「見に行ってみようか」
「リア様、お気をつけください……」
群衆をかき分けて前に進むと、僕たちが見た手配書とは違うきれいな羊皮紙が貼り付けてある。
内容はほぼ同じだが、僕の部屋から謀反の計画書が見つかったと書かれている。
そして、僕とクラルスの特徴まで記載されていた。
「……あ……セラ……」
思わず妹の名を口にする。
手配書の署名欄には、セラの筆跡で名が記されていた。誰かが真似して書いたのではない。何度も見ている僕だからこそわかる。
セラは、騎士団のいる都市へ行っているのではない。今もまだ王都にいる。
この内容をセラが。僕を捕まえようとしている。
頭をよぎる最悪なことをふるい落とす。
ガルツが夜襲を反乱分子の仕業だと偽ってセラを保護しようとしても、そばにいたはずのルシオラが信じるわけがない。
きっとセラは、城の外へ逃げる前に捕まり、幽閉されたのだろう。
「ガルツ王子は騒ぎを聞きつけて船を戻してきたそうだぞ。さすが同盟国の王子だ」
「しばらく滞在してまで、セラスフィーナ様を支えているのね」
誰もガルツが王都にいることに疑問を抱いていない。
それに、この手配書はいずれ国中に配布されるだろう。
セラを助けに行きたいが、僕には術も力もない。
どうすればいいのだろう。
そのとき、背後にいたクラルスに耳打ちをされる。
「リア様、ミステイルの兵士がこちらへ来ています。移動しましょう」
振り返ると、ミステイルの兵士が三人こちらへ向かってきている。
早く脱出したいが人が多く、なかなか思った方向に移動できない。
フードだけは外れないようにしないと。
目の近くまで垂れている布を必死に掴みながら足を進める。
「おい! そこの外套の二人! 顔を見せろ!」
肩が跳ねる。横目で見ると、兵士たちはもう目の前まで来ていた。
ここで正体が露見してしまったらどうやって逃げれば。
クラルスは外套の下で剣の柄に手をかけていた。
こんな人の多いところで乱闘を起こすと、怪我人が出てしまう。
この状況を切り抜ける方法を考えないと。
緊迫した空気に喉が締めつけられる。
足が勝手に一歩下がった。
同時に、けたたましい音が広場に響き渡る。
音がしたほうを見やると、すぐ近くで荷馬車の荷が崩れ、商品が石畳に散らばっていた。
「大丈夫か!? おーい! みんな、戻すの手伝ってくれないか? 掲示板は逃げやしない!」
聞き覚えのある声。
人々が荷を積み直す手伝いに移動すると、声の主が現れた。
スレウドさんだ。
彼は、兵士たちの背中をぐいぐいと押す。
「ほれほれ、あんたたちも手伝って!」
「なぜ俺たちが! 触るな!」
「同盟国の兵士さんなのに冷たいなぁ。同盟国なのになぁ」
「い……今、俺たちはそれどころでは!」
「この怪しい奴らは俺がとっ捕まえておきますので。同盟国にいい印象を与えたほうがいいと思うけどなぁ?」
ミステイルの兵士たちはスレウドさんに言いくるめられて荷馬車のほうへ歩いていった。
「……スレウドさん……!」
「ほら、ここから逃げるぞ!」
背中を叩かれてクラルスとともに走り出す。
スレウドさんの先導で人通りの少ない路地に入ると、彼はようやく足を止めた。
「まったく肝が冷えた。あんな人混みにいたら危ないだろう」
「スレウドさん。助けてくださってありがとうございます」
「たまたま、荷物が崩れてよかったな」
からからと笑うスレウドさん。きっと僕たちを逃がすために仕掛けてくれたのだろう。
巻き込んでしまった商人には、申し訳ないことをした。
クラルスは、ため息をついてスレウドさんを見据えた。
「私たちを助けたということは何かあるのでしょう?」
「おぉ、クラルス。察しがよくて助かるぜ! ウチの団長に会ってみないか?」
「……そんなことだろうと思いましたよ」
スレウドさんは偶然、僕たちに遭遇して助けたわけではない。
おそらく僕たちのことをずっと追っていて機会をうかがっていたのだろう。
それでも、助けてもらったことに変わりはない。
「会うだけでいい。そのあとは、おまえたちの判断に任せる。無理強いはしない」
この状況で、さすがにスレウドさんの申し出を断ることはできない。
それなら、話を聞くだけでもいい。
「わかりました。お話だけでしたら伺います」
「リア様……」
クラルスが眉を下げているのとは対照的に、スレウドさんは満足そうに笑みを浮かべていた。
何より、
わずかな情報からガルツの思惑を見抜いた人物。
会って話してみたい。
僕たちはスレウドさんに案内されながら、歩みを進めた。
スレウドさんは一軒の酒場の前で足を止める。
扉には“準備中”と書かれている木の板が掛けられていた。
「ここがセノパーズの拠点だ」
「この酒場がですか?」
「表向きには酒場を運営している。活動費稼ぎと情報収集にはいいところだぜ」
スレウドさんは扉を開けて、店内へずかずかと入っていく。
クラルスと顔を見合わせたあと、後をついていった。
店内はがらんとしていて、酒のほのかな香りだけが漂っている。
本当にここが
「あの……スレウドさん。団長さんってどんな方ですか?」
「何だ? 怖いのか?」
「い……いえ、ちょっと気になりまして」
「厳しいが、仲間思いの奴だよ。そんなに身構えなくていい」
賊扱いされるほどの荒々しい集団。
母上は
スレウドさんは最奥まで進むと、とある酒瓶棚の前で止まる。
「貴族お抱えの騎士団に追われたりするから、こういう場所が必要なんだ。団長はこの先にいる」
スレウドさんが棚を右へ移動させた。
そこには、ぽっかりと空いた薄暗い空間。灰色の石段が下へ伸びている。
ひんやりとした空気が足元から這い上がってきた。
「足元に気をつけろ。少し下りないと明かりがない」
スレウドさんは慣れた足取りで階段を下りていく。
僕は滑り落ちないように、片手を石壁につきながら一段一段確実に踏みしめた。
自ら暗い海へ身を沈めていくような息苦しさ。
階段を下りきると、目の前には酒場よりも大きな空間が広がっていた。
壁に掛けてあるランタンだけが室内を照らしている。
階段近くにいた男性二人は訝しげにこちらを向いた。
「スレウドさん。……例の?」
「そうだ。団長いるよな?」
「はい。奥の部屋で副団長と一緒にいますよ」
僕は会釈をして男性たちの前を通り過ぎる。
地下室は隔壁で仕切られた部屋が多く、奥に扉付きの個室があった。
すれ違う団員たちは、僕たちを見るとひそひそと何かを話している。
団員たちの視線が痛い。
この地下には二十人近くいるようだ。そして、ここは拠点のひとつに過ぎないのだろう。
歩みを進めていると、スレウドさんが最奥の扉を開けた。
「朗報だ。王子と護衛を連れてきたぜ」
長机と長椅子が置いてあるだけの簡素な部屋。そこに若い男性と女性が長椅子に腰かけていた。
この男性が団長なのだろうか。歓迎しているようには見えない。
隣にいる
彼女は立ち上がると