永遠の夢追い人 〜Eternal Dreamer〜 作:M-SYA
週末、今日は遥花とのデートの日。
デートとは言っても、遥花相手なので妙に気を張る必要もないため、おしゃれなどは特にせずに駅で彼女を待っていた。駅周辺は週末ということもあり、旅行に行くであろう親子や遊びにいくカップル、休日なのに仕事に向かおうとしているのかスーツ姿のサラリーマンなど平日の駅よりも賑わいを見せていた。
そんなことは言っても平日は電車移動なんてしないから普段からの賑わいなんて想像したこともないが。
他愛ないことを考えていると遠くから遥花の快活な声が響いてきた。
「おはようー! 煌大、早いじゃーん!」
「とは言っても、俺もさっき着いたばっかだけどな」
「わたしに女の子からモテる台詞をぶつけても意味ないぞ〜?」
「はいはい、俺もその気なんてさらさらないから勝手に妄想しておいて下さーい」
俺の元へまっしぐらに向かってきながらおちょくってくる遥花を、俺は気に留めない。相手をした分、俺の労力が消費されるだけの作業に精を出す必要はない。
「じゃあ、時間は少し早いけどもう出発するか?」
「そうだね〜。早めに向かって並んでよっか」
そう言って、俺たちは遥花のお目当ての場所に向かうためにホームの改札を通過するのだった。
「遥花、これから向かう所ってどこなんだ?」
降車予定の駅に到着し目的地まで歩いている最中、俺は今回のデートの目的を確認する。
「そういえば言ってなかったね〜。っていうか煌大も聞いてこなかったし」
「お前だったら、前準備が必要なやつは先に言ってくるだろ。それがなかったってことはただのショッピングかなんかだと思ってわざわざ聞かなかっただけだ」
「何その俺分かってますよ感。彼氏みたいでなんかきしょいね」
「なんでそういう発想になるんだよ」
遥花は普段から何の考えもなしに行動するように見えるが、実は相手のことをちゃんと考えて動いている。アイドルのライブに同行して欲しいとお願いされた時も俺が困らないようにとオススメの曲をいくつかピックアップしてくれたり、遊びに行く時も、レジャー施設ならば何もないが、海や山へ遊びにいくときは事前に連絡を入れてくれる。
自分だけが楽しむのではなく、付いていく俺も満足するように最低限の気を遣ってくれるのだ。
「今日行くのは、役者育成の専門学校だよ」
「役者育成の専門学校?」
予想していなかった方面からの回答で俺はつい聞き返してしまった。遥花は俺が予想通りの反応をしたと思って、笑みを浮かべながら説明を始める。
「そう。わたし、その学校に入学しようと思ってるんだ。今日、この学校が文化祭をやるからそれに遊びに行くつもりだったの」
「なるほどな〜。でもなんで俺が一緒なんだよ? それなら演劇部の中にだってそこに行こうとする奴は一人や二人、いるんじゃねえのか?」
役者向けの専門学校なら、実力も備わっておりかつ熱意も大幅に持った人材が揃っている演劇部の人間であれば、食いついてもおかしくはないはずだ。
「あの子たち、この三年間でやり切っちゃったみたいで、そのまま演技をやりたいと思ってないみたいなんだよね〜……」
「あー、やりたいことはやれたから満足って事か……」
「そういうこと。それにせっかくの文化祭だから一人で回るのも嫌だなって思って、そこで煌大を誘ったんだ〜。出し物も色々と用意してるらしいから、煌大も退屈しないでしょ?」
「まあ、ただの付き添いで終わるよりかはマシか」
専門学校とはいえど、文化祭と呼ぶからには初見の人でも楽しめるイベントになっているのだろう。ただ籠ってゲームをしているよりかはこういった非日常イベントがあっても良いかもしれん。
「そうそう! 何も気にせずに楽しめばいいよ。……あっ、あそこの建物だよ!」
俺に目を向けながら話していた遥花がふと視線を前に戻すと、該当する建物に指を指した。
「……
遥花が指差したのは一件の白いビル。通行人の目に止まりやすいように取り付けられた看板。建物も看板も、少しの汚れも目に映らないことから、日頃より手入れに拘っていることがうかがえる。全体が白で染められているこの建物は、クリーム色で並んでいる周囲のビル群と比べ、より清潔な印象を受ける。その建物の前には、俺たちと同じように文化祭に参加するであろう人たちが二十人ほど一列に並んでおり、雑談するなりスマホを見ているなり、各々の時間を過ごしていた。
「開場十分前なのに結構並んでるね〜。さすがはクリビ」
「意外と人が多い事にびっくりした」
「まあこの学校は、役者を目指す人なら大体が候補に入れてる所だからね〜。舞台だけじゃなくて声優を目指してる人もいるみたいだし」
「声優は声優の専門学校があるわけじゃないのか?」
「あるけどって感じ。その道に特化したものか役者そのものにフィーチャーしてるか、その違いじゃないかな?」
「ふーん、そんなもんなのか」
少し自信なさげに解説を入れる遥花。だが、美術学校などの分野でも力を入れている箇所が根本は同じでも末端は異なったりする。似たような専門学校が立ち並ぶ理由はこういったところにあるのだろう。だからこそ選択する学校を間違えた時はたまったもんじゃなさそうだ。
またひとつ社会の構造を理解できたところで、並んでいた列に動きが生じた。
「あれ、もう入り始めてねえか?」
「あっ、もしかして参加者が多いからもう開場したのかな!? わたしたちも早くいかないと、ほら行くよ!」
そう言いながら遥花は俺の手を握る。
「ちょっ、遥花!」
唐突に手を握られ身体が跳ねる感覚がしたが、それを感じさせる暇もなく遥花は俺を引っ張りながら列の最後尾に走っていく。
慌てる様子を見せる遥花をしり目に、俺は看板へ視線を向ける。
(……役者か)
自分とは縁遠い世界。ただの観客Aとしてこのイベントはただ楽しませてもらおう。
そう心に決め、遥花に連れられて一緒にクリエイト・ビジョンへ入場するのだった。
己が道を、ソウゾウする。