俺が禁手を発動すると、俺を中心に謎の空間が広がる。
……うん。これに絶対的な自信があるからか落ち着いた。
さっきまでは珍しくキャラ崩壊していたけど、やっといつもの俺に戻れる。にしても、何でこんなにイラついていたのだろうか?
自分よりも格上の相手にビビっていたわけじゃないし。いや、ビビってはいたけど。
大体、俺が戦う相手は格上ばかりだ。今さらその程度で取り乱す訳がない。
相手が変態だからというわけでもないだろう。父親が初めて相手するタイプでも、色々な変態を相手してきて慣れている。
俺が覚えてないだけで過去に何かあったのか?
「これがお前の切り札か?」
父親が周りを見渡して空間を観察しながら聞いてきた。
「そうだ。そして跪け」
「ぐっ」
俺の言葉と同時に父親に十倍の重力が襲うがギリギリのところで耐えた。
まぁ、俺もこの程度で倒せるとは思っていない。
「無駄だ。平伏せ」
「なっ!」
さすがに百倍の重力には耐えられず地面に倒れ伏して土下座の体勢になる。
人が……それも嫌いな奴が俺に平伏す姿というのは何度見ても気持ちの良いものだ。
ん?何か急に父親がブツブツ言い出した。
「……この感じ、重力系の力か?いや、違うな。霧識の神器は認識を操るもの。つまり、俺の脳に直接影響を与えているのか。厄介な能力だな。防御不能じゃないか」
本当に凄い観察力だな。この一瞬で能力を把握するとは。
俺の観察力は父親からの遺伝なのだろうか?まぁ、どうでもいいけど。
だが俺の能力は理解すると逆に対処が難しくなる。理解するということは認識するということ。
認識すれば認識するほど俺の能力は強固なものになる。
「……だが、どうにかならないこともない!」
父親はそう叫ぶと勢いよく立ち上がった。
馬鹿な!どうやって破った!
どんなに規格外の能力を持っていても人間。百倍の重力で立ち上がれるわけがない。
「不思議そうな顔をしているな。さすがに今回は妹愛だと言うつもりはない。答えは『忍法足軽』。 自分と触れたものの重さをなくすことが出来る」
いやいや、おかしいだろ。俺の能力は重力じゃなくて誤認だ。自分の重さをなくしたところでどうにかなるものじゃない。
……いや、本当にそれで大丈夫だと自分を騙すことが出来れば可能だ。だが、誤解しているならともかく理解した上でそれを行うのは不可能。忍者だから自分を騙すことも可能だというのか?
と言うか、能力の効きが弱い気がする。……何と言うか一つの人物の中に別の人物も感じるというか。
細かいことは分からないが、恐らくそれが能力を破った理由だろう。だが、フリードみたいに完全に効かないわけじゃない。戦いようはある。
「お前の切り札は見た。だったら俺も本気で戦ってやろう」
そう言うと父親は左右の手に違う刀を投影した。右手のは直刀で柄と刀身の間に鍔がない長い刀。左手にあるのは柄も鍔も黒色の刀だ。
両方、見たこともないな。
「右手の刀は頑丈さが売りの絶刀『鉋』。折れず曲がらずよく斬れる刀だ。で、左手の刀は切れ味が売りの斬刀『鈍』。どんなものでも抵抗なく一刀両断する刀だ」
「……だから何だ?」
妙に勿体振った言い方だな。
何と言うか、らしくない。さっきまでの変態としての気持ち悪さはなく、純粋に好きなものを語る子供のような雰囲気だ。
「まぁ、人の話は最後まで聞け。珍しく妹以外のことを語りたい気分なんだ。この刀は俺の親父の実家の倉で見付けた資料に書かれていたものだ。何でも完成形変体刀と呼ばれた刀で、今はもう全部折れているらしい。俺は何にも興味を持てないで生きていたが、これを見た時は非常に心を揺すぶられた。この刀を再現するために投影を覚えたほどだ。……ああ、もちろん妹と会う前の話だ。今は刀よりも妹を愛している」
「そんな注釈は必要ない」
妹以外を語るんじゃなかったのか。何で最終的に妹の話をしているんだよ。
て言うか、最初から妹と一緒にいたわけじゃないのか。何か色々と複雑な家庭事情がありそうだな。
「で、この相反する性質の刀を合体させたらどうなると思う?」
「……何が言いたいんだ?」
全く意味が分からない。錬金術で二本の刀を合体させる気か?
「もうちょっと考えろよ。まぁ、考える暇もなく答え発表の時間だが」
父親が二本の刀を近付ける。すると次の瞬間、激しい光が発生して気付いたら一本の刀になっていた。
絶刀『鉋』が黒く染まったような見た目をしている。
「これが俺の神器の力。二つの物質を分解、再構成して一つの物質にすることが出来る。で、この刀が……あー、そういや名前はまだ考えてなかったな。『鉋』がデザインのメインだから適当に絶刀『鉋』・改で良いか」
うわぁ、適当だな。俺も名前には拘らないけど、もうちょっと考えようぜ。
初めて興味を持ったものなんだろ。
「じゃあ、次はこの刀の力を見せてやろう!」
父親が刀を構える。
俺はその瞬間に父親の周囲に大量の刀を出現させる。さっきの父親が投影した武器とは桁違いの数だ。
「食らえ」
俺の言葉で千の刃が四方八方、三百六十度、全く隙なく一斉に父親を襲う。
さすがにこれは防げないだろう。
攻撃が収まるとそこには謎の球体のようなものがあった。
……あれは何だ?何かを振り回しているようだが。
「『忍法永刧鞭』」
段々、動きがとまっていき父親の防御の正体がハッキリした。
一つの持ち手から十本に枝分かれした先端に刃物がついている鞭を両手に持っている。あれで全方位からの攻撃を防御したのか。
どんだけの技を持っているんだよ。
絶刀『鉋』・改は地面に置かれている。
「おいおい、刀の凄さを見せようとした直後にこれかよ。せっかく、あそこで見ている妹に格好いいところを見せようと思ったのに台無しだ」
父親がそう言いながら斜め上を見る。その視線の先にはニヤニヤしながら楽しそうに俺達を見ている母親の姿があった。何かポーズをとっているがジャージのせいで格好がついていない。
花蓮はすでに負けているのか。周りを見渡すと少し離れたところに倒れていた。
特に怪我はないようだが疲労困憊といった感じで動けそうにない。
「お兄ちゃん、頑張ってね!」
「可愛い妹に応援されたら負けるわけにはいかないな」
父親は鞭を消すと地面の絶刀『鉋』・改を取って勢いよく俺に向かって突撃してくる。
俺は即座に道幅限界の大きさの巨大な石を出して発射する。
「ふん」
父親は石を刀の一振りで一刀両断した。
マジかよ。どんな切れ味をしているんだ?
俺が次の攻撃をする前に父親が懐に入ってくる。さすが忍者。動きに無駄がない上にスピードが速い。
「ちっ……」
俺は左手で持っていた光の剣で父親の斬撃を防ぐ。だが絶刀『鉋』・改は光の剣を破壊し、そのまま俺の左腕を切断した。
クソッ!いてぇ!
ここまで深手を負ったのは生まれて初めてだな。
ふとルフェイの方を見ると俺を心配そうに見ている。ルフェイにこんな顔をさせるとは、俺としたことが情けない。後でちゃんとフォローしないと。
「妹だけを愛せないからお仕置きだ、愚かな息子よ」
そんな理由で息子の左腕を斬り落とすなよ。まぁ、こいつに普通を期待するだけ無駄だが。
だが、この俺がやられたままで終わると思うなよ。
俺は右手の光の剣をカウンター気味に振るう。父親はそれに気付くと避けようとするが、完全には避けきれず頬から血を流す。
俺と同じように左腕を切断しようと思ったんだが失敗か。
父親はすぐにバックステップで距離を取る。
「ほぉ、俺に傷を負わせるとは……。これは将来に期待できるな」
遠回しに今は駄目だと言っているように聞こえるな。
て言うか、何に対する期待なのか分からない。
さて、どうしたものか。俺は地面に転がっている左腕を見ながら考える。
だが左腕を斬られた痛みと動揺で上手く考えがまとまらない。油断したら叫びを上げながら地面をのたうち回りそうだ。
父親が再度、刀を構えながら突撃してくる。
「なっ!」
俺は極大の刀で迎撃しようとするが能力が発動しない。
どういうことだ!?今までこんなことはなかったぞ!
「安心しろ、さすがに息子を殺したりはしない。峰打ちにしてやる」
何を言っているんだ、こいつは。その刀に峰は存在しないぞ。
そんなツッコミをする間もなく父親は目の前まで来た。
斬られる。そう思った瞬間、視界に黒い羽が入った。
「よぉ、助けに来たぜ。感動したか?」
黒い羽を広げたコカビエルが上から現れて光の槍で父親の攻撃を防ぐ。
何で、こいつがここにいる?……まぁ、大体の予想はつくけどな。
父親はそのまま光の槍を斬って俺の時と同じように腕を切断しようとするが、その前にコカビエルが蹴りを入れて下がらせる。
「しねぇよ。タイミングが良すぎる。お前、ずっと見ていただろ?」
「まぁな。お前の大好きな演出ってヤツだ。便利なんだぜ、これ」
コカビエルが一枚の布を見せてきた。
これはまさか透明マントか。いつの間に完成してたんだよ。
それで俺がピンチになるまで隠れていたのか。最低な奴だな。
「だったら俺の腕が切断される前にしろよ。それでも充分、格好はつくぞ」
「前にベーコンにされた恨みがあるからな。その仕返しだ」
まだ恨んでんのかよ。器の小さい奴だな。
あんなのはただの笑い話だろ。
「堕天使幹部コカビエル、こんなところで大物に会えるとは思ってなかった。英雄派に入って初めての面白そうな相手。少しは楽しませてね!」
母親が急にアロンダイトを構えながらイカれた笑みを浮かべてコカビエルに襲いかかる。
それをコカビエルは再度、光の槍を出して防御する。
俺はその間に落ちていた左腕を拾って、念のためにレイヴェルからもらっていたフェニックスの涙で回復する。
レイヴェルのおかげで助かった。修学旅行から帰ったらお礼しないとな。
「良いものを持っているな。後で俺が引っ付けようと思っていたんだが必要なかったみたいだな」
戦闘を開始したコカビエルと母親をよそに俺を見ながら父親がそう言った。
そんなことも出来るのかよ。本当、何でもアリだな。
「女、お前は本当に人間か?こんなに強い人間に会うのはデュランダルの前使い手以来だ」
コカビエルが戦闘をしながら俺の母親に質問した。
デュランダルの前使い手って、確かヴァスコ・ストラーダだよな。かなり怪物だと聞いている。まだ会ったことがないが、早く会いたいものだ。
「私は人間だよ。これ以上ないくらいにね。それにしてもストラーダおじいちゃんか。懐かしいね」
「戦ったことがあるのか?」
「前に一回だけね」
「どっちが勝ったんだ?」
「ストラーダおじいちゃんは衰えているからね。多分、さすがの私でも全盛期のストラーダおじいちゃんには勝てないと思うよ」
それは勝ったということか。まぁ、デュランダルもなくて衰えた老人に勝っても自慢にはならないだろうが。
にしても、ヴァスコ・ストラーダはこの戦闘狂にそこまで言わさせるほどの実力者なのか。
「ん?何だ?」
俺が異変に気付くと、二人も気付いたのか戦闘を中断する。
霧が濃くなってきた。最初は足元だけだった霧がすでに胸の位置にまでやって来ている。
「良いところだったのに残念。もう時間切れか」
母親が頬を膨らませながら子供みたいに不満を言う。
イッセー達が曹操を撃退したとは思えない。単純に様子見が終わったから帰るといったところか。
「逃げるなよ!まだ戦おうぜ!」
「今回は無理ね。また縁があったら戦いましょう、堕天使の幹部さん」
笑顔でコカビエルに向かって母親が手を振る。父親が無言でコカビエルを睨んでいるが気にしない。
そろそろ元の空間に戻されるな。禁手を解除しておくか。
「……え」
禁手を解除すると同時に全身の力が抜けて地面に倒れる。
この感覚は禁手の制限時間を越えた時と同じだ。どういうことだ?まだ制限時間に余裕はあったはずだが。
気付いたら俺は元の渡月橋周辺に戻ってきていた。少し離れたところには花蓮も俺と同じように倒れている。
イッセー達はいるようだが、コカビエルやアンの姿はどこにもない。すでにどこかに行ったか。
「霧識さん!大丈夫ですか!?」
ルフェイがいきなり倒れた俺を見て今にも泣きそうな表情で詰め寄ってきた。
俺はルフェイを安心させるために笑顔で頭を撫でながら答える。
「大丈夫、ちょっと疲れただけだ。少し休めば元通りになる」
少し遅れてイリナやイッセー達も俺と花蓮の異変に気付いて詰め寄ってくる。
ああ、今は早く部屋に戻ってルフェイの膝枕でゆっくりしたい気分だ。
コカビエルの再登場です。
まだ出番はあるけど活躍するかは未定。何とかして活躍させたいです。
では感想待ってます。