オーディンのジジイがやって来てから数日経ったある日の夜。
俺達はスレイプニルという八本足の巨大な軍馬の馬車に乗っている。しかも空を飛んで夜空を移動している。
俺はオーフィスを膝の上に乗せて頭を撫でながら外を見る。夜空を飛ぶのも星が綺麗で風情があっていいな。オーディンのジジイがいなかったら、もっといいんだけどな。
にしても、これがスレイプニルか。初めて見た。北欧には他にも面白いものがあるみたいだし見てみたいな。
オーディンのジジイが帰る時に俺も着いていこうかな。
外ではイリナ、木場、ゼノヴィア、バラキエルが空を飛んでついてきている。
ちなみに本来はヴァーリチームも来る予定だったんだが、奴等はサボって来ていない。最近、ヴァーリが禍の団を抜けてからやめていた強者探しの旅を再開して、お義兄さんと美候を連れてそっちに行っている。黒歌もついていっているのか、たまにいない。
おかげで俺は色々とヤりやすくて助かっている。
「いつもはサボっているのに何で今日はついてきたんだ?もしかして何かあるんじゃねぇだろうな?」
アザゼルが怪しむように聞いてきた。
そんな怪しまなくても北欧のコネはオーディンとロスヴァイセしかいないから何も出来ないぞ。
「そんな情報は得ていない。俺はスレイプニルが見たかっただけだ」
「まぁ、さすがの霧識でも神を相手にいつも通りにするのは無理か」
別にそんなことはないと思うが。俺に言わせれば神だとか堕天使なんてのは分類学上での違いでしかない。
言葉を話し理性がある時点で本質的なところは別のところにあるのだから。
ガックンッ!
何だ?急に馬車が停まったが。もしかしてテロか?
皆、不意の出来事で態勢を崩している。
馬車の外を見るとバラキエルを中心に皆が戦闘態勢になっていた。
そして前方にはローブを着た目付きの悪い男が浮遊していた。見たことのない奴だな。
男を確認したロスヴァイセが驚いた顔をしているところから北欧関連だというのは予想できるが。
それよりも俺は飛べないんだけど、どうしたものか。また人体改造してもらって羽でもつけてもらうかな。
「初めまして、諸君!我は北欧の悪神!ロキだ!」
男が芝居がかった感じで高らかにそう宣言した。
周りの皆はロキの名前を聞いて驚いている。まぁ、そうだろう。北欧の主神が乗っている馬車に同じ神話体系であるロキが襲ってきたのだから。
だが、そんなことはどうでもいい。ラッキーだ。たまたま俺がいる時にロキが襲撃してくれたのだから。
俺は逸る気持ちを抑えてオーフィスをロキから見えないようにして丁寧に質問する。
「こんなところに何の用ですか、ロキ殿。この馬車には北欧の主神であるエロジジイが乗られています。それを周知の上での行動ですか?」
分かりきっていることではあるが一応聞いておかないと駄目だろう。
「わしには失礼な態度なのに何でロキにはそんなに丁寧なんじゃ?」
オーディンのジジイが不満そうにしているが無視だ。
「誰だ?見たところ人間のようだが」
ロキが予想外の人物に話かけられたからか不審げな顔をする。
「これは失礼。どうも初めまして、北欧神話のトリックスターと呼ばれしロキ。自分はグリゴリ所属の神器使いで七瀬霧識という者です。私の言葉は、ここにいるグリゴリ総督の中二病患者の言葉と思ってもらって結構です」
「よくねぇよ。何、勝手に決めてやがんだ?後、さりげなく俺を罵倒してんじゃねぇ」
アザゼルが何か言っているが無視だ。
「では、人間を堕天使の総督の代理だと思って話そうか。その代わり、その嘘臭い演技をやめろ。虫酸が走る」
まさか初対面で俺の演技を見破るとは。さすが悪神ロキ。
ジジイなんかよりも面白い奴だ。
「ふむ。じゃあ、一つだけ聞こう。ロキはこの馬車にエロジジイが乗っていることが分かっていて襲ってきた。つまりエロジジイが日本の神々と和議を結ぶのが気に食わなくて邪魔しに来た。話を簡単にまとめると、そういうことだろう?」
俺は断定するような口調でロキに質問する。
ただの状況推理だが間違っていないだろう。
ロキは俺の質問に悪意全開で返事した。
「その通りだ、人間。我らが主神であるエロジジイが、我らが神話体系を抜け出て、我ら以外の神話体系に接触していくのが耐えがたい苦痛でね。だから邪魔しに来たのだ」
「おい、待て!何でお前までわしをエロジジイと呼ぶのじゃ!?」
ロキにまでエロジジイ呼ばわりされてオーディンが少し焦るが、そんなオーディンをロキは無視する。
恐らくオーディンがエロジジイというのは北欧では共通認識なのだろう。
「じゃあ、面倒臭い前置きとかはこれぐらいにして早速戦闘しようか、北欧の悪神!」
「おい、ロキを煽るようなことを言うな!相手は神だぞ!」
アザゼルが焦って俺に注意する。
「何を言っているんだ、アザゼル。どうせ何を言ってもロキは襲ってくるんだ。だったら下手な交渉なんて時間の無駄だろ」
「そうかもしれないが!でも言い方ってものがあるだろ!?」
多分、アザゼルはフェンリルが出てくるのを恐れているのだろう。だが俺はフェンリルを見たいから、このままいく。
「ロキロキも無駄な前置きとかは面倒臭いだろ?」
「それもそうだ!では我の……ロキロキ?」
「「「…………」」」
手を広げて戦闘態勢に入ろうとしたロキが急に動きを止めた。
他のメンバーもポカーンとしている。
「……一つ聞くがロキロキというのは我のことか?」
「そうだが、ロキロキ。あ、ロキロキが嫌なのか?だったら他にロッキーとかロキりん、ロキぽんとかあるがどうする?」
「……気持ち悪いからやめろ。普通にロキでいい。と言うか、これが本性ならさっきの嘘臭い演技の方がマシだ」
ロキが呆れたように言ってきた。
さっきの演技は疲れるからやる気はない。
「……先輩、いつもよりテンションが高いですね」
小猫が溜め息をつきながら言った。
そりゃ相手はロキだぞ。テンションも高くなる。
「ロキよ、諦めろ。この人間はこういう奴じゃ」
「神をも恐れぬ度胸。そいつは本当に人間か、オーディン。明らかに異常だぞ」
「……わしも信じがたいが人間だ」
神が二人、疲れたように会話している。
失礼だな。俺は紛れもなく人間だ。
ドガァァァァアアアアンッ!
突如、ロキに攻撃の波動が襲いかかった。
波動の出所を見てみるとゼノヴィアがデュランダルを振るったようだ。よくこの雰囲気で攻撃できたな。空気を読め。
だが、そんなことよりも気になる部分がある。ゼノヴィアのスカートの下に生尻が見えるんだが。
「おい、ゼノヴィア!もしかしてノーパンなのか!?」
「何を当たり前のことを聞いているんだ?私がこんな重要な仕事に就くのに下着なんかつけるわけないだろ!」
俺の質問にゼノヴィアは堂々と答えた。て言うか、ブラもつけていないのか。
……いや、まぁ、分かってはいたけど。
「何じゃと!?」
ゼノヴィアの発言を聞いたオーディンのジジイが馬車から身を乗り出す。
イッセーも身を乗り出そうとしたが隣にアーシアがいるのでギリギリのところで思い止まったみたいだ。
「少しはご自重ください、このエロジジイ!」
ロスヴァイセがどこからかハリセンを取り出してオーディンのジジイの頭を叩く。
俺もよく小猫に叩かれている。
「ハァー。これが北欧の主神とは……。情けない話だ」
声がした場所を見てみるとロキが頭に手を当てて呆れていた。
さっきのゼノヴィアの攻撃がノーダメージか。さすが神だな。
「こんなエロジジイ、殺した方が北欧のためになるんじゃないか?」
「そうだな。和議とか関係なく、こんなエロジジイは殺した方が北欧のためになるな」
こうなったらエロジジイにはフェンリルの牙の性能チェックのために噛まれてもらうしかないな。
今、俺とロキの利害は完全に一致している。
「……おいおい、霧識。もしかしてオーディンを殺そうとか考えてんじゃないだろうな?」
アザゼルが俺の心を読んだようなことを言ってきた。
可愛い女の子に心を読まれるのはいいけど、エロオヤジに心を読まれるのは嫌だな。
「この俺がテロリストみたいなことを考えるわけないだろ?俺は冥界の子供達のヒーローだぞ」
「だったら目線を逸らすな。後、お前の役はどっちかっていうと悪役だ。どう考えてもヒーローじゃない」
何を言う。俺の役は悪役じゃなくて主人公に相対するダークヒーローだ。
その時、オーフィスが急にヒョイと馬車の外に顔を出した。
「っ!?まさか、その少女はオーフィスか?」
ロキがオーフィスに気付いて驚いた顔をしている。
ミスったな。ちゃんと神器でオーフィスを認識できないようにしたおくべきだった。
さすがのロキも勝てない戦闘はしないだろうし、このまま逃げられるのは面白くない。どうしたものか。
「そう」
ロキの質問にオーフィスが返事した。
「そうか。この戦力差ではエロジジイを殺すのは難しいし、興も削がれたので今日は引き下がるとしよう」
ロキがそう言った瞬間、空間が大きく歪みロキを包んだ。
難しいということは出来る可能性があるということか。さすがにフェンリルがいてもオーフィスがいる状況じゃ出来ないと思うが。
それともフェンリル以外にも隠し玉があるのか?
「だが、この国の神々との会談の日にまたお邪魔させてもらおう!」
ヤバい。ロキの野郎、本格的に逃げるつもりだ。
「おい、待て!フェンリルの牙でオーディンを殺してから帰れ!」
「わしをエロジジイと呼ぶのはやめろ!」
俺とオーディンの魂の叫びも虚しくロキの姿は消えてしまった。
クソッ。せめてフェンリルの姿ぐらい見せてくれてもいいじゃないか。
今までも話を考えるのに手こずることはあったけど、ロキ戦は特に難しい。
それなのに修学旅行の話はどんどん思い付いてくる。早く修学旅行が書きたい。
では感想待ってます。