"蛇語を話せるのは、サラザール・スリザリンの持っていた特徴のうち、もっとも有名なものだ"
ボクは、大伯母からもらった手紙を読んでいた。
"なんでこんなことを聞いてきた? 何かあったのか?"
その問いに、
なんでもないと返すことを決める。
ボクは、この前の決闘クラブでハリーさんが蛇と会話していたことから、蛇語というものが気になって大伯母に手紙を送っていた。これはその返事だ。
ハリーさんは、サラザール・スリザリンの末裔なのだろうか?
確か、高名な魔法使いの間に生まれた子だと聞いていたけど、辿ればスリザリンに行き着くとか?
純血一族はかなりつながりが深いから、ハリーさんの祖先にそういった末裔がいてもおかしくない、とも思える。
でも、やっぱりまだわからないことだ。
ボクが知る限り、ハリーさんはハリー・ポッターという同名の作品の主人公だ。
そんな闇落ちみたいなこと、あるんだろうか?
あれからハリーさんはみんなから『スリザリンの継承者』として恐れられるようになった。
ちょっと、かわいそうだ。
"PS:おまえが前見ていた、『腐ったハーポ』も、蛇語を話せたと言われているらしい"
手紙をしまう。
聞き慣れた足音が近づいてくる。
マルフォイさんだ。
最近のマルフォイさんは、なかなかボクと一緒にいることがない。
クィディッチの練習だったり、魔法薬学の勉強で忙しいのだと思う。
「やあ」
「おい、マルフォイ」
挨拶しざまに、ゴイルさんが立ち上がった。
「おまえ、なんで最近アルを放っているんだ?」
ゴイルさんがマルフォイさんを睨みつける。
止めようとしたが、クラッブさんに羽交い締めにされてしまった。
力が強い、全然動かせない。
ボクはクラッブさんにうなじを吸われながら、二人のなりゆきを見守ることしかできなかった。
「悪いね。勉強で忙しいんだ」
「それだけじゃないぞ。おまえ、決闘クラブでなんであんなにアルに呪文を撃ちまくったんだ」
それはボクも疑問だった。
あれは、マルフォイさんらしくなかった。
それに、ボクの苦手な呪文ばかり使っていた。
全身金縛り術が苦手なことも、虫が苦手なことも、すべてマルフォイさんには話していないことだ。
いや、そうか、もしかしたら、開心の眼を使ったときにボクの過去を見たのかもしれない。
「どのみち、アルは私のフィアンセだろう? 近くにいなくとも、変わらない」
「そんなことを言っていたら、奪われるぞ!」
「誰に? 君にか? 別にいいだろう。やれるものなら、やってみればいいさ」
マルフォイさんは悠々とボクの隣に座った。
ゴイルさんがカンカンだ。
むー!と、クラッブさんも怒っている。
ちょっと首がこそばゆいからそこで唸らないでほしい。
ボクは少しだけ迷って、
片眼鏡、"開心の眼"をつけて、ネジを切り替えた。
片目の視界が黒で、塞がれる。
魔法道具が、込められた魔法を発動させた。
マルフォイさんの、
心を読み取ろうと────────
『覗いても、何もないよ』
防がれた。
マルフォイさんが、その吸い込まれるような瞳で、じっとボクを見る。
閉心術だ。
それで、心を読ませることを防いだ。どころか、幻術まで見せた。
「好奇心は、本にだけ向けるといい」
マルフォイさんが夕食を食べ終えて、
ボクの頭を撫でた。
ローブを翻し、悠々と去っていく。
ゴイルさんとクラッブさんがそれを追うのが見えた。
‐‐‐
「ど、どうかしたの?」
薬草学の授業が中止になった。
ボクが廊下を歩いていると、
誰かに声をかけられた。
それは、ネビル・ロングボトムさんだ。
まさかスリザリンのボクに声をかけてくれるなんて思わず、
ボクはびっくりした。
「なんだか、悲しそうだったから」
ネビルさんは、なぜか薬草学の本を持っていた。
疑問だったが、すぐに、
「あ、私、今日薬草学が休講になったの忘れてて、そのまま温室に行こうとしちゃったんだ」
と教えてくれた。
「その、私でよければ話聞くよ…………?」
と言われた。
ネビルさんは、頭に花の冠のようなものをつけていた。
スリザリンの継承者避けらしい。
自分が純血だと知っていてもやっぱり怖いみたいだ。
「君もつける?」と言われたので、ありがたくもう一つを受け取ってボクも頭に被った。
「マルフォイさんが、何か思い詰めてるみたいなんだ」
「ああ……私のほうにも聞こえてきたよ」
前のゴイルさんとの言い合いのことを言っているのだろうか?
それとも、決闘クラブのことだろうか?
「正直、君みたいな可愛い子に好かれているマルフォイにちょっと、羨ましいと思っちゃうけど……
でも、きっと、それだけマルフォイが、素敵な人なんだよね」
「そう」
マルフォイさんはただでさえ面白くて優しいのに、努力家だ。
最近は、ずっと何かに書きものをしたり、本を読んだりしている。
クィディッチも人が変わったかのように動きが洗練されていて、そうとうな下積みを感じた。
ネビルさんが、うーんと首をかしげて悩んだ。
かしげすぎて花の冠が地面に落ちている。
「毎日ちゅーはしてるんだけど」
「ぶっ……」
なぜかネビルさんが噴き出してあわあわし始めた。
よく考えると、スリザリンのみんなからのスキンシップで感覚がおかしくなっていただけで、キスなんてこの年齢でそうそうするものじゃないのかもしれない。
「ほ、ほ、ほんとにっ……?」
「うん…………」
「そっか、うん、そっかぁ…………」
でも最近、
マルフォイさんのキスがたどたどしくなったような気もする。
元からボクもマルフォイさんも不慣れで、子どもどうしの発展のような口づけしかしていなかったけど、最近のマルフォイさんは何というか、他人と触れ合うことそのものに馴れていない人のような風だった。
「でもそういうことするってことは…………君にいいところを見せたくて、いろいろしているのかも…………。
ほら、マルフォイって、最近の魔法薬学で大活躍じゃないか。私なんて、悲惨だよ……」
ぬーん、とネビルさんが遠い目をした。
ネビルさんはスネイプ先生から目をつけられていて、マルフォイさんはスネイプ先生から目をかけられている。文章にすれば似ているが、大きな違いだ。
ネビルさんは薬草学が得意だというのを聞いたことがあるから、プレッシャーをかけてくるスネイプ先生が変われば、むしろ魔法薬学でも良い成績をおさめられるのではないだろうか?
「その……ちゅー? するときに、ちゃんと話してみたらいいんじゃないかな。もうやろうとしたのかもしれないけど…………」
「……うん、そうする。ありがとう」
感謝の言葉を述べたが、ネビルさんは「大したことが言えなかった」と気落ちしているみたいだった。
「じゃあ、私は寮に戻るよ。
…………あれ?」
ネビルさんが、懐から水晶のようなものを取り出して眉尻を下げた。
「なんか、忘れてるみたい……」
「たぶんこれだよ」
ボクは、ネビルさんが落とした花の冠をかぶせた。
水晶の色が変わったのか、ネビルさんが微笑む。
挨拶をしようと口の開いたのだろう、
その前に────
「襲われた! 襲われた! またまた襲われた!」
そんな叫びが聞こえた。
ネビルさんとともに、声がしたほうへ近づく。
廊下。
倒れた、
ゴースト、ほとんど首無しニックと、
ハッフルパフ生、ジャスティン・フィンチ=フレッチリー。
その傍に佇む、ハリーさん。
ハッフルパフ生の誰かが、
ハリーさんに指をさして言った。
「現行犯だ!」
ふ────と気絶したネビルさんに、ボクは押し倒される。
なんとか受け身をとって彼女を抱き起こし、
マクゴナガル先生に連れて行かれるハリーさんを尻目に、
ボクは、グリフィンドールの談話室を目指した。