「ん?もう母上のいるところに向かうのか?」
移動中に九重が疑問を呟いた。
今のは俺に対する質問するというより一人言みたいな感じなんだが。
これって別に俺と話すのが嫌とかそういうことじゃないよな?ただ思ったことがそのまま口から出ただけだよな?
……駄目だ。心が弱りすぎているせいでネガティブになっている。こんなのは俺のキャラじゃない。
これも全部、妖怪の……間違えた。妖怪じゃなくて妖刀のせいだ。
妖怪は九重だから全く悪くない。
内心焦りながらも冷静を装って九重に質問する。
「そりゃ、それが目的だからな。何か気になることでもあるのか?」
「いや、もう一つ戦場があったじゃろ?そっちには行かないのか?」
「ああ、そういう意味か。そっちにはさっきの変態の女を向かわせたから問題ない」
ジャンヌがしくじらなければだが。
まぁ、複数のプランを用意しているからどんな状況になっても俺が負けることは有り得ない。
俺が唯一負ける要素である両親の対処も完了しているし。
「……ああ、そう言えばそうじゃったの……」
九重が目線を上げながら思い出すように言う。
恐らく変態達のショックが大きすぎて細かいことは印象に残っていないのだろう。
「お、発見」
俺の視線の先には鎧の一部が壊れているイッセーと楽しそうな表情の曹操が対峙していた。
ああ、楽しそうって言ってもホモ的な意味じゃないぞ。曹操にはそっち系の趣味はないからな。
単純に赤龍帝の力を試すのが楽しいのだろう。
……俺は誰に向かって説明しているんだ?
アーシアは距離を取ってイッセーを心配そうに見ている。
近くでは龍王化した匙が九尾の狐と戦っているが、匙が苦戦しており後少しで負けそうだ。
おいおい、全部の戦場で英雄派が優勢かよ。最初から分かってはいたけどもうちょっと頑張れよ、グレモリー眷属。
まぁ、匙とイリナはグレモリー眷属じゃないけど。
「よぉ、イッセー。まだ生きていたのか?もう死んでいると思っていたぞ」
「現れて一発目の言葉がそれかよ!?」
俺が下に降りると同時に皮肉を言うと、イッセーが全力でツッコんできた。
ずっとボケキャラが続いていたけど、やっぱりツッコミがあるのは良いものだ。ボケたらツッコむのがこの世の理だからな。
まぁ、そのツッコミがイッセーというのは不満があるが。でも九重だと冷めたツッコミしかしてこないからイッセーで我慢するか。
ああ、早く小猫に会いたい。
「母上!母上!」
俺が手を離すと九重がさっきまでの冷めた目から一転して不安そうな顔で名前を呼びながら八坂のところに向かって走る。
だが八坂は娘の声に全く反応しない。
目からは感情の色が見えないから操られているのだろう。
にしても九尾の狐の姿は美しいな。フェンリルにも負けていない。
ペットとしてほしいところだけどやめておこう。九尾の狐が京都から離れると色々とマズイのもあるが、それ以上にジャンヌから聞いた性格からして嫌な予感がする。
……は!良いこと思い付いた!
ここで俺が曹操を格好よく倒して八坂を助ければ、九重の俺に対する好感度が上がるんじゃないか。
……いや、やっぱりやめておこう。昼間の件でらしくないことをすると失敗するという教訓を得たからな。
俺らしい方法でやるしかない。
「なぁ、曹操。俺の好感度のために芝居がかった感じで負けてくれないか?」
「言っている意味が分からないのだが……」
「俺がネットで集めた可愛い動物の画像をやるから頼む」
「何でそれで俺が要求を呑むと思ったんだ?」
え?駄目なのか?
ジャンヌが曹操は獣耳属性だと言っていたが動物自体には興味ないらしい。
小猫には及ばないまでもかなり可愛いのに。
「はぁー、交渉決裂か……。これだけ俺が譲歩したのに駄目なのかよ。仕方ない。普通に倒すか」
「おい。何で俺が悪いみたいな雰囲気を出してんだよ」
いや、テロっている時点で誰が見てもお前が悪いだろ。
「……なぁ、親しげに話しているけど、もしかして曹操と知り合いなのか?」
イッセーが怪しむような呆れるような声で質問してきた。
「ん?言ってなかったか?ヴァーリに紹介されて禍の団の主要メンバーとは全員知り合いなんだが」
「言ってねぇよ!」
あれ、そうだっけ?
これは別に隠していることじゃないんだけどな。まぁ、積極的に言うような重要なことでもないか。
「さすが私。面白そうな場面で来れたみたいだね」
急に声が聞こえたので見てみると血塗れのロスヴァイセを抱えたジャンヌがいた。
ちょっとタイミングが早かったな。ストレス発散にまだ曹操を弄るつもりだったのに。
残りのストレスはどうやって発散しようか。
「ジャンヌが何でヴァルキリーを抱えているんだ?戦っていたのは天使のはずだろ」
曹操が不審げな表情で訊ねる。
俺がいる状況で予定外のことが起きたんだ。疑うのは当たり前だろう。
「天使ちゃんが思ったよりも早くダウンしちゃってね。暇だからヘラクレスの方を手伝いに行ったのよ」
「なっ!?」
ジャンヌの発言を聞いたイッセーが驚愕の表情をする。いや、鎧で顔は見えないけど多分そんな表情をしているはずだ。
て言うか、何でジャンヌがイリナがダウンしたことを知っているんだ?イリナが幸せそうな表情でダウンしたのはジャンヌがいなくなった後だぞ。
適当に言っただけか?アンに電話で聞いた可能性もあるが。
「ふーん。それでヘラクレスはどうしたんだ?」
「うん、予想外なことにね、私が到着した時にはもうやられていたの。いや、意外とやるね、あの酔っ払いヴァルキリー」
ジャンヌがロスヴァイセをその場に放り捨てると曹操の隣まで移動した。
アーシアがすぐにロスヴァイセのところまで駆け寄って治療を開始する。
「……で、その後にジャンヌがそこのヴァルキリーを倒したと?」
「そうだよ」
笑顔で堂々と嘘をつくジャンヌ。
そんな分かりやすい嘘をつくなよ。いや、表情は完璧だ。俺レベルの観察眼を持っていないと気付くのは難しいだろう。
でも中身が駄目だ。実力から考えてロスヴァイセがヘラクレスを倒すのは厳しい。
その証拠に曹操が疑念の視線をジャンヌに向ける。というより、ほとんど確信している雰囲気だ。
「おい!木場やゼノヴィアはどうしたんだ!?」
「いやぁ、さすがにそこまでは知らないよ」
イッセーが仲間がやられたせいか苛立った声で聞くが、ジャンヌは軽い調子で流した。
そんなジャンヌの代わりに俺が拳を握り締めて苦悶な表情を作って答える。
「木場とゼノヴィアは俺が到着した時にはすでに……」
「「「…………」」」
あれ?何か三人から冷ややかな視線を感じるんだが。
そんなに俺が人を心配するのがおかしいか!俺だってたまに気が向いた時ぐらいには可愛い女の子以外を心配することだってあるかもしれないぞ。
ちなみに九重は母親の方を見ているので俺に冷ややかな視線を向けていない。
って匙の奴、九本の尾に縛れてやられているぞ。
まぁ、匙が八坂をぶっ倒したら九重が心配するからこれで良いか。
「おいおい、言っておくが今の話は本当だぞ。俺が到着した時にはすでにゼノヴィアは血塗れで戦闘不能状態だったんだよ」
「だったら木場はどうしたんだ?」
「……イッセー、それはな。奴の深い業が自らを滅ぼしたんだよ……」
俺が遠い目をしながら言うと、イッセーは不思議そうにする。
これに関しては本当だ。奴に深い業がなかったら俺も倒すような真似をしないで済んだ。
まぁ、その場合は別の方法で木場を排除していただろうが。
「なっ!」
急に曹操の焦った声が聞こえたので見てみると、ジャンヌが笑顔のまま曹操に向かって聖剣を振るっていた。
それをギリギリのところで曹操は避けることに成功する。
「んー、キーくんの話で集中が途切れている時なら倒せると思ったんだけど失敗か」
「……ジャンヌ。どういうつもりだ?」
楽しそうにしているジャンヌを曹操が憎々しげに睨む。
イッセーはいきなりの事態についていけてないのかパニックっている。
「どういうつもり、って聞かれてもね。曹操も私が裏切っているって分かっていたから避けれたんでしょ?」
「……買収されたのか?」
「うん、正解だよ。今回の報酬はいつもより凄いからね。何としても曹操にはやられてもらわないと困るんだよ」
う~ん、俺的にはそこまで本気でやらないでも良いと思うんだが。
幼い頃とはいえ俺の女装写真を渡すのは恥ずかしいから適当に誤魔化して二枚目は渡さないつもりだったのに。
もしジャンヌが完璧に仕事をしたら断る理由がなくなるじゃないか。
「――禁手」
ジャンヌが可愛く微笑むと足元から大量の聖剣が現れて、それが凄い勢いで重なって何か大きな一つの物体を形作ろうとしていた。
そしてジャンヌの背後に創り出されたのは巨大なドラゴンだ。
何回見ても格好いいな。
「私の神器『
「ちっ……」
曹操が困ったように舌打ちする。
さすがにジャンヌの禁手までは予想していなかったのだろう。俺も同じだけど。
「……仕方ないか」
俺は溜め息を吐くと頭の中でムラマサに話かける。
『待たせたな。戦闘の時間だ』
『本当!?やったー!』
うるさいぐらいハイテンションのムラマサを体の中から出して構える。
さて、ここまではほとんど問題なく俺のシナリオ通りに話が進んでいる。
後は曹操に借りを返した後に八坂を助けて終わりだ。
恐らく次回で英雄派との戦いは終了です。
本編も終了間近です。
残りも頑張って書いていきます。
では感想待ってます。