俺が教室の自分の席につくと、机の上に五個ほどチョコが置かれていた。
下駄箱のと合わせて十五個か。……いや、この調子だとまだ増えるだろうな。
さすがに一人で食べるのは厳しいし、家に帰ったらオーフィスとムラマサにやるか。
「相変わらずモテるわね」
俺が椅子に座って持っていたチョコを机の上に置くと同時に桐生が話かけてきた。
座ってから気付いたのだが机の中に更に五個のチョコがあった。
チョコは木場に集中すると思っていたのだが間違いか?予想よりも数が多いんだが。
「何の用だ?チョコなら間に合っているから義理なんかいらないぞ」
「……まだ何も言っていない女子のチョコを断るってどういうことよ?しかも嫌味に聞こえないし」
そりゃ、そうだろう。事実を言っているだけだからな。
「でも、一応持ってきたからあげるわ。勘違いしないでだよね!ただの義理なんだから!」
「ツンデレみたいな台詞を言うなら、せめて頬ぐらいは赤らめろ」
ツッコミをしながら桐生が差し出してきた板チョコを受け取る。
よく考えたら義理チョコって初めて貰った気がする。本命なら何百回と貰ったことあるけど。
……いや、去年に堕天使の女達から貰ったチョコは義理だったか?微妙なところだ。
と、俺がどうでもいいことを考えていると桐生がイヤらしい笑みを浮かべながらルフェイに話かけていた。
「ルフェイも大変ね。彼氏がこんなにモテてたら心配になるでしょ?」
「この程度で心配していたら霧識さんと付き合えませんよ。霧識さんのモテっぷりは想像を絶しますから」
ルフェイが特に気にした様子もなく言う。
ルフェイは俺の女性関係に対してたまに嫉妬するとはいえ(それがまた何とも言えないほど可愛い)、普段は普通にしている。ルフェイは付き合う前から俺がそういう人間だと知っているし、ある程度なら自分の彼氏がモテるのは気持ちがいいものらしい。
俺の場合はある程度どころではないが。
そろそろ百人、越えたんじゃないか?ていうか、確実に越えているな。
最近、子作り部屋を使って天使を何人か抱いたし。天使とはいえ女。どこから噂が広まったかは知らないが、そういうことに興味がある天使が俺のところにやって来た。
堕天せずにエロいを学べて経験できるのは俺のところだけだからな。
ただその内の一人が子作り部屋を出た後も行為の興奮を忘れられずムラムラした結果、堕天したが。
せめて俺がいる時に堕天しろよ。おかげでまた堕天の瞬間を見損ねた。
「それに霧識さんに何人、恋人や愛人が出来ても私への愛が揺らぐことは絶対にありませんから」
「……凄い自信ね。ご馳走さま」
ルフェイがハッキリと断言すると、桐生は呆れたような感心したような表情になった。
ルフェイの言う通りだな。未来永劫、何があろうとルフェイへの愛が深まることはあっても薄まることは有り得ない。
ただ今後も増えることが前提みたいな言い方は気になるな。別に増やす予定はないんだが。
「にしても不思議よね。七瀬って恋人にベタ惚れだし、その恋人も七瀬にベタ惚れ。そのことは学園中が知っているはずなのに、何で七瀬に義理じゃなくて本命を渡す女子がいるのかしら」
桐生が不思議そうに言う。
まぁ、桐生の言いたいことも分かる。普通なら恋人がいる奴に本命チョコを渡したりしないだろう。
だが、それは普通の場合だ。俺は普通じゃない。
「俺がハーレムを作っているからだろ。寝取るしか彼女がいる男と付き合う方法がないけど、俺の場合は違うからな。告白が成功する可能性がある」
「……つまり七瀬のハーレム入りを求めている女子が少なくとも二十人はいるってこと?いやいや、さすがにそれはないでしょ」
「より正確に言うなら後輩の可愛い女の子だな。見てみろ」
桐生が怪訝な表情をしたので、証拠となるチョコに添えられた手紙を見せる。もちろん名前は見えないように手で隠してだ。
この手紙には『私のことを愛してくれるなら何番目でもいいです。付き合ってください』みたいな内容が長々と書かれている。
書いたのは俺がたまにお世話になっているコスプレ研究部の部員だ。可愛らしい女の子で俺もよく構っている。
積極的な性格のようで俺に恋人がいると言っても関係ない感じだった。だから、これぐらいは予想の範囲内だ。
「……本当に想像を絶するモテっぷりね」
桐生は驚き過ぎて声が出ないといった感じだ。
別に全員がこういうわけじゃないんだがな。何人かは運が良ければ程度に考えているようだし。
「何の話をしているんだ?」
桐生の後ろからゼノヴィアが現れて話かけてきた。
今、登校してきたのか。いつもより遅いな。
……何か変なことしてないだろうな?
「七瀬がモテるって話よ」
「何だ、そんなことか、桐生。確かに霧識はモテるぞ。性別問わずに」
「そんな事実は一切存在しない」
ゼノヴィアの言葉を食い気味に否定する。
俺は男にモテたりしない。そんなことはあってはならない。
下駄箱に男からのチョコがあったけど、アレはイタズラかどこぞの腐った女子中学生の犯行だ。
そうに違いない。そうであってくれ。
ギャスパーみたいな可愛い男の娘なら歓迎するけど。
ゼノヴィアはこの話題に興味がないのか、続きを話すことなく鞄の中から何かを探し始めた。
相変わらず自由な奴だな。まぁ、話を続けられるよりはいいけど。
「私が作った愛情たっぷりのチョコだ。名前は言えないがある人から教えてもらったから自信あるぞ」
そう言うとゼノヴィアは俺に鞄から取り出したチョコを差し出してきた。
ある人って間違いなくレイナーレだよな?それなら味は信用できるが、他が全く信用できない。
「……どうした?」
中々、受け取らない俺を見てゼノヴィアが不思議そうにする。
いや、俺の表情を見たら分かるだろ。警戒しているんだよ。
「……そのチョコ、媚薬とか入ってないよな?」
「私を何だと思っているんだ?そんなもの入れているわけないだろ」
ゼノヴィアが俺の質問を軽く笑い飛ばす。
嘘をついているようには見えないな。ゼノヴィアは単純だから嘘をついたらすぐに分かる。
だが、次のゼノヴィアの台詞は俺の心配通りのものだった。
「精のつくものは入っているけどな。後でイッセーにも渡す予定だが、二人には私と子作りしてもらわないと困るからな」
俺は反射的に席に座ってハゲや眼鏡、アーシアと喋っているイッセーの頭に向かってチョコを投げ付けた。
おお、さすが俺。ナイスコントロールだ。チョコを頭に食らったイッセーが、その勢いのまま机に顔をぶつけた。
「いきなり何をする!?」
ゼノヴィアが驚愕する。
いや、当然の反応だろ。あんな得体の知れないチョコを食べれるか。
その後、文句を言いにきたイッセーを適当にあしらっている間にチャイムが鳴ってSHRが始まった。
一時間目の授業が終わった後、俺は下駄箱に入っていた手紙に指定された場所――オカルト研究部の部室に来ていた。
まだ誰も来ていないな。
手紙に名前は書かれていなかったが、ここを指定した時点で一般の生徒ではないのは確実だ。
そしてルフェイとイリナでもない。ルフェイからはすでにチョコを貰っているし、イリナが教室にいるのは確認している。
となると確率が高いのは小猫とレイヴェルだが、恐らく小猫だろう。何となくだが。
とりあえずソファーに寝転んで待っていようか、そう考えた次の瞬間、部室の扉が開いて誰かが入ってきた。
「すみません。少し遅れました」
部室の入口にいたのは予想通り小猫だった。
だが、その予想していなかった服装を見て驚いた。
小猫が着ていたのは体操服だったのだ。一時間目が体育だったのだろうが、わざわざ体操服で来る意味が分からない。
着替える時間がなかったというわけではないだろう。着替える時間がないのだったら最初からこの時間を指定しなかったらいいだけの話だ。
「いや、俺も今来たところだ。……それより何で体操服なんだ?」
俺の質問に小猫は何故か頬を赤らめながら体をモジモジさせる。
可愛い。それに体育の後で汗をかいている小猫というのも興奮する。
誰も来ないし押し倒そうかな?そしてブルマから伸びている綺麗な足を舐めたい。
「……いや、たまにはこういうのも良いかな、と思いまして」
どうやら小猫もそのつもりで俺を呼び出したようだ。
うん、確かにこういうのもいいな。
「チョコを渡しに来たんじゃないのか?」
「もちろんチョコも渡しますよ。部室の冷蔵庫で冷やしています。ただしチョコは私とセットです」
「でも、それだと二時間目は確実に間に合わないぞ。何なら三時間目にも遅刻する可能性がある」
俺は別に良いけどな。普段からサボっているし。
ちゃんと進級に出来るように調整はしているけど。
「それも問題ありません。体調が悪くなったので保健室で休んで来ると言っておいたので」
「だったら保健室にいなくていいのか?」
「……イジワルですね、先輩。保健室じゃあ雰囲気が出ないじゃないですか」
拗ねたように頬を膨らませる小猫。
可愛すぎる。その頬をつつきたい。
どうでもいいけど体操服だということを考えると保健室の方が合う気がする。まぁ、見付かる可能性もあるけど。
「イジワルで悪かったな。じゃあ、早速チョコをいただこうか」
俺はそう言うと不意打ちで小猫に抱き付き首元を舐める。
「ひゃっ!」
可愛らしい声を上げる小猫に追い討ちをかけるかのように手をお尻に伸ばし、そのまま強引に押し倒した。
結局、二人とも三時間目にも合わず四時間目から授業に出席することになった。
次回は久し振りに生徒会メンバーが登場します。
本当はもっと出したいのに何故か出番が少ないです。
では感想待ってます。