緊急発令。国家反逆者指名手配書。
罪状、王族殺害罪、反逆罪、国家転覆未遂罪。
女王陛下および騎士団長殺害の首謀者、第一王子ウィンクリア・ルナーエ。
共犯および逃亡
発見次第、即座に拘束し、騎士団本部へ引き渡すこと。
抵抗した場合、武力行使を許可する。
目を疑う内容に愕然とする。こんなことを広められる人物は、ひとりしかいない。
ガルツは逃げた僕とクラルスに濡れ衣を着せた。
手配書には、公文書であることを証明する印が
民は誰一人として疑わないだろう。
全身が冷たくなっていく。立っているのかさえわからない。
僕はこれからどうすればいいのだろうか。
朝と夜が混じり合う時間。僕たちは身支度を整えて部屋をあとにする。
とにかく正確な情報がほしい。
あの手配書を見てセラが僕のことをどう思うのか。考えたくもない。
受付へ向かうと昨日とは別の女性が椅子に座っていた。
「お早い出発ですね」
「あの、不要な外套がありましたら譲っていただきたいのですが……」
「外套ですか?」
女性は受付の裏にある小部屋に入っていく。
しばらくすると、外套を二着持ってきてくれた。
「忘れ物なのですが、もう何ヶ月も持ち主の方がいらっしゃらなくて」
「ありがとうございます」
鍵を返却しようとしたとき、入り口の扉が開かれる。
振り返ると、
栗色の瞳がこちらを捉え、男性はにやりと口角を上げる。
「やっぱりここにいたのか!」
反射的にクラルスは前に出て僕を背に庇う。剣の柄には手がかかっていた。
「何者です!」
男性は敵意がないことを示すように両手を挙げた。
「おい、抜剣するなよ。追い出されるぞ! おまえたち、ウィンクリア王子と護衛のクラルスだろう?」
「……そうでしたら何の用でしょう」
クラルスは柄から手を離したが警戒は解かなかった。
この男性は、なぜ僕たちの居場所を知っていたのだろう。
見た限りではミステイルの兵士ではなさそうだ。
「ここで立ち話することじゃない。部屋に戻らないか?」
「……リア様。いかがなさいますか?」
僕たちを捕まえようとしているのなら神殿の外へ誘導するはず。
彼はセラの手がかりになる情報を持っているかもしれない。
「話を聞いてみよう」
受付の女性に断りを入れて宿泊していた部屋へ戻る。
男性は遠慮なく部屋へ入ると、椅子に腰を下ろした。
続いて入ると、クラルスが僕の肘にそっと触れ、扉近くのベッドへと促す。
いつでも脱出できるように配慮したのだろう。
クラルスは立ったまま、男性の一挙一動を見逃すまいと警戒していた。
「自己紹介がまだだったな。俺はスレウド。
「
「せめて義賊って言ってくれ。主な活動は自警だぞ」
貴族が管理する税の保管庫を襲い、金目のものを奪う。あまりいい噂は耳にしたことがなかった。
「貴族を襲っているのは事実だが、俺たちが狙っているのは悪事を働いているやつらだけだ。おまえたちは知らないだろうが、連中を懲らしめてほしいと依頼もある」
「そんな……ことが」
今思えば、被害に遭っていたのは悪い噂がある貴族ばかり。
僕は自国のことなのに何も知らない。
「それで、スレウドさん。話とは何でしょうか?」
「俺たちの仲間になってほしい」
「えっ!?」
義賊の仲間に。一体なぜ。
僕の王族としての立場を利用したいのだろうか。彼の意図が読めない。
「あー、何だっけな。保護するためと……。とりあえず、王子を連れてこいって言われているんだ」
「スレウドさん。知らないのですか? 僕たちに手配書が出ていることを……」
「神殿の掲示板で見たが、虫も殺せなさそうな顔のお子様が女王殺しとは思えないけどな」
「……僕たちは冤罪です。すべてガルツが仕組んだことで……」
「ミステイル王国の第二王子か。団長の予想は当たっていたな」
僕は今まで彼らに会ったことすらないのに。
スレウドさんは手配書の真偽にあまり興味がなさそうだった。
「保護に動くのなら次期女王であるセラが先だと思いますが?」
「王女は知らんな。とにかく俺たちと組めば身の安全は保障するぜ? 王女捜しも団長に進言するぞ?」
スレウドさんが嘘をついているように見えないし、身の安全を確保してくれるのはありがたい。
しかし、誰が敵で誰が味方なのかわからない今、彼に信頼を置くことはできなかった。
「わざわざ来ていただいたのに、申し訳ありませんがお断りします」
「……まぁ、仕方ないか」
スレウドさんは椅子から立ち上がると頭を豪快に掻いた。
クラルスは僕を守るように一歩前に出る。
「何もしねぇよ。セノパーズの酒場に仲間がいるから、俺たちが必要なら声をかけてくれ」
スレウドさんは片手を上げてあいさつをすると部屋から出ていった。
無理やり勧誘するわけではなさそう。
クラルスは扉のほうを睨みつけていた。
「リア様を賊の仲間に引き込もうなどと……」
「団長さんはガルツを疑っているみたいだったよね?」
「わかりかねますが、油断させる嘘の可能性もあります。用心しましょう」
「それと……セノパーズにとどまらないほうがいいよね?」
スレウドさんはセノパーズの酒場に仲間がいると言っていた。
「そうですね。しばらく野宿でご不便をおかけしますが……。リア様を信頼してくださる統治貴族を見極めて保護を求めましょう。手配書に印があるからといって、鵜呑みにしない方もいらっしゃるはずです」
一刻も早く、セラの行方を知りたい。
僕たちは外套を羽織り、朝日に照らされた原石神殿をあとにした。
裏口から出て森沿いに歩く。
原石神殿に何人かが出入りしているのが遠目に見えたが、そのなかにスレウドさんの姿はなかった。
「リア様。このまま森に沿ってセノパーズへ向かいましょう」
そのとき、森から十数名のミステイル兵士が現れた。
剣の擦れる音に、息が止まる。
嫌な汗が全身から噴き出し、身体が硬直した。
「大罪人ウィンクリアを捕縛しろ!」
隊長と思われる男性が叫ぶと、剣を構えた兵士たちが向かってくる。
クラルスは僕の手を引いて、回り込むように森へ飛び込んだ。
草木をかき分ける音が森中に響き渡る。
「リア様。少し手を離しますよ」
クラルスが抜剣すると同時に剣身が白銀色の光を帯びた。
彼は振り返り、左右の大木へ銀の一線を引く。
鈍い音を立てながら倒れた大木はミステイル兵士の行く手を阻んだ。
「護衛が魔法を使えるとは聞いてないぞ!」
「隊長! このまま追うんですか!?」
「くっ……援軍要請が先だ!」
困惑している声を背中で聞きながら、森の奥へと逃げ込んだ。
「クラルス。さっきの魔法は……?」
「剣の強度と鋭利さが増す
たしか宝石学で、ダイヤモンドの魔法は防御に優れていると習っていた。
そして、適合する人が少ない宝石。
すぐに魔法を扱えてしまうクラルスはさすがだ。
振り返ると、ミステイルの兵士の姿はない。
僕たちは木の陰に隠れて息を整える。
「追手は来てないみたいだね……」
「予想はしていましたが、待ち伏せされていましたね。……おそらくセノパーズは検問を敷くでしょう」
「どうにか入れないかな……」
「侵入できるか入り口を見てから判断しましょう」
セラも保護してもらうために慣れない移動をしているはず。
弱音は吐いていられない。
なるべく木々に隠れるように歩き、森を抜ける。遠方に青空を背にした街が見えてきた。
太陽が真上を少し過ぎたころ。街の入り口では、商人や旅人が行き交っていた。
入り口の真横にはミステイルの兵士が二人。通行人を一人ずつ睨みつけていた。
「やはり検問をしておりますね」
「裏から入れるところはないかな?」
「私たちを裏口に誘導するように、わざと目立つ場所に立っているのでしょう」
「たしかに……。検問にしては人数が少ないよね……」
クラルスの洞察力はさすがだ。
検問は一人一人引き留めて確認していないので、何かに紛れて街に入れるかもしれない。
「クラルス、あの荷馬車に紛れて入れるかな?」
街に入ろうとしている荷馬車が数台連なっている。荷物を高く積んでいるので、陰に隠れながら街へ入れそうだ。
「……そうですね。万が一見つかった場合は隣接している森へ逃げましょう」
退路の確認をして、僕たちは荷馬車の列に紛れ込んだ。
兵士たちへ目を向けないように気をつけながら、はやる足を抑える。
行き交う人が多いのもあり、止められることもなく街へ足を踏み入れた。
細い路地に移動して、深く息を吐く。
「よかった。見つからなくて」
「えぇ、まずは情報を収集しましょう」
外套のフードを目深に被り、広場を目指す。手配書の他に何か掲示されているかもしれない。
すれ違う人々は、口々に「王都が大変なことになっている」と話していた。
案の定、広場の一角に人だかりができている。