り落とされていることを目撃していたのだ。
その事から、米倉の性欲は極めて薄いか、皆無なのだろうと考えていた櫛田には、『エロ動画視聴』は寝耳に水だった。
「いや、正確にはエロじゃないんだよ。『エロだった』だけなんだ」
「まぁ、確かに。あの映像に学術的価値があった事は認めるわ」
「ごめんね。さっぱり分からないや」
「面白論文を探していたんだよ。バナナの皮はなぜ滑るのか……みたいな。それで、ド下ネタ系があったから思わずな」
「ふーん。よく分からないけど、エッチなのが目的じゃ無かったんだね」
家路もあと半分ほどだろうか。誤解も解けたことだし、もう少し生産的な会話をしようと、一同は1週間後に訪れる夏休みの話題に入った。
「受験あるけど、1日くらいは遊びたいよね」
「そうね。花火大会なんてどう? 2、3時間程度なら問題ないわ」
「そういえば今年は、8月中にでかい大会があるんだったな。楽しんでこいよ」
堀北と櫛田は怪訝な顔をした。
「貴方の参加も決定しているのだけれど」
「うん。インドア派って訳じゃないんだし」
「んぇ? 言っただろ。親父が帰ってくるって」
2名は、脳内が疑問符に埋まる。応えが答えになっていないのだから仕方が無い。
「忘れてんのか? 思い出せよ。そもそも俺が
米倉は呆れた顔で情報を吐き出す。
「親父が海外赴任したから来たんだよ。だから帰って来るなら戻るだろ。
「「は??」」
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