ヴェロニカ・ウィーズリーとヒュドラ・マルフォイ 作:ワズリブ
しかし直後に、見たくもない顔が現れた。クラッブとゴイルを引き連れたマルフォイだ。
「ポッター、最後の食事かい? マグルのところに帰る汽車にはいつ乗るんだい? もっと食べておいたほうが良いんじゃないか? ほら、このチョコレートは要るか?」
「やけに元気だねマルフォイ。お空と違って地上では小さなお友達もいるからかな?」
マルフォイは目を細めた。
「私をまた侮辱しているのか? 有名で箒が上手いからって調子に乗らない方が良い。私一人であっても君は私にかなわない。魔法使いの決闘で相手になろうじゃないか」
ロニーがすかさず言う。
「そんな度胸も無いくせに。口だけの挑発だろ?」
「お望みなら今夜でも相手になってやろう。真夜中に『呪文学』の教室で」
余裕の表情で言うマルフォイに、ロニーは腕を頭の後ろで組む。
「どうなんだか。マルフォイどうせお前、管理人のフィルチに言いつけるつもりだろ? スリザリンの家はそういう卑怯なことをする」
マルフォイの青白い頬に赤みが差す。
「マルフォイを侮辱するな、ウィーズリーめ。……良いだろう、お前から潰す。お前に決闘を申し込む。神聖な決闘から逃げようものなら、お前こそグリフィンドールの名折れだ」
「オーケーオーケー、
「クラッブだ。私一人で十分だがね」
そうしてマルフォイが去って、あっけらかんとロニーは言う。
「わるいハリー、まあ今夜マルフォイを潰すチャンスだ」
ハリーは不安そうに聞く。
「……決闘って何? 介添人って?」
「杖で呪文を打って戦うんだよ。介添人っていうのは、僕が死んだら戦ってもらうことで――あ、いやもちろん、一年生の喧嘩で死んだりしないよ、せいぜい鼻血が出るくらいさ」
「君に戦わせるわけにはいかないよ!」
ロニーは手をハリーの肩にのせた。
「いやハリー、君はまだ喧嘩のやりかた知らないだろ」
ロニーは舌をペロッと出した。
「ただ、僕も決闘のやりかたをちゃんとは習ってないんだよね。得意な呪いはあるけどさ。あとでフレッドに聞いたり図書館にも寄る時間はあるな」
「大丈夫なのかな? マルフォイ、そういうのを習ってるんじゃないの」
「まあ最悪、鼻にパンチすれば良いだろ。僕のほうがデカいし」
「クラッブは?」
「股を蹴ればオーケー」
「ちょっと失礼」
ハーマイオニー・グレンジャーだ。
「絶対ダメよ! 校則を破るなんて! 絶対に捕まってごっそり減点されるわ!」
「心配ありがとハーマイオニー、でも僕はジョージに捕まらないコツを教わったから大丈夫さ」
ロニーはそれ以上ハーマイオニーに何かを言わせるまえに、立ち上がった。
そして真夜中になった。
「……怖気づいて逃げ出さないとはね」
月明りの部屋で、マルフォイが教室の壁にもたれていた。
「そっちこそ。どうせフィルチに言いつけてると思ったぜ」
ロニーは軽く屈伸した。
「決闘って、どうすれば良いんだっけ? とりあえずお辞儀するか、お辞儀。――はい、じゃあハリー、三二一を数えてくれ。それではじめよう」
「え? さん――に――いち――」
「
ハリーが数え終わるか終わらないうちに、マルフォイの杖から大蛇が飛び出した。大蛇は威嚇の声を上げながらロニーに牙を剥く。ポニーテールを揺らしながら、ロニーは横跳びにかわした。
「……くそ、
大蛇の鼻から黒い翼を持った何かが飛び出して、大蛇にまとわりついた。大蛇はもがくうちに破裂して、黒い煙になった。
「
ロニーはすかさず唱え、青白い光がロニーの杖から飛び出した。マルフォイは斜めに体をそらし、光を避ける。そして杖をロニーに向け、マルフォイは再び唱えた。
「
銀色の光がマルフォイの杖から飛び出る。ロニーに当たる前に――何かが躍り出て受け止めた。
ポルターガイストのピーブズだった。
「お~やおや、一年生が四人も真夜中に。ベッドを抜け出してケンカかな? い~けないんだ、いけないんだ。フィ~ルチ~に、言っちゃ~おう」
ピーブズは底意地の悪い笑顔を浮かべると、息をゆっくり吸い込み、叫ぶ準備をした。
「…………中止だ」
マルフォイはすぐさまクラッブを引き連れ、ドアから出ていった。ロニーも叫ぶ。
「逃げろ!」
ハリーとロニーは命からがらピーブズとフィルチから逃げ、何とかグリフィンドール談話室にたどりついた。……いや、命からがらの大部分は、その途中に四階の「禁じられた廊下」で怪物犬を見たからなのだが、ハリーもロニーもがんばって忘れようとした。
■
毎日の宿題と、クィディッチの練習に追われ、気づけば二ヶ月が経過していた。ロニーは相変わらず明るくおもしろく、マルフォイは相変わらずマルフォイだった。
「今日は『浮遊術』をやります!」
ハロウィーンの日の「呪文学」で、小さなフリットウィック先生がキーキー声を上げ、みんな歓声を上げた。物を飛ばすなんて、真っ先に使ってみたい魔法だ。
「
「
しかし、浮遊術は難しかった。ハリーもシェーマス・フィネガンもラベンダー・ブラウンも、みんな羽根が机にはりついたままだったり、羽根が燃えたりした。
「腕を振り回したらだめよ! 先生がおっしゃってたじゃない! それに発音もウィン・ガー・ディアム・レヴィ・オーサってきれいに言わないと!」
ハーマイオニーのツンツンした声が響く。
「あのさハーマイオニー、ちょっと黙っててくれない? 君ができたのは分かってるから」
「まあまあシェーマス、ちょっと僕の動きをゆっくり見ててよ、
「さすがロニー! なんか俺もやれる気がしてきた!
そしてクラスが終わり、生徒達はまとまって廊下を歩く。
「やっぱロニー、ロニーは勉強できるのに嫌味じゃなくて分かりやすくて良いわ」
「ありがとラベンダー。あいつも頑張ってて可愛いと思うけどなー。……まあたしかにちょっとママとかパーシーみたいでうるさいけどさ。最近ママイオニーのせいでママの悪夢をよく見るんだよな」
誰かがハリーの背中にぶつかった。ハーマイオニーが泣きながら走っていた。ロニーは気まずそうに肩をすくめた。
「まあでも本当のことだしなー。すぐに忘れるっしょ」
しかしハーマイオニーは午後のクラスに出てこなかった。
「トイレで泣いてた。独りにしてだって」
パーバティ・パチルはラベンダーとロニーに説明した。
「まじで? なんかうちらが悪いみたいじゃん」
「……ハリーごめんな、ちょっとハロウィーンパーティは後から行くよ」
ロニーはハリーに言い残すと、女子トイレに向かった。個室に向かって問いかける。
「ハーマイオニー、ハロウィーンパーティー来ない? めっちゃ美味しいご馳走あるぜ。昼間はイジってごめんよ」
「……! その……! あなたの……! 上から目線で良い子ぶるのやめてよ……! どうせあなたも私のこと馬鹿にしてるくせに……! あなたが一番……!」
ハーマイオニーはしゃくりあげた。
「私は……皆のためを思って……でもうまくいかなくて……私は……ずっと勉強しか……ちゃんとルールを守って……でもあなたは……なんでもこなして友達もたくさんいて……!」
「うーん、いまいち言ってることよくわからないけど、僕は兄貴たちに色々教わっただけだからなー。一人っ子でマグル生まれで最初から優等生なのハーマイオニーすごくない? 僕、君みたいに教科書ぜんぶ覚えるとかできないし。僕もハリーに箒勝てなくて悔しかったし」
「……」
「ママとかパーシーみたいでイラつくのは本当だけどさ。まあしょうがないよな、君も僕らにイラついちゃうんだろ。どうしたら良いんだろうな、ママとかパーシーみたいな人と仲良くなれば良いんじゃないかな? 小学校?ではどうしてたの。パーシーみたいなのいなかった?」
「……ずっと友達いなかったし」
「じゃあパーシーってレアなのかな? パーシーもあんな感じで友達全くいないわけでもなさそうだしなぁ。このまえ女子と手つないでたのも見たし。あいつマジでどうしてるんだろ」
ロニーはぶつぶつ呟く。
「まあなんとかなるんじゃね? うまくやってこうって気があるならさ」
「……だからあなたはなんでそう……!」
そこで悪臭が流れ込んできた。背丈が四メートルもある怪物トロールが、ブーブーうなりながら棍棒を引きずって入ってきた。
「…………ヤバいハーマイオニー、トロールだ!」
トロールはロニーを目でとらえると、棍棒をふりかぶった。ロニーは叫びながら、後ろに下がった。扉や洗面台を破壊しながら棍棒が床にたたきつけられた。ハーマイオニーの甲高い悲鳴が響き渡る。ロニーは逃げ場無く、壁に手をつき尻もちをついた。再びトロールが棍棒を振りかぶる。
「ロニー! ハーマイオニー!」
ハリーが叫びながら駆けこんできた。トロールはハリーのほうをゆっくり振り向いた。ハリーはトロールに飛びつき、無我夢中で杖を鼻の穴にさした。トロールが叫びながら棍棒を振り回す。
「
ロニーが最初に頭に思い浮かんだ呪文を唱えると、棍棒がトロールの手を離れて浮かび上がり、頭に落ちた。トロールはふらふらし、倒れた。
「……やった」
「…………ハリー、ありがと。助けてくれて」
ロニーは汗だくで言う。ハリーはおずおず笑う。
マクゴナガル先生、スネイプ、「闇の魔術に対する防衛術」のクィレル先生が飛び込んできた。
「……あなたがたはどういうつもりなんですか。寮に戻りなさいという指示を聞かずにここに?」
「……マクゴナガル先生。私が悪いんです。私……本で知ってトロールを独りでやっつけられると思いました。二人が私を見つけて、殺されそうなところを助けにきてくれたんです」
「…………ミス・グレンジャー。なんと愚かしいことを」
ロニーが割って入った。
「ハーマイオニーありがとう、でも僕らを庇うために君が規則を破るふりをするなんて見てられないよ。……先生、ほんとは僕が授業でひどいことを言ってハーマイオニーを泣かせちゃったんです。それで謝りたくて、だから僕たちパーティーに出てなくて知らなくて。ハリーが助けに来てくれました。ハリー、先生を呼ぶ時間なかったんだろ?」
「う、うん」
「……最初からそう言いなさい。まったく、あなた達は運が良かった」
そして三人は解放された。
「……ありがとう」
気まずい空気の中、三人は互いに呟いた。それから何ということもなく、ハリーとロニーの隣に、ハーマイオニーがいることが増えた。