ヴェロニカ・ウィーズリーとヒュドラ・マルフォイ 作:ワズリブ
「君、ハリー・ポッターって本当かい? 僕、ロニー・ウィーズリー、よろしく!」
ハリー・ポッターが魔法界で初めて出会った友人が、ヴェロニカ・"ロニー"・ウィーズリーだった。
「僕は兄貴が五人もいてさ、はじめての妹だってもんで、すごくかわいがってくれたんだ。一番上のビルは、マジでかっこいいんだよ。僕もビルに憧れて髪型とか真似てるのさ。おまけに首席! 二番目のチャーリーは、クィディッチのキャプテンで、いまドラゴン使いをやってる! 三番目のパーシーは、クソ真面目だけど、きっちりしてて面倒見よくてホグワーツの勉強も教えてくれた。四番目のフレッドとジョージは、本当に面白いのなんのって!」
目を輝かせて家族について語るロニーは、とても眩しかった。
ロニーはハリーよりもずっと背が高くてしなやかで、燃えるような赤毛をポニーテールにしていて、片耳に牙みたいなイヤリングをつけている。ほっぺたのそばかすが目立つが、それもふくめて、とびきりかわいくてかっこいい。
「兄貴たちはみんな凄いけど、でも僕は兄貴たちの良いとこ全部合体したから、無敵なんだよ」
にかっと笑うロニーを見ると、ハリーも嬉しい気持ちになってきた。ハリーは今まで、おなじ年齢の子と、仲良く話したことがなかった。いとこのダドリーにいつもいじめられていたから、誰もハリーに話しかけようとはしなかったのだ。
「すごいなあ。ハグリッドが教えてくれるまでは、僕、自分が魔法使いだってことも全然知らなかったよ」
「でも君、マグルの小学校ってとこ通ってたんだろ? 僕、学校はじめてだからさ。小説とかは色々読んだけど、楽しみさ」
「ロニーはもう、魔法とか使えるの?」
「簡単なやつならね。ほら、この服を見てて――
そこでべつの声が割って入った。
「へえ、このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって聞いていたけれど。君だったのか」
ハリーは息を呑んだ。プラチナブロンドの髪の、真っ白な肌の、人形のような子が、ガッチリした男子二人を脇に連れて、入ってきた。
「マダム・マルキンの洋装店で会ったね? ハリー・ポッター君」
「そうだったね」
胃のあたりに震えを感じながら、ハリーは答える。
「こいつらはクラッブとゴイル。そして私はマルフォイだ。マルフォイ家の長子、ヒュドラ」
滑らかで品があるが、どこまでも尊大で、自分が世界の中心にいるかのような声色。
しかしロニーはクスクス笑いをごまかすように咳払いした。
「……私の名前が変だとでも? 君はウィーズリーの家だろう。父上からよく聞いているよ、赤毛でそばかすで子だくさんで貧乏、おまけに『血を裏切る』家」
マルフォイは冷たく言いはなつと、ハリーに向き合った。
「ポッター君。魔法界には、家柄の良い家系と、そうでない家系が混ざっている。魔法使いの家ですらない野蛮人も。――付き合うべき正しい友の見分け方は、私に任せてくれたまえ。薄汚いマグルの世界で育って、苦労も多いだろう。君の知らない魔法界の色々なことも、ぜんぶ私が教えてあげよう」
少女はやわらかく微笑むと、ハリーに手を差し出して握手を求めた。
しかしハリーは、いくらきれいだからといって、意地悪そうなこの少女をどうにも好きになれそうになかった。
「付き合うべきかどうか見分けるのは自分でもできると思うよ。たとえば今もね。わざわざどうも、バイバイ」
ハリーが冷たく言うと、ロニーはうれしそうに胸をなでおろした。
ヒュドラ・マルフォイの表情は、ひどく侮辱されたと言わんばかりになった。白い頬に、ピンク色が差した。
「……ポッター、無礼者め。マルフォイ家の好意と親切を踏みにじるとは」
マルフォイはハリーの横に回り込み、耳元で囁く。蛇のようにからみつく声、蛇のような鋭い視線。
「ウィーズリー家や野蛮人ハグリッドのような下等な連中と一緒にいると、同類になってしまう。――気を付けないと君の両親と同じような道をたどることになるぞ。君のご両親も無知だった」
ロニーは立ち上がった。髪は燃えるように赤い。
「闇の陣営に味方して嘘ついて戻ってきたお前の家のほうがずっとダサくて『下等』だからな。それにハリーが『あの人』を倒したんだ。お前らこそ敗れたんだ!」
マルフォイはロニーを凍える視線で睨みつけた。
「…………ウィーズリー。いま呪いをかけるのはやめておこう。ホグワーツの地下洞で這いつくばって泣き叫んで後悔する日が来るのを、楽しみにしていろ」
マルフォイはハリーに顔を向け、ぞっとするような笑顔を作る。
「ポッター。私は寛容だ。そいつではなく私のもとに来るなら、いつでも謝罪を受け入れる用意がある。それまでは精々、君が堕ちてゆくさまを特等席で楽しませてもらうとしよう」
クラッブとゴイルをしたがえてマルフォイはコンパートメントを出て行った。
ロニーは唾を吐いた。
「ハリー。あんな奴のことを気にするなよ。一家みんなスリザリンだ。僕らには関係ない。――ハリー?」
ぼうっとマルフォイの後ろ姿を見送っていたハリーに声をかける。
「……ホグワーツには四つの寮があるんだっけ? 君のお兄さんたちは何の寮なの?」
「勇気あるものが住まう寮、グリフィンドールさ! 僕もそこに行きたいな。ハリー、君もおいでよ」
そして、列車はホグワーツ魔法魔術学校にたどりつき、ハリーもロニーもグリフィンドールに組み分けされた。マルフォイはスリザリンだった。
ホグワーツの学校生活が始まった。
■
授業は難しくもおもしろかった。それにいつもロニーは明るくおしゃべりで、ハリーを笑わせたり手助けしたりしてくれた。ハリーは、同じ部屋の男子のネビル(ドジでいつもメソメソ泣いている)や、ディーン、シェーマスと過ごすことよりも、ロニーと一緒にいる時間のほうが多かった。
「まあ『変身術』はいちばん難しいってパーシーも言ってたから、今日できなくても心配しなくて良いよハリー。僕ができたのはパーシーのおかげさ。――まあ、ハーマイオニー・グレンジャーはマグル出身だけど、教科書ぜんぶ覚えてるって言ってたし頭がとくべつ良いんだろ」
「だめだハリー、ネビル、ここの階段って一段消えちゃうんだ、ジャンプしないと――あちゃー、ハリー、一緒にネビルを引っこ抜くのを手伝って」
「やっごめんウトウトしてた、肩に頭のせちゃってごめんよハリー、『天文学』の授業が真夜中にあるってありえなくないか? 僕なんていつも九時までに寝てたからさあ、真夜中まで夜更かししようとするたびにママに殺されてたぜ」
「ウワー、『魔法史』の授業ってほんとにゴーストがやってるしつまらないし寝てても何も文句言われないんだ。逆に何なら怒られるのか今度試したいってフレッドが言ってた。こんど僕らで先にやってみない?」
でも、「魔法薬学」の授業は最悪だった。マルフォイらスリザリンと合同というだけでなく、担当のスネイプ教授が最悪だった。――入学式の頃からヘンだと思っていたが、スネイプはハリーを明らかに憎んでいた。
「ああポッター……われらの新しい……スターだね」
出席を取るやいなや、スネイプはハリーにねっとりと意地悪な笑みを浮かべた。
スネイプはハリーにいきなり訳の分からない質問を浴びせた。
ロニーがハリーの右足をそっと踏み、羊皮紙の紙片をこっそり見せる。――「たしかベゾアール石はヤギだった気がする。あとはごめん知らん」
しかしハリーが口を開く前にスネイプが目ざとく見つけてねっとり嘲笑う。
「ウィーズリー、有名人だろうとなんだろうと、我輩はカンニングを許可していない。グリフィンドールは二点減点。ポッター、それでこの程度のことも知らないと? チッチッチッ、グリフィンドールは予習が足りんな」
そしてスネイプは、マルフォイを当て、マルフォイはすらすらと答え、スネイプはスリザリンに加点した。
ロニーが再び足を踏んで羊皮紙を見せる。
「スネイプの授業は
ハリーはニヤリとした。スネイプの視線がマルフォイからハリーのほうに移ると、ロニーは紙をくしゃくしゃ丸めてすまし顔をした。
■
ヒュドラ・マルフォイと出会うまでは、ダーズリーより嫌なヤツらがこの世の中にいるなんて、ハリーは思っていなかった。マルフォイは顔を合わせるたびに、嫌味と嫌がらせをしてくるのだった。
「ポッター、その薬はなんだ、ちゃんと教科書通りに右に三度かきまぜたのか? ウィーズリーのそばかすみたいにブツブツと汚らし――っ――、あのスネイプせんせー、ウィーズリーが、いま私にー、コウモリの脾臓を投げつけました」
「やあポッター、このチョコレートは実においしくてね、きみもご家族からの差し入れは来たかな? ――ああそうか、すまないね、君には、家族がいなかった。ひとかけら食べるかい?」
「ポッター、きみ、何でいつもウィーズリーにべたべたくっついているのか? もしかして、男子の友達がいないのか? まさかロングボトムを友達と呼んでいるわけではないだろう? 友達の作り方は、マグルの学校で教わらないのか?」
「おおポッター、今日もメガネが割れていてみすぼらしいな。『レパロ』のひとつも覚えていないのか? いや、ウィーズリーのような野蛮人には教えてもらえるわけもなかったのか」
「それにポッター、君、何でそんなに痩せているんだ? マグルはろくに食べ物を取れないのか? 肉というものは知っているか?」
「ポッター、君、次の飛行訓練は大丈夫か? マグルは空も飛べないんだろう? オムツの準備と医務室の予約をロングボトムとやっておいたほうが良いんじゃないか? 箒の本も貸してあげようか」
そして、マルフォイと顔を合わせる魔法薬学のクラスに加えて、楽しみにしていた飛行訓練の授業もスリザリンと合同と知り、ハリーはがっくりした。
「マルフォイの目の前で箒に乗るなんて、最悪だよ。どんなに馬鹿にされるか」
「いや、あいつはクィディッチうまいって自慢してるけど絶対そんな上手くないぜ。僕のほうが上手いからな」
ロニーは自信満々に言った。ロニーは箒の乗り方や魔法界で大人気の箒のスポーツ「クィディッチ」について、ハリーに色々聞かせてくれたものだった。
そして迎えた飛行訓練の時間。
「私が笛を吹いたら、地面を強く蹴りなさい。一、二の――」
ネビル・ロングボトムは焦ったのか、先生が笛を吹くまえに地面を蹴ってしまい、グワっと空に飛びあがってしまった。六メートルも飛び上がり、そして制御を完全に失い、墜落する。
「私が医務室に連れていきますから、皆さん動かないように! 動いたら退学です」
飛行訓練の先生マダム・フーチがネビルを連れてゆくと、マルフォイがくつくつと笑いだした。
「あいつの顔を見たかい? グリフィンドールの徳目のかけらもないじゃないか」
そしてマルフォイは草むらにかがみこみ、赤く光る玉を取り出した。
「ロングボトムのばあさんが送ってきた『思い出し玉』だ。――あいつはばあさんに言われなかったのか? ――『笛が鳴る吹く前に地面を蹴ってはいけません』」
「マルフォイ、こっちに返せ」
ハリーがマルフォイを睨みつけると、マルフォイはニヤリと笑った。
「私からきちんとロングボトムに返してあげるとしよう。ロングボトムが後で取りやすい場所にね」
マルフォイは箒にひらりと乗ると、樫の木より高く優雅に舞い上がった。――たしかに箒がうまいのは本当だった――ハリーは思わず、しばし見とれてしまった。
「ポッター、君はここまで取りに来れるかな?」
挑発するマルフォイの声を聞いてはっとなり、ハリーは箒をつかんだ。
「だめだ!」
しかしロニーが箒をつかむ。
「ハリー、君は箒に乗るのが初めてだろ。僕が行くよ」
ロニーは地面を強く蹴り、まっすぐ空を駆け、マルフォイと同じ高度に並んだ。
「どうしたマルフォイ。ビビってるじゃないか」
「私が? 馬鹿も休み休み言えウィーズリー、君の声こそ震えているだろう」
ハリーはなぜか、自分は飛び方を知っている気がした。果たして、ハリーはロニーとマルフォイと同じ高さに舞い上がることができた。箒は自分の手足のようだ。
「ロニー! ハリー! 私たち退学になるわよ!」
ハーマイオニー・グレンジャーの叫び声は気にならなかった。
「うわハリー! 君すごいな!」
ロニーが笑顔を向けてくる。ハリーも照れくさそうに笑う。
「さあマルフォイ、まだやるつもりか? 挟み撃ちにしてやるぜ」
「…………取れるものなら取ってみるがいい」
マルフォイは「玉」を高く投げ上げ、地上に戻った。
「ハリー、無茶だ!」
ロニーの制止を聞かず、ハリーは十六メートルも急降下し――地面スレスレで玉をキャッチした。グリフィンドールの歓声が爆発する。
「ハリー・ポッター!」
グリフィンドール寮監のマクゴナガル先生の叫び声が響いた。競技場が静まりかえる。
「よくもまあ――こんなことは――ホグワーツで初めてです。……ついて来なさい」
グリフィンドール生は次々に声を張り上げた。
「先生、違うんです」
「ハリーじゃなくてマルフォイが悪いんです――」
「お黙りなさいトーマス、パチル」
「先生、僕がハリーを誘ったんです! 僕を連れていってください」
ロニーが前に進み出た。
「くどいですよウィーズリー。さあ、ポッター」
しかし、絶望したハリーに突きつけられたのは、退学処分ではなかった。
「クィディッチのチーム入りだって!? それも『シーカー』! 十六メートルもダイビングしてキャッチできたから? 一年生は絶対ダメだって……チャーリーですら……」
夕食の席でロニーは驚愕で口をあんぐり開けた。
「百年ぶりだって。キャプテンのウッドが言ってた」
「……そうか。良かったなハリー、おめでとう!」
ロニーはハリーの肩をバシリと叩いた。その声が不自然に高かったことにハリーは気づいた。
ついでロニーの兄、フレッドとジョージの双子がハリーのもとにやってきて、低く矢継ぎ早に話しかけた。
「すごいなハリー、ウッドから聞いたぜ。俺らも選手だ――」
「――覚悟しとけよ。ウッドのしごきはきついぜ――」
「――そんな苛酷な特訓を経ても我らは鳴かず飛ばず――」
「――チャーリーがいなくなってからてんでダメだ――」
「――しかし今年のクィディッチ・カップはいただきだ――」
「――ウッドときたら小躍りしてたぜ――」
「――比喩でなくマジで談話室のテーブルで躍ってたぜ――」
「――ロニー、残念だったな。チャーリーの後を継ぐ夢をハリーに越されちまった――」
ロニーはそっぽを向いた。
「しかし来年もまたチャンスがある――」
「――ハリーを正々堂々なぎ倒せ。毒を盛ったりはするなよ、ウッドがショックで倒れちまう」
フレッドとジョージが去って、ハリーはこわごわロニーに声をかけた。
「……もしかして怒ってる?」
「……別に」
ロニーは黙ってポークチョップを口に運んでいたが、しばらくしてぽつりと声を出した。
「……ごめんハリー。実は、悔しかったんだ。僕、ずっとクィディッチが好きでさ。毎朝、ママにバレないようにチャーリーにこっそり箒の特訓してもらって、チャーリーにもセンスあるって言ってもらえて、ぜったい二年生になったらシーカーになりたいって思ってた」
「……」
「だから――君が初めて箒に触るのに、あんなに天才で、いきなりマクゴナガル先生にスカウトされたことに、嫉妬しちゃってる」
ロニーは頭をくしゃくしゃ掻いた。
「あーもう、友達なのに本当ごめんよ、どうしても悔しいや。……だからさ、絶対勝ってくれよな。スリザリンなんかに負けるなよ」
「……うん」
にかっと笑顔を作るロニーを見て、ハリーは固く誓った。