前書きをtwitterにしたいんですが、前書きをtwitterにするにはあまりにも遅筆。精進せねばなと思います。
二話の後書きに、セーブポイント周辺のマップを記載しました。
《解脱》、要求到達段階:Ⅰ。<アーキタイプ・システム>から解脱する。本来システムが経験値などに変換して付与するリソースを変換される前の状態で獲得するようになる。
《器》、要求到達段階:Ⅰ。獲得したリソースを保管・吸収・変化・使用できるようになる。<エンブリオ>の進化に伴って、使用可能量が増加する。この<エンブリオ>は無限に成長する。
《ミダスの手》、要求到達段階:Ⅰ。あらゆるエネルギーをリソースに変換することができる。
ふむ、何を言っている?
形容しがたい感情の渦に翻弄されながら、私は初めの部屋に戻ってきていた。アノマリー、anomaly。異常を意味する英語の名詞で、逸脱したものごとを指す。
たしかに、スキル名だけ見ればそれらしさはある。『解脱』なんて、まさにそうだ。仏教用語で輪廻から外れることを意味するから、なるほど逸脱していると言えるだろう。
ただ、スキル説明文も、TYPE:アナザールールのこともわからない。調べたらわかるかもしれないことを放ったまま考察を重ねても意味がない。考えるより前に、落ち着ける場所をなんとなく目指していた。
しかし、こうして見てみると、本当になにもわからない。各スキルに共通して出現する『リソース』という単語や、確実にそれに関わる<アーキタイプ・システム>というもの。タップしても解説とか備考とか詳細とか説明とかなにもないし、困ったもんだよ。
いちおう、わからないなりにわかることもある。たとえば、今後経験値を得られないこととかね。これじゃジョブに就いても意味ないじゃん、レベルが上がらないんだから。もとから無職ではあったけどね。やーい、お前一生むーしょく! なら、代わりに得るらしいリソースとやらはなんですか?
ほかに変わったことと言えば、やはりステータス。残ったのは、
本棚から、いくらか本を見繕って捲ってみる。<マスター>や<エンブリオ>についての本と、ステータスについての本。今起こっていることをできる限り知りたかった。専門用語はいい。調べ方がわからないからだ。Googleって偉大だったんだ。今でも残っていることがその証だね。あとでログアウトして調べることにする。
ならわざわざ本を読む必要はあまりないが、三倍時間であることがデメリットを小さくしてくれるから少しは大丈夫。
<エンブリオ>についてという題の本の序盤には、こう書いてあった。いわく、
『<エンブリオ>は<マスター>のみが持つ固有のシステム。
<エンブリオ>は過去に“化身”と呼ばれた存在により管理・養殖されており、また“化身”自体も<エンブリオ>と同質のものである。むしろ、<エンブリオ>が“化身”の劣化品であることから、多大なリソースでもって進化を続けた末に“化身”になると考えられる。
<エンブリオ>という種族は、人間に寄生しリソースを吸収することで成長する。寄生される人間は、一部は適合できないことがあるようだ。適合した人間は<マスター>と呼ばれる。
<エンブリオ>は<マスター>の完全死と同時に、その時点での到達段階に応じた数に分裂するため、<マスター>がいる限り増殖・繁栄を続けることができる』
とのことだ。とんでもないネタバレを食らった気がする。そのうえわからないことがさらに増えた気がするが、今はたぶん気にしなくていいことだ。“化身”についてとかは次のページに書いてあるし。どれだけ恐ろしい存在か、過去に何をしたかなどなど。どうやらとんでもない存在だったらしい。
<マスター>についての本がなかったのは、<マスター>とそれ以外の人間があんまり違わないからなのかな。
ひとまず、ログアウトして調べ物をしたい。固有スキルについて何ひとつ理解できないのはまずいですよ。
◇
ゲーム内では数時間歩いた気がするのに、現実だと二時間しか経っていなくて驚いた。あんなに濃かったのに……。こりゃやべーですわ。そりゃあ、人気になるわけだ。あらゆるものよりも貴重な価値を持つ『時間』を、やればやるだけ錬成できるわけだから。
水分補給を片手間に行いながら、端末を起動。AR越しに表示されるUI上で、視線を這わせる。思考入力操作が複数のタブを同時に動かし、攻略wikiのタブを複数開く。バカげた情報量が蓄えられたサイトの多重展開が、フルダイブゲームとは違ったほどよい負荷を与えてくる。この程度なら、心地よいくらいだ。どこかに書いていないか、どういう記載方法なのかなどを探るため、ひとまずは雑に流し見をしてみる。
「なになに、<エンブリオ>は形態が七まで……無限に進化って書いてなかった? なに? それで、カテゴリが……基本が五つあって、先が十……ない。ハイブリッドにも……ない。じゃアナザールールってなんなの?」
<エンブリオ>の主な種類について書かれたページをスクロールする。上部に種類が、下部に編纂者たちの実例を記載するかたちらしい。雑に眺めていたせいか、見つからなかったので、上から一つずつ確認する。
ほとんどのプレイヤーは、基本カテゴリと呼称される五つのカテゴリから始まるらしい。一部の人は、レアとされるいくつかのカテゴリから始まるらしいが、そこにはアナザールールはない。じゃあなんなんですか一体。スクロールを続ける。
「上位派生、じゃないよねー……この辺は全部名前が変わるみたいだけど、私のは変わったあとでさえないみたいだし」
基本五カテゴリは、上位派生で名前を変えることがあるらしい。たとえばアームズ系統だと、ウェポン・アームズとかカリキュレーター・アームズとか。
逆に、そのまま派生するのではなく、別属性と複合したり、派生したうえで複合したりするらしいけど……確実に名前が長くなってる。違うな。
「あ~~~めんどくさ、これも例外なのかな──おっ? これは、もしかしてもしかすると?」
じゃあ一体どこの何なんだい、また前例のないやつなのかいと思っていた矢先に、端のほうに書いてあるのを見つけた。
TYPE:アナザールール……テリトリー派生の特殊な上位派生として確認されてはいるものの、例が少なすぎてあまり書けることがないらしい。全体的にふわっとした説明だ。埋め込みリンクから実例を見ると、二、三人ぶんの実例しかなかった。これでも頑張ってかき集めたほうなのだろう。本当にありがとう。よくやってくれた。君たちは英雄だ。
実例の欄を見ると、見覚えがあるようなろくでもない症状……スキルが書いてあった。スキル改竄、法則改変、アイテム偽装……特に法則改変には身に覚えがあるぞ。なんかステータス消えたよ。信じて。
ともあれ、ステータス異常は<エンブリオ>由来だと考えてよさそうだ。バグを少し懸念していたが、仕様外の仕様という納得を得られたので、とりあえず満足しておく。続けざまに、ほかの気になることも調べていく。<アーキタイプ・システム>とはなんぞや、この世界の経験値について、えとせとら。
◇
一時間かけても見つからなかった。<アーキタイプ・システム>ってなんだよ。
◇
夕方になっていたので、夕飯を摂ったりお風呂に入ったり家事をしたり。寝る以外の生活を終わらせて再ログインした。そこそこ急いだはずが、気付けば生活だけで三時間以上経っていた。ゲーム内時間に換算すると十時間ほどになる。たまらないね。
ログイン後、ベッドに腰かけ、ウィンドウと睨みあう。帰ってきてもステータスは返ってきていない。
推測するに、<アーキタイプ・システム>はゲームシステム、特にレベルやステータスのことだろう。プレイしていてシステムのことを名前付きで呼ぶ機会が誰もないからわかっていないだけなんじゃないか。だとするとなぜステータスが全部消えてないんだろう、という疑問は残るが。
私の<エンブリオ>は、リソースとやらを利用するらしい。リソース自体を生み出すスキルは《解脱》と《ミダスの手》で、それを使うためのスキルが《器》らしい。じゃあどうやってリソースを生産するのって話だが、敵を倒して経験値を得るか、エネルギーを変換するか……具体的には何をなんだろう。
エネルギーと言われて真っ先に思いつくのは、やはり電力。あとは、発電するために使うエネルギー……熱や位置、運動エネルギー。これらをリソースに変換する、と。発電みたいなものか。
であれば、どのようにしてリソースを使うんですか、という話だ。あるいは、使って何ができるのか、とも言える。
電力の例えを使うなら、原始的なところに限っても、ローレンツ力で磁力に変換しモーターを回したり、強い抵抗を挟んで発熱させたり発光させたりできる。もし私が使えるエネルギーが電力と似たようなものであれば、電力を用いて別のエネルギーに変換するように、《器》を経由してリソースを別のエネルギーに変換することができるのではないか。
仮にそれができないとしても、エネルギーをそのまま使うことはないだろう。それを用いて、何かを実現できるはずだ。
腰かけていたベッドから下り、広い壁に相対する。残量がどれほどかも、したいことに要求されるリソース量もわからないが、試行錯誤も悪くない。
無駄に広い空間と、それに伴った大きな壁はお誂え向きだ。制作者の意図を感じる。テストするなら安全圏で一度しておきたいと思うのは、いつの時代も変わらないらしい。
目を閉じ、脳内にイメージする。初めてだから、複雑じゃなくていい。自分の中にたまっているリソースを手元に集め、指向性を与え、壁を穿つようなイメージ。
力を抜く。そこまで大規模じゃなくていい。最小限のリソースで──穿つ。
少しの気力が抜ける感覚と、強い反動の感覚。期待と不安を胸に、目を開く。
「う、わぁ……」
やりすぎたかと思った。直径十センチメートルほどの穴がぽっかりと開いていて、奥が見えない。光が届かないところまで掘れていた。
力の抜ける感覚が、その抜けたぶんの大きさから、残ったリソースと使ったリソースをおおまかに示してくれていた。使ったのは、全体のだいたい一割といったところだった。
レベルが上がらないことより、ステータスが無くなったことより、遥かに強力なこの力。この力は、使える。
◇
その後、私は<巣>に来ていた。実戦での運用が可能なのかを試したかったのだ。
あの後、もう少しだけ実験をして、いわゆる
ただ、魔法職にしてはMPの項目がない。もしかすると、MPもリソースに変換されるのだろうか。SPも同様なのかな。
閑話休題、ここには狩りをしにきた。《解脱》は経験値をリソースにするらしいから、その効率がどれほどのものなのかを知りたい。
仮に、敵を倒すとき、リソースを使う方法だけを取るとする。得られた経験値により、収支がプラスになるならいいが、マイナスの場合<エンブリオ>が奥の手になる。
検証は生きるための知識になる。無為ではない。躊躇いは捨て、気持ちを切り替える。
顔を上げ、遠くを見上げる。視線の先には、そこそこの肥大化を遂げたのだろう、蜂のような多くの虫が飛び交う、三メートルほどの大きさの巣があった。今から、あそこにいる虫の命を奪う。
経験値の入手についての仕組みを考える。私が最初に殺した蠕虫は、刺殺というよりは失血死の方が近い。直接刺し殺したわけではなく、どちらかと言えば間接的だ。なら、私が起こした事象なら、間接的でもある程度直にやったと見なされるのではないか。でないと、直接的な戦闘力のないプレイヤーのレベリングは困難を極めるだろう。であれば、一掃には手間取らない。
リソースを使い、外壁の一部を切り取る。浮かせるため、下から力を与えてやり、巣を外から囲ってやる。確実性と安全性のためだ。
異変を察知したのか、蜂たちがにわかに騒ぎだす。細く使い続けているリソースごしに、ぶつかるような感覚を感じた。なかなか多彩な<エンブリオ>だ。実際に魔法を使うときも、こうなのだろうか。
制御が緩みそうになるのを、気合いでなんとかする。瞑目し、新たなタスクに集中する。
巣の内側に、三〇リットルほどの水の塊を生成する。言葉にすると多いように感じるが、実際は三〇センチ角ほどだ。蜂が目測で六センチほどだから、<巣>のスケールではさほど大きくはない。問題はここからだ。
リソースを熱に変え、水の塊を急速に熱する。ゆっくりではいけないが、勢い余って残存リソースを全て焚べるのは後が怖い。丁寧に、それでいて勢いよく。目標温度は
リソースが急激に失われる感覚がする。どこか確信じみた手応えがあった。耳を塞ごうとして──爆発音。間に合わなかった。耳鳴りがする。
「成功した……?」
自分の声も、あまりまともには聞こえない。数分は治まらなさそうだ。初めてやったが、なかなか上手くいった。人力で再現できるものなんだ、
檻にして防護壁だった琥珀色の外壁の欠片は、木っ端微塵に砕け散っていた。破裂というよりは、強い衝撃により砕けた、という方が近いだろう。
巣の残骸は四散しており、見る影もなかった。元あった場所から、多量のリソース──経験値が流れ込むのを感じる。使ったぶん以上のリソース。破壊の証だった。
水は気化する際、その体積を一七〇〇倍に膨れさせる。通常、水を沸騰させる場合は、その加熱は穏やかだ。だから、少しずつ水蒸気になる。
では、急激に加熱したらどうなるだろうか?
水の気化熱は、一リットルあたり約二二五七キロジュールとされる。三〇リットルともなれば、六万キロジュールを優に超える。
これは、ほかの物質に比べればかなり大きい。だが、物質変換で生成する以上、出鱈目な物質──例えば、液体窒素のような、常温で気体のもの──で加熱をスキップするより、この世界に既存の魔法を踏襲できる水生成のほうが、加熱のプロセスを考慮してなお安上がりだと考えた。実際、加熱が不要、または簡易で済む物質の生成は制御が難しく、断念した。
さて、六万キロジュールもの熱量をそのまま賄うのは、どう考えても無理だ。だが、明らかにかかるコストと起きる事象が釣り合っていないものはいくつかある。例えば、先ほども使った水を生み出す魔法。既存の魔法にあるからできると思ったからやってみたら、実際にできてしまったもののひとつだ。たかが水を生み出すだけではある。されど、無から水を生み出しているのだ。よくよく考えれば、おかしい。
アルベルト・アインシュタインによる、特殊相対性理論から発生した有名な式に、E=mc^2というものがある。エネルギーは質量に比例するという意味のこの式は、比例定数であるcが曲者で、光速のメートル毎秒である。一グラムの水が消滅したとすれば街一つが消し飛ぶし、逆に言えば、一グラムの水を無から生成するためには街一つを消し飛ばすだけのエネルギーがいる。
要は、リソースは単なるエネルギーではないのだ。使った感覚としては、任意の事象を再現するために、結果にアプローチするための媒介という感覚が近い。捻出したリソースの塊を、望む結果で型にはめ、成形された事象が再現される。今回は、生成した水が水蒸気爆発を起こすようにしたかったから、実際の火山噴火などでも起こるマグマとの接触をイメージした。
そうして大規模な爆発を起こし、巣を爆破したわけだ。もっとも、蒸発した水の体積がそこまで多くないため、甚大な被害を被るのは半径一桁メートル程度。十数メートル離れて実行したので、自分に被害はない。
散らばる巣の残骸のそこかしこから、経験値が──リソースが流れ込んでくるのを感じる。使ったぶんよりは大幅に多いリソース。命を握り潰した実感が湧いた。
楽なものだ。遠くから一方的に蹂躙して、
破壊痕を見つめ、物思いにふける。<エンブリオ>は、個人の根本的な欲求や自我の発露だと言う。あの瞬間、命を無駄にしないことは確かに望んだが、このような形になるとは思いもしなかった。どれだけ調べても、システム内で特異性を発揮するのが<エンブリオ>であり、そこから逸脱することはない。不思議だった。
私の<エンブリオ>の──【アノマリー】の由来にどんな意味があるのか。システムから隔絶されることが象徴する意味、リソースを扱うことの意味。後者は、当時望んでいたことが影響しているとしても、前者は不明だ。ハード入手段階でも感じた、どこか、<Infinite Dendrogram>そのものから拒まれるような感覚。それが付きまとってくる。
考えても答えが出るとは思えなかった。もとより、ハードもソフトも謎技術の塊たる<Infinite Dendrogram>。その中核を成す<エンブリオ>も、パーソナルを由来にするという情報以外は、どのようにして読み取るかなど、謎に包まれているらしい。
あぁ──
「わかんない〜〜〜!!」
こんなはずでは!
我々ができることの全てと魔法チックなことの全てが可能な万能<エンブリオ>、【アノマリー】の性能解説回でした。無限に進化!? どういうことだってばよ……!
仕様上、第七形態になっても<超級>ではないです。八でも<無限>じゃないし、なんなら十二までの性能は考えてます。
第何形態だろうと、第四以降は<上級>です。タイキョクズへの影響はあまり考えていません(会うことを考えていない)。バグるんじゃないですかね?
ちなみに、付喪神の先例もありますから、機械の乗っ取りとかもできます。やったぜ。ただ、おそらく「ここのモーターを60度だけ右向きに120rpmで動かして止める」みたいな指示を常にしないといけないので難しそう。勝手にやってくれる魂でもあればいいんですがね。操縦士系ジョブ? 知らない子ですね。
システムから隔離すれば、人とジョブで一対一対応してる超級職とも縁がなくなって都合がいいね。百体で<無限>を選抜するのにもカウントされなくなって、自称原作リスペクトとしては都合がいい。もっとも、そのままだと<Infinite Dendrogram>の二次創作である必要性がないのですが。必要性を見せられるまでが遠いです。
実は固有スキルは最初に考えたのですが、逆に、主人公の心境などは書きながらパッションなので、ある程度マッチしてくれているのは運です。勝手に主人公が罪悪感を感じ始めてウケる。