永遠の夢追い人 〜Eternal Dreamer〜 作:M-SYA
クリエイト・ビジョン・スクールの文化祭、最初に入った教室は無垢フローリングの床が広がっており、壁には部屋全体が見えるように全身鏡が壁一帯に取り付いているため、ダンスレッスン教室のような印象を受ける。
広い教室の中で様々な体験ブースや出し物が用意されていた。
射的やスーパーボール掬いなどのお祭り屋台のようなゲームコーナー、ボウリングやピンボールなどのゲームセンターで遊べるようなコーナー、教室の奥には食べ物や飲み物などが購入できる屋台もあるようだ。
何で遊ぶか、どんな体験ができるかをパンフレットで確認しながら遥花と動き方を決める。
「最初は何で遊ぶ?」
「じゃあ、最初に目に留まったし射的からやろうよ!」
射的コーナーは入り口付近に設置されていたし並んでいる人も少なめだったので、すぐに遊ぶことができそうだ。
ここのスタッフは優しげな雰囲気の笑顔が素敵なお兄さんだった。
「射的で遊ばれますか?」
「はい、あの的に当てればいいんですね?」
「そうです。弾数は5発。床に貼られているテープの位置からテーブルに置かれているキャラクターに当てることができればポイントが獲得できます」
「あれ、実際に描いてるんだ……。上手っ……」
お兄さんの指した先に置かれていたターゲットは紙コップにアニメの悪役が描かれた用紙が貼られており、一枚一枚に手塗りが施されていることからプリントされたモノではないことが分かる。作品の絵と同じようなクオリティで描かれており、絵を描くセンスがない俺にはプロのレベルのものにしか見えなかった。
「最大5ポイントで3コイン、2〜4ポイントで2コイン、0か1ポイントで1コインを差し上げます。ぜひ3コイン獲得を目指して、頑張ってくださいね!」
優しい声色で説明をうけ、おもちゃの銃を差し渡される。ずっとこちらの表情を見ながら丁寧に説明をしてくれるお兄さんが執事のように見えて、少し顔が紅潮してしまう感覚を覚える。
世の女の子が執事キャラに萌えるのはこういう行動を間近で受けたり、自分だけが特別扱いされているようなこの感覚を味わえるからなのだろう。
「が、頑張ります!」
「なんで煌大がそんなにドキドキしてんのよ」
「それでは、お兄さんには2コイン、お姉さんには3コインを差し上げますね。このコインはあちらの屋台で好きなものと交換できますので、ぜひ他の所も遊んでたくさんコインをゲットしてください。それでは行ってらっしゃ〜い!」
射的の結果は3ポイントで、2コインの獲得に成功した。一発目から外してしまったが、そこから軌道修正することができたのが功を奏した。
なお、隣の女は全弾ヒットさせて3コインをゲットしていた。ここでもセンスの良さを見せつけられて少し腹が立つ。
「いや〜、わたしの方が上手かったみたいでごめんね〜?」
「うるせえ、その減らず口も聞けなくしてやるよ」
「でも、こういう勝負事って大体わたしが勝ってるよね〜?」
「それは昔の話だ。俺も昔のままじゃねえってことを証明してやるよ」
「煌大ってすぐそうやって熱くなるよね。だからいつも負けるんだよ」
「うるさい。今回は俺が勝つ」
「あはは、じゃあコインの獲得数で勝負と行こっか」
「負けた方がこの後のご飯を奢るな?」
「言ったね? じゃあ、それで決まりね」
こうして、俺と遥花の勝負が幕を開けた。だが、こうして事ある毎に勝負へ発展させることは日常茶飯事である。運動でも勉強でも遥花から因縁を吹っ掛けられたら俺がムキになり勝負にするというのが恒例行事。
しかし、どのような勝負を挑んでも俺は遥花に勝てたことがない。特に運動に関しては運動神経が天と地ほどの差があるため、絶対に勝てない。勝てないことを分かっていながらスポーツでも勝負を挑んでしまうのは、煽りに乗ってしまう俺のチョロさ故なのかもしれない。
「お二人さん、ただいまお暇かな?」
俺と遥花が火花を散らしているところに爽やかな男性の声が聞こえてきた。その人は180センチを超える高身長であり、目鼻がくっきりとした二枚目で世間でもイケメンと称される部類の人だった。
「あっ、
「やあ、遥花さん。今日も遊びに来てくれたんだね」
大棋と呼ばれた先生は微笑みを崩さずに遥花と挨拶を交わす。遥花が知ってるということはこの人も体験の時にお世話になった講師の一人なのだろう。
「俺たちに何かご用でしょうか?」
「別教室である体験ができるんだけど、体験者が足りてなくてね。もしよかったら参加してくれないかな?」
「どんな体験があるんですか?」
「その教室では演技に関することの体験ができるんだけど、今ならアニメのアフレコをすぐに案内するよ」
「アニメのって、そんな声優さんみたいなこともできるんですか?」
「あれ、最初の説明で聞かされてなかった? うちの学校は芝居に関することに力を入れてる。だから役者の関係なら俳優も声優も同じように体験できるようにしているさ」
遥花への対抗意識でつい忘れていたが、そういえば受付の山下先生がそのようなことを言っていた。テレビで見ている作品に自分が声を入れることができるなんて夢のようでワクワクした。
「あ、もちろんただの体験で終わらせはしないよ? 本来なら体験をしてくれた人たちにコインを一枚だけあげるシステムなんだけど、せっかく二人が勝負してるみたいだから、アフレコの成果でよかったと思う方にコインをプラスでもう一枚あげようかなと思うけど、どうかな?」
「先生、それは職権乱用ではないんですか?」
「バレなきゃ犯罪じゃないさ」
「自白してる時点でもうアウトですよね?」
ジト目で贔屓を訴える遥花に、大棋先生は表情を崩さず全く気に留めてない様子。大棋先生にこんなノリで返せる遥花も相当この学校の雰囲気に馴染んでしまったように見てとれた。
「勝負はさておいても、アフレコ体験は気になるかも。遥花、やろうぜ!」
「煌大が珍しくやる気だ……」
アニメを見ることは好きだったので、声優がどのような雰囲気で仕事をしているのか興味がある。芝居は遥花に勝てずとも普段じゃ絶対に経験できない仕事への興味が勝利への執念を消した。
大棋先生も俺の反応を見て、待ってましたと言わんばかりに別教室へと移動しようとする。
「よし、少年の方は決まりだね。日野さんも異論はないね?」
「いいですよ。アフレコは初めてですけど、芝居の技術は煌大に負けるつもりはないので。わたしが勝ちをもぎ取ります」
「その意気だ。じゃあ、早速行くよ」
遥花の賛同も得られたことで、大棋先生について行く形で俺と遥花はレッスン教室を後にする。
アフレコをどうやってやるのか、演技とはどういう風にやるのか。自分の知らない世界にどんどん足を踏み入れていく感覚が楽しく、俺は無意識に移動する足が速くなっていた。
勝負は一旦お預け?