「元気だった?」
「ああ、もちろん。元気だよ」
同じコンパートメントで、ボクはマルフォイさんと久しぶりに話した。
といっても、手紙でやりとりはしていた。
大伯母は難しい顔をしていたが、手紙までは禁止したりしなかった。本当にすごく難しい顔はしていたが。いっ○くどうのお爺さん人形みたいな顔はしていたが。
「…………」
なんだか、
三人からの視線がじっとりとしたものになっている気がする。
夏休み前からこうだっただろうか?
「ねぇ、さっきの『ネタにしてきた』って」
「アル!」
マルフォイさんが慌ててボクの口に向く。
杖を振り上げているのを見て初めて、
でもボクはてっきりキスされるものだと思っていて、口をとがらせて待機してしまっていた。
「っ…………君は、だな……!」
「あ、呪文かけるんだよね、いいよ……?」
「…………………、………。」
マルフォイさんは、ボクに呪文をかけることなく、ローブの懐に杖をしまった。
「君には警戒心というものがないのかい」
「あるよ……だから、ほら」
ローブを少しあげて、太もものホルスターを見せた。
なぜかマルフォイさんたちに怒られてしまった。
‐‐‐
食堂について、
一年生たちの組分けを見守る。
なんだか新鮮な気持ちだ。
彼女たちが組分け帽子に寮を告げられて、ととと、と駆けていくのが微笑ましかった。
ロンさんと同じ赤毛の女の子が、嬉しそうにグリフィンドール寮に駆けていく。
これからまた一年が始まる。
この一年はどうなるのだろう。
まだ、『ハリー・ポッターと賢者の石』の途中なのだろうか?
それともすでに作品は終わっていて、次の話に入っていたりするのだろうか?
前世でちゃんと見ておけばよかったと思う。
もし、またマルフォイさんを襲ったクィリナス・クィレル教授のような人が現れたらどうしたらいいだろうか。
ボクはハリー・ポッターという作品のシリーズまでうろ覚えだ。
なんとかの部屋と、半なんとかのプなんとかみたいなのがあったような……。
うーん。
思い出せそうで、思い出せない。
「ゴイル、そこのビーフをとってくれ」
「どうぞ。アルは何かとってほしいものある?」
「半熟のプリン…………」
「半熟の……え? どこにあるそれ……」
パンジーさんの戸惑う声ではっと我に返る。
手を合わせて謝罪した。
前にいる先生たちを観察すると、
すごく綺麗なお姉さんがいた。
マルフォイさん曰く、ギルデロイ・ロックハートというらしい。
「うさんくさいやつだよ。アル、君はかかわらないほうが良い」
「でもたぶん、今年度の防衛術の先生だよね?」
「やつが君をみつけたら、トロフィーだと思って口説いてくるぞ」
それは困る。
でも、関わってみないとわからなさそうでもある。
「私も今年度は忙しい、なんたって、今年から私はクィディッチチームに入るんだから」
おおーとボクは手を叩く。
無表情ながらもふふんと自慢げな雰囲気になっているマルフォイさんが可愛らしかった。
‐‐‐
翌日、
午後。
ボクは、ギルデロイ・ロックハート先生と、出会ってしまった。
「やあ君は、男の子じゃないか。
まさか男の子が私に会いに来てくれるだなんて喜ばしいね、もちろんこれまで何度も男性に声をかけられたことや"そういう"関係を提案されたことがある私だけれど、やはり君がここに来てくれたというのが一期一会なんだ」
なんだか早口でそんなことを言われた。
ボクの隣に、マルフォイさんはいなかった。何やらやることがあるらしい。
「失敬。いきなり私に話しかけられて緊張しているだろう。私はいつも相手の見上げる視線を無視して友人のように話してしまう」
いつのまにか手を握られていた。
でも、手は最初にマルフォイさんと握手したときのように、ちょっと汗をかいていた。
金髪の美人なお姉さん。
かっこうは豪奢で、マジシャンみたいだ。
「さきほど、ハリー・ポッターに対しても、同じような接し方をしてしまった。人を感化させたり、人の心を溶かしたり、私はなんともそういったことを無意識にやってしまうらしいね」
「あー……そうなんですね!」
ボクは、教科書をずいと持ち上げた。
「笑顔がかわいい先生でよかったです」
一瞬だけ彼女はなにか言葉に詰まったあと、すぐにキラリと歯を見せて笑った。
「これは驚いた。綺麗と言われることはあってもかわいいと言われることはなかったものだから。
チャーミング・スマイル賞を五回連続受賞しているのだから、そういった多面的な側面を笑顔に秘めていることは疑うべくもないかもしれないが、いかんせん────」
「あの、そろそろ授業にいかないと、間にあわないんじゃないですか……?」
ボクは、自分が抱えている教科書を見下ろした。
それは、目の前の先生の著作だ。
「そうだった、私はつい時間を忘れて相手の話に聞き入ってしまう。
さぁ、いっしょに手を繋いでいこうか」
「え、あ、はい。お願いします」
教室に入ると、
すでにみんな集まっていた。
ハリーさんが、ボクに同情するような瞳を向けてくる。
マルフォイさんは、…………怒ってる……?
教壇に立って、ロックハート先生は、まず自分の業績を語り、そして、小テストを配り始めた。
テストの内容は、ロックハート先生に関するものだ。
好きな色、なんだっただろう。
問題はそのあとで、
先生は、防衛術の訓練と称して、大量のピクシーを教室のなかに解き放ったのだ。
座ったまま杖を抜いて、数匹撃ち落としたけど、それも多勢に無勢。
ごわ、となにかに包まれる。
マルフォイさんのローブだった。
仲間を弾き飛ばしたボクの杖を奪おうとしたピクシーに髪やら何やらを掴まれたりしながらも、マルフォイさんはしばらくじっとしていた。
しかし、
「
突然様子が一変したように、
マルフォイさんは、失神呪文をピクシーに放った。
ばたばたと何匹かが地面に落ちる音がした。
ふと、上を見た。
ネビルさんが、またスカートが丸見え逆さ吊りの状態でシャンデリアからぶら下がっていた。
ゆっくりと浮遊呪文をかけて、彼女を地面に戻す。
それでも顔からいったからか、「むべっ!」といううめき声が聞こえた。
「大丈夫?」
「ありがとう、アルぅ……」
上にいたピクシーたちは、揺らそうとしたシャンデリアが動かなくなったのを悟って、別のイタズラをもとめて飛び跳ねた。
‐‐‐
ギルデロイ・ロックハート先生の授業は、防衛術らしさはなかった。
クィリナス・クィレル先生のときは、十分実のある授業だったし、にんにくの匂いとかもある意味では雰囲気を出していた。
でも他の先生たちがロックハート先生を選んだなら、彼女が防衛術の教師を勤める理由もなにかあるのだろう。
マルフォイさんは途中からほぼ殺意のようなものをロックハート先生に向けていた。
母上に頼んで懲戒させると言っていた。
そんなマルフォイさんが、とうとうクィディッチチームのメンバーとして箒に乗る。
今日はその練習をするらしい。
ボクは、なんとか起きて、マルフォイさんも起こして、
彼女たちが準備をする間、
クィディッチ競技場で待っていた。
のだけど…………
「なんでロンさんたちが……?」
「君こそ、なんで朝からここにいるんだ?」
ハーマイオニーさんと、ロン・ウィーズリーさん。
ふわふわな髪の二人が、トーストを食べながら観客席にいた。見ているとお腹が減ってくる。
ボクは少し驚きながらも、一席空けた隣に座る。
「また、ネビルを助けたんだろ?」
「うん? ああ、この前の授業のこと……?」
「君、スリザリンらしくないよな」
どこかムスッとした表情でロンさんが言った。
かわいい。
「組分けに時間がかかっていたし、本当は他の寮にも行けたんじゃない?」
ハーマイオニーさんがそう言う。
髪の毛がすごいもふもふだ。いつか触らせてもらえないだろうか。失礼だろうか。
「かもしれない。ボクがスリザリンに行きたいって言ったら、組分け帽子さんが気を利かせてくれたんだ」
「なんだってわざわざスリザリンに行くのさ」
ちょっと返答に困ったが、
正直に答えることにした。
「マルフォイさんが、いたから…………」
二人が固まる。
顔を見合わせて、またこちらを見た。
「マルフォイと同じ寮になりたかったのか? 君とマルフォイがそういう仲なのは知っているけど、そこまでするか?」
「いや、ははは…………」
なんだか、成績に合う学校ではなく友達のいる学校を選んだ新入生のような気分になった。
でも、ボクは自分の判断を誇りこそすれ、後悔などいっさいない。
「また組分けがあっても、ボクはマルフォイさんのいる寮を選ぶよ」
「………………」
「………………」
みると、
二人は微妙な顔をしていた。
「マルフォイって、そこまで良いやつかな? 正直、かなりひどいやつじゃないか……? いつかやっつけてやると思ってる」
ボクは、曖昧に笑った。
「そうだな……。ロンさんは、妹さんからいじわるされたら、縁を切る?」
「切るわけないだろ、なにいってるんだ?」
「それと同じかもしれない」
ボクは、マフラーに手を当てて言った。
「ボクにとって、マルフォイさんは一人しかいない。いまどんな人で、これからどんな人になるとしても」
ロンさんが何か言おうとしたが、
ハーマイオニーさんがそれを制した。
足音がしたので振り向くと、
競技場にグリフィンドールの生徒がやってきていた。
「あれ……?」
ボクは、首をかしげた。
「どうしたの?」
「スリザリンが、競技場を使うんじゃなかったの?」
「何を言ってるんだ?」
少しして、
スリザリンチーム。
マルフォイさんたちが、競技場に現れた。
みんな一様に、マルフォイさんの母上が揃えたらしき、ニンバス2001を手にしている。
なんだか、言い争いが始まった。
まずい、
と、ボクと二人は、観客席から降りる。
案の定、
スリザリンチームとグリフィンドールチームで、言い争いをしていた。
何してるんだ? と、ロンさんが尋ねた。
マルフォイさんが、ロンさんを見て笑う。
ボクとも目が合ったので、手を振っておいた。
「……ウィーズリー、ボクはスリザリンの新しいシーカーだ。
ボクの父上が、チーム全員に買ってあげた箒を、みんなで賞賛していたところだよ」
ウィーズリーだと多いから、ロンさんはロンさんと呼んだほうがいいんじゃないだろうか。
「グリフィンドールチームも資金集めして新しい箒を買えばいい。クリーンスイープ5号を慈善事業の競売にかければ、博物館が買いを入れるだろうよ」
ちょっと言葉が悪い。
マルフォイさんは、ハリーさんを初めとするみんなと仲が悪い。
どうやら、以前決闘をすっぽかしたのを、ハリーさんに煽られたようだ。
でもどこか、嘲りというよりは、余裕のようなものも感じた。
「少なくとも、グリフィンドールの選手は、誰一人としてお金で選ばれたりしてないわ。こっちは純粋に才能で選手になったのよ」
ハーマイオニーさんが反論する。
資金も力のうちかもしれないが、その言葉はマルフォイさんの気分を害したようだった。
でも、気分を害しただけだ、そう思っていたんだけど……
「誰もおまえの意見なんか求めてない。生まれ損ないの『
驚いた。
差別用語だ。
出会ったばかりのマルフォイさんが良く言っていた言葉だった。
まさか、今の彼女がそんなことを言うなんて。
ボクやゴイルさん、クラッブさんと関わるうちに、そういった思想はなりをひそめつつあったのに。
ボクは、驚いていたから、
気づかなかった。
ロンさんが豊かな胸元を開いて、ローブの懐から、杖を取り出していたことを。
「マルフォイ、思い知れ!」
何かが、杖の先から飛んでマルフォイさんに直撃した。
「ウィーズリー、よくも…………ぉ゛ッ……!?」
言い返す前に、
マルフォイさんがうずくまる。
お゛ぇ、と口から何かを吐いた。
それは、大きな大きなナメクジだった。
数匹、口から落ちていた。
それを見て、さっ、と、スリザリンの生徒がはける。
「マルフォイさん」
ボクは彼女の傍によって、
背中を擦った。
この呪いは知っている。
魔法が発動し続けているわけじゃないから、フィニートも効かない。
マルフォイさんの背中に腕を回す。
「おわぁー」
誰かの声。
見ると、グリフィンドールの一年生が、カメラを構えていた。
マルフォイさんの姿をローブで隠す。
「みんな、その子からカメラを……」
「わかったわ」
スリザリンチームの人たちが、その一年生に詰め寄った。
ハリーさんはなぜか止めようとしなかった。
少しだけバツが悪そうにしたロンさんも動いていない。
「マルフォイさん、ボクしか見てない。ほら、吐いて」
「ん゛っ、ぉ゛ぇ…………」
「大丈夫、大丈夫だよ……」
ボクのローブの内側の、大ポケット。
そこに吐かせる。
地面にちらばったナメクジも撮られるかもしれないと思った。
マルフォイさんの性格的に、これは屈辱だろう。
ボクの気持ちが一ミリも揺らがないことを伝えるために、
顔を上げた彼女の口にそっとキスをしてから、
うえから抱きしめ、
歩いて移動できるようになるまで、背中を撫でてナメクジを吐かせ続けた。