↑本作では実現しない予定でしたが、wiki眺めてたら感想返し2026/6/18に「反物質生成系<UBM>や<エンブリオ>がいる」と書いてあり横転してしまったので、追々やるかもしれません。自家発電するつもりはなかったんですが予定が狂いました。
気を取り直して、狩りを進める。ここの虫たちには悪いが、生態系を破壊しない程度には糧になってもらう。言ってしまえばレベリングだ。慣れは最大の経験値であり、回収したリソースは余裕になる。<エンブリオ>の進化条件に戦うことがある可能性も考慮すると、しないわけにはいかなかった。
今日から私は魔法使いだ。既存の魔法を使えず、常に手探りではあるが、おそらく自由度で言えば既存のジョブよりも圧倒的にできることが多いと思う。
ログアウトしたとき、<エンブリオ>だけではなく、様々なことについて調べた。<アーキタイプ・システム>ことだけでなく、既存のジョブや強いとされるスキルについても。
どうやら、既存の魔法職は、見習いの【魔術師】を起点として、一属性特化のジョブに発展するらしい。例えば、火属性なら【紅蓮術師】だし、水属性なら【蒼海術師】といった具合だ。火属性も水属性もないというのはさておき。
もし、一般プレイヤーが複数属性を使いたいなら、全属性対応の魔術師系統上級職【賢者】になるか、使いたいものに限定するかの二択らしい。が、【賢者】は単体では火力に難があり、条件も難しいらしい。要は使い勝手が悪めなのだ。
そう考えると、リソースを媒介に望む結果を実現できる【アノマリー】は、第一形態の時点であらゆる魔法職を凌駕する可能性があると言える。そのぶん、私はジョブに就けない──つまるところ、より強大な力を得ても、より多様な手段を取れるようになったわけではない──わけだが。
思考が逸れた。魔法以上にできることが多い<エンブリオ>で何を実現するのか、という話だ。コストさえかければなんでもできる気がするが、気がするだけだ。現状、仕様の問題か力量不足か、なんでもと言えるほど万能ではない。やや大言壮語だろう。なんでもはできないと思う。
例えば、水蒸気爆発は起こせたが、あれは水蒸気爆発のプロセスや具体例を知っているからだ。物理現象の再現に過ぎない。同様に、再現のやり方がわかる現象の組み合わせならなんでもできるが、それは裏を返せば、ひとつでも知らない事象が噛んだらうまく扱えない、ということでもある。
魔法のような力だし、実際、魔法の再現もできると思う。が、まったく未知のプロセスを経る都合上、完全に想像力だけでリソースを使用、制御してやらないといけない。できないわけではないにせよ、不安が残る。まだまだ使い始めたばかりなのだ。
では、まったく未知の現象の実現とは何か。無意識下でできないと思い込んでいることは、咄嗟には実行できないものだ。あらかじめ手札を増やしておく必要がある。
例えば、既に実現できた『水を出す』という操作で考えると、本来、水が無から出てくるというのはおかしな話だ。それを、水について知っていたのと、「魔法ならそれくらいできて当然だ」というバイアスのおかげで無理やり成り立たせている。
ここで、私が手法を知らないことをしようとする。なんでもいいが、例えば遺伝子組み換え。ずっと生物は苦手だ。何をどうしたら塩基の塊の中の情報を書き換えられるのか、てんでわからない。これを「万能リソースならなんとでもなるでしょ?」と言えるようになれれば、真に万能だと言えるだろう。そうなれば、ゲームシステムに──<アーキタイプ・システム>に縛られていないぶん、あらゆる<エンブリオ>を凌駕できるだろう。どんなゲームでも、強くなりすぎたとき、ゲームシステムは補助輪から足枷に変化するからだ。
しかし。結局、万能ではない。大規模なことはまだできないし、大それたこともできない。私が今できるのは、規模で言えばせいぜい一メートル以下の規模での操作が限度だし、内容で言えば初歩の初歩みたいなことしかできない。温めたり、冷やしたり。水を作ったり、火を出したり。あるいは、物体に運動エネルギーを加えて加速させたり。バリエーションを増やそうと思えば増やせそうだが、しかしそれぞれは控えめだ。プラズマになるまで加熱したり、絶対零度になるまで冷やしたりはできない。
それに、射程の概念もある。というのも、手元でできたことをいざ遠くで行おうとすると、枷がかかる。一メートル程度の規模までできたことが、離れれば離れるほど小さくなり、百メートル以遠では制御が散るようになった。
ただまぁ、私も一人のゲーマーだ。そんな御託を並べたうえでも実現したいことはある。
「そう上手くはいかないもんだよねぇ……
とはいえ、実はまだこのゲームを始めて一日も経っていない。体感時間では、ゲームを始めてから半日といったところだ。その間、半分以上を探索に費やしていたので……有り体に言えば、移動が面倒になったのだ。
持論だが、「便利にしたい」という欲求は、発展の根源のなかでも強いほうだと思っている。いちばんは欠乏だろうが、それにまされないとしても、不便さを無くしたいという思いを活力にすればなんとかならないかと思ったわけだ。
だが、無理なものは無理だったらしい。理屈が通らないものは、やはり難しいか。
「実現できれば今後楽だったんだろうけど……望みすぎ、かぁ……」
あわよくば、次の<エンブリオ>の進化でできるようになればいいが。
頭が考えている間にも、身体は歩いてくれている。目につく存在を全て鏖殺する気はないし、生態系を破壊する気もないから、必要に応じたぶんだけ、最低限の殺害に留めたい。再生を前提にして、程々の規模のコロニーだけを糧にしたい。あるいは、中間層の強めの虫たちを数匹。
こんな余裕があるのは、強大な力を持ったからだろう。自分の傲慢さに辟易とするが、目を瞑ることにする。ゲームの中とはいえ、命を実感したのにこれか。人間は愚かだ……特に私。
そもそも、元来の目的は脱出なのだが。常に未知の領域を探索するようにしているし、見落としも無くすようにはしているが、次の層への入り口は見当たらない。
入り口と一言に言っても、実態が不明だから探しづらい。いずれシームレスに切り替わるのか、急に景色が切り替わるのか、それともここの入り口のように扉があるのか。そもそも、入り口があるという認識すら正しいのか怪しい。あからさまに、領域で最強の存在──<UBM>、【百万足 ミリオン・ピード】──がいるのだし、あれの討伐が脱出のフラグなのかもしれない。それに、特定の動作がフラグかもしれない。未知数だ。
歩いているうちに、いつぞや見かけた甲虫がいた。同一個体かどうかはさておき、種族は同じだろう。大きな大きな
遠すぎるとリソースを扱う精度が落ち、規模も落ちる。すると当然、殺傷力も落ちるので、どうにかして近付きたい。が、近付きすぎると逃げる。どうしたものか。悩ましい。
逡巡の末、
まず、ルート取りの確認。未探索領域なので不明な部分が多いから、追い込める場所があるかはわからない。かわりに、通過済みの領域になら袋小路はある。脇道に逸れるのも加味して……二百メートルの距離が見込まれる。大変だが、仕方ない。
マップを見直してルートを頭に叩き込み、策も練り、満を持して臨む。まずはあのカブトムシの向こう側に、あいつが逃げたくなるようなもの──危険物や攻撃──を置く。逃げてきたところを、脇道で待機していた私が追いかけ、適宜横から攻撃をして誘導する。次善の策は考えていないが……まぁなんとかなる。よし。
なるべく鋭利な槍をイメージする。純粋な金属などはコストがかかるから、混合物──岩や土でいい。石にしよう、石の槍だ。強度はいらない。少しでも脅威度を上げ、誘導を正確にする。それを、カブトムシの向こうからやつに向けて──投げる。
槍を地面に飛ばす。一本目は外れてもいいし壊れてもいい、あくまで「真逆の方向から脅威が迫っている」と誤認させるための手に過ぎない。
着弾した槍が、軽快な音を立てて地を跳ね、崩れる。ある程度雑なつくりにしたとはいえ、さすがに脆い。このぶんだと距離減衰もあるな。それはさておき、威嚇を受けたカブトムシは──ふむ。警戒してか、すぐには動いてくれないな。それは困る。追加で威嚇し、逃げ腰にさせることにする。
追加で槍を数本生成し、投擲。粗製にすれば集中力を割かなくともよくなるので、だいぶ楽になる。片付けも要らず、一石二鳥だ。そうしていると、さすがの量ということもあってか、カブトムシは移動を始めた。警戒よりも避難を優先するようだ。方向は狙い通り、こちらに向かってきている。向こうの視野にもよるが、無闇に顔を出して鉢合わせるのも厄介だ。追い詰めたいのであって、逃げられたいわけではない。姿を隠して、通りすぎるのを待つ。
「QQQ……」
音が近付き、離れる。通りすぎた。通路に躍り出て、追いかける。その背を追い、誘導し、袋小路に閉じ込め──ん? おかしいな。逃げてないな。むしろ向こうが私を待ち構えていたような──想定外が、思考の空白を生んだ。それがいけなかったのだろう、攻勢に転じる機を与えてしまった。
「あ、まず──」
カブトムシがこちらに突進してくるのが見えた。頭では対応しようと考えているのに、手が反射的に体を庇うのを止められない。大きな一本角が、私の腹目掛けて突き刺さろうとしていた。間に合わない。
対処の間もなく、衝撃を感じた。流れる視界から、吹き飛ばされたのを感じる。回る景色、上下がわからなくなる。目が回って、血の気が引く感覚がする。痛い。
地面に叩きつけられて、息が漏れ出る。体勢を立て直そうとして、足に力が入らないのに気付いた。
そうして目にしたのは、血を噴き出して後ろに倒れる下半身と、その血に塗れた大きなカブトムシだった。
◇
<Infinite Dendrogram>のデスペナルティは二十四時間のログイン制限らしい。そうなんだ。
明かりを落としていたからか暗い室内で、目を開ける。未だに目が回る感覚が消えない。時計を見れば、日付が変わろうとしていた。逆に言えば、それだけしかプレイしていないということでもある。呆気ない死亡だったな、と記憶を反芻する。
死んだ理由は明確だろう。油断だ。力を手に入れて実践して、自分も強くなったと勘違いして、負けることを考えていなかった。今の自分は、ステータスの伸びがないレベル〇の肉体しか持ち得ていないのだ。殺す力を得ても、死なない力はなかった。狩りをするつもりになっていながら、狩られるために意気揚々と、飛んで火に入る夏の虫。哀れだ。
とりあえず、寝るか。
目が覚めてストレッチ、朝食を食べる。無職最高。金ならあるんだ。しばらくは働かなくともいい。となると、食事以外はずっとゲームに没頭していても良いのだろうか。三倍時間で脳も疲労するだろうが、睡眠もゲーム内で済ませてしまえばいいし。
となると、安全圏の確立の方法を模索したり、そもそも死なないようにしたりするのが重要になるな。今後の方針も見えてくる。万能の力を手に入れても、害することだけを考えていてはいけないのだろう。なるほどね。とりあえず調べものをして、今後の【アノマリー】運用方法と戦い方について考えておくか。
◇
「ふんっ」
壁を殴る。強い衝撃に耐えかねたのか、亀裂を生んだ壁はぱらぱらと破片を零した。しかし反対に、私の手は特に痛みを訴えない。
「上出来かな? これはできるのねぇ」
一日明けて次の日の深夜、ログインしてまず試したのは肉体の強化だ。不幸中の幸いと言うべきか、再ログイン地点はセーブポイントだったので、安全に試すことができた。
調べたところ、この手ゲームのらしいと言うべきか、前衛の補佐をする後衛といった分業の図を成立させるためのバフ魔法は存在していた。一度目のwiki調査では【魔術師】の系統を中心にチェックしていたが、【魔術師】から派生するほとんどの上級職は、攻撃一辺倒とまではいかないまでもダメージ貢献寄りらしい。回復や補助に回るのであれば、回復なら【司祭】や【僧侶】、補助なら【付与術師】の系統に就く必要があるそうな。系統から違うのであれば、なるほど知らないわけだ。wikiを見るなり本棚チュートリアルを受けるなりするべきか。結構書いてる情報違うんだよなぁ……本棚チュートリアルはネタバレ方面で強い。手詰まりになるまでは見ないことにしている。
さて、バフの話に戻ると、いわくステータスの数字を直に弄るとのこと。半分ほどステータスを消滅させているのはさておき、『MPを入力すれば過程によらず肉体を直に強化できる』というのがミソだ。少なくとも、私にとっては。
既に<アーキタイプ・システム>側で実現できているのだから、過程を想像できなくとも再現可能なのだ。これはできるな、と思ったのでやったら実際に強化された。結果として、壁に罅を入れることができたわけだ。嬉しい。やはり、【アノマリー】のリソース使用による事象の再現は想像力に委ねられる部分があるらしい。一度できてしまえば二度目もできるだろうが、一度目がなによりも難所になるだろうな。
ただ、強化するステータスを指定しなくとも強化を付与できてしまったのは少しばかり想定外だった。wikiには付与の過程は詳細には書いていなかったからわからないが、おそらく、私のリソース使用と同様に、『どのステータスを』『どのくらい』強化するかは任意なはずだ。でないと扱いにくく、誰も使わなくなってしまうだろう。実際、強化している間は少しずつリソースを消耗している感覚がある。しかしそうではないらしいのを鑑みるに、単に私の<エンブリオ>が雑な仕事なだけか。こんなことを考えていると<エンブリオ>に怒られそうなものだが──そもそも無機物に自我があると考えるのが日本人しぐさすぎるか。狩ってきた虫たちのことを考えると、その思想をやめることはないが。
閑話休題、今しがた『肉体強化』は可能だとわかったわけだから、似たような理屈で『傷の再生』も行いたい。再現の対象を【付与術師】から【司祭】に変えるだけだから、これまた雑にできるだろう。
倉庫区画に大量に置いてある剣のうち一本を手に取る。刃の部分に指の腹を当て、なぞる。かなりの期間放置されていたであろうものなのに、切れ味は保たれていたらしく、いとも容易く切り傷が生み出された。鋭すぎるのは事故が怖いが、武器としてはそのほうがいいのだろう。
さて、指の傷に意識を向ける。補填するイメージと再生を促進するイメージのどちらを取るかで悩んだが、いっそ両方を同時に想像してみる。
すると、みるみるうちに傷が治まる。血を拭っても新しく滲むことはないし、そこに傷があったことを感じさせない治癒の具合。できた。そこまで苦労した感覚もないし、強化と違って常時消耗することもない。もう少し大規模なことならできそうだ。二、三か所の骨折程度なら一秒も要らないだろう。さすがに部位欠損を治すところまでは想像が及ばないので断念したいが。
強化も再生も実現できたから、今後の動き方がかなりわかりやすくなった。強化された身体を存分に活かして接近戦を仕掛けつつ、怪我はすぐに治して継戦し、手の届かないところや敵の視界外に魔法を打ち込む魔法戦士型ビルドだ。ここにきてようやく、キャラクリ段階に仕込んだリアルより小さめの体躯が活かせるというわけだ。元からやりたかった構成からそこまで離れてはいないので、先見の明があったと言えるな。さすが私だ。まあ、リソースが尽きないうちは、という但し書きは付き纏うが。
さて、ようやく脱出のことを考える。手持ちのリソースは、巣をまるごとひとつ破壊したときの収入のおかげで少なくはなく、むしろ多くもある。が、連発できるほどでもない。早いうちにこの<塔>を出たいなら、戦い方の確立と障害の排除はマストだろう。その点でもリソースはある程度あったほうがいい。嫌々言ってる場合でもないとは思うが、しかし無益な殺生を避けたいのも本音。リソース確保もしたいし──これらを同時に満たす方法を考えるが、ひとつしか思いつかない。
倒すか、<UBM>。
戦闘描写がいつまで経っても苦手ですが、戦闘描写をしないと進めませんね。辛い。戦闘描写中に考えている内容をどこまでどこに書いたかを覚えていないので、戦闘描写執筆中もメモを見返しているときも辛いことだらけです。
【鱗甲蠕蟲】
硬く大きい鱗を体節ごとに数枚纏った虫。カルディナのドラグワームの亜種として考案。
特化点はEND(鱗)、だいたい8000。レベル500のEND特化ジョブの人のENDと同じくらいなんじゃないかと思っている。
本体のENDは100くらい(柔い!)なので、鱗の隙間から点の攻撃をすればワンチャン、外から攻撃するならノーチャン。体重で押し切った。体内はクリティカルになるらしいので、補正も乗って撃破。
【粘甲虫】
スライムを素材にしたカブトムシ、種族はカブトムシ。
スライムなのは体内だけなので外は固い。
特化点はSTR、強い力で拘束して、スライムの中に閉じ込めて捕食してくるぞ! 普通に脚力も強いので両断された。あなや……