「七瀬さん、面白いものがあるんですが」
俺が廊下を歩いていると急に目の前に制服姿のアン(何でアンは外でも基本的に制服なのだろうか?謎だ。校則とか守るタイプじゃないのに)が出現した。
普通の奴なら驚くだろうが、俺は慣れているので特に気にせずスルーする。
そして隣を横切ろうとした瞬間にアンに腕を掴まれた。
「ちょっと待ってください!」
「……今日は何だ?俺は今から寝るんだが」
「まだ昼前ですから寝るには早いです!」
「昨日は徹夜していたから寝ていないんだよ」
番組の企画書の締め切りが今日だから徹夜で頑張って、さっきやっと提出できたんだよな。
おかげでめちゃくちゃ眠い。しかも差し入れに来たレイナーレが誘惑してきたせいで余分に時間を食った。
まぁ、何とか我慢したけど。
「眠気を認識できないようにすれば大丈夫です」
「そこまでしてお前に付き合う理由はない」
「娯楽のためなら如何なる努力も惜しまない七瀬さんらしくないですよ」
「お前の娯楽は俺にとって楽しくないからな」
娯楽のためなら努力を惜しまないのは確かだ。
でも、アンの趣味であるBLは男の娘を除けば範囲外。そんなものには出来るだけ捲き込まれたくない。
まぁ、それに見合うだけの報酬があれば別だけど。
「大体、修学旅行の時にお礼に嫌がるギャスパー無理矢理犯すところを見せてやっただろ?これ以上、何を求めるんだよ」
「確かにアレは素晴らしいものでした。今、思い出しただけでも濡れてきました」
『濡れそう』じゃなくて『濡れてきた』って……。どんだけ興奮してんだよ。
……別に俺もその気持ちが分からないわけじゃないけど。確かにあのギャスパーは物凄く興奮するからな。
「でも、だからこそ!私はアレを越えるものが見たいんです!そのためなら私は何でもします!」
ウットリとした表情をしながらもハッキリとした口調で力説するアン。
素晴らしい向上心だ。 応援したくなってくる。
でも、それは身内だけでやってくれ。俺を巻き込むな。
「そうか。だったら俺をネタにしたBL本を書いていい。だから寝かせろ」
「それはもちろん書きます!でも、執筆に必要なアイデアと創作意欲のためには七瀬さんの――」
猛烈に嫌な予感がしたので台詞の途中で強引に腕を引き離して自分の部屋に向かって走る。キラキラした目のアンに関わると録なことがない。
俺は部屋に入ると即座に鍵を閉める。
フゥー、これで安心だ。俺の部屋の扉は特別製。簡単に開けることも壊すことも出来ない。
「で、今回はコレを使おうと思っているんです」
「…………」
後ろから声が聞こえたので恐る恐る振り返ると、ベッドの上にアンが映画で見る光線銃のようなものを持ちながら座っていた。
分かっていたさ、アンの神器の能力から逃げられないことは。
本当に逃げたかったら水中にでも逃げるしかない。俺は調子が良い時なら三十分以上は持つけど、アンはそうはいかないからな。というかアンは泳げない。
もしマーキング相手が海の中とかにいたら死ぬな。
「……で、それは何?」
俺は逃げるのを諦めて質問する。
どうするかはとりあえずアンの説明を聞いてから考えよう。
「これは性転換光線銃です」
「はぁ!?何でアンがそれを持っているんだ!?俺の家にもないぞ!」
性転換光線銃はアザゼルが思い付きで作ったもので、その光線を浴びると少しの間だけ性別が入れ替わる。
つまり男なら女になって、女なら男になる。
これはつい先日完成したばかりのもので一つしかしない。まぁ、失敗作は何個かあったけどシェムハザさんが全部処分したらしいから、今回の件とは関係ないだろう。
下手な失敗作は完成品よりも恐ろしい。どんなミスがあるか分からないからな。
「グリゴリ内に潜んでいる英雄派のスパイが盗んでくれました」
スパイって言うと……あいつか。あいつ、アンの作品のファンだからな。協力したのも納得できる。
にしても思ったよりも普通の方法だな。アンのことだからもっと無茶苦茶なことをしていると思っていた。
「ちなみに罪は七瀬さんに押し付けるつもりです。七瀬さんなら何をしてもおかしくないですから疑われることもないでしょう」
「お前、最低だな……」
俺は呆れたように溜め息を吐く。
いきなり押し掛けてきた上に罪を押し付けてくるとは。どんな外道だよ。
本当は怒鳴りたいところだか、その元気もない。
「……可愛い女子中学生に向かって酷い言い草ですね」
アンが心外そうに頬を膨らませた。
確かに可愛いのは認める。でも、お前が最低であることに代わりはない。
「それにちゃんと今回の件に見合う報酬は用意しています」
そう言うとアンは制服を軽く着崩して、膝を曲げてスカートから下着が見えないギリギリの範囲で生足を露出させる。
丸出しのヘソにスラッと伸びた綺麗な足。非常に男の性欲を刺激するポーズだ。
しかも制服というのもポイントが高い。俺にその属性はないけど、その手のマニアからしたらたまらないものだろう。
それにしても基本的にBLにしか興味のないアンが何でこんな色っぽい仕草が出来るのだろうか?男を手玉にする手段として覚えたのか?
「……で、それが何だ?」
「とぼけないでください。この意味が分からない七瀬さんじゃないでしょう?つまり私自身が報酬です。いつも通り欲望の赴くまま可愛い女子中学生を凌辱して良いですよ」
俺ってアンからそんな目で見られてたのかよ。それとも英雄派の共通認識か?
どっちにしろショックだ。
「俺は女子中学生を欲望の赴くままに凌辱したことなんて一回もない」
俺はアンの目の前で歩くとツッコミながらチョップした。
するとアンは「イタッ」と頭を押さえながら涙目になって上目遣いで俺を睨んできた。
可愛いな。だからといって何もしないが。
「せっかく八坂さんに男を誘惑する方法を教わったのに失敗するとは……。何か女としての魅力に自信を失います」
教えたのは八坂かよ。あいつ、女子中学生に何てことを仕込んでいるんだ。
そういや、よく思い出してみるとギリギリで下着が見えないところとか八坂のやり方に似ていたな。
「お前の女としての魅力なんかどうでもいい。それよりも寝させろ。話は起きてから聞いてやる」
そう言って俺がベッドに寝転ぼうとした時、扉がガチャと開けられた。
「先輩が寝ると聞いたので私も一緒に……先輩が可愛い女子中学生を部屋に連れ込んで欲望の赴くままに凌辱しようとしています。お邪魔してすみませんでした」
扉の方を振り返ると小猫(小猫達は部屋の合鍵を持っているので出入りは自由だ)が無表情のまま頭を下げて部屋から出ようとしていた。
また小猫か!前にレイナーレの時も同じようなことがあったぞ!
……まぁ、あの時は誤解じゃなかったけど。
ていうか、何で『欲望の赴くままに凌辱』とか言ってんだ!?もしかして盗聴器か何かで聞いていたのか!?
それとも小猫も俺に対してそんな認識を持っているのか!?
先にこれを確認しないと睡眠どころじゃないぞ。後、誤解も解かないと。
何とか小猫を呼び戻して誤解を解くことに成功した。もちろん話は小猫を膝の上に乗せて頭を撫でながらした。
何でも俺が女子中学生を凌辱しようとしていた、と言ったのはただの冗談だったらしい。小猫にそんな鬼畜野郎だと誤解されてなくて良かった。
ただ、連れ込んだの部分は本気でそう思っていたようだが。軽く泣きそうだ。
ちなみに小猫は昨夜、深夜アニメを見た後に眠れなくて漫画を読み漁っていると気付いたら朝になっていたらしい。
それで俺も今から寝るという話を聞いて、一緒に寝るためにやって来たということだ。
「あ、話、終わりました?」
勝手に俺の机を使ってBL小説を書いていたアンが顔を上げて話かけてきた。
お前のせいで面倒臭いことになっていたのに自分勝手な奴だな。
もっと趣味以外にも興味を持て。
「ああ、終わった。もう帰っていいぞ」
「分かりました。ではそろそろ……って帰るわけないじゃないですか!私の用事はまだ終わっていないのに!」
ちっ、失敗か。アンが帰れば、後は小猫を抱き枕にして気持ちよく寝るだけだったのに。
「そういえばアンさんの用事の内容は聞いてなかったですね。何の用だったんですか?」
折角そこはぼかして説明したのに意味がなかったか。
アンが俺にしたのと同じ内容の説明を小猫にもする。
「面白そうですね」
予想通り小猫が目をキラキラさせてアンの話に興味を持つ。
これ、また逃げられない流れだな。そして絶対に録な展開にならない。
「でも、塔城さんが来てくれて助かりました」
「……どういう意味ですか?」
「七瀬さんの行動原理は娯楽と萌えで、これは絶対的なものです。そして最近はそこに愛が追加されています」
「……確かにそうだな。で、それが何だ?」
俺はアンが何を言いたいのか理解しつつも話を促す。
ああ、何で俺は自分を追い込むような真似をしているんだ。俺に自虐趣味はないぞ。
「つまり七瀬さんの愛する女性の一人である塔城さんなら男になっても、七瀬さんは抱いてくれると思うんです」
「それは駄目だ」
何故かは分からないがアンの提案を食い気味に否定する。
何となく小猫を男性化させてはいけない気がする。
「どうしてですか?」
「理由はない。強いて言うなら宇宙意思……もしくは天の声的な何かがしてはいけないと言っている」
「意味が分からないです」
アンが『何言ってんだ、この馬鹿は』みたいな目線を俺に向けてくる。
そう言われても俺にも分からないんだよ。
「もしかしてアレですか?容姿が好きなだけ、ってことですか?だから男性化させたくないと?」
「それはない。確かに最初は容姿だったかもしれないが、今は違う。小猫がどんな姿になろうと愛するこはか可能だ」
俺がそうハッキリ言うと、小猫は顔を真っ赤にして照れたように俯く。
ああ、やっぱり小猫は可愛い……。
でも、今はその可愛さに和んでいる余裕はない。
「だったら別に問題ないですよね」
アンは断りを入れずに性転換光線銃を小猫に向けるといきなり発射してきた。
クソッ!相変わらず自分の趣味を優先する奴だな。
俺は即座に小猫を庇うようにしながら抱き締めて後ろを向く。するとアンが放った光線が俺の背中に直撃した。
次回に続きます。
では感想待ってます。