永遠の夢追い人 〜Eternal Dreamer〜 作:M-SYA
初めましての方は初めまして。
過去作を読んでくださっている方は、いつもありがとうございます。
この度、新しい作品を始めました。
原作なしのオリジナルです。
どうぞお楽しみ下さい。
それではどうぞ。
将来の夢って、なんだろう。
高校生までには全員が抱いているものだろうか。
まだ分からないと嘆くあの子も実は心の内では抱いているものだろうか?
もしそうなら、それは幸せなことだ。
今後の自分の在り方について、指し示される指標が存在しているのだから。
でも、俺にはそれがない。
将来の夢も、やりたいことも。
「じゃあ、5年後に自分が何をしているのか。想像してみながら人生設計を作ること。提出は来月末までな~」
とある日、学校で自分の将来像について考える課題が提示された。この課題に対してのクラスの反応は千差万別。簡単だと意気込む人間もいれば、将来の夢なんて考えてないと友人同士で愚痴を言い合う人間もいる。
斯くいう俺も後者の一人だ。
随分と難しい課題に、深いため息が溢れる。
「煌大、どうしたのー? そんなにプリントと睨めっこしちゃって〜」
消沈している俺に、構わず話しかけてくる女の子。
ビリジアンのボブカット。ぱっちりとした目で話しかけてくるこの子は俺の幼馴染。
「遥花か……。お前も分かってるだろ? こんな課題、やってられねぇよ……」
「まぁ、煌大は将来の夢なんてまだ考えてなかったもんね〜」
ボヤきながら机に突っ伏す俺に、遥花はあっけらかんと答える。
「お前は夢を持ってるからいいけどよ〜? 俺は自分が何をしたいのか分からん……」
「でも、それって煌大に限った話じゃないでしょ? みんな、普通は持ってないと思うよ〜」
机から顔だけを上げて文句を垂れる俺に対し、遥花は座学で凝り固まった身体を伸びでほぐしながら他人事のように返す。
実際、この女にとっては他人事なのだ。
日野遥花。こいつとは家が近所だったこともあり、産まれた病院から高校まで全てが同じの幼馴染。
そんな彼女には大きな夢がある。
「お前はこれから部活か?」
「いや? 今日は休み。もう三年生なんだし次の舞台の計画は二年生らに任せろってことでオフなんだ〜」
「そうか。じゃあ帰るか」
「うん!」
教室でわざわざ雑談する必要は無いため、さっさと帰ることを遥花に促す。
遥花も待ってましたと言わんばかりにノリノリで、二人仲良く荷物をまとめ教室を去ることにした。
校門を出たあたりで、俺はふと先ほどの遥花の言葉について触れる。
「それにしても、まだまだ9月の真っ只中なのに三年生だけ休みってのも不思議なもんだな〜。一番の主力なのに」
「主力だからこそ、三年生の力に甘えちゃいけないってさ〜。わたしたちの代が強すぎたってのもあるけど」
「自分で言うかよ?」
「でも、事実だし?」
「……まぁ、全ての大会で優秀賞を取ってるもんな」
「えへへ、わたしも立派な舞台女優なのだ!」
「図に乗るな」
調子付く遥花に俺はバッサリと切り捨てる。
「でも、演劇部に入って、芝居ってこんなに楽しいんだって思ったのは事実だよ?」
「確かに、いつも楽しそうに演技してるもんな〜」
そう言いながら、俺は憧憬に浸るように顔を空へ向ける。
遥花は演劇部に所属している。元々は俺と同じようにやりたいことなんて持っていなかったのだが、入学当時にあった部活動説明会が転機となった。演劇部は即興劇を披露したのだが、そこで観客を笑顔にする演劇部の姿に心を打たれ、入部することを決めたそうだ。
そして、遥花が入部した際、同級生の部員は偶然にも熱意を持った生徒が揃っており、厳しい練習にも弱音を吐くことなく付いていき、一年生の時点でみるみる頭角を現していったそう。
遥花は一年生で初舞台を踏んでから演技をすることの奥深さに触れたようで、将来の夢も有名な舞台女優になることを目標に部活動に勤しんでいたのだ。
「煌大も見つかるといいね。やりたいこと」
「どうなんだろうな。正直見つかるとは思えねえ」
「そんなの今すぐに見つかるわけないじゃん」
「そうだけど。……でも、本当にどうすればいいんだろうな」
今すぐに見つける必要はない。そう分かってはいるものの宿題として出ている以上、『将来の夢は未定』なんて書けない。半端なことを書けば先生から何を言われるかわかったもんじゃない。だが、それっぽいことを書いて、本格的にそれに向けた指導なりが入るとなるとそれはそれで面倒くさい。
来月末までの提出期限ではあるものの、その記載内容にうんうん唸っていると気づけば家の前まで歩みを進めていた。
「もう着いちまったのか。じゃあ、また明日な」
「あっ、その前に煌大。ひとついい?」
カバンの中から鍵を取り出そうとした矢先に遥花が声をかけてきた。
「どうした?」
「今週末、デートしよ?」
遥花は何の躊躇もなく大胆な誘いをしてきた。だが、俺も大きな反応は見せずいつも通りのテンションで返事をする。
「なんでまた?」
「ちょっと行きたい所があってね」
「俺以外の友達じゃだめなのか?」
「せっかくなら煌大と行きたいの」
そう言って、遥花は自分よりも身長が高い俺に上目遣いを見せる。少し首を傾げて見せているのもこいつの演技力が勝手にそうさせているのだろうか。
「どうせ家に籠ってゲームしてるだけなんだから、いいでしょ?」
「言い方がムカつくけど、実際そうだしな」
「でしょ? なら決まりね!」
「……はぁ、仕方ねえな」
半ば強制的に出かけさせられる事になってしまった。
だが、これはいつもの俺と遥花のやりとりだ。遥花が提案し、俺が乗り気なら良し。難色を示そうもんならそれをぶち壊して無理やり俺を引っ張っていく。それくらい日野遥花という女は豪胆なのだ。
「じゃあ、週末は9時に駅で集合ね!」
「あー、はいはい。遥花さんとのデート、楽しみにしてますよー」
これ以上、遥花のペースに乗せてはいけないと思い、俺は早々に会話を切り上げる。遥花はまだ話し足りなそうにぷんぷん言っているが、一切気にしない。
「……今度は何をしようってんだ……?」
遥花の妄言を流しつつ扉の鍵を閉め、俺は顔に手を当てながら疑問を浮かべる。あいつはデートと言っていたが、実際はただの買い物に付き合わされるだけかもしれない。あいつはいつも、思いついた途端にデートと称して俺を連れ出すのだ。大抵あいつが満足して終わるが、横にいる俺は疲労困憊のまま帰宅するのが日常茶飯事である。
「ただのショッピングだったら途中で勝手に帰ってやるか……」
骨折り損で終わらせないための策を考えながら、俺は荷物を置きに部屋へと向かう。
だが、このデートが俺の人生に大きな変革をもたらすことになるとは、この時の俺には知る由もなかった。
いつも通りの平穏な日常が好き。